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修正版 辺境の墓標  作者: メガスターダム
明暗
57/223

明暗36 (190~193 向坂に相談)

「まさか大島海路が桑野欣也だったなんて……。未だに信じられません!」

廊下に出て、北見方面本部と同じ敷地にある北見署へと向かいながら、吉村は未だ興奮冷めやらぬ様子だった。

「ホント、まさかのまさかだったな! しかし桑野が大島海路だとすれば、大筋で道理に適う。佐田実の殺害は伊坂と大島……、こうなってくると、竹下の考えじゃないが、どっちが言い出したかははっきりしないが……、否、やっぱりテープを聞いた限りの現状では、竹下の『大島首謀説』の見立てとは違って伊坂なのかな……。とにかく、大島が少なくとも葵一家ルートを使って伊坂に協力した理由は、これでほぼはっきりしたはずだ。大島の正体が桑野だと裏付けられれば、桑野が伊坂と過去にやったことを考えれば、佐田の事件に関与した根拠には十分だろう。何しろ大物国会議員だからな。時効をとっくに過ぎてる、人の取り分をちょろまかしたようなちょっとした事件でも、十分なスキャンダルになる。それに直接関与こそしていないが、仲間の伊坂や北条がした報復殺人に絡んでるわけだし。そして今回の事件も、松島がその真相を明かそうとしたことを阻止しようとした末のモノだとすれば、大島の関与の可能性は高い」

2人は渡り廊下を話し合いながら小走りになったが、周囲に誰も居ないことを確認しながらの会話でもあった。


「でも、佐田実は大島海路が桑野欣也だと知っていたんですかねえ……。どうもその辺は、佐田の当時の行動や探偵事務所の件からも読み取れないような気がするんですが? 少なくとも気付いていなかったんじゃないですか?」

吉村はその点において懐疑的だった。

「その点については、確かに今まで得た情報では見えてないなあ。むしろ知っていたなら真っ先に脅すべきは大島海路だったような気がするんだ。さっきも言ったが、大島は免出の殺害には関わっていないものの、その後、本来他人の持ち分の砂金を持ち去ったと言う点で、今の地位の「名誉」を汚すには十分過ぎる話だからな。失うモノがかなり大きい。だから、そこを突かなかったとすれば、佐田実はそれは知らなかったと見ていいんじゃないだろうか」

西田も吉村の意見を真っ当なものだと受け止めた。

「あ、ところでどうするんですか、この後は?」

「取り敢えず、まず向坂さんにこの件を打ち明ける。テープも聞かせて、この後どうするか話し合うつもりだ」

「倉野課長には言わなくていいんですか?」

「倉野さんか……。基本的に信用はしているんだが、佐田の事件を昔から追っていた向坂さんの方が、今は無難じゃないか? 倉野課長に話してしまえば、捜査本部全体に情報が知れ渡る恐れがなくはない。現時点では向坂さんにだけ打ち明けておく方が妥当だろう、少なくとも北見に居る限りは。エス(スパイ)が居るかはともかく、自然と情報がアッチに漏れているとすれば厄介なことになる」

西田は苦虫を噛み潰したような顔付きになった。


「確かに倉野さんの立場、事件主任官として、そのまま隠密にしておくことは厳しいですね、一度知ってしまったら。これは信用問題というより、内規違反になるおそれがあるんですから」

一方の吉村はむしろそちらが不安のようだった。

「だからこそ今は向坂さんまでに留めたい。俺達の違反の問題は……、今は気にしても仕方ない」

「わかりました」

上司の意向を確認し、それに従う覚悟を固めたような返事だった。

「それから……」

「何ですか係長?」

西田が口ごもったままだったので、吉村がその先を尋ねた。


「いや……。気になってることがあるんだが、まだ俺自身考えがまとまってないから、後で……」

西田が歯切れ悪い言い方だったせいもあるが、吉村は

「はあ……」

と不満そうな言葉を飲み込むような形になった。そうしているうちに、捜査本部のある北見署の建物へと入った。


※※※※※※※


「向坂さん、今ちょっと外で話せますか?」

捜査本部に向坂の姿を見つけると、西田は耳打ちした。

「ちょっと待て、今、末永と話してる最中だ。5分もすれば目処は付くと思うが、今すべき大事な話か?」

「ええ。勿論です」

西田の表情を見て、言葉に偽りはないと確信した向坂は短く

「わかった。ちょっと待っててくれ」

と言うと、再び直属の部下である末永と話し始めた。


※※※※※※※


「終わったぞ。ところで話ってのは?」

会議室の入口付近で様子を見守っていた2人に、向坂は駆け足で近づいてくるなりそう言った。

「どっかにラジカセとかあります? ちょっと人目に付かないところで話したいんです」

「ラジカセなら隣の小会議室にあるし、あそこなら今人は居ないぞ。お前ら隣の北見方面(本部)の鑑識に行ってたんだよな? そこで何かあったか?」

「ええ、まあ詳しくはそっちに移ってからにしましょう。ここじゃちょっと……」

「わかった」

向坂は感情のこもらない返事をしたが、何らかの事態が動き始めたことは2人の態度から察した感もあった。


※※※※※※※


 小会議室で、西田と吉村からテープの中身を聞かされながら、説明を受けた向坂は、当然だが驚きを隠せなかった。

「とんでもないことになったぞ……。捜査本部に上げないとマズイんだろうが、2人の『読み』が正しいことも考慮せんといかんだろうし……。警察の情報はマスコミ、或いは公安委員会や政治絡みで普通に漏れることがあるから、大島の方にそういう情報が普通に行く可能性は十分にある。気をつけた方がいいのは間違いない」

向坂もこの情報をどう扱うか、思案に暮れているようだ。


「そっちは取り敢えず後で考えるとしてだ、国会議員の大半は地元に住民票残したままだから、大島もそれに該当するとすれば、住民票が網走にあるはずだ。だとすれば、住民票に本籍が載っているはずだから、調べてみたほうがいいな。もし本籍もこっちにあるなら、出来ればそこから戸籍の確認、元の名前の裏取りまでは、内々にやっておきたいところだが……」

「それなら令状無くても行けますよね?」

吉村が確認する。

「勿論(作者注・95年当時は、住民票、戸籍は第三者であれ、割と容易に確認出来ました。厳しくなったのはそれぞれ、住民票関連の「住民基本台帳」の法改正があった2006年、戸籍法の改正があった2008年以降と思われます)だ。なるべく刑事の身分は隠してやった方がいいな……。網走に住民票も本籍もあるのが一番手っ取り早いんだが……」

「向坂さん、でも大島の住民票を確認したという話が、大島に漏れないという保証もないですよ。地元の市役所なんて、モロに大島の影響下にあるんですから!」

「うーん、言われてみれば西田の言う通りだな……。こっちの身分を明かさなくても、何か動いている連中が居るという情報があっちに入るかもしれない。何せ、テープの松島の話が本当なら、戸籍関係の情報にはかなり気を使ってる可能性がある……。どうしたもんか」

向坂は腕組みしながら更に困った表情になった。


「信頼出来る人間で、且つ網走市役所に勤務していて、戸籍や住民票に通常業務で秘密裏にタッチできる人間が居れば、大島に知られること無く情報を入手出来るんじゃないですかね?」

「そりゃまあ吉村の言う通り、そういう人間が居れば、何とかなるかもな。あくまで居るならな!」

真剣に悩んでいた向坂は吉村の「都合の良い」話に半ば呆れたように返した。

「実はですね……。俺の従兄弟に網走市役所の勤務の奴が居るんです。で、そいつの嫁さんが職場も同じで、記憶が間違ってなければ、戸籍や住民票関係の部署に居たんです。遠軽に転勤してきた直後に会って以来、1年以上会ってないんで、今はどうなのかわかりませんけど」

思いもしない余りにも「作り話」のような好都合な話に、

「そんな奴がいるのか!?」

と、期せずして西田と向坂は同時に同じことを口にしていた。そして、「だったらさっきの時点でもっと早く言っておいてくれ」とも思ったが、これほどの条件の話が出て来たことは素直に喜ぶべきだと、西田は思い直した。


「いや、今言ったことは嘘じゃないんで」

少しムキになって吉村は言い返してきた。

「そんなことはどうでもいい! それで協力してもらえるのか? そうじゃなきゃ意味が無い」

西田はさっき思ったことは表に出さず、早口で言葉を投げかけた。

「西田係長、おそらくは……。嫁さんとも自分は面識はあるんで……。あくまで捜査目的という形で言わない方がいいとは自分も思いますが……」

「すぐ動いてくれ! 時間も余り無い!」

向坂は吉村が言い終わる前に、そして西田より先に指示を出した。

「わかりました。残念ながら携帯の番号は知らない、いや携帯持ってるかも知らないんですが、まず従兄弟の勤務しているだろう部署に電話してみます!」

吉村はそう言うと、電話帳がある公衆電話の方へと急いだ。


「これで戸籍がどこにあるかはともかく、本籍が載っている住民票についてはすぐにでも行けりゃいいが……。後は大島が今回の事件にどう関与したかになってくる。盗聴器まで仕掛けてる以上は、確かに病院関係者に協力者が居たと見て間違いない。病室に出入り出来た人間については、既に捜査である程度調べは付いているから、そこから絞っていくことは可能だろう」

吉村が出て行った後、向坂が西田に話し掛けた。それに対し西田は、

「向坂さん、自分は別のことも気になってまして」

と、自分の意見を述べようとした。


「何だ?」

「実は10月の中旬だったかに、『FREE』という週刊誌の記事だったんですけど、オホーツク管内で、将来的な削減が見込まれる公共事業のパイ争いのせいで、土建会社のケツ持ちのヤクザ同士のいざこざが起きているという情報を見ていたんです。ただ、実際のところその頃には、まだそういう情報が警察でも共有されていなかったはずで、自分はおかしいと思ってたんですよ。ところが、その記事内容と同じことが、10月末から具現化してしまいまして。まるで予言のような記事でした。どうも何か臭うんですよ。勿論、土建業者自体の争いは確かにあったようですが……」

「10月の中旬?」

「はい。これは自分の勘なんですが、もしかすると、ある種のアリバイ作りの一環だったんじゃないかと……」

「そのアリバイ作りってのはどういう意味だ?」

向坂は西田の発言に対し、怪訝そうに尋ねてきた。

「根拠に欠けるのと、想像が逞しすぎるんであれなんですが……」

西田は喋るのをためらったが、向坂に、

「いいから言ってみろ」

と促された。


「ひょっとすると、今回の土建業者絡みの一連の銃撃事件は、松島を殺害するために仕組まれた、壮大なヤラセだったんじゃないか? そう思ってるんです。どうも話が都合良すぎる。松島の殺害も、まず警察うちは抗争の報復と見ているわけです。そういう意味では、もし狙いがそれなら、割と上手く行っているように思います。仮にヤラセが事実だとして、現時点でどこまでがヤラセだったかはわかりませんが、当初ヤラセで銃撃事件を仕掛けた後、それを勘違いしたヤクザ連中が本当の抗争を起こし始めていたら、それこそ思う壺ですよ。混乱の中で、最初がヤラセだったことは、目の前の現実の中に埋没しますからね。まして、北村の機転で録音してなかったら、上申書の件も含め、闇に葬られたおそれはかなり高いでしょう?」

「いやいや、お前はそこまで疑っているのか……」

向坂は西田の顔を穴が空くほどじっと見つめた。向坂としては考え過ぎだと思ったのかもしれない。


「松島の甥の経営する大平技建と村山組の入札のいざこざが8月。おそらく、既に8月の段階で、大島海路の影響下にある、網走や北見界隈の土建業界では、大平技建は既に弾かれる側として決定していたのかもしれません。松島もそれについて確信に変わったのがいつかはともかく、10月中旬には、北村に、伊坂や佐田、そして本人の間で取り交わされた証文の受領契約書の存在を明らかにしています。この時点で松島は、大島と伊坂の件を『墓場まで持っていくか』かなり揺らいでいたと思います。あったこと全ては言わないが、受領契約書の存在を認めたわけですから、甥の会社の将来性を悲観はしていたでしょう。9月辺りには、経営危機が具体化していたと、テープの中でも語ってましたから」

ここまで言うと、西田はタバコを取り出して火を付け、一息ついた。


 そして、

「同時に多分……、この段階で既に盗聴器は仕掛けてあったような気がしますから、そうであれば『こいつは全て喋りかねない』という危険性について相手は認識したでしょう。そうなると松島を『始末』しておく必要が、大島サイドには出て来ていた可能性があります。しかし、普通に殺害するとなると背景を探られる可能性が高い。そこでその前から周到に用意された、実態のない『抗争』を実際に利用する時が来たと……。それが週刊誌の記事とその後の一連の銃撃事件だとすれば、意外と話はまとまるような気がします」

と一気に喋った。しかしそれを聞いた向坂が反論した。


「いや、ちょっと待て! その考えは面白いと言えば面白いが、幾つか問題点を抱えてるぞ! まず第一に、松島は先が長くなかったということだ。こんな小難しいことをでっち上げてまで殺す必要があったのか?」

そこまで言い終えると、向坂もタバコを取り出したので、西田はライターで火を付けてやった。

「確かに、松島は先が長くないことは確かだったでしょう。しかし、松島の病状についてはっきりしたのが、入院前なのか、入院後なのかはよくわからないんじゃないですか? 肺がんですから、かなり悪かったとは思いますが、はっきり診断されるまでは、それが直接的に死に至る肺がんだったと外部に認識されていたかはわからないでしょう。おそらくですが、8月の不正入札の件で、松島から反撃を受ける可能性について、松島の入院前から少しは考えていたと思いますよ。そして実行を考えていたら、たまたま松島が入院し、そう長くないと……。確かに勝手に死んでくれる可能性も出て来たとは言え、何時死んでくれるかは、なんだかんだ言ってもアテにはならないですからね。明日死ぬかもしれないし、2ヶ月持つかもしれない。そして、死ぬ前に何か喋られることがないなんて、誰も保証できやしませんよ! 危ない橋を渡っても、喋ったり、文書に残される前に始末する方が確実は確実です。そしてその迫る死自体が、松島にああいう告白させた部分は、彼自身が北村に喋っていたじゃないですか!」

西田は熱弁した。


「ああ、確かに何時死ぬかわからないし、死ぬ前に喋られたら意味が無いな……。だがもう1つ。この『作戦』が事実なら、それを実行することで、『予備段階(つまり抗争の偽装)』において、むしろ松島に告白させるダメを押したとは言えないか? 実際、テープを聞く限り、太平技建が本当は絡んでいないはずの抗争事件が、北村に上申書を渡す切っ掛けになったと松島は言っていたじゃないか!」

向坂は一度納得しかけたが、更なる疑問を口にした。


「事実として松島がそう言っていたのですから、そうなんでしょう。しかし、それが最後通牒となったとしても、松島が死を目前にし、大島に裏切られたと既に考えていたこともまた事実です。それだけでも、喋られるかなりの危険があった。99パーと80パー……。『実行』することでダメを押すとしても、既に存在している80パーの危険性を無視することは、確率論で言うならかなりの博打じゃないですか? 大島は既に佐田の殺害に絡んでるんです。そこまでして守ってきたものを今更失うぐらいなら、ちょっとの差なんて意味ないように思います!」

西田は知らず知らずのうちに、向坂へ詰め寄っていたことに気付き、一歩下がった。

「うむ……。それもそうだな。じゃあ最後に1つ。大平技建はともかく、他の巻き込まれた業者はどういう扱いだ?」

「おそらくですが、いざとなったら切り捨てる会社でしょう。大体伊坂組が今回の件に絡んでない時点で……。他のこの地域の有力ゼネコンなんかは、今回の事件の対象じゃないはずです。まあ、村山組なんてのも、本来ならそっち側だったんでしょうが、港湾関係に強いという特殊事情が将来的な経営不安を招いた故に……ということはありえます」

西田の熱を帯びた説明に、向坂がそれ以上反論する余地はなかったと言って良い。


「……俺は記事を見てないからわからないが、で、どうするんだ?」

「記事を書いたのが『高垣真一』って、有名なフリージャーナリストらしいんですが、直に当ってみてもいいんじゃないかと考えてます」

「そいつはどこに居るんだ?」

「東京みたいですね」

「捜査本部に黙っていられる時間はそうはないぞ。大丈夫か?」

「方面の鑑識の柴田さんにも、時間の制約について言われましたよ。どうでしょうねえ……」

西田は事実を突き付けられて、思わず苦笑した。確かに時間は足りない。電話で済ませられるならそれに越したことはないが、相手が反権力系のジャーナリストとなると、そう簡単に警察の聴取に応じてくれるとも思えない。苦しい事情に変わりはない。ただ、その反権力系のジャーナリストの記事が、権力者側に有利な記事だったとすると、それもまたおかしな矛盾だ。話は面倒な方に進んでいた。


「いざとなったら、相手にこっちの出方がバレても、上に正面切ってぶつかっていくぐらいの覚悟は必要かもしれんぞ」

向坂は呟くように、それでいてはっきりと意志の強さを西田に示した。

「確かに」

そう一言言うと、西田はラジカセからテープを取り出した。

「問題はアベ絡みだな。強烈な情報だが、テープの中身を伏せたままだとすると、どうしてこういう話が出たか、上に別途説明しないとならない。そうなると、やはり『覚悟』の問題になる。これが結構難しい関門だ……」


 実際、この情報は出来る限り早い段階で「上に」上げ無くてはならないに決まっているが、漏洩も気にしなくてはならないというジレンマを抱えていた。

「今は、漏れをまず気にした方がいいかもしれません」

「早いウチに動かないと、逃亡される確率もあがるぞ!」

向坂は当然の注意を口にした。

「ただ、捜査情報が漏れてもまた逃げられる可能性が高まります。どっちもそれなりにリスクがあります」

「うーん」

ベテランと言えども、さっきから「行ったり来たり」を繰り返していた。揺れているのだ。向坂にとっても、なかなか即断出来るような話ではないことは自明だった。

「わかった……。取り敢えず今は我慢しよう。かなりギャンブルになりそうだが仕方ない……」

口を真一文字に結び、とうとうそちらへの覚悟を決めたようだ。


「とにかく、この件で遠軽署うちも秘密裏に動かせてもらいます。こっちの方がフットワークは軽いですから……。ちょっと打ち合わせたいんで、一旦遠軽に戻ります。留守中、上に何か言われたら上手く誤魔化しといてください」

「わかった。それについては俺の指示で、遠軽に捜査資料の確認で戻ってもらったということにしておくが、夜の会議までには戻ってきてくれよ、さすがに」

向坂はドンと自分の胸に拳を当て、「任せておけ」の意思表示をしてみせた。そして、

「今のこと、吉村には言ったのか?」と聞いてきた。

「いやまだです。でも戻る途中でしておきますよ。まああいつに言っても大して響かないかも」

西田は少し明るい顔になった。

「ああ、それはな……。でもお前の相棒なんだから、ちゃんと信用してやれよ」

向坂はそう言うと、ほとんど吸うこともないままで、燃え落ちそうなタバコを灰皿にねじ込んだ。


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