明暗1 (1~10 現場再捜索)
ここまでのあらすじ
95年6月早朝、JR北海道・石北本線・常紋トンネルの生田原側出口付近の線路沿いで、鉄道の写真撮影に来ていた北見市在住の会社員・吉見忠幸の死体が発見される。持ち物としてあったはずのカメラは、周辺を動き回っていた何者かに持ち去られていた可能性が高かった。殺人の可能性も考えられたが、木の根に躓いて転倒し石に頭部をぶつけたことによる事故死と大筋で判断。ただ、転倒の理由には、カメラを持ち去ったと見られる謎の人物の影響が考えられた。
当時現場周辺に少し前から「人魂」の目撃情報(吉村の行きつけの店である、小料理居酒屋「湧泉」の大将である相田泉からの提供)があり、転倒も吉見がそれを目撃して焦ったことで発生した可能性も考えられた。
その後吉村の紹介で、JRのベテラン運転士が、目撃されていた一連の人魂の信ぴょう性を否定する証言を行い、西田達は人魂の発生が人間の所業と判断。連日に渡る深夜の山中での行動と、気配を消したがっていた様子から、何か怪しい行動を取っていたと見て、署を上げて現場周辺を探ることになる。
その結果、常紋トンネル建設の際に犠牲となった、無数のタコ部屋労働者の慰霊碑並びに墓標、それに加え、幾つか地面を掘った痕跡を発見。最終的にその中から、米田雅俊という、3年前に周辺で行方不明になっていた鉄道マニアの大学生の遺体を発見することになる。遺体状況から殺人と断定。遠軽署に、上部組織である北見方面本部刑事部捜査一課の刑事達との捜査本部が立ち上がる。
捜査はなかなか手がかりがなく難航した。そんな中、「常紋トンネル調査会」という、タコ部屋労働の歴史を掘り起こす団体が企画した、現場周辺での犠牲者の遺骨収集の予定が、人魂の主に影響を与えていた可能性が浮上する。その収集活動の予定が、「北見屯田タイムス」と言う地元コミュニティ紙に載っていたことが判明したのだ。それもまた、「湧泉」の大将から吉村を通じて浮上した情報だった。謎の人物の行動理由として、調査会の調査によって現場周辺が「洗われる」ことを恐れたのではないかと捜査本部は推測していた。そして、その会の主催者である松重という、地元留辺蘂町・温根湯温泉の老舗ホテル「松竹梅」のオーナーからの聴取で、田中清という元国鉄の保線区員の名前が重要人物として上がった。その聴取過程で、田中の同僚であった、訓子府在住の奥田満という老人と知り合う。
また同時期に、竹下とコンビを組んでいた北見署からの応援捜査員であるベテラン刑事の向坂から、87年秋に起きた佐田実という会社経営者の行方不明事件で、故・伊坂大吉という、その時に聞き込みに向かう予定の伊坂組の元社長が重要参考人となっていたことが明かされる。伊坂が佐田の行方不明直前に、道議会議員の松島孝太郎と共に会食に臨んでいたことが理由だった。そして、伊坂が有力後援者だった、大島海路という地元選出の民友党・大物国会議員が捜査を妨害をしていたらしい。その事件は迷宮入りしたまま95年を迎えていた。
捜査は相変わらず難航していたが、本格稼働前のNシステム(走行自動車ナンバー識別システム)の試験運用の際のデータから、伊坂組の専務である喜多川という男が浮上。喜多川は田中清の娘婿でもあり、竹下と向坂が聞き込みで初めて伊坂組を訪れた際に応対した人物だった。喜多川は佐田実失踪の後、伊坂組内部で急速な出世を遂げており、それが佐田実の事件と何か関係があると西田達は睨む。
捜査本部は、北見方面本部の機動捜査隊と共に喜多川を徹底マークし、7月末、別件の酒気帯び運転による人身事故で逮捕することになる。また吉見のカメラを現場から持ちだしていたことも確定する。
ところが8月初旬、喜多川を取り調べで追及中に、喜多川が脳梗塞により意識不明になってしまう。その一方、喜多川と国鉄時代に同僚で、一緒に伊坂組へ転職した篠田というこれまた専務がいたことが(その前に奥田への再度の聞き込みがあり、そこで篠田の名前が浮上した)判明。それ以降、その篠田の3年前の言動と行動が焦点になる。
また、喜多川の意識不明に関して、大島の圧力によるものと思われる北海道新報を使った警察批判記事の掲載から、竹下の大学時代の先輩である五十嵐と言う北海道新報記者との情報ルートが出来上がる。
そして篠田の謎の行動(伊坂大吉が、92年の夏に佐田実の遺体があるかどうか篠田に確認させたという推理も同時期に成立)から、米田の殺人にも絡んでいると見て西田達は現場を再捜査をすることになる。
午後12時半、西田と沢井は生田原駐在所で丸山巡査部長と落ち合っていた。いや、落ち合ったというより、丸山が地域住民であろう老婆と何やら談笑していたので、駐在所の外で待っていたという方が正しかった。会話の内容、様子からは、犯罪被害等の事務的会話ではなく、ただの世間話だと思われたが、こういう地域住民とのコミュニケーションも駐在所員の仕事と考えれば、無碍に邪魔することも憚られたからだ。
しかしさすがに10分も待たされると、こちらがイライラするだけの問題ではなく、「向こう」で待っている人間のことも考えないといけない時間帯に突入し始めた。西田はチラチラ所内を覗きこむが、丸山もそれに視線を送り返し、「わかってます」の合図を送っていたのだった。
なんとか「粘る」老婆を追い出すことに成功した丸山は、玄関で見送った相手が見えなくなると、すぐに、
「いや、すいません。待たせてしまって」
と平謝りになった。
「しゃあない。婆さんの話は長いからな。俺も駆け出しの若手の頃、深川(市)の交番勤務時代には、地域老人の世間話の相手を数多くこなしたもんだ」
沢井は吸いかけのタバコを、濃い藍色の捜査用作業着の胸ポケットから取り出した携帯灰皿にねじ込むと、やけに懐かしそうな目をした。そしてその上で唐突に、
「そういえば、丸山はああいう婆さんや爺さんから、見合いとかの話持ち込まれたりしてないか?」
と言い出した。
「え? 沢井課長は見合いなんかもさせられそうになったんですか? さすがに僕はそこまでおせっかいを受けたことはないですよ、今のところは」
丸山は驚いたと言うよりは、ある種の恐怖を抱いているかの様に見えた。
「ああ。俺はよく世間話しに来ていた婆さんに、『あんたに合ういい子がいるよ』と見合いを勧められたんだぞ。そこそこ可愛い写真だったから、なんだかんだと結局会ってみたけどなあ……。ところが実際に会ってみると、結構写真写りが良かったらしい……。目の前に居たのは、写真より2割引の娘だった。因みに紹介されたその相手は、何故か今俺と長年同居してるんだ。一体何があったんだろうな? とにかくそういうことだから、お前も十分気を付けるんだぞ!」
課長の周りくどい、自分の妻との馴れ初めの披露に、西田も丸山も仕事も忘れ爆笑したが、時計を確認すると、笑ってばかりもいられなかった。
「おっと、こんなことしてる場合じゃないな。丸山! 早く作業着に着替えて先導してくれ」
「係長。そうでした。時間もないですから、すぐ案内させていただきます!」
丸山はそう言うと、すぐに所内に戻り、警察支給の作業着に着替え、四駆のパトカーに乗り込んだ。
※※※※※※※
横山の家は、駐在所から車で5分もしない場所にあった。丸山のパトカーに続いて敷地に入ると、時計はまだ12時50分だった。約束の時間には十分間に合ったらしい。早目に遠軽署を出発しておいたことが功を奏したと言えた。
課長がチャイムを鳴らし、警察であることを名乗ると初老の女性が玄関を開け応対に出てきた。横山の細君らしい。早速3人は家の中へ招き入れられた。妻の話では、横山は今日の伐採を手伝ってくれるはずの、営林署勤務時代の後輩の家へ呼びに行ったまままだ帰っていないということだった。そう考えると、そんなに急ぐ必要も結果的にはなかったのだと3人はちょっと損した気になった。通された居間には、服装はラフだが品のある老人と僧衣姿の松井住職が既に談笑しながら座っていた。当然、老人が寺川名誉教授なのだとすぐにわかった。
「どうも、本日はお世話になります」
沢井が立ったまま先に頭を下げて、自分自身、西田、丸山を順に紹介した。
「こちらこそ迎えに来てもらって申し訳ない。私の家でもないので何だが、さあ座ってください」
寺川も朗らかな笑顔と共に軽く一礼した。
「松野住職も、わざわざ来ていただいたようで」
「いえいえ、こちらは新たに事件の被害に遭われた方への供養を、タコ部屋労働の犠牲者の供養に併せて勝手に参加させていただくだけですから」
課長の言葉に、如何にも僧侶という落ち着き払った感じで返答した。それにしても、俗にまみれた世界で「もがき続ける」警官3人の前に、品の良さそうな大学の名誉教授と僧侶が居るというコントラストに、西田はなんとも言えない居心地の悪さを覚えていた。
「手伝ってくれる一平ちゃんが、営林署の後輩迎えに行ったまま戻ってこなくてね。もうちょっと掛かるみたいです。なんか猟銃借りるとか言ってたから、そのせいで時間掛かってるようですね」
寺川の話で、西田は現場がヒグマの出没地域だったことを改めて思い出した。よく考えると、最初の捜索の時に拳銃を持って行って以来、一切の武器は持っていかないままで何度か現場を捜索していた。地元の人間ですら警戒するのだから、それなりに危険な行為だったのかもしれない。
「ヒグマの出没情報は今年は春先に1件ほどあっただけでしたから、大丈夫だとは思いますけど……」
丸山が如何にも地元の駐在らしい情報を出したが、
「いつ来るかわからんのがヒグマですよ。私も子供の頃、山に入って襲われた人の遺体に、遊んでいた時に出くわしたことがあるが、あれはトラウマもんです。用心に越したことはない。あの一帯は昔からよく出る」
と、寺川はこの点については素人の若手警官相手に諭すように言った。
「横山さんが行った、後輩の内田さんもうちの檀家さんですから、家の場所も知ってますけど、ここから遠くないですから、そんなに掛からないでしょう」
一方の住職は、相変わらず落ち着き払った態度で、待っている横山について言及した。
「内田さんは私も知ってますが、確かにここからそんなに離れた場所ではないですね」
丸山もさして詳しくないクマの話は放置して、話題を切り替えていた。
「そういうことなら、大人しく待つことにしようか」
沢井はタバコを取り出し火を付けていた。
そんな中、横山の妻がお茶を淹れてくれたので全員が一息付いた。そしてその時間、西田はある意味チャンスと思い、寺川に対し、奥田が教えてくれた昭和52年の身元不明3遺体発見の話を振ってみようと考えた。
「ただ待っていても無駄ですから、寺川さんにちょっと伺いたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「えっと何でしょう? 私が答えられることならなんなりと」
いきなりの展開にも、とまどったところを寺川はほとんど見せなかった。
「実はですね、ちょっと昔、具体的には昭和52(1977)年の話なんですが、今回の捜索現場の付近であった未解決事件といいますか、事案といいますか、それについて最近知ることがありまして……。それでですね、その事件で参考人として話を聞いたという相手の名前に、『寺川 松之介』という人物の名前があったんですよ。これは……」
周りくどい表現になったが、寺川はすぐに反応した。
「松之介ですか。それは私の祖父ですね」
「あ! やはりお爺さんでしたか。場所やお名前から考えて、親族の方ではないかと推測はしてましたが」
西田は推測が当たって、大した意味こそないがちょっと気分が上がっていた。
「しかし昭和52年とおっしゃいましたか?」
「はい」
「昭和52年ねえ……。その頃だと、多分祖父は既に94……、95かな? だったと思いますが、一件矍鑠としていたように見えて、さすがにまだらボケというか、やっぱり軽い痴呆のような症状が出てたと思いますよ。勿論私も既に同居は長らくしてませんでしたから、たまに帰省した際に会った印象や父母から聞いていた程度ですが……。だから、警察が何か祖父に話を聞いたんですよね? それに果たして意味があったのかな……。それにしても、家督は表向き譲っていなかったにせよ、同居していた父の方に、どうして話を聞かなかったんだろう?」
寺川は理解出来ない様子を隠さなかった。
「既に後見人というか、そういう感じだったんですか、父上は?」
西田が問うと、
「そうですね。祖父が存命でしたから、法的には祖父が世帯主でしたが、昭和40年代には家業の製材業や山林管理、ちょっとした雑貨店なんかはもうオヤジが責任持ってやってたはずです」
と答えた。
「そうですか……。そうなるとどうして、わざわざお爺さんに聴取というか聞き込みしたのかわからないですね。我々もかなり前の先輩刑事がやったことですから、今となっては理由はわからないのが残念ですが」
そこで、
「古い話ですからね。事件を掘り起こすにも故人も多くて、難儀します」
会話に詰まった2人の間に沢井が入ったが、
「うーん、昭和52年でしたっけ?」
と寺川が話を再開した。
「そうです」
西田が頷くと、
「もしかして、その年の夏ぐらいの話でしたか?」
と言い出した。
「ええ。具体的に言うと、3名の白骨化した遺体が寺川さんの土地から出た事案なんですが、7月の中旬の話だったようです」
「はあ、なるほど! やっとわかりましたよ。そうなるとまさにタイミングが悪すぎましたねえ……。警察の方には申し訳なかった、今更遅いが」
寺川は、難問が解決したかのような、ある意味晴れやかな表情で西田を見ながら詳細を語り始めた。
「私の記憶が間違ってなければ、その年の6月から7月の末まで、当時私が助教授として勤めてた北
大の大学病院に、私のツテで父が心臓の関係で入院してまして……。母も付き添いで札幌に来てたはずだから、生田原の実家には祖父が一人で居たはずです。祖母は既に亡くなっていましたから。それで警察の方は祖父に聞いたんでしょう。わざわざ札幌の父に確認するということまではしなかったんでしょうね。祖父は日常的な生活は一人で出来てましたから、そのまま一人で生田原に居てもらったたんです。警察が何を聞いたかわかりませんが、事実関係を調べていたとすれば、ひょっとすると、間違った方へ誘導したんじゃないかと」
「そうだったんですか。それじゃあ仕方ないですね。お爺さんに聞いたのは、その遺体の3名についての心当たりがないかという話を聴いていた様です。どうも、遺体の状況から考えると、かなり古いものだったらしく、おそらく戦前に埋葬されたのではないかと、当時の捜査で判明しています」
西田は淡々と説明した。
「戦前……? 戦前と言っても幅が広いからなあ。タコ部屋労働で亡くなった人なんかもゴロゴロ埋まってたのがあの場所だから……。祖父も私が若い頃によく話してくれたもんですよ。祖父は曽祖父に連れられて生田原に入植したんです。いや、正確に言うなら、当時はまだ遠軽村だったのかな(作者注 2005年、生田原町は結果的に遠軽町に吸収合併されるので、ある意味先祖返りしたと言えますが)? 明治32年……、西暦で言うとおそらく1899年のことだったはずですよ。曽祖父があの一帯の山を所有し始めたのが明治40年の前と聞いています。常紋トンネルの工事が始まったのが大正元年。祖父もトンネル工事を請け負った連中にあの土地の一部を貸したことを後に後悔していたという話です。本当に酷い工事だったそうでね……。祖父は当時既に20前後ですが、飯場から逃げ出して来たタコ部屋労働者なんかを逃したこともあったようです。それでありながら土地を貸したままだったということが、決定権が曽祖父にあったとしても、生涯自責の念に駆られる原因だったんでしょうねえ……」
寺川は今までと違い、訥々(とつとつ)と喋った。西田もその雰囲気に飲まれたか、すぐには言葉が出なかった。だがやっとの思いで、
「とにかく、当時の事情についてはよくわかりました。もし、父上がその時生田原に居たら、違った展開になったかもしれませんが、今となっては仕方ないでしょう。まあ当時としても時効の壁があったので、警察としての仕事にはならなかったとは思います。だから大きな問題にはなりませんので、気にしないでください」
と告げた。
その時、
「遅れてスマン!」
という大声と共に、男が2人室内にドカドカと上がり込んできた。年配が横山、やや若い方が迎えに行った後輩の内田だとすぐにわかった。若いと言っても50代前半から60代前半程度には見えたが。年配の方は年齢の割にかなり身長が高いように見えた。少なくとも173センチの西田より高いのではないかと感じた。
「刑事さん達が既にお越しになってるぞ」
寺川の言葉に、
「ああ、見りゃわかるよ、大ちゃん! しかし15分遅刻か……。申し訳ない」
と言ったが、大して悪びれている様子には見えなかった。
「あ、こいつ俺の営林署時代の後輩の内田。俺一人じゃ厳しいからこいつも連れてくんで。刑事さん達も構わないべや?」
横山は刑事3人に簡単に事情を説明し、許可を求めた。
「それはもう、全く問題ないですよ。とにかく本日はよろしくお願いします。私が遠軽署刑事課長の沢井、こちらが西田、こちらは……」
「いや、知ってる。駐在さんでしょ。うちの町で世話になってるからね」
横山は沢井の話を遮ると、笑顔を丸山に向けた。
「で、どうする? 俺達はもういいけど、みんなは準備出来てるのかな?」
「一平ちゃんよ。刑事さん方は今まで待ってたんだから、お茶ぐらいゆっくり飲ませてあげないと」
寺川は呆れ気味だったが、
「いや、まさに待ってたんですから、そちらが準備万端なら、すぐに出かけるのは望むところです」
と沢井は立ち上がった。
「大ちゃんよ、ほら、大丈夫だったべ?」
横山は得意げな顔をすると、内田を連れて先に玄関に向かった。5人もその後にゆっくりと付いて行った。
玄関を出て全員が揃ったところで、
「ところで、和尚は自分の車で行くんですか? それとも俺らのに乗りますか?」
と横山が聞いた。
「自分の車で行くつもりですが?」
と松野住職は自分の軽の四駆を指した。
「ちょっと待って下さい。既に警察の車両が3台行ってるはずですから、ここから更に警察で2台、そちらで2台の合計7台となると、駐車スペース的に厳しいかもしれないですね」
西田は現場手前の駐車出来る場所の広さを気にした。
「そうですか……。じゃあ私は誰かの車に乗せてもらった方が良さそうです」
「我々の車両に乗ったらいかがでしょう?」
沢井が会話に入った。
「西田が住職に聴きたいことがあったらしいんで、こちらとしても都合が良いですし」
確かに西田としても、現地まで行く間に、松野に色々聞ければ時間の節約にもなる。
「わかりました。じゃあ警察の方の車に乗らせていただきます」
「じゃあこちらへ」
西田は住職を自分の車の後部座席に案内した。
「それじゃあ私が先導しますんで。沢井課長達が殿でお願いします」
丸山はそう言うと自分のパトカーに乗り込みエンジンを掛けた。それを見た西田が運転席に乗り込もうとすると、沢井が手で制した。
「おまえは後部座席で住職に話聞いてろ。運転は俺がするから」
「否、それはさすがに課長に運転させるのは申し訳ない」
恐縮する部下だったが、
「いいから。後ろに居れば、当時の資料を見せたりすることも出来るんだからそうしろ」
沢井の言ったことは、上司からの単なる好意というだけでなく、理に適っていたので、西田は結局その申し出を受け入れることにした。
その後すぐに、丸山の四駆パトカーを先頭にして、横山と寺川、内田の3人が乗った四駆、沢井、西田と松野住職が乗った覆面パトカーの3台はゆっくりと横山の家を後にし、常紋トンネルを目指した。何時もの如く空いた国道を、一旦生田原市街に向かい、そこから山道を折り返す形で現場に向かうことになる。
※※※※※※※
「ところで、西田さんでしたか、何か私にお聞きになりたいことがあるようですが?」
出発してからしばらく立つと、松野が西田に話し掛けてきた。タイミングを窺っていた西田は相手からのアプローチを機に話し始めた。
「そうでした。じゃあお言葉に甘えて早速……」
西田はそう言うと、カバンの中から慰霊式典の出席リストの冊子を取り出した。
「今回、松野住職が供養する慰霊碑と納骨された石棺ですが、この昭和52年に国鉄職員を中心にして行われた、タコ部屋労働犠牲者の遺骨収集で集められたものを納骨したんですよね? そしてここに載っている、当時の弘安寺の「岡田 総信」住職と僧侶の「岡田 興隆」、多分この岡田興隆という方は、名前から察するに、今遠軽にある弘恩寺の住職をしている方だと思いますが、この時はこのお二人で供養したということですよね?」
しばらく西田から差し出された冊子を松野は熟読していたが、
「ええ、その通りでしょう。私もそう聞いて供養について引き継いでますから。それから興隆が今、弘恩寺の住職だということも事実です」
と答えた。
「失礼ですが、松野住職とこの岡田さんとはどういうご関係なんでしょう? また、ここに載っている両方の岡田さんは親子関係のように思えるんですよねえ」
「えーっとですね、岡田 興隆と岡田 総信は甥と叔父の関係なんです」
西田は思わず、
「あ、そうだったんですか」
と口にした。
「ええ。そしてその興隆と私が、たまたま得度のために修行に行った山形県の仙龍寺で同期だったんです」
そう言うと、松野はしばらく外の過ぎ去る光景へと目線をやった。そして、
「私は僧職とは無関係の、東京の一般家庭に生まれましたが、大学卒業後就職したものの、どうも企業利益追求と人間関係の疲れから、サラリーマンという生き方に疑問を持ってしまいましてね……。迷った挙句、社会人になってから3年目に出家という形になったのです。そこで仏門に入ったのが仙龍寺ということだったんですよ。彼は大学卒業後すぐに仏門に入ったので、私の方が3つ上ですが、僧職としては同期ということになります」
と己の人生について語り始めた。松野が立派な僧侶だという評判が立つのも、「なんとなく継いだ」からではなく、自分の真摯な意志によるものだと考えれば、腑に落ちるものがあった。
「それで弘安寺の岡田住職夫妻にはお子さんがいらっしゃらなかったので、住職が亡くなった後は、甥の興隆がしばらく住職として1人で継いでいたんです。ただ彼の実家である、遠軽の弘恩寺……、実は生田原の弘安寺は本寺院である遠軽の弘恩寺から昔分院した寺なんですが、弘恩寺の住職であった彼の父上が今度は亡くなり、彼が継ぐ必要が出て来たのです。そこで知り合いの私にお鉢が回ってきたということですね。先程も言ったように、一般家庭の出身でして、継ぐべき寺もなく、単に住職が居る寺に雇われという形で勤めていたわけですから、『それならば住職として生田原に住んでみては?』と連絡を受けまして、お引き受けしたという次第です」
「そういうことだったんですか。よくわかりました。ということは、松野住職より、遠軽の岡田住職に聞いた方が、やはり当時のことはわかるんでしょうね」
「断定は出来ませんが、この慰霊式にも本人が出席しているようですから、その通りなのではないでしょうか」
「やはりそうなりますよね」
西田は松野の話を聞いて、先日考えたように、やはり岡田住職に話を一度聞く必要があると再確認した。
「他に私に聞きたい話はありませんか?」
そう言われて、西田はさっき寺川に聞いた事件で、3人の遺体が結局弘安寺に無縁仏として安置されたことを聞かなくてはと思った。
「さっき寺川さんに聞いていた話と関連するんですが、その昭和52年に見つかった3人の遺骨が、結局は荼毘に付されて、弘安寺に無縁仏として預けられたという話を聞いています。住職はご存知ですか?」
「いえ、それについては初耳です。寺にも遺骨はないはずですね。あったら当然知っています」
松野は、彼にしては語気を強めた。いい加減な供養はしていないという自負からだろう。
「そうですか。そうなると、これも当時を知っている弘恩寺の岡田住職に聞いた方がいいですね」
という西田の発言に、松野住職は
「そう思いますよ」
と同意し、静かに目を閉じた。
丸山に先導された「一団」は、一旦は北へ向かった生田原市街から、今度は逆に元来た方向に山道を進むことになった。しばらく未舗装の道路を走ると、いつもの駐車スペースのある「広場」に着いた。既に竹下、小村、吉村、澤田、黒須、大場達を乗せてきた車2台と、鑑識の2人を乗せてきたバンの合計3台がそこに駐めてあった。4台ではなく3台で来たのは、スペースの空き具合から見て、間違いなく正解だったと西田は改めて思った。既に8人は現場に向かっていたので、そこには誰も居なかった。
「現場100回って格言があるが、10回未満でも随分来てるように思うよなあ」
車を先に降りた課長が独り言のように言った。確かに何度も来ているような錯覚に西田も陥っていた。そして、横山と内田がチェンソーなどの伐採装備と猟銃を車から下ろしていたのを、丸山と共に課長と西田は手伝った。その後7人は70近い年配2人のペースに合わせながら、現場の山道を辿った。
密集した山林を通り抜け線路脇に出ると、後は遠軽方向に再び戻る形で、線路脇の草地とまばらな林を通る。すぐに先に着いた竹下達と鑑識の松沢主任、三浦の姿が見えてきた。沢井が、
「待たせたな!」
と先に呼びかけた。
「お疲れ様です」
誰彼となく上司と「お客さん」に挨拶した。また、横山は荷物を置くと、
「さて、どこをどう切るか指示してくれ」
と切り出した。
「寺川さんには、まずどの白樺を切るか、こちらから説明してからの方がいいですよね?」
と課長は確認した。
「そうですね。その上で一平ちゃん達に切ってもらいましょう。切り倒す時に邪魔になる木なんかも先に切らないといけないから、そういう見立ても必要ですし」
「わかりました。じゃあ説明させていただきます」
そう言うと、課長は寺川と横山を連れて、切る木を一本ずつ教え始めた。それを見ていた西田に松野が、
「すみません。私はまず慰霊碑に供養の読経をあげたいのですが……。よろしいですか?」
と聞いてきた。
「ああ、どうぞどうぞ。ご自由になさってください。米田青年が埋められていた場所は、その後で教えますから」
と笑顔で答えた。松野はそれを聞くと、ゆっくりと西田と沢井が名付けた「辺境の墓標」の方へ歩を進めた。西田は住職の動きを見ながら、内田に話しかけた。
「やっぱり出ますかね?」
「ヒグマ? まあ出ないとは思うが、動物のやることは所詮人間には読めないべや」
内田は一服しながら言い捨てた。何となく話しづらい空気を感じたので、西田はそれ以上会話を続けるのをためらい、部下達の方へ歩み寄った。
「木を切るだけでも意外と時間食いそうですね」
小村が他人事の様に課長達の姿を見ながら呟いた。
「ただ切るだけじゃなくて、他の木に当たらないようにしながらやらないといけないからな。技術が居るから、俺達だけじゃ結局無理だった」
西田は本音を吐露し苦笑いした。
「まあ正直助かりましたよね……」
小村も表情こそお道化つつも、西田の意見に心底同意している様に思えた。
課長から説明を受けた寺川は、横山に二言三言言うと、その後内田を呼んだ。内田は猟銃を急いでケースから出すと、
「刑事さんこれ預かってもらえねえかな? 持ったまま作業する訳にもいかんが、すぐ撃てるようにしておかないと意味がないんで、このまま持っていてくれや」
と西田に頼んだ。西田も断れるはずもなく、両手で受け取ると今度はそのまま丸山に肩に掛けるように指示した。猟銃を扱ったことがなかったので、丸山に厄介払いとして渡したことは否定出来なかった。警官とは言え、猟銃を持つ経験は普通はないので、西田同様丸山も若干腰が引け気味になっているように見えた。
「それじゃあここから作業するから、危ないんで警察の人達はあっちで一塊になって見ててくれ!」
横山は手で避難する方向を指すと、チェンソーのエンジンを掛けた。静かな山林にちょっとした轟音が木霊していた。
先に目当ての白樺を倒すのに、周辺の邪魔な細い木を切った後、1本目に横山のチェンソーの歯が入った。太い白樺と言っても、白樺自体がそれほどの巨木にはならないので、すぐにギリギリのラインまで「くの字」型の切り口が出来上がった。そこに補助の内田が楔を打ち込む。するとミシミシと木から音がし始め、ついには軽い地響きと共に完全に倒れた。すぐに鑑識の松沢主任を先頭にして、木の年輪をチェックする為切り株に駆け寄った。
「特に何か年輪に変化は見られないな。ただ単に年数が経ってるだけだ……。ここに佐田の遺体が埋まっていたことはないだろう」
松沢は年輪の状況を一目見て確認すると、残念そうに言った。「下っ端」の三浦がそれを見ながら、「勉強」も兼ねてノートにメモしていた。そして2本目も同様の作業工程を経て、切り株の年輪をチェックして見るも状況は同じだった。3本目、4本目と横山と内田のコンビが木を切り倒し、それを松沢がチェックするという流れが出来上がっていた。
ただ、木の年輪に相変わらず「異変」は見つからず、刑事達にも年輪から何かを見出すのは無理なのではないかという諦めが、徐々に頭をよぎり始めていた。そもそもが竹下の、良く言えば「大胆な」、悪く言えば「荒唐無稽」な推理から派生した「可能性の追求」であっただけに、そうは上手く行かないだろうという予感、いや悲観も内心は捜査陣にあったことは否定出来なかった。
伐採し始めてから1時間程度で、最後の6本目の太い白樺が倒れた。松沢はゆっくりと切り株に近寄ると、何も言わずに顔の前でバツを両手で作った。課長はそれを見て思わず、
「ダメかあ……。しゃあないな。となると、手当たり次第に別のところを掘るとかしないといかんのか……。こういうことになるんじゃないかとは覚悟していたが、いざそうなるとまさに絶望的だな」
と、如何にも悲壮感あふれる言い方をした。
「さて、これからどうしようか……? 竹下、何か考えは?」
西田も半分途方に暮れていたが、誤魔化すように竹下に振った。現場を洗い直すという方針こそ決まっていたが、実際問題、洗い直しの方法については、喜多川が掘った跡をまずチェックしてみるということしか考えていなかったというか、それ以外については余り考えたくないという意識が根底にあった。そのせいか「前提」が崩れた後のプランは無いに等しかったのだ。
「こうなったら、それほど太くは見えない白樺の根本についても調べていくしかないですかねえ。少なくとも白樺であることを条件に、喜多川が掘り返していたのは間違いないと思いますから。まずは……」
竹下はそうは言ってみたものの、それほど太くない白樺はかなりの本数あるので、かなり時間と労力が掛かる捜索になるのは自明だった。横山と内田を疲れさせる訳にもいくまい。予想が外れたこともあり、がっくりした様子を隠せなくなっていた。すると沢井課長は、
「ああ、もういいや! 横山さんと内田さんもずっと作業しっぱなしだったし、取り敢えず休んでもらうことにしよう。その間に俺たちもこれからについて考えようか」
と、半ばやけくそ気味に一息入れることを決めた。
松野住職は慰霊碑での読経を終え、既に捜査陣の元へ戻って来ていたが、その発言を聞くと、
「じゃあ申し訳ないですが、休んでいる間に、米田という青年が埋められていた箇所を見せていただけますかね? 読経をあげさせてもらいますので」
と西田と沢井に頼んだ。
「そうでしたね。折角来ていただいたんですから。ここからすぐ近くですよ」
と西田は言うと、松野を案内しようとした。すると寺川も、
「そうだ、一平ちゃん! 後でその遺体が埋まっていた木も切ってもらおうかな。やはりそういう木があったままだと、何となく気分が悪いから……。住職さんが読経をあげてから切ってくれ」
と休んでいた横山に言った。
「おう、休んだら切ってやるよ、大ちゃん」
横山は座って一服しながら快諾した。確かに死体から養分を吸い取って成長した木というのは、存在していること自体、余り気分がいいものではないだろう。西田もその感覚はよく理解出来た。
米田が埋まっていた場所の白樺の周りで読経をあげている横で、西田も手を合わせしばし黙祷したが、ずっと松野の読経に付き合うこともなく、仲間がいる方に戻った。課長と竹下はこれからについて、少し離れた所でまだ決めかねているような感じの話をしていた。西田もそれに加わるべきかとも考えたが、この件については自分より竹下の考えの方を優先すべきだろうと思い、敢えてその場で寺川と世間話でもして時間を潰すことにした。
「しかし、すごい広さの山林を所有してらっしゃるんですね」
こう切り出した西田に、
「面積的にはそういうことになるのかなあ。土地自体はこういう場所だから大した額じゃないが、国産木材需要があった頃には、木自体がかなりの資産だったんですよ。残念ながら今となっちゃ、その木材としての価値がガタ落ちだから、二束三文ですがねえ。私自体が継いでないのに文句を言う資格もないが、息子たちもこんな山を相続したところで困るだけでしょう。こっちにある実家も既に解体したし、死ぬ前に色々処分してしまった方がいいのかなあ……」
寺川は住職が読経をあげているのを見ながら発言したが、西田には、彼の視線がそれより遥か遠くに向かっているように何故か思えた。
「全部売っちゃうのかい? そりゃいくらなんでも寂しいべや」
横山が話に割って入った。幼なじみという横山にとって見れば、普段から離れているだけでなく、ある意味完全に生田原と縁が切れることになる寺川の山林処分には、率直に言って賛同できない部分があったのだろう。
「一平ちゃんと俺の縁はそんなんじゃ切れないよ。ただ息子たちにとっては子供の頃にたまに帰省した程度の場所だから。そこに山林持っていても仕方ないというか、場合によっては管理費用すら掛かる。それを考えるとね……」
かなり苦渋の決断を迫られていることが、寺川の口調にも滲み出ていた。
「うーん。生田原も人が減って寂れる一方で、地元の人間としちゃ辛いね。俺の息子と娘も札幌と函館だし、入植したご先祖に申し訳が立たないわ正直」
それを聞いた横山もまた、酷く寂しそうだった。北海道の高齢化する過疎地には顕著な事例だろう。
「林業含め、金や銅なんかも採れたし、戦前はこの町がこうなるとは思わなかったなあ……」
寺川の何気ない一言に、
「そう言えば、生田原にも鴻之舞みたいに大きな金鉱があったという話を以前聞いたことがあります」
と西田は空気も読まずに反応した。
「北ノ王鉱山のことかな? 当時は子供だからよくわからなかったが、日本でも史上有数の金鉱山だったみたいですな。ちょっとしたゴールドラッシュみたいなことがあったんですよ、実際当時の生田原は。今では想像もつかない活況を呈していて、それは私の記憶にも鮮明に残ってます。ただ、戦中には廃鉱になってしまったから、まさに一時のバブルでした」
「だけど『北の王』なんて、あんまりいいセンスの名前じゃないですね」
西田は寺川の発言に対し、地元への配慮の無い率直な感想を述べた。
「大きい鉱山にしたいという願望からじゃないかな? 産業界の北の王者が由来だと言う話もあるけれど。 確かに子供っぽい名前かもしれない」
寺川は至って大人の言動だった。すると、
「でも大ちゃんのこの山でも、ちょっと金が出たんだよな?」
と横山が話題を替えた。
「今でもちゃんと探せば出るんじゃないかな。労力に見合わないが」
苦笑いでそれに応じた寺川。
「ここでも金が出たんですか?」
驚きの声をあげた西田に、
「そう。ここから更に遠軽方向にちょっと向かうと沢があるんだけれど、そこの沢に砂金が出ましてね。勿論、商業ベースになるほどの産出量ではなく、当時は豊富な木材の方が価値がありましたから、うちでどうこうという話にはならなかったんでしょう。それから雑貨屋の商いの方も当時は人が多かったんで儲かったらしいから」
と平然と言った。
「木材にそれだけ価値が合ったと?」
「そうです。木材はこれだけの数量がありましたから。そりゃ金のような単価じゃないけれど……。一方で、その砂金を目当てに住み着いて、砂金掘りしてた山師みたいな人が当時居たのも事実ですよ」
「寺川さんの家では金は採ってなかったけれど、その金を代わりに採っていた人はいたということですか?」
西田は驚いて確認した。
「そうですよ。ひろい山林ですから、管理するのにも結構手間が掛かって……。たまに木材泥棒なんかも出ますし。それで、山林の管理を任せる代わりに、手間賃として沢で砂金掘りをすることを認めるという形ですね。ただ管理人としての賃金よりは遥かに割には合っていたはずです。流れ者みたいな若者が数人常に作業を手伝ってましたんで。幾ら安い賃金と言っても、数人雇えるってことはそれなりに儲からないと無理でしょ? 勿論タコ部屋労働みたいな感じではなかったし。沢の近くに掘っ立て小屋みたいのを建てて、そこに住み着きながらの作業でね……。私なんかもたまに山に遊びに来た時に遊んでもらったりしたけど、みんな元気そうでしたから、ちゃんとモノも食べさせてもらってたはずですよ。それに老人一人が若者数人を無理やり働かせるなんて土台無理でしょ?」
「へえ。それにしても寺川さんところは太っ腹だなあ。私だったら自分で人雇ってでも金を掘りますわ」
西田の金銭感覚では到底わからない理由だった。
「そこは祖父がどう考えていたかは、今となっては私にもわかりません。あくまで私なりの推測ですが、タコ部屋労働なんかに結果的に加担した負い目が、少量の金なら欲張らない方がいいとでも思ったのかもしれないですね。本格的な金脈でもあったなら、そうは言ってられなかったとは思いますがね。さすがにそこまで善人だったとは、身内の私ですら言えない」
名誉教授は苦笑いしたが、本音ではあったろう。
「否、大ちゃんの一方的な思い込みとは言えないべや。北ノ王鉱山に関与した人足派遣業の社長が、昔、常紋のタコ部屋労働に関わっていたんで、祟を恐れて供養したなんて話を俺も聞いたことがある。そういう心境ってのはあったんじゃないべか?(作者注・これについては、実際にそういう逸話が存在しているようです)」
横山も話に割り込んで寺川の説を「援護」した。
「そういうもんですかねえ……」
人生の先輩2人が唱える説は、彼らよりは若く、ある意味ギラギラした欲望も抱える西田には心底納得出来るものではなかったが、反論する意味も特に見いだせず、そのまま受け流すことにした。そして西田は話題を変えようと、
「ところで、戦中に廃鉱になったと言ってましたけど、掘り尽くしたんですか?」
と寺川に尋ねてみた。
「詳しくは知らないが、ピーク時より減っていたことは確からしいですよ。ただ、直接の閉山原因は、1943年の『金鉱山整備令』という法律らしいですね。戦時中になって金よりも石炭や他の鉱物資源が必要になって、金鉱山の設備や人員をそちらに注入する必要が出来たとか(作者注・金鉱山整備令 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%89%B1%E5%B1%B1%E6%95%B4%E5%82%99%E4%BB%A4)」
西田の質問に、さすがインテリという博識ぶりを見せて答えた寺川だったが、金よりも石炭が重要とは、今となっては考えられない価値観が戦時中は平然とまかり通っていたことに西田は改めて驚いた。同時に、当時の一般物資供給が如何に逼迫していたかを痛感させられた。
「寺川さんの山で金を採っていた人達は、そういうことになった後も金を採れたんですか?」
「いや、それがねえ……」
西田の更なる質問に寺川はちょっと詰まった。
「はっきり言っちゃうと、突然行方不明になったらしいってことなんです。事情を順を追って細かく説明しないといけないから、面倒な話かもしれないが良いですか?」
西田はそう聞かれたので、
「ええ。お願いします」
とそれを受け入れた。
「私は昭和2年、西暦で言うと1927年生まれなんだけど、尋常小学校を卒業して、1940年には旭川の旧制中学に入ったんですよ。近い北見じゃなくて旭川にしたのは、父親がレベルの高い方がいいという理由だったけれど。それで、その頃には小学校時代によく遊びに行ってた、その山師の小屋には行けなくなっていましてね。その山師の名前は仙崎 大志郎とか言ったかな……。うちの人間は親しみを込めて『仙人』って呼んでましたよ。私達子供は『仙さん』って呼んでましたね。まあそういう稼業の人だから、50越えて結婚もしてなかったらしく、格好もそんなにちゃんとした人じゃなかったけど、そういう暮らしをしてた割に、人格はかなり温厚でね。生まれは信州だったと言っていたようだけど、出自もはっきりしない人に祖父が土地を貸したのも、そんな人柄を認めたせいかもしれない。使ってた若い流れ者みたいな人達にも、さっきも言ったように優しかった。私が遊びに行くと『坊っちゃん』と呼んで色々構ってくれました。使用人の若い人達も遊んでくれましてね。一平ちゃんなんかも一緒に行ったことがある」
寺川は懐かしい目をしながら思い出を語った。横山もそれに相槌を打ちながら懐かしそうに聞いていた。
「それで中学に通い始めて2年もしなかった頃、確かお盆で帰省していた時だったかな……。仙さん達の所に行ってみようとすると、父親から『仙さん達が神隠しにあったかの如く、突然居なくなってしまった』と聞かされましてね。だから昭和16年、1941年の初夏になるのかな……。金鉱山整備令が出る前のことになりますな。本当に突然のことだったらしいですよ。まあ毎日顔合わせてる訳じゃないから、いつ消えたのかは良くはわからなかったらしいんですが……」
「俺はずっと生田原に居たけど、仙さんが消えたのは大ちゃんの親父さんから聞いて初めて知ったな。さすがに小学出てからは、頻繁に遊びに行くこともなかったから」
横山も補足した。
「そんなに突然消えたのに、放っておいたんですか?」
西田が抱いた疑問も当然だった。
「まあ半分うちが雇ったみたいな人が消えたんだから、そう思うのも不思議ないかもしれないが、『そういう』人たちですからね。ある意味警察なんかに照会すると、かえって彼らにとって厄介なことになりかないという配慮があったんじゃないかと思います。こっちも何か盗られたとかそういう被害は一切はないから、それも放置した理由の1つでしょう」
寺川は歯切れの悪い言い方になっていたが、流れ者的な人の行方不明を警察に報告することは、場合によっては一種の「密告」になりかねないことを、寺川の祖父や父親は考慮したと言いたいのだろう。事実として、タコ部屋労働から逃げた人足・工夫を、警察がむしろ取り締まったことなど、立場が弱い人間にとって必ずしも警察が味方ではなかった時代性を考えれば、そういう発想に至ったとしても不思議ではなかったかもしれない。
「それにね、仙さんは格好はみすぼらしかったかもしれないが、お金はそこそこ持ってたはずですから、突然消えた理由はわからなくても、食うに困ることはないだろうという安心感もあったんじゃないかと」
「やっぱり砂金掘りでそれなりに儲けていた?」
「そうなりますね、西田さん。人を雇える程だったこともあるし、歯も自分の採ったものかは知らないが、金歯が入ってたぐらいですから、貧乏ってことはない。笑うとキラっと光ったのを思い出しますよ」
「金歯?」
西田は「昔話」の中にも重要なキーワードを聞き逃すことはなかった。
「今、金歯と仰いましたよね?」
詰め寄るような西田の突然の「変貌」に寺川はたじろいで一歩下がった。
「え、確かにそう言ったけれども……」
「申し訳ない。年代、年齢や金歯、埋まっていた場所が、おそらくその小屋があった場所と近接していたことから考えて、ひょっとしたらさっき話した事件の遺体の1つが、その仙さんじゃないかと……」
「はい?」
西田の思いがけない一言に寺川は目を丸くした。
「ちょっと待って下さいよ。今、車から当時の捜査資料取ってきます。白骨化した遺体ですが、金歯まで写った写真が載ってるんですよ。金歯の位置なんか覚えてますか?」
「まあ下顎の向かって右側の犬歯辺りだったような……」
「ああ、まさにその辺りだったはずです!」
西田は突然「打開点」を見出したことに、妙にハイになっていた。勿論事件は今となっては解決したところで、おそらく何の意味もないのだが、そういう次元ではなく、難問クイズに正解したような高揚感だったのだろう。
「課長! 車のキー持ってますよね? 貸してください」
竹下と相談中の課長に声を掛けると、すぐに駆け寄り鍵を受け取って、西田は森の小径を「駐車スペース」へと急いだ。
※※※※※※※
往復で10分もしないうちに、西田は息を切らしながらも現場に戻った。既に課長と竹下もこちらに戻っていた。西田が何か嗅ぎつけたと知ったらしい。西田は抱えてきたカバンから捜査資料を取り出し、「甲」の写真の部分を見せる。
「どうですか?」
寺川は渋い表情をしていた。
「ああ、すいません遺体の写真を見るのは気分が悪いでしょう?」
「否そうじゃない。一平ちゃんの家でも言ったが、ヒグマに食い殺された遺体とかの方が余程グロテスクですよ。これは完全に骨になってるし」
寺川は西田の言葉を否定した。
「そういう気分的なものじゃなくて、さすがに白骨になってるから、位置的には合ってるような気がするけれど、生前の仙さんとしゃれこうべのイメージが重ならなくてね……。ただこの服装は汚れているから色具合は違うが、仙さんのイメージと合うなあ」
「ということは、合ってる公算が高いということで?」
「断定するのはどうかと思うけど、仙さんである可能性は高いと思いますよ。金歯2本ってのも記憶と一致する。どうだ一平ちゃんも見てくれ」
写真を横山にも見せると、横山も、
「うん、こんな感じだったと思うな俺も」
と、どこまで本気で言っているのかは不明だが、軽く同調した。
「身長はどれくらいでしたか? 資料によると160ぐらいだったとあります」
「さすがにそれについてははっきりとはわかりません。ただ、12歳当時の自分が150ぐらいでしたから、そのぐらいの身長だったとしてもおかしくはないですね。若干大きかったぐらいだったかと」
「ああ、そんなもんだったはず。俺は今178あって、当時もかなり大きいガキだったけど、俺と同じぐらいの身長だったよ。俺が当時160ちょっと超えてたと思う。俺ぐらいの年で俺ぐらいの身長ある奴は滅多に会わん」
寺川の証言に加え、妙に自慢も入っていたようだったが、横山の意見も当時の情報と一致していた。
「お二人の証言を聞く限りは、遺体の一人の一番年寄りと思われる人物は、仙崎だったと見ていいと思います。しかしそうなると残り2体が誰なのか? それについての何か心当たりは? まずこの写真を見てください。身長は165前後だったようです」
西田は「乙」に当たる若者の遺体の写真を見せた。
「うーん……。どうだろうなあ。話の流れで言うと、これ仙さんの下で働いていた若い衆ってことになるのかな? 服装的にはそんな感じだけど」
「それはさすがにわかりません。ただ、遺体の埋葬の仕方から見て、その仙さんとこの遺体の人物に何か関係性があった確率は高いと思いますね。横に埋められて、供えとして同じタバコが埋葬されていたんですから。時期的にもそう違わない死だったんじゃないかと考えていたようです、当時の捜査員も。そうなると、少なくとも乙が雇われ人だったことも、勿論考慮する必要はあるでしょう。手にしている装飾品から見て、アイヌ人だったのではという話もあったようです」
西田の回答を以って、寺川は自分の記憶を深く辿ろうと努めているように見えた。そして西田はそれを固唾を呑んで見ていた。
「言われてみれば、若い衆の中に、手にこんなのを履いた(作者注・北海道の方言では「手袋を履く」と言う)人がいたような気がするけど、さすがにその人物の名前までは憶えてないというより、知らないなあ。服装自体はみんなこんな格好でしたから、そういう意味じゃその中の一人だった確率は高いかもしれない。常時3から4人程度の若い労働者が居ましたよ、当時は。身長についてはわかりませんね。そこまで印象に残ってませんから。ただ、少なくともアイヌ人が居たことは、私が見た範囲ではなかったね。皆、一般的な日本人、いわゆる和人って奴でしたよ。まあ私がここに来ていない時に、そういう人が居たのかもしれないけれど」
沈黙を破った寺川の一言に、
「本当ですか?」
と口にしたが、寺川はそれに答えるより先に横山に確認した。
「どうだ? 憶えてる?」
横山は写真を見ながら、
「残念だが俺は記憶がないなあ。大ちゃんみたいに記憶力ねえからな」
と自嘲気味に言った。それを受けて、
「そんなとこですよ、残念ながら。私もさすがに仙さんのよりは自信はない」
と言ってから寺川は申し訳無さそうな表情を浮かべた。だが時の流れを思えば、十分有益な証言だった。特に仙崎が雇った若い工夫の中に、手甲をした人物が居たのではないかという点は、かなり重要に思えた。
「ところで、さっきの話にも出したんですが、タバコ……その仙崎とその若者達は、キセルを吸ってませんでしたか?」
西田は重要なことを聞いていなかったのを思い出した。
「はいはい、確かにキセル吸ってましたね。それは確実にそうですよ。ここで砂金を掘っていた人はみんな吸ってました」
寺川は懐かしそうにそれを認めた。
「そうですか。供えられたタバコは刻みタバコと言って、キセルで吸うための奴で、キセル自体も一緒に埋葬されていたんですよ。これです」
西田が資料をめくって見せた。
「ははははは。さすがにこれを見て当時のものと合致してるかどうかはわかりませんよ。そこまで細かくは見ていない。しかし、何度も言うように間違いなくキセルは使ってました」
横山も寺川の隣で頷く。
「じゃあさっきの話と併せて、確実性は増しましたね。金歯の遺体は仙崎だったんでしょう。そして一緒に埋葬されていたのは、当時の雇った若者じゃないかと。ただ問題はもう一体の方なんですよ。こちらは非常に雑に埋葬されてまして……」
西田は別冊の資料を取り出すと、遺体の状況の写真を見せた。
「こちらについては衣服すらないので、さっきの遺体よりわからないと思いますが……。身長は170ぐらいだそうです。それなりに当時は高身長の部類ではないかと」
西田が言い終わる前に、
「さすがにただの骨になってるだけじゃ、私には何とも言えませんよ」
と困ったように寺川は言った。
「でしょうね」
西田はさもありなんと言うように諦め顔になった。
「でも、さっきのと違って確かに適当に埋められたように見えますから、これは仙さんが雇った『仲間』には思えませんね。これこそ常紋トンネルのタコ部屋労働者なんじゃないですか?」
寺川はある意味当然の考えを西田に披露した。
「実はそういう説もあったようです。たまたま2体の埋葬した傍に、タコ部屋労働の犠牲者が埋まっていたという考えですね」
「私もそんな気がしますよ。これはさっきとは全く違う扱われ方ですから」
寺川は「部外者」なりに推理に自信を持っている様子だった。
「そうなりますかねえ……。偶然にしては埋葬場所が近過ぎるような気がしますけど」
素人相手に専門家の意地を見せたかったということもないが、西田は思わず疑問を呈していた。
「この付近は至る所にタコ部屋労働者の遺骸があったと聞いていますから、不思議じゃないですよ、そういう偶然は」
西田とやり取りをした後、寺川は周囲を見渡した。
「そうですか……。でもおかげで3体の内2体についての目星は付きました。ここで砂金を掘っていた連中の可能性が高いということだけでも十分です。そもそもがこれはもう時効なんで、今更捜査する意味もなく、単に私の興味本位でしかないんですよ、これだけ聞いておきながらなんですが」
西田は捜査資料をカバンに仕舞いながら、自分自身に呆れたような口ぶりになった。
「しかし、2人が死に、それを埋めた後、残りの連中は何処に行ってしまったんでしょう。そういう謎が残りますな」
「寺川さん、そこは本当に謎なんです。もしかしたらその連中がこの2人を殺して消えたのかもしれない。そうなると全員が音もなく消えた説明が付きます。ただ、そうなるとここまで丁寧に埋葬したのかという疑問もある。そして最後の一体が一体誰なのか。タコ部屋労働者なのか、はたまた仙崎が雇った人物の中にいたのか、それとも完全に別の人物か……。結局謎は謎のままなんでしょう」
未解決のままこの件が幕引きされることを、西田は受け止めようとしていた。
「やっぱり殺人の可能性があるんですか?」
しかし寺川は、西田の話を受けて興味津々という感じで質問してきて、話を終わらせるつもりは無い様だ。
「写真にあったように、頭部に陥没骨折の後が、仙崎さん以外の後から見せた2体にはあったんで、少なくとも仙崎さんじゃない方は殺された可能性もあります。特に最後のはそうじゃないかと考えてます。ただ仙崎さんについても死因はわからないんで、ひょっとしたら殺されたかもしれません。まあ今のところ自然死、事故死、殺人のどれかは確定的ではないということで。それに明らかに時効になっちゃってるんで、この中に殺人があったとしても大きな意味はないんですよ、刑事事件としては」
率直に西田は答えた。
「そうですか。そうなってくると、純粋にミステリーですな。仕事でやってるあなたにとって見たら失礼かもしれないが、かくいう私もそういうのが好きでね」
「いえいえ。今も言いましたがもう既に時効なんで、私にとっても似たようなもんです。興味本位の部分ですよ。ところで寺川さんは英文学やってたんでしょ? やはりそういうのも海外モノですか?」
今度は西田が寺川の話に興味津津という態度を取った。
「いや、日本のミステリーも好きですよ。アガサ・クリスティとかも見ますが」
「やはり英文で?」
「ええ、そこら辺は本職ですから、原文で読みますね」
多少ではあるが誇らしげに言った。
「さすがですね。まあ名誉教授にまでなった人ですから当然か……」
「ただ、私は会話の方は出来ないこともないが、若干弱いんでね……。今だったら英語の権威としては通用してないかもしれない。勿論ある程度行ったレベルでの弱いという話だけれども。ただねえ、仙さんがここで死んで埋められていたとは、当時露ほども思わなかった……。せめてちゃんとお別れしたかったね……」
寺川は最初は自虐を交えた軽い自慢をしていたが、最後には寂しそうに言った。
ずっと黙ってことの成り行きを見守っていた沢井だったが、
「良かったな。手遅れとは言え、今になって実情が見えてきた。ちょっとスッキリしただろ。仏さんも浮かばれると思う」
と優しく西田に喋りかけてきた。
その時、
「終わりました」
と静かだが響く声がした。米田に読経を上げ終わった松野住職が戻って来たのだ。
「故人も喜んでいると思います」
沢井は感謝の言葉を述べた。
「話を聞く分には、若くしての突然の無念の死でしょうが、安らかに眠っていただければ、私もこの仕事をしている意味も出て来ます」
住職の神妙な言葉を受け西田も、
「それは間違いなく」
と小さく言った。
「さて、じゃあ早速切るべ!」
横山の空気を読まない発言は、その場の雰囲気をあからさまに変えた。しかし西田にとっては、何時までも感傷的な気分に浸っている時間も無く、気持ちを新たにする効果すら与えていた。
「ああ、頼むよ」
寺川に許可の言葉をもらうと、横山は内田を呼びつけ目当ての木に向かった。
「方向的にそっちに倒れる危険があるから、もうちょっと離れてくれ!」
横山の叫びが響き、西田達は10mほど後ずさりした。
「これで大丈夫か?」
寺川の呼びかけに、
「ああ、そこまでは絶対行かない」
と横山は太鼓判を押した。そしてチェンソーのエンジン音が響くと、すぐにキュイーンという、木を歯が回転して切り裂く音に変わった。10秒も経たない内にそれも止み、今度は楔を内田が打ち込むのが見えた。
「倒すぞ!」
横山の声と共に、木の裂けるようなピキピキという音が鳴り、西田達より45度程ずれて、軽いドシンという音と共に白樺は倒れた。
「いやー、お疲れさん」
寺川は横山と内田に声を掛けた。それを合図にしたかのように、鑑識の松沢が沢井に、
「不謹慎かも知れないが、折角だから、米田の遺体を養分にした木がどういう成長をしているか、生きた教科書として皆で見てください!」
と提案した。
「それもそうだな。こういう機会はそうそうない。みんなで松沢にレクチャーしてもらおうか」
沢井もそれに同調すると、戻ってくる横山達とすれ違いながら、倒れた白樺の切り株に向かった。




