名実17 {32・33合併}(69~70・71~72 両国大学 末広研究室訪問)
丁度西田がパフェを食べ終えた辺りで、タイミング良く、末広から電話が掛かって来た。否、正確には末広とは名乗らなかったが、これまでの流れで、末広だと確信出来たと言うべきだろう。大学教授という話だったが、如何にも理系の専門家という感じの早口で、『初対面』の西田相手にまくしたててきた。
「どうも。石田研究員から紹介を受けて話を聞きました。それで、明日までしか、東京に居られないということなら、私は午後1時ぐらいが都合がいいんですが、大丈夫ですね?」
こちらからお願いしている以上は仕方ないが、いきなり名乗りもせず、自分の都合を押し付けてきたことに、西田は少々閉口していた。しかし、子供でもないので相手に合わせるしかない。
「はい、こちらはそれで構いません。それで、どうすればいいですかね?」
「大学のバイオサイエンス学部の事務室に寄ってもらって、そこで『末広研究室はどこか』と聞いてください。ちゃんと説明してくれるでしょう。こちらからも一応言っておきますよ」
「大学の方は両国にあるんですね?」
「え? いやそれはあなたね……」
末広はそう言うとちょっと不機嫌になった。
「両国大学は、バブル時代に旧キャンパス売り飛ばして、今は立川にあるんです。知らないんですか?」
西田に対して、明らかに突っ掛かるような口ぶりだった。依頼相手の大学の場所も知らんとは、けしからんと思ったのかもしれない。
「あ、そうなんですか。それは大変失礼しました。そうなると、中央線? の立川駅からタクシーだとどれくらい掛かりますかね?」
そうやって謝りながら尋ねると、
「タクシー? バスがありますよバスが! でも、不案内ならタクシーの方がいいかな……。大体10分ぐらいで着きますよ」
と、最後の方は、かなり落ち着いた口調で西田に説明した。
「わかりました。じゃあ明日の1時にお伺いさせていただきます」
「じゃあそういうことで。お待ちしてます」
会話を終えた西田の表情を見た吉村は、
「大した時間会話してたわけでもないのに、やけに疲れた顔してますね?」
と喋り掛けてきた。
「ちょっとな……」
西田は詳細を話すのも、気が引けたので、その程度で誤魔化した。
「取り敢えず、明日の午後1時に、末広教授に会うと。それでどこで?」
「立川に大学の研究室があるらしい」
「立川……。結構遠いですね」
「遠いって程じゃねえよ」
そう言っては見たものの、具体的な距離感は土地鑑のない西田にはよくわかっていなかった。
「そうですか? ところで、明日は夕方の便ですけど、下手すりゃ泊まりになりそうですね」
吉村が確認してきたので、
「どうかな。ただ立川から羽田だと、夕方の便でも時間の掛かり具合によっては厳しいかもしれない」
と伝えた。
「東京にもう一泊ってのもいいなあ。中央線なら新宿のシャルマンに寄っていけるし。ただ、遠賀さんがいい顔しないだろうなあ」
上司の顔色を窺う吉村だったが、確かに西田からしても、遠賀係長的には気分が良くないかもしれないと感じていた。
※※※※※※※
翌日の6月11日の昼前、西田達は、JR中央線で末広の研究室へと向かった。この日は、前日より暑くなっており、昼過ぎには30度を超えるような天候だった。西田と吉村は慣れない、本州の梅雨時特有の湿度の高い高温に無言で耐えながら、タクシーを降りた後、キャンパス内をバイオサイエンス学部の建物へと歩いていた。
12時50分、ほぼ予定通り事務室に顔を出し手帳を提示すると、事務員のおばちゃんが、
「ああ、刑事さんですか? 末広さんから聞いてます。そこのエレベーターで5階の向かって右手の部屋です。末広研究室と看板が掛かってますから、すぐわかりますよ」
と伝えてきた。
軽く礼を言ってエレベーターに乗り込み5階で降りると、すぐに視界に末広研究室と書かれた、やけにデカイ看板、というより表札が飛び込んできた。
早速ドアをノックして開け、
「すいません、お約束していた、道警の西田と申しますが」
と声を張ると、
「教授! 刑事さん来ましたよ!」
と、ドアの傍の机で、何やら本を読んでいた学生らしき男がこれまた大声を出した。
「あ、来た? じゃあ、麻生君コーヒーでも出してあげてくれ。ちょっと手が離せない」
見えない奥の方から、聞き覚えのある早口な言葉を耳にする。それを聞いた、おそらく麻生という名の学生は、
「わかりました」
と言うと、やおら立ち上がり、シンクのような場所にある水道の蛇口からビーカーに水を入れると、ガスコンロにかけ始めた。
「おいおい、それでコーヒー沸かすのかよ!?」
と言いたげに、西田と吉村は顔を見合わせたが、麻生は、
「あ、そこら辺のパイプ椅子に適当に座っていてください。汚くてすいません」
と悪気もなく二人に告げた。
麻生によって出されたコーヒーは、ビーカーでアルコールランプを使用して沸かしたお湯で入れられたという以外、ケチのつけようのない、なかなかの味だった。
「うん、美味いなこれ」
思わず吉村がそう口にすると、
「でしょうね。使ってる豆、いや粉か……、それは正直かなり高いんですよ。教授が大のコーヒー好きで、喫茶店で若い頃はアルバイトしてたぐらいだそうで。その店のツテで、最高級のブルマン豆を挽いてもらって、その上安く譲ってもらって、自分達は飲んでるんです。やっぱり良いコーヒーはブラックで味わうのが一番!」
と胸を張って、麻生は説明した。
「だったらビーカーで湯を沸かすんじゃねえよ!」
と西田は突っ込みたくなったが、これが理系なのだろうと、如何にも偏見に満ちた結論で自分を納得させていた。まあ確かに、理系の人間からすると、当たらずとも遠からずという側面は否定できないのだろうが……。そんなやりとりを20分程続けていたが、一向に末広は正体を現さなかった。
45分を過ぎて、そろそろ痺れが切れるという状況で、ようやく末広が現れた。というより、コーヒーを入れてくれた麻生が「教授、終わりましたか?」と、出てきた男に言わなかったら、西田も気付かない程、余り存在感のない背の小さな人物だった。
ただ、西田が気付かなかったのは、単純に背が小さいだけでなく、思ったより見た目が若く大学院生ぐらいにしか見えなかったということもある。年齢不詳だが、実年齢は少なくとも30後半ではあるはずだ。それが20代半ばぐらいにしか見えなかった。
「どうもお邪魔してます」
2人が挨拶すると、そっけなく頷いたまま、再び奥へと消えた。ただ、今度は白衣を脱いだ姿ですぐに再び現れた。
「ちょっと学生の実験に付き合ってまして申し訳ない。それで、えっとどちらが昨日話した方?」
素直に謝ったので、西田は電話含め、それまでの態度とのギャップに戸惑ったが、表情を見る限りは真摯に謝ったというわけでもなく、通り一遍の挨拶程度の意味だったかもしれない。それはともかく、質問に答えながら、西田は自分自身と吉村を末広に紹介した。
「それで、シリョウは?」
間髪入れずに、意味不明な言葉を突きつけられ、西田と吉村は意味を理解しようと必死になったが、
「シリョウ?」
と、改めて尋ねざるを得なかった。
「え? 試料ですよ。試すに材料の料! 持ってきてないんですか? いやあ、お話にならんでしょ!」
末広はそれを聞いて、呆れ返ったという態度を隠さなかった。
「申し訳ないが、その試料っていうのは、どんなものを言ってるんですか?」
西田もやや喧嘩腰の口調で問い直した。
「勿論、あなた方が調べて欲しいっていう試料ですよ! えー、石田さんの話じゃ確か50年ぐらい前の血液試料だったっけ……」
「ああ、それのことですか……。まさか、すぐにそんな話になるとは思ってもみないから、東京には持参してませんよ」
2人にやっと意味が伝わったものの、西田の回答を聞いた末広は舌打ちをした。
「何だ、やっぱり持ってきてないんですか……」
「ということは、こちらからの情報を確認せずに、すぐにでも着手してもらえるんですね?」
吉村が攻撃的に念を押すと、
「昨日石田さんから聞いた限りじゃ、てっきり持ってきているもんだと勘違いして、状況を把握してから返事しようと考えていたんですがねえ……。それじゃあ即答は出来ません、残念ですが。ただ、話を聞いた限りじゃ、布と紙に染みこんだ血痕試料の古い奴でしょ? 私のやり方なら、100年弱ぐらい前の劣化している試料でも、60パーセントの確率で、かなりのDNA部分が判別出来るまで、抽出出来ると思いますよ。抽出できたなら、その結果には99パーセントの自信がある。残念ながら法医学鑑定界では、まだ法廷レベルじゃないとされてますがね」
と、最後は自信ありげな様子だった。
「どのくらい提供すればいいですか?両方とも証拠資料として重要なんで、特に紙の方は、指紋の部分だから、余り切り取りたくないんですよ」
「なるほど。でも西田さん、それについてはあんまり心配しなくていいですよ。そうですねえ、目の前にないんでわからない上、鑑識についてはそう細かい知識がないが、鑑定に使用しない部分があると思うんで、そこを1ミリ四方ぐらい切り取って貰えれば。それぐらいは大丈夫でしょ?」
自信満々の態度だが、こっちとしてもそれぐらいなら問題なさそうだ。
「えっと紙は2枚あるんですが、両方の方がいいですかね?」
2枚証文があることを思い出し、そう尋ねてみたが、
「それぞれ試料が別の血液なら、勿論そうしないと」
と末広は西田を馬鹿にしたような口ぶりだった。
「いや、どちらも指紋が同じなんで、同じ人物の血判ではあると思うんですが、念のため」
「ふーん……。じゃあそちらのお好きなように。じゃあ、調べて欲しいモノと調べて欲しいことは、これに書いてリストアップしてください。石田さんから聞いてますけど、ご本人に直接聞いてたわけじゃないから確認しておかないと」
末広にそう促され、渡された紙に西田は書き込み始めた。
※※※※※※※※※※※※※※
◯調査対象試料
1)紙に染みこんだ血液 2点(共に同じ人物と推定)
2)布に染みこんだ血液
3)唾液
◯希望調査内容
1~3までの血液に含まれるミトコンドリアDNAが一致するかどうか
※※※※※※※
書き終えた西田が、末広に紙を手渡すと、末広はさっと眺めて、
「あれ? まさか血痕中のmtDNAを調べろって話なんですか?」
と素っ頓狂な顔をしてみせた。
「エムティーDNA?」
西田も負けずに、いやそういう意図は微塵もなかったが、同様に素っ頓狂な表情をした。
「言い換えるなら、ミトコンドリアのDNAのことですよ。それだけでいいんですか? 」
「それだけでいいってのは?」
発言の意図がわからず、西田はまた問い返した。
「てっきり、血液の人体DNAそのものが一致するかどうかが問題の話かと思ったら、血液中のミトコンドリアだけでいいんですか……。石田さんから聞いた話じゃ、血痕のDNAのってことだったんだけど……。それなら、現物見てないですが、経年数考えても、95パーぐらいの確率で一致は見いだせるでしょうよ……。なんだ、ミトコンドリアの鑑定だったのか……。もしmtDNAだけの話なら、それこそ科警研で出来るレベルだから、石田さんも勘違いしてたんだろうなあ」
末広は如何にも「失敗した」という表情をありありと浮かべて呟いていたが、西田は素早く反応した。
「いや、もし通常のDNAそのものが調べられるなら、むしろ是非調べて欲しいんですよ、我々としても!」
「そう? まあそれはそれで構わないですが」
末広は口を尖らせつつも、渋々納得した。
ただ、末広の話からは、西田は自分の意図が、加島と石田の伝言ゲームの中で、末広に間違って伝えられていたことに気付いていた。しかし、その勘違いは、血痕の持ち主そのもののDNAを調べられるかもしれないという末広に行き着いたわけだから、怪我の功名と言えるものだった。
「ところで、間違いなく人血でしょうね? その部分の鑑定はしなくていい? あ、まあ鑑定したところで大した労力も掛からんか……」
末広は、聞いておきながら自分で勝手に話を収めた。
「間違いなく人血ですよ。こっちの捜査でそれは確定してますから」
上司が末広のペースで話を進められているのを見かねたか、吉村が少し苛ついたように割って入った。
「なるほど。じゃあそれについてはわかりました……。それで現物の試料は……。うん、そうだな、何時送ってきてもらえますか?」
「少なくとも明後日には送付します。北見からなんで、おそらく3日は見てください」
西田がそう言うと、
「3日後? 北見ってのは……。地理が好きじゃないもんで」
と口ごもった。
「北海道の東側です」
詳しく言っても仕方ないと確信し、西田は単純な言い方をした。
「あ、そうですか。それなら3日掛かるかな……。ちょっと試料の状況がわからないけど、mtDNAについては、ほぼ間違いなく大丈夫だろうと思いますよ。血痕の人体DNAについても、安請け合いは出来ないが、大体イケるんじゃないかなあ。とにかく何か問題があれば電話しますから。昨日掛けた(携帯の電話)番号でいいんでしょ?」
「それでお願いします」
「大体10日ぐらいで結果は出ますんで。あ、あくまで鑑定できるならですがね。多少普通の鑑定より掛かるのは我慢してくださいよ」
「そんな早く出ますか?」
「出来る な ら ですよ。あくまで出来るなら。まあ期待はしておいてくれて構わないですが」
末広は目をむいて「なら」を西田に強調した。
「じゃあ、麻生君、お二人にここの宛先教えてあげて。それじゃ、実験に戻るんでこれで」
軽く会釈すると、パイプ椅子から立ち上がり、そそくさと奥へと消えていった。
それを見計らったかのように麻生が、
「ああいう感じの人ですけど、悪気はないんで。間違いなく技術は日本トップクラスですよ、ああ見えても。東大出てから30で助教授(当時・現在は准教授)、34で、東大からうちの大学に移って教授ですから。凄いペースです。まさに天才ですよ」
と2人に囁いた。確かに天才は天才なのだろう。そして麻生から宛先と研究室の電話番号を書いた紙をもらい、2人は研究室を後にした。
※※※※※※※
「かなり偏屈な野郎でしたね」
竹下はエレベーターで1階に降りると、早速西田に話しかけてきた。ただ、如何にも嫌悪するような様子でもなかった。
「まあ、そんなところだな」
「ただ、あの様子だと、ミトコンドリアの鑑定は何とかなりそうですね。これで3人が女系の血縁関係があるかどうかはっきりします。まあ、現時点でもそうなることは当然推察されますが……。出来れば、血液そのもののDNAもわかったら尚良しというところですね」
「わかったらわかったで、また面倒なことになるんだぞ」
西田は苦笑したが、謎は1つずつ解いていくしか無い。過程を面倒だからと言ってスキップしていては、真実に辿り着けるはずもないのだ。それは西田もよくわかってはいた。
「ところで、今からなら最終便間に合いますね。残念ながら」
吉村が腕時計を見ながら、西田にそう言うと、
「だな。東京で一晩遊んでいく夢は潰えた」
と、大袈裟に返した。
「無念!」
2人はふざけたやり取りを交わしたが、
「そうは言っても、遠賀係長の、文句言いたげな顔を見ないで済んだことを良しとしようや!」
と、西田が結論付けると、キャンパスを歩く2人の歩幅は自然と広くなった。
「そうだ、加島さんに礼言っとかないとな」
西田は、思い付いたように、携帯を胸ポケットから取り出そうとしたが、
「歩きながらなら、羽田に着いてからでもいいでしょう?」
と言われて、そのまま仕舞い込んだ。
※※※※※※※
西田は翌日の6月12日に、鑑識に保管してある、2つの証文の桑野の血判と、小柴老人から譲り受けた端布からそれぞれ、ごく少量の試料を切り取り送付した。そして道警・科捜研にあった、大島のDNA解析結果をそのまま末広の研究室に送るように依頼した。
当初はサンプル自体を送るつもりだったが、科捜研の職員に、「解析済みなのだからデータで送った方が手っ取り早い」とアドバイスされ、その通りにしていた。末広にそれを連絡すると、「だったら早く言ってくれ」という趣旨の発言をされたが、既に相手の出方は予測出来ていたので、馬耳東風とばかりに適当に相槌を打って謝った振りをしておいた。ただ、末広はそうであるならば解析結果は多少早く出せるかもしれないということも西田に伝えていた。
6月14日の午後、W杯1次リーグで日本はチュニジアを2-0で下し、初のベスト16に入った。西田達も勤務そっちのけでテレビ観戦し、他の一課の捜査員達と共に勝利を喜んだ。だが、良いことはそうは続かない。6月17日、須藤から捜査報告の連絡が入った。
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◯佐竹 大輔
葵一家門下 2次団体 関東貴刀組(練馬区) 本部長(1995年当時 若衆)
1960年 1月20日生まれ 岩手県 水沢市出身
◯東館 彰
葵一家門下 2次団体 駿府組(静岡市) 既に組抜け(1996年1月頃 1995年当時 若衆) 1959年 6月10日生まれ 岩手県 大槌町出身
「95年 11月近辺のアリバイ不明 (組抜けの影響もあって周辺調査上手く行かず)
◯中谷 尚志
葵一家門下 3次団体 棟居組(水戸市) 本部長(1995年当時 若衆) 1958年 9月21日生まれ 岩手県 遠野市出身
◯大下 栄一
葵一家門下 3次団体 旭恵興業(豊島区) 組長補佐(1995年当時 若頭補佐)
1955年 5月31日生まれ 岩手県 久慈市出身
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のリストの内、大下の捜査を打ち切るという連絡だった。西田から直接の要請があったすぐ後、大下の立ち寄った飲食店で、所轄である目白署の捜査員が、食後のコップを直接入手し、DNA鑑定をさせたところ、逃走車両に残っていた毛髪(の毛根)から採取した例のDNAと全く一致しなかったというのだ。アリバイもはっきりせず、最も怪しいと考えていた大下が捜査線上から消えたということは、捜査陣にとってかなりショックなニュースだった。
この一報の後、西田は30分程椅子に座り込んだまま、立ち上がることはなかった。開きかけた道がまた閉ざされかねない事態だった。
悪いことは立て続けに続く。翌6月18日午前、水戸署が目白署同様、行きつけのバーで中谷のコップからDNAを首尾よく手に入れ、DNA鑑定したところこれまた合わなかったと須藤から連絡が来た。そして須藤は、
「この状況では、おそらくリストアップした中から出ることはないと思っていて欲しい」
と西田に伝えていた。つまり再びリストアップし直すか、最悪の場合「アベ」による岩手出身説そのものを、考え直すと言う事態に直面しているということだった。もしそうなれば、今度こそお宮入りの覚悟をしなくてはならなくなる。
佐竹と東館については、状況から見て、実行犯である確率が相当低いため、一応DNAのサンプル入手をさせるつもりではあるが、所轄を急がせても仕方ないと、須藤は既に諦めモードであった。
午後からは決勝トーナメントの日本とトルコ戦があったが、西田は放心状態で試合を見ていた。脳天気な吉村ですら、熱中出来ていないようだった。おまけに試合も1-0で負けるという最悪の展開に、北見方面本部捜査一課の室内の、西田達専従チームの一角そのものが、相当ドンよりとした空気に包まれていた。




