表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修正版 辺境の墓標  作者: メガスターダム
名実
152/223

名実75 {103単独}(246~247 本橋の犯行ノート1)

 久保山の横にぴったりと寄り添い、竹下と黒田も文面を眺めていたが、久保山は、読み終わると改めて手紙を2人に渡し、竹下は先に黒田に読ませ、そして最後に読み終えた。


「ちっこいテープ」とは、留守電などに使用されていた、マイクロカセットテープ(作者注・今でも普通に売っているようです)のことだろう。


 「やすの親父」とは、久保山が言うには、本橋が瀧川皇介(本名「木村 康太こうた」)のことを呼ぶ際に、使用していた言葉だという。単に親父と呼ぶこともあったが、瀧川のことを「康の親父」と呼べる構成員は、二次団体の組長クラス、つまり葵一家の組織としてのトップクラスでも限られていたと言うのだから、組長でもない本橋が、その様に瀧川を呼べたというのは、さすがに寵愛されただけのことはある。念の為、竹下がざっとではあるが確認した限り、暗号文の要素は皆無と言えそうだった。久保山も同じ見解だった。


「この手紙の日付は、記憶が正確なら、本橋さんが最後に起こした、神戸の殺人事件の翌々日のはずです」

竹下はそう2人に伝えた。本橋の起こした、佐田実殺害以外の殺人事件は、竹下が記憶していた分には、以下のような概要と時系列だった(作者注・既に過去記述済み)


※※※※※※※


 本橋は、昭和61(1986)年8月に、葵一家を形式上破門された。


◯昭和62(1987)年3月16日月曜

大阪府寝屋川市にて、自宅玄関で38歳の主婦(平田 敏子)が、胸部に銃弾2発を受けて死亡しているのを、帰宅した小学生の次男が発見。当日午後に殺害されたものと見られる。


◯平成元年(1989)年3月17日金曜

東京都品川区にて、有限会社・東央とうおうサービス事務所内で、社長の久富ひさとみ丈人たけと(52歳)が、胸部に銃弾を2発を受けて死亡しているのを、翌日出勤してきた従業員により発見される 他の従業員が全員帰宅した、前日の16日の夜に殺害されたとみられる。


◯平成2年(1990)年8月22日水曜

大阪府箕面市にて、一戸建て自宅のリビングで、会社員の佐々木 孝雄(48歳)・文枝(45歳)夫妻が、孝雄が頭部に1発、文枝が胸部に2発銃弾を受け死亡しているのが発見される。死亡推定時刻から、8月20日の夕方から夜に殺害されたものと見られる。


◯平成3年(1991)年4月20日土曜

兵庫県神戸市兵庫区下祇園町の一戸建て自宅玄関にて、元会社役員の行橋ゆきはし正嗣まさつぐ75歳が、胸部に2発銃弾を受け死亡しているのを、出勤してきたお手伝いさんが発見。前日19日金曜夜に殺害されたものと見られる。



 平成3年(1991)年4月23日、岡山県津山市にて、別件の強盗事件の検問に本橋運転の乗用車が引っ掛かり、社内から拳銃が発見され、銃刀法違反で現行犯逮捕。その後、拳銃の線状痕チェックで、それまでの犯行現場に残っていた銃弾の線状痕と一致。殺人容疑に切り替えて再逮捕されたという流れだった。


 当時表沙汰になっていなかった、佐田実が殺害されたのは、昭和62(1987)年9月26日である。


※※※※※※※


「こんな手紙を、った翌々日にここに入れるぐらいなら、少なくとも最後の(殺人)は何とかならんかったんかい!」

黒田は地面を蹴飛ばして上滑りしたが、竹下にも、その歯痒い思いは痛い程理解できた。


「兄貴は、岡山の津山で捕まったんやったか?」

「ええ、間違いなくそうだったはずです」

確認された竹下は、その答えを正しいと認めた。

「兄貴は、島根の玉造たまつくり温泉(作者注・松江市内にある、平安時代より有名な古泉)に、以前から暇があると出掛けることがあったんや。津山は中国自動車道の通り道やから、多分玉造温泉にいく時に、何かあって下りたんやろうと思う。最後の旅行のつもりやったが、それより前にパクられるチャンスがあったんで、急遽予定変更したんかな?」

久保山はそう推測してみせた。


「玉造温泉は、確かにあいつが好きな場所やったわ……。俺も1度、正月休みにあいつと行ったことが有るわ」

黒田も相槌を打った。


「確か、強盗事件があって、津山市内が検問されていたということですから、ラジオで情報でも仕入れて、チャンスと言ってはなんですが、そういうことをした可能性は、玉造温泉に向かっていたとすれば、あり得なくはないですね」

竹下もその考えに同意した。そして、取り敢えず納骨スペースの蓋を閉じた。


 それにしても、この手紙の文面から察するに、本橋は自ら率先して捕まった(言うまでもなく、自首でも出頭のどちらでもない)当初……、と言うよりは、おそらく椎野から「指令」の手紙が来るまでの死刑判決確定直後、或いは事前に察していたとすれば、椎野が接触して来た段階までは、「復讐」は、ほぼ考えていなかったことが裏付けられた。そして、万が一、事件の事実関係を表沙汰にする場合には、久保山を介して行うつもりだったということになる。


 ところが、大島・瀧川側による隠蔽工作の結果、本橋は最終的に相手をやり込める決意を人知れず固めた。同時に、皮肉にも「部外者」でありながら、捜査をやる気満々の、道警の西田や竹下が介入してきたこと、更に、彼らが事件背景について、ある程度「読んで」いたこともあって、彼らを利用した方が得策と判断。久保山は、あくまでその捜査への協力役というポジションに役割を下げたということなのだろう。


 加えて、事実関係の公表の仕方を間違えれば、箱崎(梅田)派や葵一家の協力者によって、都合よく事実が葬り去られる危険性どころか、公表「工作」に加担してもらう久保山や黒田に、危険が及ぶことを認識していた様だった。


「この後どないすんのや。本格的に雨が降りそうやで」

黒田に指摘されると、

「久保山さんの事務所に戻らせてもらっていいですか?」

と竹下は確認した。


「いや、ワシは構わんが、そこで聞くんか? テープ聞けるラジカセならあったはずや。ただ車ん中でも、ウチ(車)のなら、確か、まだテープも聞けるんは聞けるはずやが……」

「どうでも良い内容なら、車でもいいんですが、ちゃんと落ち着いた所でした方が良いと思うんです。ノートを見ることも含め……。まあ、色々ありますし」

言葉を濁した竹下だったが、運転手の新庄のことだと久保山は察したか、

「ああ、そないなことならしゃあないな。指紋付けるなとか言う兄貴からの指示もあるし、ちゃんと落ち着いてからの方がエエわな」

と、賛意を示した。


「ほな、大阪に戻ろか! 今道具返してくるさかい、先に行っててや」

黒田はそう言うと、手桶などを持って、早足で管理事務所へと早足で向かった。残る2人も、ゆっくりと車の方へと、本橋の置き土産をビニール袋に入れたまま持って歩を進めた。


 竹下は車に乗り込む前に、本橋の手紙の内容と、目当てのモノがあったと西田に電話で報告した。当然、そのことは、さっき言いそびれた瀧川の件も含んでいるので、言い忘れたことは敢えて言及する必要はなかった。少なくとも、本橋が久保山に託した手紙に加え、今発見した手紙を見る分には、本橋と瀧川との重要な会話が入っていると予想されるだけに、案の定、西田はその中身について早く聞きたがった。だが、落ち着いた場所で、念には念を入れて確認すると伝え、西田も渋々了承した。次に掛けるのは、中身を聞いた後だから、おそらく夜になることも告げた。


 それからすぐに、来た時と同様、阪神高速に乗って、ミナミの千田金融へと向かった。3人の間では、行きの時程会話もなく、車窓に流れる風景に目をやるわけでもなく、何となく前を見据えていた。これから、本橋が遺した瀧川との会話だというテープやノートから、一体何がわかるのか、それぞれが思う所があったからだろう。少なくとも竹下はそうだった。


 本橋と瀧川2人の会話上、何か事件に瀧川が関与している決定的な証拠が、間違いなくそこに録音されているはずだと、竹下は考えていた。無論、録音された音声については、相手の瀧川の同意を取っていたとは思えず、刑事事件の裁判上、証拠能力において問題となるケースが稀にある。ただ、警察が双方に無断で録音した場合ならいざ知らず、当事者である本橋による録音の場合、証拠能力は認められるはずだとも確信していた。


 新庄も、3人の微妙な空気を察知して気を遣ったか、行きとは違い、たまに一言二言口を開いたが、久保山が多少相手にするだけで、会話が広がることもなかった。そのうち状況を完全に察したか、新庄も黙ったまま運転に集中するようになっていた。


 そして、神戸の時点でポツポツと降り出していた雨は、大阪に夕方着く頃には、かなりの豪雨になっていた(作者注・当時の気象庁データ上の事実)。


「早目に戻ってきて正解でしたわ」

大阪市内の道路の混雑で、車が余り進まない状況の中、久保山が黒田に話しかけると、

大阪市内こっちまで出て来たのは久しぶりやけど、相変わらずゴチャゴチャ、ギラギラしとるな……。どうも昔から、この街は俺ら河内の田舎モンの性に合わん」

と、自分を卑下しているように見せかけ、内実は、雑多で派手な都会まちなかを腐すような言い方をした。


 そして、渋滞で長らくほぼ停まったままの、ベンツの屋根を叩きつける雨音が、静かな車内に響く中、夕闇に包まれたアスファルトの水面みなもに、大阪中心部の派手なネオンが、黒田の言葉にあらがうかのように色鮮やかに映っていた。


※※※※※※※


 事務所に戻ると、黒田は以前も来たことがあったようで、

「綺麗になっとるやないけ! 前はもっと汚らしい感じやったのに」

と、内部を見回しながら言った。

「あの頃……、もう15年前ぐらいの話やないですか? あの当時、このビルはウチが買い取る前やったはずですわ。丁度、バブルの始まりぐらいやったかな……。あの後改装したんですわ」

久保山が、自分の部屋まで案内してから、昔を振り返るような言い方をすると、

「相当儲かったんやろな。しかし、あんまりアコギな商売したらアカンで」

と、黒田はたしなめるような口調になった。


「それは言わんといてくださいよ。一応合法やから」

久保山は苦笑いした上で、

「ところで、二人共夕飯はウナギでよろしいか? この近くに、上手い鰻屋があるもんで、そこから取ろうと思っとるんですわ。黒田はんは、確かウナギ好きやったでしょ?」

と聞いてきた。

「俺は構わんが、この竹下さんがどうか」

「本来は遠慮すべきところでしょうが、ウナギは結構好きなんで」

竹下も提案をあっさり飲んだ。


「じゃあ、そういうことで、うなぎの特上頼ませてもらいますよって」

そう言って、黒田は電話で注文していた。


 そして、帰路途中の100円ショップで、使い捨てのビニール手袋がたくさん入った箱を購入してきたので、それから3人は1組ずつ取り出してはめた、竹下は、自分で抱えてきたビニール袋から、テープと大学ノートを取り出して、応接セットのテーブルに置いた。久保山も、望洋墓苑からずっと保管していた本橋からの手紙と、ラジカセを部屋の奥から持って来てテーブルに置き、いよいよ、スタンバイOKと言う状況になった。


 ただ、まず先に大学ノートに書かれている内容を把握してからということで、竹下がテープを聞く前に、全体を軽く見てみることにした。そこには、必要・重要事項が、メモ書きと日記の中間のような形で、冒頭からいきなり記載されていた。


※※※※※※※


(作者注・昭和62年は西暦1987年)


S62.2.15

 破門後には、連絡を取っとらんかった親父から、自宅に電話あり。大事な仕事の話があるというので、よくよく聞くと、500万で、チャカでバラ(殺)して欲しい奴が居るという。確かにチャカの扱いには慣れとるとは言え、人に向けて撃ったことはないもんで、それは困ると正直に言うた。だが、相手はヤクザやのうて一般人やから大丈夫とか何とか、訳がわからん。


 そういう問題やないと言ったもんの、以前から、大変世話になった上、シャブ取引で下手打ったこともあって、親父には大きな借りもある。2、3日考えてから返事することにして、一旦切る。


S62.2.17

 色々考えて、この2日余り眠れんかったが、残念ながら、断る選択肢は無いという結論。取り敢えず、承諾したとの電話を掛けることにしたが、色々必要事項等の聞き漏らしがあるとまずいので、会話を録音することにした。電話の録音やと普通のプレイヤーじゃ聞けんから、日本橋(作者注・大阪の電気街)に行って、電話を録音出来るアダプターやら機械やら買うてきた。そして夜に電話。


 バラす相手は、何と寝屋川の主婦やと言う。一体、どないな理由で主婦をらなアカンのかとも思うたが、親父のところにその話が来た理由は、若い時にホステスやったその女に、身ぐるみ剥がされて、最近破産した会社社長が、知り合いである、今は隠居している神田の叔父貴(作者注・つまり瀧川の兄弟分)に、許せんと泣きついてきよったらしい。


 そないな極個人的な話に、わざわざ巻き込まれるのもアホらしかったが、神田の叔父貴が若い頃世話になった人で、何とかしてやりたいと親父から頼まれたらしゃあない。シャブ取引の損失分も返さんとあかんし。とは言え、受諾で喜んでくれたのは良かった。金の受け渡しは色々と面倒そうやが、足がつかんようにするためには、しゃあないか……。


S62.2.20

 早速M堂で10で買って、T骨董で110で換金。チャカは既に自分のを使うことにしたが、しばらく遊びでも撃ってないので、能勢のせ(作者注・大阪府の北端にある町。自然豊かな町である)の山林で試し撃ち。特に問題は無いが、人に向けて撃つとなると、また色々と考えなあかん。


S62.3.3

 この日から、寝屋川に車で出かけ、相手の生活パターンのチェックに入る。一戸建てで、監視は楽や。それにしても、確かに男好きするタイプの女。化粧はそんなに濃くはないが、ただの素人の女とはちゃう。一方、小学生らしい子どもが2人居るようで、その点は今から気が重い。直接恨みがあるわけやなし。


S62.3.10

 相手の生活パターンも大体読めてきた。後はタイミングを見計らって決行するのみ。宅配便を装って至近距離からというパターンが一番安心やろ。両隣と正面は、平日は共に昼間は誰も居なく、その点は気が楽。後は躊躇しないこと。


S62.3.15

 いよいよ、明日決行することにした。親父に連絡もした。後は覚悟を決めるだけ。


S62.3.16

 無事終了。あの時のことはなかったことにするしかないが、一生消えんやろうな……。早速ニュースにもなっとった。そして、深夜に親父から感謝の電話が来て、成功報酬分は1週間以内に用意されるようやった。手付の逆のパターンで換金して、残額の400手に入れる手はず。それを手に入れたら、気分を晴らすために、玉造温泉にでも旅行に行くことにする。


S62.3.20

 親父から、成功報酬分の用意が出来たので、いつでも換金出来ると連絡あり。正直、大きな金額が手に入るというのは助かる。


※※※※※※※


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ