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修正版 辺境の墓標  作者: メガスターダム
序章
3/223

序章3

 署に戻り、事件の概要等について署長・課長に報告した後、嘱託検死医による検死、遺族の遺体確認、事情聴取等が次々と行われた。直接の死因については、見た通り頭部を石で強打したことによる脳挫傷であった。ほぼ即死だろうとの見解だった。


 また遺族の証言では、ガイシャの吉見は、夜間早朝に現場を通過する上下の夜行特急「オホーツク」並びに貨物列車の撮影の為、前日の6月8日木曜夜より、北見の家を車で出発し現場付近まで来ていたらしい。6月9日金曜は、その週に日曜出勤だったため振替で休暇だった模様だ。


 以前から何度も撮影に来ていたらしく、あの周辺の土地勘は元々あったということだった。カメラも当然持って出たはずとのことで、やはり何者かに奪われたのは確実であった。この点については、盗犯係と連携し、盗まれたカメラの型を遺族に後から連絡してもらい、質屋等をチェックすることになった。


 ただ、犯人自体がカメラそのものに興味があった場合、必ずしも換金目的とは限らず、その場合、捜査は難航する可能性が高いと西田は睨んでいた。あの時間帯に同じ場所に居た人間が、「同趣味」の人物である可能性は、決して低くないと思われたからである。更に、遺留物や遺体の服などから採取した指紋についてもチェックしてみたが、少なくとも前歴のあるものは確認できなかった。


 当日は夜まで忙しくしていた西田達だったが、午後7時には、一度夕食を外に食べに出る余裕が出来た。この日は、本来非番だった小村含め、結局全員が出勤せざるを得なかったので、連絡要員として残した澤田以外は、全員でいつもの食堂に出かけ、慌ただしい中でもやっと一息付くことが出来た。


 「係長、現場は例の常紋トンネルのすぐ近くだったんでしょう?」

いつものように早飯食いの吉村が、楊枝片手に西田に話し掛けてきた。

「みたいだな。カーブだの森だののせいで、トンネルの入り口はよく見えなかったが、保線区員の話だと、現場はトンネルまで200mほどの所だったらしい」

「それじゃあ、ガイシャは幽霊か人魂でも見て、驚いてこけたんじゃないですかね?」

半分冗談なのだろうが、部分的には本気で吉村は言っているように西田には聞こえた。

「吉村! あの常紋トンネルだから、そんなことが全くあり得ないとは言えないかもしれないけど、霊媒師じゃなくて俺等警察だから……」

黒須が、苦笑いで応じた。

「お前らは常紋トンネルの心霊話、やっぱり知ってるのか?」

西田は自分が知らなかったこともあり、話のついでに部下に聞いてみた。

するとやはり西田以外の竹下、小村、吉村(は当然だが)、黒須、大場の全員が知っていた。残っている澤田も、吉村の話だと知っているらしい。改めて常紋トンネルの知名度に驚く西田であった。


「ただ、心霊話が現実にあるかどうかは別にして、ガイシャあたりも北見の人間なら、こういう話は知っていて当然ですからね……。もしかすると、何かを幽霊と勘違いして、驚いて転倒したなんてのは、全くあり得ない話じゃないでしょう」

と竹下がポツリと喋った。言われてみれば、確かにそのような可能性は否定出来ないし、充分あり得る推測だ。西田もその点について十分考慮にいれておく必要があると感じながら、お茶を喉に注ぎ込んだ。


※※※※※※※


 翌日には、鑑識により靴先に付着したモノが木の根の皮の繊維と一致し、転倒した原因も木の根に躓いたものとの確信を得た西田達であった。但し、それがガイシャが自分で勝手に転倒したものか、或いは何かの形でカメラを奪った人間による「影響」なのかは、現場で考えていたように、これだけでは結論を導くことは出来ないでいた。可能性としては事件というよりは事故の方が高いのだろうが……


 一方このような場合、もし盗難或いは占有離脱物横領などの「別件」で引っぱることが出来れば、吉見の死についての取り調べも可能だが、それは盗犯係の網に引っかかるかどうか次第であり、同時にその可能性は決して高くはないだろう。滅多に「大きな」事件に遭遇しない遠軽署ではあったが、大きな事件になるかどうかは、小さな窃盗事件の解決に委ねられることになった。


※※※※※※※


 事件発生より3日経ったが、西田が懸念したように窃盗絡みからの進展は全くなかった。

「やはり、この案件は犯罪かどうかはっきりしないままかな……」

たった3日しか経っていないが、有耶無耶のまま終わる事態も想定しなくてはならないと西田は考えていた。「金目的」なら、大抵この手の事件では、かなりの早期に動き出すケースが多いからである。もちろん例外もあるにはあるが……。しかし、事件発生より4日程度で、窃盗絡みという別件ではなく、吉見の死自体という本件より直接動き出すことになるとは、西田始め捜査陣は、この時は想像すらしていなかった。


※※※※※※※


 6月13日の午後。西田と課長の沢井が捜査方針について協議していると、

「課長! 係長! 吉見の案件について、ちょっと面白い話を入手しました!」

と、外回りから戻った吉村が、帯同していた黒須と共に、部屋に入って来るなり声を張り上げた。

「何だ、何かわかったのか?」

沢井が椅子から急いたように立ちあがった。

「ええまあ……。そんなに凄いことでもないんですが……」

課長の勢いに、ややたじろいだように返答する吉村。

「何でもいいから、話してみろよ」

西田がそんな吉村の表情を見て、静かに促した。


「係長。今回の事案のちょっと前に、常紋トンネルの幽霊話しましたよね? 実はあの『最近出る』って話は、自分の行きつけの小料理居酒屋の大将から聞いたんですよ。で、さっきですね、たまたまその大将と町中で出会いましてね。どうも、その話の大元は、店によく来るJRの運転士の人から聞いていたようなんですが……」

その時、突然沢井課長が割って入ってきた。

「ちょっと待て、なんだその常紋トンネルの話ってのは?」

沢井はこれまで、全く常紋トンネルの話について絡んでいなかったので、話の展開に付いていけなかったのは仕方ない。しかし、吉村と西田の説明を聞くと、常紋トンネルの幽霊話自体については以前から知っていたようで、すぐに事情を飲み込んだこともあり、吉村は話を再開する。

「で、ですね、その心霊現象ってのが、『人魂』か何かの発光現象を、運転士の人達が、常紋トンネルの生田原側で、最近走行中に頻繁に目撃するようになって出て来た話らしいんです」

「人魂ねえ……。それはともかく、それがどうして吉見の件と関わってくるんだ?」

課長の疑問ももっともだった。西田もそれを口にしかけたが、課長に先を越された形になった。


「まあそう急がないでください。先がちゃんとあるんですから」

そう言うと、人に急ぐなという割に、上着の背広をせわしなく脱いで机の上に置き、吉村は話を続ける。

「その人魂やら発光現象やらで運転士が騒いでる最中、1人だけ『あれは違う』と最初から言ってるベテラン運転士が居るそうなんです」

「一体、それがどういう意味をもっているんだ?」

今度は課長より先に、西田が吉村に思わず問い質していた。


 吉村は、それに少々ニヤリとした表情を浮かべたが説明し始めた。

「そのベテラン運転士は、若い頃に何度も常紋トンネルの怪現象を目撃してるそうなんですが、その時の人魂ひとだまの発光色と、ここ最近のそれは全く別もので、『あれは懐中電灯かなんかの人工の光だろ』と言ってるそうなんですよ」

「つまり、幽霊、人魂騒動は『生身の人間様』の仕業と言ってるわけだ、その人は」

沢井は吉村の顔を見ながらそう言った後、

「結論としておまえの言いたいことは、その光源の主が、今回の件でカメラを奪った人物と何らかの関係があるのではないか? そういうことだな?」

と吉村に確認した。


「ピンポーン! 全くその通りです! ここ最近の発光現象と今回の案件、時系列的に関係があっても不思議ではないでしょう? ましてあの吉見の件以降、発光体は誰も見ていないそうです」

嬉しそうに喋った吉村に構わず、

「誰も見ていないってのは本当か?」

そう西田が慌てたように尋ねた。

「ええ。頻繁に目撃されたものが、あれ以来ないようです」

今度は黒須が代わって冷静に答えた。


 今年30にもなる吉村が「ピンポーン」はどうかと思うが、なるほど例の幽霊話とこの案件、目撃談が本当なら、考え様によっては接点があるかもしれない。荒唐無稽な心霊現象の噂話から、捜査の端緒を掴んだとすれば、なかなかのお手柄である。


「課長。これはひょっとするとひょっとするかもしれません。一度ちゃんと聴いた方が良いかもしれませんね」

「そうだな……。西田の言う通り、ちゃんと調べ直した方がいいかもしれん。西田! お前と吉村で行くか、吉村と黒須に任せるか、どうする?」

課長は西田の判断を支持した上で、西田に問うた。

「一応私も行くべきでしょうが、黒須も吉村と共に聞いていた以上、私含めて3人で良いんじゃないですか?」

「よしわかった。西田に任せるよ」

課長はそう言うと、肩でも凝っているのか首を回した

「じゃあ私がアポとりますんで、よろしいですね?」

課長の発言を受けた吉村に、西田は黙って数回頷いた。


※※※※※※※


 聴取が行われたのは、人魂・幽霊説を否定したという、ベテラン運転士である高宮の都合を優先した結果、翌日の午後、北見のJR施設であった。


 事情聴取に緊急性や重大性があれば、家にでも押しかけてまで聴くべきだろうが、現状そこまでではない。他にも発光現象を目撃した運転士数人にも聴くことになった。さすがに、心霊現象絡みの事件・案件について捜査するというのは、西田達遠軽署の面々だけでなく、警察にとってもそうそうない経験である。運転士の待機する事務所でお茶を飲みながら、運転士達にどう切り出すか思案していた西田であった。


 高宮の到着がやや遅れることになったので、彼に聴取する前に、事務所に居て、実際に現象を目撃した運転士数人に先に聴いたところ、発光現象は、

1)常紋トンネルの生田原出口から数百メートルほどの地点で、事件発生の20日前ぐらいから、夜中通過するオホーツク10号や、夜明け前に通過する貨物列車の運転士が、木々の隙間にチラチラとしているのを目撃。


2)列車がその発光体の付近を通り過ぎようとすると、発光現象は何故か収まる。


3)光は黄色みがかったもの


と共通していた。


 彼らは個別に聴取した際、口々に、

「いやあびっくりしました。色々以前から聞いていたので……」

と似たような感想を述べた。確かに、初めて見たらびっくりするのだろう。ただ、本当に聴きたいのは、高宮という運転士の話である。現実に、超常現象である「幽霊」や「人魂」の仕業であれば、捜査には何の影響もないのだから、彼の否定話が捜査のキーポイントにならないと困るわけだ。


 肝心の高宮は、予定より1時間ほど遅れてやって来た。室内に入ってきた直後に西田達を見つけ、

「待たせて申し訳ねえな。女房を病院に送り迎えしてたら、思ったより時間が掛かっちまってねぇ」

と言って軽く会釈しながら、刑事達の前にどかっと腰を下ろした。

「こちらこそお忙しいところすみません」

西田はそう喋りながら、自分と部下を高宮に紹介した。それが終わるや否や、ベテラン運転士が先に切り出した。

「刑事さん達は、例の常紋トンネルの話を聞きに来たんだべ?」

事前に吉村が小料理屋の大将を通じて話をつけておいただけに、相手はこっちの知りたいことにすぐ踏み込んできた。割とせっかちな性質のようだ。


「ええ、まあそうです」

「西田さん……だったっけ? あれねえ、どう見ても人間の仕業だわ!」

「それはどういう理由で、そう断定されてるわけですか?」

西田は当然の疑問を口にした。

「だってよ、俺が若い時に何度か見た人魂らしきモノは、青白い感じでフワフワ浮いてたんだわ。あんなはっきりした光じゃねえよ……。しかも、俺が昔見た奴は、列車が近付いても決して消えたりしなかったしな。若い連中はよく知らないから、あの程度で騒いでるけどよ」

「その『本物』は何時ごろ見たんですか?」

今度は、黒須が脇から口を挟んだ。

「俺が20の後半、今55だから……、約30年前ぐらいだべなあ。まだSL乗ってた頃の話だわ。あれ以降ほとんど人魂だの幽霊だのの話は聞かなかったし、俺も見なかったんだ。ところが……。あれいつ頃だべ?高橋」

そう言いながら、先程まで事情聴取していた若手に振り返って問いかけた。

「えっと、木村が初めて見て騒いだのが、確か5月の21、22日頃だったような」

若手職員が自信なさそうにそう答えた。

「そうそう! 今ここに居ない木村って奴が、こん中で初めて目撃して騒いでね。それからこいつらや俺も、頻繁に目撃するようになったんだわ」

高宮が続けてそう解説した。

「久し振りに見た人魂は、高宮さんには、他の人達と違って違和感があったわけですね」

吉村の問いに、

「そうよ! 俺がしばらくぶりに初めて見たのは、確か5月の末だったと思うけどよ、『これかあ?』と思うと同時に、『こりゃ違うべ!』と思ったわけ。(光源が)弱いけど、明らかに懐中電灯かランタンかなんかの光だよありゃ。こいつらはそうは思ってないようだけどな」

と苦笑しながら答えた。


「でもそうなると、鉄道写真の撮影なんか夜中にやってる人がいますけど、そういう人達の『仕業』とは別だと、他の若い運転士の方達も思ったからこそ、人魂とか幽霊だと思ったわけですよね?」

吉村がなかなか良い質問をした。

「ああ。まず列車の撮影に来てる連中が使ってる明かりは、夜中でも周りが見えるように結構強いんだよ。ずっと点けたままだし。今回のとは若手でも違いはわかるはずだべ。何かあんまり周りに光を漏らしたくない感じだったな」

「なるほど。まあ我々としましても、高宮さんの『経験』を信じるしかないんで」

西田がメモ帳に書き留めながら言うと、

「最近あそこら辺で、保線区員がなんか死体発見したみたいな話が入ってきてるけど、それと関係あるのか今回の件は? 列車が近付いたら光が消えるなんて、誰かこそこそ夜中にやってたっぽいが」

と、高宮は鋭い発言をした。それに対して横の吉村は、

「ええ、そんなところです」

と答えるのが精一杯だった。


「ふーん……。まあよくわからんが、とにかく、人目に付くのを避けようとしてた感じはあったな、ああいう『消え方』は。鉄道写真なんかを常紋に撮りに来る奴は、昼は結構居て、夜にもたまに居るんだけど、絶対ストロボ(フラッシュとも言う)焚くからね、撮るのに。そういうのもなかったしな、あの人魂もどきの光を見た時には」

高宮の発言に、西田は思うところがあった。

「すみませんが、6月8日の網走発のオホーツク10号を運転していた方が誰かわかりますかね?」

席を一度立つと後ろに居た事務所の職員に問い掛けた。つまり、吉見の死体が見つかった6月9日の明けてすぐの夜中に、常紋トンネルを通過した運転士が誰か知りたかったのだ。


※※※※※※※


 その時の運転士が誰かはすぐにわかった。想田という人物で、この日は非番だったが電話で連絡をしてもらい、家に居たらしくすぐに来てくれた。


 既に高宮への聴取は終わっていたが、高宮と吉村、黒須の3名は、相変わらず常紋トンネルの雑談に話を咲かせていたので、様子を窺う様に想田は高宮が座っている横に腰を据えた。おそらく西田と同じ30代半ばの中堅運転士に、西田には見えた。それから10分程後、高宮がなかなか止めなかった話がやっと終わり、想田の証言を聞き出すことになった。


 彼の話では、6月8日の勤務時、つまり現場付近通過は6月9日未明、確かに常紋トンネルを出た直後に、撮影のためのストロボを焚かれた記憶があるそうだ。おそらくそのストロボは、亡くなった吉見が撮影時に使用したモノと推察された。西田は続けて質問した。

「その時、例の発光体は見ましたか?」

「刑事さん。フラッシュより遠くに見ましたけど一瞬でしたね。その前の勤務の時に一度私も見てましたので、間違いなく同じ光だとは思いますが」

「もちろんストロボ、いやフラッシュは同じ場所からだけ光ったんですね?」

「そうですね。確か、フラッシュの割と近くにも、もっと明るい光はあったように見えましたが、あれは撮影者のものじゃないですかね」


 西田はこの時点で、「人魂」の正体は、撮影に来た吉見の出現で、いつもより慎重になっていたのではないかという推測をした。そして同時に、鉄道写真の撮影を目的として現場に居たわけではないという確信を得た。フラッシュが「そちら」からは無かったと思われたからだ。取り敢えずは満足した結果を得て、3人は事情聴取を終え、高宮始め関係者に礼を言った。すると高宮は、

「刑事さん方、調べてるのが事件か何かわからないけどよ、もしそれが解決したら、俺らのお陰になるのかい? もしそうなったらなんか御礼してくれよ」

と笑顔で言った。

「事件になるかどうかははっきり言えませんが、もしそうなったら、勿論おごらせて貰いますよ」

西田はそう答えると、部下の二人と共に急いで署への帰路についた。


※※※※※※※


「しかし、夜中に何をしていたんでしょうね? コソコソしていた時点で、それ自体に何か事件性の臭いがしますけど」

北見からしばらく沈黙が続いた後、黒須が車の後部座席に座る西田に問い掛けた。

「そうだな……。元々は、吉見の死の原因とカメラの紛失での捜査が目的だったが、そっちの方も気になってくるな。吉見は何か目撃して、カメラに写したのかもしれない。それに『人魂』が気付いて、どういう過程かわからんが、吉見が死んで、撮影したフィルムを奪うため、カメラが盗られたという可能性もある。フィルムだけ盗むと、フィルム目的だとバレることを避けたのかもしれない」

変わり映えしない、鬱蒼うっそうとした国道横の山林を眺めながら、西田も同意した。


「タイヤ痕の方から、何かわかりませんかね。あれそろそろ結果わかるでしょ?」

運転中の吉村も話に加わった。

「タイヤ痕の方は、種別がわかったと言っても、せいぜい大まかな車種の特定ぐらいにしかならんだろ。特別なタイヤなら話は別だが……」

「確かに係長の考えが正しそうですね……。Nシステムでもあればいいんですが」

吉村の言う通り、Nシステム、つまり車のナンバー識別システムがあれば、交通量も少ない路線だけに、かなり限定されるのだが、さすがに現場周辺の田舎の山道には設置されていなかった。

「下足痕というか靴の方はどうでしょう?」

黒須が西田に問い直す。


「そっちの方がむしろ可能性はあるかもしれないな。見た感じ、山歩き用かなんかの靴底っぽかったが、多少特殊な感じがした。ただ……」

「係長、『ただ』何ですか?」

「黒須、もう一回ちゃんと現場検証したほうが良いように思う。今度はもうちょっと広めにな……。あの時は、人数掛けてなかったこともあって、色々見落としていることがあるだろうし、あの時は遺体の回収と吉見の死についての事件性ばかり気になって、幽霊の方がそれ以前に、どういう動きをしていたのかまで調べている余裕がなかったから」

「確かにそうでしたねえ。それに何か遺留品を残している可能性もある」

黒須の発言に吉村も深く頷いた。その後、再び疲れからか、或いは思索からか沈黙が続き、署に戻るまで3人の間で会話が続くことはなかった。


 署に戻ると、課長に鑑識からの報告が来ていた。タイヤは大手メーカーの一般セダン用で、タイヤからの車種の特定までは困難。また販売先の特定も同様に難しいとのこと。靴は有名トレッキングメーカーの品で、26.5というサイズから見ても、おそらく男性だということはある程度絞り込めるが、足の大きい女性の場合には履く可能性があるため、断言はできなかった。また、そこそこの売れ筋のため、個人の特定となるとこちらも相当厳しいとの見解であった。


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