表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修正版 辺境の墓標  作者: メガスターダム
明暗
71/223

明暗50 {58・59合併}(244~245・246~247 高垣 向坂と会話 生田原の現場へ)

 正直な話、向坂と高垣は水と油とまでは言わないが、昔気質の色濃い最後の世代の刑事と、典型的な反権力の塊の記者とでは、話が噛み合うか西田はかなり不安であり懐疑的だった。しかし、この2人を直に会わせておいた方が、捜査のためになる可能性があるかもしれないと判断した末の会食のセッティングだった。


 4名と人数が多いこともあり、カウンターではなく、店の小上がりで静かに始まった。最初は西田にお互い紹介されたものの、相互の会話も無かった。普段はうるさい吉村も、今日は酒が飲めないということもあり、「食い」に徹していたが、単に食い気に負けたのではなく、若造の自分が立ち入れない雰囲気を考えてのことだろうと西田は察していた。問題の2人の方はと言うと、様子見の時間を経て、酒が入り始めると、少しずつ会話が始まった。


「テレビとかたまに出てるのを拝見したことがありますよ。何か警察とか行政に文句があるようですが、今回は協力してもらったみたいで素直に感謝します」

「それは、こっちの為という意識の方が強いから、感謝してもらうようなもんでもないですよ」

向坂の発言に対し、そう無機質に言うと、高垣は美味しそうに鮭のルイベを箸で摘んで口に入れた。始まったはいいが、ぎこちないジャブの打ち合いに、西田は予想通り先行きに不安を覚えた。だが、年齢的にはほぼ同い年と言って良い2人で、そういう共通点はあるはずだ。


「向坂さんは、昭和22年生まれでしたっけ? 高垣さんは?」

「1949年だね。向坂さん? より2つ下」

「昭和で言うと……、24年になりますかね……」

西田はそう確認したが、敢えて西暦で答える辺りに高垣のひねくれ具合を痛感させられた。しかし、そんなことを気にした所で話は進まない。

「ということは、モロに団塊の世代って奴ですね」

その一言に、向坂が先に拒否反応を示した。

「そういう風に一括りにされるのは気分が悪いな。個人個人で生き方も考え方も違うだろ?」

向坂が自分でコップにビールを注ぎながら文句を言った。西田は「やっちまったな」と思ったが時既に遅し。まさか仲間内から反撃されるとは思ってもみなかった。


 しかし、

「全くですな。堺屋太一(作者注・実際に『団塊』と言うネーミングは、官僚出身の評論家・小説家の堺屋太一氏の小説の題名が元になっています)の小説なんかに影響受けて、適当に名前つけやがって。俺も気に食わないですよ、そういう十把一絡げの扱いは。個人個人を見ない、如何にも日本的発想だ。まあアメリカあたりでも、『ロストジェネレーション』やら『ベビーブーマー』やらの世代論はあるが、日本はより顕著だから」

と、高垣も日本酒をクイッとやりつつ嘆いた。西田としては、会話の共通点を探る一環の中で、全く予期しない流れではあったが、2人の話が妙な所で合ったことにむしろホッとしていた。


※※※※※※※


 その後の話は、必ずしもがっちり噛みあうことはなかったが、必然的に話は捜査へと移っていった。

「今日、西田さん達から全部話を聞いたわけじゃないが、本橋の事件から、裏で大島が動いていた可能性が高いと聞いて、正直驚きましたよ」

「自分も8年前に、その事件の捜査に参加していて、有耶無耶に終わってしまって……。それにしても、当時はあくまで、大島が有力後援者である伊坂大吉への『サービス』としての圧力だと思っていたら、はるか後のこいつらの捜査で、どうも事件そのものに関わっていたんじゃないかって出て来てね……」

小上がりとは言え、仕切りも何もあるわけではない。周囲の飲兵衛達の話し声がむしろ遮蔽になっているだけという環境である以上、2人はヒソヒソと会話を進めていた。西田は歯車が回り始めた以上、邪魔すること無く、年長2人の会話を見守っていた。


「その事件は、全然関係ない事件から再びクローズアップされることになったんだっけ? さっきの話を聞く限り」

高垣から話を振られたので、

「そうです。最初の事件というか死亡事故から、どんどん話が広がってきて、今に至るわけです。まあ明日も説明の続きやりますから、ここで細かい話はしませんが」

と西田は答えた。

「難事件なんてもんは、思ってもみないところから解決の筋道が見えてくるなんてことは、過去の例でもあるし、今回もそういうところなんだろうな……。しかし、箱崎派と葵一家との絡みなんか見ても、戦後日本政治と裏社会の暗躍と言う典型的事例だな、話が真実なら」

「やっぱりそういうもんかい? ジャーナリストから見ても?」

向坂がそう問うと、

「そうそう。箱崎派に限らんですよ。民友党はそれぞれの派閥にヤクザが絡んでる。勿論野党も、ヤクザと絡んでる連中はワンサカ居るが……。バブルの時に銀行がヤクザとつるんだ時も、政治が甘い汁吸ったわけですわ。ツケは国民が払うことになるのにね。一方で、そういう奴らを選んでるのも、また有権者たる国民だと言われてしまえば、それは全くその通りなんだなこれが!」

と頬を不満気に膨らませた。


そんな中、向坂が話題を元に戻すためかのように、高垣に質問した。

「ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「どうぞ」

「あんたは、権力批判してる側だと思うが、与党の連中に接する人間との繋がりはあるのかい?  失礼かもしれないが、そういう人脈があるとは思えないんだが?」

向坂は半信半疑というトーンで話を振った。それを聞いた西田は、先程向坂にされた「指紋」のことを切り出す前振りだと勘付いた。それに対し、高垣はやや嘲笑うような態度を見せた。向坂はそれを我慢しているようだった。


「基本的に、自分自身そういうポジションなのは確かですよ。でもね、同じタイプの人間だけと付き合っていては、この業界じゃ生き残れないし、事実も探れないんでね……。具体的には『単なる金のやりとり』と言うドライな関係でもって、情報を提供してもらうためだけの付き合いをしている人間はそれなりに居るんですわ」

高垣はそう言いながら、向坂の空のコップにビールを注ぎ、話を続ける。

「ただ、それだけじゃなく、権力側に表向きニコニコしながら、裏では馬鹿にしているタイプの人間も、奴らの周りに結構居るんですよ。それこそ、さっき捜査情報を聞いた時に出て来た、東西新聞でも有名な、番記者の椎野みたいなガチの『犬』もいれば、そうじゃないのも居るんです! 東西みたいなところは、基本的にそういう犬が多いのは否定しないが、反権力的な毎朝新聞や東洋新聞、東日本販売なんかにも犬はいるし、東西にも多くはないが、そういう体質に反抗しながらもギリギリのラインで組織にとどまっている奴、或いは今言ったように、面従腹背の奴も居る。そういう連中とは、金のやりとり以前に、ちゃんと『主義主張』を以って裏で繋がってますよ」

「つまり、端的に居るってことでいいんだな?」

向坂は回りくどいと暗に言いたかったようだが、高垣はそれを受け流すように、

「簡単に言えばそうなりますな」

と真っ直ぐ向坂を見つめて回答した。

「それを利用して、今回の察庁と与党の絡みを探ってくれるってわけですね」

西田がそう確認すると、

「そうそう。それは可能だよ」

と太鼓判を押した。


「じゃあ、と言ってはなんだが、こういうのはどうだろう?」

向坂はビールをあおると、挑戦的な言動をした。

「何ですか?」

高垣も応戦する気構えのようだ。

「大島海路の指紋を入手できるか?」

「指紋?」

その件を聞いていた西田が、待ってましたと言わんばかりに補足する。

「さっき言いましたけど、砂金の分配について記した証文に、それぞれ相続人の血判が押されてたんです。そして、その中に桑野欣也、つまり今の大島海路と見ている男の血判もありました。右手人差し指だそうです。それと大島海路の指紋が一致していれば、事件の裏はほぼ取れてくるという算段です。そレでいいですね向坂さん?」

向坂はそれを聞いていたが、黙って頷いた。


「ちょっと実物見てないからイメージし難いが、指紋を入手することが出来るか出来ないかと言われれば、100パーとは言わないが、十分可能性はあるとだけ言っておくよ」

予想外の高垣の返答に、向坂も西田も、

「本当に?」

と念を押した。

「ああ。大島の側近からとなると厳しいが、立ち回り先なんかに、俺に協力してくれる人が居ないわけじゃない。そこを活用すれば……」

そう言うと、2人に顔を寄せるようにジェスチャーし、

「問題は、一般素人にどうやって指紋を取らせるかだ。それは俺にはどうしようも出来ない。警察官じゃないからやり方も知らない」

と囁いた。

「いや、それは難しくはないな。大島が触ったものをこっちに提出してもらえれば、後はこっちで検出するだけだから」

向坂はニヤリとすると、空になったビール瓶を指で弾いた。

「それについては、向坂さんが言った通りですよ。もしそれが出来るなら、かなり大きな意味が出ます」


 西田としても、指紋の入手は、この動きが取れない状況を打破する一助になるのではないかという思いがあった。さすがに「全部」の話が綺麗に繋がれば、上層部を突き動かせるのではと考えるのはおかしくない。

「ふーん、ただそれだけで良いなら、何とかなるかもしれないな……」

「是非お願いしますよ」

西田は高垣から近すぎた顔を一度後ろに下げ、深く頭を垂れた。


※※※※※※※


「しかし、あの竹下とか言う刑事、あれ、よく警察に入ったな?」

一度会話が途切れてから、4人が食べることに集中していると、高垣が突如口を開いた。

「竹下ねえ……。それはあんたの言う通りだと思うわ」

向坂は焼き鳥の串を口から引き抜くと、乱雑に皿の上に置いた。

「やっぱりそう思いますか? 東京で何か言いました?」

西田が矢継ぎ早に聞くと、

「特に何か警察について言ったわけじゃないんだが、何か持ってる空気というか、それが俺が今まで会ってきた警察関係者のそれとは違う感じがしたんだよなあ……。言葉にして説明するのが難しいんだけれど。そのことについては、東京でも彼自身に言ってみたよ」

「それについて何か言ってました?」

西田は気になったか、食い気味に尋ねた。

「特に何かは言ってなかったような……。ただ苦笑いはしてたな」

「そうですか……」

西田の様子に感じるところがあったか、

「彼は刑事を辞めるつもりでも?」

と鋭い読みで問い返された。

いや、それはさすがにわからないですけど……」

そんな西田を見ながら、向坂は、

「あいつは優秀ではあるが、根本的に警官には向いてないよ、やっぱり」

と呟いた。

「ふーん。聞いてる分には、先輩刑事さん方も、俺と同じような印象を持ってるみたいだな。こう言っちゃ悪いが、ちょっと刑事にしておくにはもったいないよ、彼は」

「悔しいが同意せざるを得ないな。でもね、そう言いながらも、警察にもああいうタイプが必要な時代でもある。いつまでも俺たちのような古い体質で言い訳がない! なあ吉村!」

向坂はそう吠えると、吉村の烏龍茶のコップに波々と焼酎を注いだ。吉村は珍しくひたすら恐縮するだけだったが、

「こいつはこれから運転するんですよ!」

と西田は叫び、吉村のコップをサッと取り上げた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 高垣に指紋提供の依頼も済ませることに成功し、親睦こそ深まったとまでは言えないが、そこそこお互いに意思疎通が出来るまでになった。西田は及第点だと満足し、会食を終えると吉村と共に遠軽に戻ったが、アパートに帰るより先に遠軽署に寄った。


 高垣に佐田の証文と手紙を見せてやろうと思い立ち、コピーを取るためだ。捜査情報全部を持ち出すわけにはいかないが、これだけなら課長の許可抜きになんとかコピーを取って持ち出せる。特に、この2つが事件の基礎になっている以上、この実物のコピーを高垣に見せることは、彼にとっても、事件への理解を深めることになるだろうと考えたわけだ。


 それが終わると西田は竹下に、向坂を交えた会食で、指紋の入手を頼んだことを明かした。竹下はそれについては名案だと言ったが、それなら自分も他に頼みたいことがあると言い出した。


「桑野の進路についての情報が欲しいんです。今回の出張では、尋常小学校から大学までの間がすっぽり抜けてしまいました。ここを調査している暇が、今自分達にはないですから。高垣さんならやってくれるような気がするんです」

「だとしても、かなり漠然とし過ぎていないか? あの人も暇じゃないだろ?」

「それはそうですが……、ある程度は進学先は地理的に絞れると思うんです。少なくとも旧制中学は、それほど遠くへは進学してないはずなんですが……」

自分で何とかしたいのだろうが、そうはいかないもどかしさを隠さなかった。確かに警察がそのためだけに動くとなると、それ相応の理由が必要となる。田老での戸籍を調べた際、母親の方の結婚前の戸籍についてはチェック出来なかったのも、全体的に時間がなかったこともあったが、それも大きな理由だった。竹下としては、その欠落した部分から何かヒントになるようなものがないか、一応チェックしておきたいのだろうが、それが実際に役立つかの保証はない。短期間で、本州へのギャンブル出張2回は予算上も厳しい。現状、そこをピンポイントに攻めるだけの積極的理由は見当たらなかった。それならば、フリーハンドの高垣に調査してもらうという手はわからないでもない。


「俺が決めるわけじゃないから、そんなに知りたかったら、明日自分で頼んでみりゃいい。結局こっちで勝手に結論出しても無駄だから」

帰り支度をしながら、西田はそう言うしか無かった。


※※※※※※※


 翌11月22日水曜日、4人は遠軽から北見まで出て、昨日同様高垣をホテルから北見方面本部へと送迎した。同じく、西田と吉村は一度北見署の捜査本部に顔出ししてから、3名の居る北見方面本部の会議室へと戻ってきた。


 竹下に渡しておいた、証文と手紙を高垣は既に熟読していた。概要は既に昨日の時点で話してはいたが、コピーとは言え、具体的なものを目にすると、また違う感覚を持つはずだ。特に手紙については、何度も読み返し、20分近くその様子を4名の刑事は黙って見守っていた。


「おかげで昨日聞いた話が、だいぶイメージ出来るようになってきた。何か聞いたことがあるような気もするが、生田原って町はどこらへんなんだ?」

「ここから旭川方向へ50キロ弱ぐらいのところと考えてもらえれば」

読み終わった高垣が、西田に当時の現場の位置を確認して、西田は地図を出して指し示した。

「そうか。どんな場所なんだろうな。山の中なんだろ? 地図や文面から察するに?」

「その通りです。ヒグマも出ますよ!」

両手を襲いかかるように上げて、吉村がおどけてみせた。

「どうですか? 何ならそこに今から、もしくは明日連れて行きましょうか?」

西田が思い切った提案をしてみた。勿論時間に余裕があったからではあったが。


「良いのか? そうだな……。時間が許すなら自分の目で見てみたい気がする。俺が捜査するわけじゃないが、この手紙みてたら、単純にこの事件にもっと好奇心が湧いてきたよ」

「そうですか? 自分達は捜査本部付けなんで、何でも好きなようにというわけにはいかないけれど、少なくとも竹下達なら自由に行動出来ますんで。まあ、おそらく自分らも、高垣さんからの聴取への専従状態なんで、何とか行けるとは思うけど」

西田の言葉に、

「よし! 決めた。せっかくだから甘えさせてもらおう」

と了承した。


「ところで、手紙と証文を見た感想ももっと聞いておきたいな。血判もしっかり残ってるでしょ?」

「西田さん、両方拝見させてもらったが、コピーとは言え、証文の方は宝探しの古地図見てるような印象だったよ。手紙と併せると真実味が出てくるが、これだけ見るとちょっと浮世離れしてる感じだね」

高垣は証文を持ち上げて上下にフワフワと揺らして見せた。

「それはありますね……。でも普通に事実ですよ」

「そうなんだよな。にわかには信じられんが……。それにしても、昨日の話じゃないが、この桑野欣也の血判と大島海路の指紋が一致すれば、捜査への圧力という状況証拠と併せて、より疑惑が深まるわけなんだな。うん、西田さんわかったよ! 是非とも入手して裏付けを確定させたいところだな!」

高垣は一瞬ニヤリとしたが、すぐに表情を引き締めると、

「じゃあ、話の続きをしてくれ。あとちょっとなんだろ?」

と言って、捜査情報のさらなる提供を要求した。


 昼食を挟んで、残りの捜査情報について詳細にレクチャーすると、時計はあっという間に午後3時になるところだった。この時期の日の入りの時間を考えれば、今から行ってもまともに現場に留まる時間は取れない。改めて翌日に連れて行くことにした。


※※※※※※※


 11月23日木曜日、勤労感謝の日。世間一般は祝日で休みだったが、西田達はまさに「勤労中」だった。高垣に約束した通り、一連の事件の大半が起きた生田原の現場に連れて行くため、遠軽から北見に迎えに行き、再び生田原に戻る車中に居た。外は雪がかなり降っており、高垣が持ってきたダウンのコートが役に立つ天候だった。


「これ、このまま根雪になるのか?」

窓際の高垣は、ウインドウ越しに下から見上げるようにして、上空の様子を探っていた。

「最低気温がまだ5度ぐらいなんで、今日は大丈夫ですけど、まあ近いうちには……」

横に座っていた竹下の発言を聞くと、

「これから4月まで雪の中に閉じ込められるのか……」

と地元民でもないのに嘆いた。


「まだ今年は比較的暖かくて根雪になるのが遅いぐらいですよ、むしろ」

吉村はそう言うと笑った。

「でも、室内はむしろ北海道の方が暖かいんだよなあ、暖房と断熱がしっかりしてるから。福島の家なんて、朝は寒くて布団から出たくないからね。冬は乾燥してる上に糞寒いくせに、家の構造が東京と変わらんのだからどうしようもない」

今度は自分の故郷の家屋の構造を嘆き始めた。そうこうしてる内に生田原市街地に入り、そこから今度は林道へと向かった。


 いつもの「駐車スペース」で車を降り、林道を徒歩で歩くと石北本線の鉄路に出た。右手奥には常紋トンネルの入り口が見えたが、一同はそちらは気にせず、米田青年が殺害、遺棄されていた現場へと向かった。しばらく線路沿いに歩いて着くと、高垣に竹下が説明し始めた。

「結果的にですが、この辺で事故死した人の捜査していると、どうも怪しい動きをしていた人間が居るらしいという話になって、その怪しい動きを探っているうちに、最初の殺人事件の被害者の遺体を見つけたという話です」

「それが3年前に行方不明になっていた大学生だった、そういうことか」

高垣は周囲を見回しながら言った。


「そうです。それで捜査を進めていると、伊坂組の人間が絡んでいるという話になって……。それから8年前に、伊坂組の亡くなった社長が絡んだ失踪事件の話が再燃して、どうも、その大学生が埋められていた場所に、それ以前に失踪者が殺害されて埋められていたんじゃないかという話になりまして」

「そこは本当に、何度聞いてもしっくりこないなあ……」

竹下の発言を制すると、高垣は首をひねった。

「捜査で実際にずっと関わっている側でも、結構面倒なところですから、聞いてるだけだとよくわからないのは当然ですよ」

西田はそう慰めた。

「じゃあ、次。仙崎老人の砂金のあったと思われる場所と、仙崎老人、免出、高村の3遺体が埋まっていた辺りを見てみましょう」

竹下はそう言うと、5人は石北本線を遠軽側へと向かって数百メートル歩いた。


「あそこの斜面に大きな岩があるでしょ? さっき読んでもらった手紙にも書いてありましたが、あそこの真下に砂金が埋められていたそうです」

「それを伊坂と大島が、えーっと」

「北条正人と免出の子供の分を横取り」

竹下の説明を受けて喋った高垣が詰まったところで、西田が助け舟を出した。

「それそれ! その人達の分まで横取りしたって話か」

「そうなりますね。そして、そっちの方に3名が埋められていたのが、1977年に、最初の2名分の遺体を発見した国鉄の職員に加え、その通報で駆けつけた遠軽署員によって発見されたと言う話です。最後の1名分の遺体は、当時の遠軽署員が先に発見された2体の周辺を調べて発見しました」

竹下が高垣の話を受けて解説を再開した。

「その国鉄職員中に、本橋が佐田実を殺害する時に居た2名、つまり喜多川と篠田が居たわけだな?」

「高垣さん正解です。伊坂組の当時は社員でした。まあ重役になったのは、その『貢献』が評価されたと同時に、佐田が持っていた手紙を見て、伊坂大吉を過去の殺人等で『脅迫』して得た地位だったと思われるわけですが」

竹下は高垣の「回答」を採点すると、補足した。


 一通り現場での説明を終えたので、5人は北見へ戻るために、元来た道を引き返していると、突然高垣が声を上げた。

「あれだけど、何だ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ