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修正版 辺境の墓標  作者: メガスターダム
鳴動
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鳴動6 (北村のカラオケ趣味 カメラ絡みの情報入手)

 7月7日、遂に北見屯田タイムス購読者・企業等についてのローラー作戦が完了した。この日は北見方面本部からしばらくぶりに、捜査本部長たる大友雄平・北見方面本部刑事部長(あくまで捜査本部上の役職名としての捜査本部長)が来ていた。彼は捜査員全員を本部に集め、捜査員からのこれまでの聞き込みの総点検報告を行わせた。その日ごとに会議において捜査報告はしていた以上、あくまで本部長への直接の報告という面での形式的なものに過ぎなかったが、目新しい成果もなかったため、念のため「復習」しておこうという腹づもりがもあったのだろう。


 一方で、北見方面本部に依頼していた、Nシステムからの捜査アプローチについての状況報告が本部長側からなされた。まず、吉見の遺体が線路脇で発見された6月9日についてのみ、死亡時刻が午前2時以降午前4時以前と推定されていたため、留辺蘂・北見境界付近のNシステム設置箇所を留辺蘂側から北見方面へと通過するとすれば、最速でも30分後の午前2時半という設定をしていた。その上、保線作業員が現場付近に入るのは、通常午前3時半前後だから、少なくともその前には生田原の現場を去っている必要がある。そのため基本的に遅くとも午前4時ぐらいまでにはNシステム設置箇所を通過しただろうというのが初期想定だったらしい。ただ、現場を離れた後、どこかに寄ったなどの可能性がないわけでもないので、結局思い切って午前6時まで範囲を広げたとのこと。それ以上広げると、純粋な北見・留辺蘂間を通勤範囲としている人間もかなり引っかかる可能性があり、収拾がつかないという理由もあった。


 そして、北見方面から現場に向かうパターンは、早くとも現場では日が完全に暮れてからの到着にするのがこれまでの行動から見て常識的であり、且つ現場で穴を掘るという作業をしている点から、それなりの滞在時間が必要という前提があった。というわけで午後6時半以降から午後10時の北見方面から留辺蘂側へと抜ける、設置箇所通過時間帯を考えていた。午後10時というリミットは、人魂として目撃された時は全て、網走発札幌行き上り夜行特急「オホーツク10号」の運転士に目撃されている点を重視したことから考え出された。該当列車の現場付近通過が日付が変わった直後のため、最も早く現場を離れたとしても午前0時半以降であることから見て、作業量から逆算すれば最低でも2時間は滞在しているだろうと思われることからの帰結である。同時に留辺蘂側からの設置箇所通過が、9日以外は午前1時以降ということになる。


 つまり、6月4日から9日までの試験運用(運用期間は10日まで)の間に、北見方向から留辺蘂方向への通過が午後6時半から10時まで、留辺蘂方向から北見方向への通過が午前1時から午前6時まで(9日のみ例外で午前2時半から)の車両をピックアップする作業が行われているという説明だった。言うまでもなく、あくまで、「人魂の主」が北見方面から生田原の現場まで来ているという前提での話であって、Nシステムを通過しないルートや別の方向から来ていれば、この想定は全く意味をなさない。


 そこにローラー作戦による購読個人宅、購読店舗、購読法人に関係するであろう車両の中で、捜査員達が現場にあったタイヤ痕と類似のタイヤ痕を、ナンバーを控えると同時に採取していることから、Nシステム絡みで浮上した車両とそれらにおいて合致しているものがないかの作業が同時進行していることも説明された。


 これらの条件を基本線とすると、まずNシステム試験運用の6月4日から10日の計7日間において、その「網」に複数日引っかかった車両が現時点で7台あるということが報告された。最終的にタイヤ痕と一致するナンバーがどの程度出てくるかはともかく、少なくとも7台以下であることは確実で、数自体はある程度絞られたと言える。


 この説明後、時間的な余裕があったので、大友本部長は倉野事件主任官に命じ、捜査員と質疑応答することにした。それを受け、北見方面本部から応援に来ている何人かの刑事が数人挙手質問し、それに淡々と倉野は答えた。

「ピックアップするのに時間を区切りましたが、これって漏れてる可能性はないんですかね?」

「全くないとは言えないが、余り広げすぎると、結局収拾がつかないのだから、ある程度で区切るのは仕方ないと考えている」

「Nシステムに掛からず、一致したタイヤ痕の車の所有者への捜査はどうします?」

「取り敢えず、ローラー作戦も終わったので、これ以降同時進行で随時行っていく予定だ、次!」

「Nシステム、タイヤ痕の調査が終了した場合、その後の捜査方針は?」

「現時点では白紙だが、それについては明日にでも考えたい。とにかく今は北見方面本部からの調査報告がないと動けないからな。それまでの時間を有効活用する意味でも、それが一番いいと思う。それじゃあ他に質問は?」


 倉野は挙手する人物が居なくなったのを確認して、資料の紙を机の上でトントンと揃えると、ファイルに収納しながら、

「ええっと、じゃあ取り敢えず今日はこれで終了にするか」

と言った。そして席から立ち上がり歩きだそうとした、まさにその時だった。

「事件主任官! すいません」

と、捜査会議終了の発言を受けてざわつき始めた室内に、聞き覚えのある声が響いた。西田が視線をやると、やはり竹下だった。

「どうした?何か問題あるか?」

倉野は身体を出口の方へ向けたまま、顔だけ竹下の方へ横に向けて言った。

「仮にですが……。Nシステムでピックアップした車とローラー作戦で収集したタイヤ痕を持つ車が一致した場合にですね、その後具体的にどういう方向で捜査しますか? いきなり任意で引っぱるか、裏を慎重に取って行くのか。Nシステムに掛からないものの場合には、購読もしくは閲覧歴とタイヤ痕だけで任意は相当無理があるから裏付けは必須ですが、Nシステムに掛かった場合にはそこは微妙ですよね?」

「うーん、それは確定してから決めてもいいんじゃないのか? 否、まあでもある程度決めておく方がいいのか……。実際なかなか難しいところだからな」

倉野はそうブツブツ言うと再び席に座った。他の捜査員達もそれを見て、帰宅しようとしていた足を止め着席する羽目になった。


「不自然な時間帯の車での通行と現場にあったタイヤ痕との一致……。一方でNシステムは現場から数十㎞は離れているのも事実。他にも裏が必要かもしれんな。取り敢えずは持ち主の身辺調査はまずしないとダメだろうが、これは当然の話だから……」

思案顔の倉野を見つつ、大友本部長が、

「というか、人魂の動きを見ると、普通の勤務時間の仕事に就いていたら、ちょっと体力的に厳しいよな、穴掘ってる時間帯考えると」

と付け加えた。実際問題、捜査本部でも「人魂の主」が一般的な社会人かどうかについて、初期捜査段階で疑問が呈されたことがあった。それがローラー作戦実行当初、屯田タイムス購読リストの中にあった、暴力団関係の企業や飲食店を中心に洗った、隠された要因の一つでもあった。勿論基本的には、大学生の米田青年が殺された理由が、何らかの犯罪にたまたま現場付近で巻き込まれた可能性が高いということからだったが。ただその時には成果は出なかったという現実もあった。

「複数人で日ごとにそれぞれ分担していたってのは否定されてましたよね?」

竹下の相棒の向坂も会話に入ってきた。

「それは基本的には否定されてる。現場周辺の下足痕は1つしか見つかってないから。勿論、作業をしていた別人の下足痕が既に消えていたというならありえるが、割と頻繁に出没していたようだから、時間的にその分が完全に現場から消えているとは思えない」

第一次的に捜査に当たった遠軽署の沢井刑事課長が答えた。 

「そうなると、やはり幽霊単独でずっと遺体を探していたということですから、無職の可能性が高いんでしょう。夜の仕事だとすれば時間的にバッティングしますから、それはそもそも無理がある」

向坂はシンプルに結論付けた。

「それについてはもう既に何度か話してきたし、余りこだわっても仕方ないだろ」

倉野が少々苛ついたような口ぶりで返した。確かにそのことは「人魂の主」の特定に役に立たないとは言わないが、対象を絞る条件としては大雑把過ぎて、無意味なものとして扱われていた。

「とにかく、Nシステムから何か掴めたら、まずは裏付けして、引っ張れると思えば任意で引っ張る! 当たり前だがこれでいい。細かいことは明日に回そう。取り敢えずこれで決まりだ! よし解散だ解散!」

倉野は自分に言い聞かせる部分もあったかのようにそうキッパリ言うと、勢いよく立ちあがった。今度こそ本当に会議が終了したとの確信を得た他の捜査員達も、ガヤガヤと帰宅の準備を始めた。そのざわめきの中、西田は竹下の元へと駆け寄って、

「おまえなんであそこまで『その後』にこだわった?」

と尋ねた。

「いやね、係長。現実問題としてNシステムと採ってきたタイヤ痕の一致だけじゃ現実引っ張るには結構厳しいところありますよね? 勿論こっちで調べたタイムスの購読者層に該当するということを含めても。任意で引っぱってこれるなら、そこから靴やら車の中の土なんかの分析で、『現場に居た』という裏付けもいけるかもしれませんが、本当に人魂野郎と一致しているなら、その任意に応じるとは思えない。もうワンパンチ欲しい」

「そこは俺達の腕の見せ所だろ?やりようはある」

西田は竹下の問いにそう言った。

「まあそれはそうなんですが。あんまりやり過ぎてもあれですし……。捜査本部として期待している割に、まともなら結局は打開できないような気がしたんで……」

竹下は歯切れが悪そうに言った。その「やりよう」こそが竹下が問題視している核の部分なのだろう。具体的には別件逮捕絡みと思われる。

様子をうかがっていた向坂が、二人のやや悪い空気を察して割って入ってきた。

「まあまあお二人さんよ。まだNシステムで何かわかったってわけじゃないし、何にもわからないかもしれない。倉野さんじゃないが、今から余り難しく考えても仕方ない」

そう言うと、竹下の肩を軽く叩いた。西田も遠軽署に勤務し始めてから数ヶ月だが、竹下が警察にありがちな強引な捜査手法については、批判的な立場であることをしばしば彼の口から直接耳にしていたため、それ以上何か言うと言い争いになるような気がしたので、ひとまず引き下がることにした。


※※※※※※※


 翌日は朝から捜査会議の続きが行われた。昨日倉野が言っていたように、これから先の捜査方針についてだった。これまでに、何故遺体が掘り起こされる必要があったかという点を考慮し、常紋トンネル調査会の再調査を発端とした可能性を調べてきた。それがひとまず終わったことで、最終的に結果が出なかった場合に、これからどうするかがカギだった。他にも遺体の回収を図る理由があったかについて、捜査員達に意見を求めた倉野であったが、明快な理由となるべき意見はなかなか出なかった。確かに、現場付近の大規模な遺骨収集を無事に切り抜けたいという以上の動機はそうそう思い浮かばなかった。なにしろ3年間、ものの見事に隠蔽しきっていた事件を、今更苦労してまで「ほじくり返す」理由はそうそう見当たらないからだ。捜査本部の室内が澱んだ空気になったのは、タバコの煙が充満したというだけではなかっただろう。


 そんな雰囲気の中、突如FAXがジジジと機械音を響かせた。その紙を槇田署長から受け取った倉野事件主任官は、しばらく険しい表情でそれを見ていたが、

「よしっ!」

と一言呟くと、

「北見(方面本部)からの速報だが、Nシステムとローラー作戦で採取したタイヤ痕の中に、時間帯含め一致するナンバーがあったようだ」

と刑事達に告げた。捜査員達は一様に

「おおっ」

と軽くどよめいた。その反応を確かめるように一呼吸置くと、

「向坂、竹下! 君らが採ってきたタイヤ痕らしいぞ」

と倉野は続けて言い、紙をもう一度確認した。そして、

「7月1日に、伊坂組の駐車場で採ってきたものだと言って来てるが?」

と付け加えた。

「はい、記憶にあります。確かに伊坂組で何台か分採取しました」

と向坂が答えた。

「そうか。ひとまずよくやった。で、対象名はえっと……。北見在住で52歳の喜多川友之という人物らしい」

と言い出した。それを聞いた向坂と竹下は顔を見合わせるや否や、

「ええっ?」

と驚きの声を上げた。

「うん? どうした? もしかして対象と面識があるのか?」

倉野は訝しげに確認してきた。

「ええ。伊坂組に聞き込みに入った際、私たちと対面したのがその喜多川本人ですよ!」

と竹下が答えてみせた。

「本当か? まさかいきなり本人と会っていたとはな……。で、どうだった?」

思わぬ回答に倉野は前のめりの姿勢を隠さなかった。

「いや、特に何かおかしいという印象は受けませんでしたが……」

と竹下は言いかけたが、

「向坂さんは、ちょっとおかしなイメージを持ったらしい、ですよね?」

と横の向坂に問い掛けた。それを受けて向坂は、

「まあ大したことじゃないんですが、あの段階でわざわざ重役専務の喜多川が応対したんで、ちょっと違和感がありましてね」

と言った。

「違和感? 具体的には何だ?」

倉野は、焦った様に更に聞き出そうとした。

「いや、本当に大したことはないんですよ。ただあの時点では、今回の遺体発見の件で屯田タイムスを購読している会社に、どれぐらいの人間が見ているか聞きに行っただけなのに、いきなり重役の専務が出て来たんで……。普通だったら平社員とは言わないまでも、課長だの部長だののレベルでしょう? 一応デカイ会社なんですから」

「向坂、それはむしろ喜多川本人が今回の件と関わっていたとすれば、警察の様子を直接様子見するためということで説明が付くかもしれないだろ?」

「事件主任官の仰る通り、そうかもしれませんし、その方が理屈としては合うかもしれません。しかし、私達が彼に聞き込んだ時点で思ったのは、喜多川本人どうこうより、あの会社の先代の社長には以前嫌疑が掛けられたことがありまして……」

と、竹下にも話したことがある、伊坂組の先代の社長と訪ねてきた佐田の行方不明事件について、向坂は説明し始めた。


 その説明をしばらく聞いていた倉野は、

「その事件との絡みで、お前達の聞き込みの理由はそれと別にせよ、取り敢えず様子を腹心の部下に探らせたのではないかと、当時そう考えたと言いたいんだな?」

と、そう向坂に確認した。

「そうです。実際に喜多川本人も、事実かどうかはともかく、自分が応対することになったのは、社長と相談して決めたことだとは言っていました」

「まあ、確かにその行方不明事件も気にならないとは言わないし興味深い話だが、現実に今俺達が向き合ってる事件は、吉見の不審死と米田の殺人・死体遺棄事件なわけだから、まずはそっちから攻めていかないとな。現にその喜多川は、これによって事件の重要参考人レベルまで浮かび上がってきたんだから、それだけ考えて欲しい。そっちの話は取り敢えず忘れてくれ!」

倉野はそう言うと、事件の概要が書かれたホワイトボードの前に立った。


 そして、喜多川友之の名を新たにボードに記入すると、

「それでだが、改めて聞くぞ向坂、竹下。会ってみて、この人物はどういう感じだった?」

と尋ねてきた。

「まあ至って普通の50代前後の男でしたね。その時点では、本人から受けた印象だけなら何か怪しいという感じは受けませんでした。それなりに落ち着いてました」

と向坂は証言した。竹下もそれに頷いた。

「今回の事件について、何か詳しく聞き出そうとか、警察の動きを探っているとか、そういうことはなかったか?」

倉野の問いに、

「言動にそういう点は見られなかったですが、さっき話した失踪事件含め、実際にどうだったかまではわかりません。ある程度捜査の進展をこちらの動きから見極めるぐらいの思惑はあったという見方は当然出来ますし。どちらにせよ、対応した際にはかなり落ち着いていましたね。喜多川が実際に今回の事件に関与しているとすれば、あの程度で自分が割られる心配はないと自負してたんじゃないでしょうか? 実際問題、タイヤ痕の一致に、Nシステムの情報を加味して初めてこの程度ですから」

と竹下が答えた。

「わかった。その時には、何か喜多川が事件に関係しているようなフシは見られなかったと……」

倉野はそう言いながら、再びFAXの紙面に目をやると、

「例の日だが、6月8日。喜多川の車はNシステムを午後7時に北見から留辺蘂方向に通過し、9日の午前3時に留辺蘂方向から北見へ向かって抜けているようだな。他の日だが、5日は午後6時40分に留辺蘂方向、そして6日の午前4時に北見方向……。7日の午後6時48分に留辺蘂方向、8日の午前3時48分に北見方向と通ってるのが確認されてる」

と言った。

「まともに働いていたら、これ寝てないですよね?」

と吉村が疑問を口にした。事実、捜査本部でも、「人魂の主」の一連の動きは、一般的な会社員だとすればキツイスケジュールだと思っていたことは言うまでもない。

「そこら辺が気になるところだな。4日と6日は今わかる範囲では現場に向かっていないようだから、さすがに毎日というわけでもなかったと推測されるが、人魂騒ぎが比較的頻繁に起こっていたことを考えると、ある程度の頻度では現場で作業していたと考えるべきだろう。そうなるとかなり睡眠不足だった可能性がある……」

「車を喜多川以外の人間が運転していた可能性はどうですかね?」

倉野の発言に沢井が口を挟んだ。

「当然それについても考慮する必要はある。とにかく、どういう勤務をしていたかってのを裏取りする必要がありそうだ。あとこいつの家族構成なんかも調べた方が良いな。本人以外の人間が車を運転していたと仮定するとだ」

倉野はそう言うと、一度自分の席に着き、

「まあ他のタイヤ痕についての結果なんかもあるし、北見方面からの正式結果を受けてからじゃないと具体的には動けないが、喜多川を中心にして調べていくのがこれからのメインの捜査になるのは間違いない。そこを中心にして話を進めよう」

と、捜査員達を見回しながら言った。

「あんまり聞き込みを周囲でやりすぎると、本人に勘づかれる可能性が高いですが?」

今度は西田が倉野に質問した。

「問題はそこだ。ある程度固めておく必要がある一方で、出来れば早い段階で引っぱりたいところだが……」

「任意で引っぱれますかね?」

「西田、それはちょっと厳しいだろ? あ、これって昨日竹下と最後に話したことの繰り返しだな。でも細かいことは今日話すことになってたんだから、丁度良いか」

倉野は昨日の経緯いきさつを思い出すと、そう言って笑った。

「任意で引っぱるとしても、Nシステムの通過ポイントが現場とかなり離れてますから、それだけだと誤魔化されやすいので、厳しいのは事実だと思います。タイヤ痕も、同じタイヤ履いてる車なんてこの地域にたくさんあるはずですから……」

西田は半ば諦め気味に発言していた。それを受けて、

「そうなるとやっぱり別件を考えないといけないか」

倉野の口からついに別件逮捕の言葉が出た。

「カメラの窃盗の件でなんとかなりませんか? 事件に関わっているとすれば、吉見のカメラもそいつに盗られたと見て良いと思いますが?」

黒須が、吉見から奪われたカメラの件を口にした。

「カメラ? なんだっけそれ?」

倉野が沢井に聞いた。

「事件の発端である、死亡した吉見から奪われたカメラです」

と沢井が答えた。

「ああ、スマン。うっかりしてた。その件な。それについてはどうなってるんだ? 何も情報は出てきてないんだよな、沢井?」

「出て来てません。未だに不明のままです」

「じゃあそっちも引っぱるには、現段階では無理がある」

そう言うと、倉野は思案顔になった。その様子を見ていた副本部長である槇田署長は、

「北見にマークさせたらどうだろう?」

と提案した。

「つまり北見方面本部に喜多川を付けさせて、何か犯罪事案がないか探らせ、その時点で別件ってことですか?」

と、倉野は聞き返した。

「そうだ。北見署でも北見方面本部でも使えるものは、何でも使えばいいんじゃないか?」

「結局そうした方がいいんですかね……。ところで、そうなるとだが機捜(機動捜査隊)は使える状況だよな?」

北見方面本部から応援に来ている比留間管理官に確認する倉野。

「当然大丈夫だと思いますよ。一応今確認はしておきます」

比留間は答えた。

「よろしく頼む。出来れば早い段階で喜多川をマークするように言ってくれ」

倉野はそう伝えると、

捜査本部うちも本来ならすぐ動きたいところだが、本格的に動くのは、タイヤ痕も含めた情報が一応出揃ってからの方がいいだろう。明日の午後には全部わかるだろうし。あと、基本的に喜多川の身辺調査は、今回お手柄だった向坂と竹下を中心にして行くのが本来だが、既に面識があるとなるとちょっと面倒だな……。余り表には立たない方が良いと思うが、不満か?」

と二人に尋ねた。

「いえ、それは当然のことだと思います」

向坂は即答した。


※※※※※※※


 7月8日、向坂と竹下は北見方面本部刑事部捜査一課の室内に居た。当初の予定では、タイヤ痕についての鑑定が科捜研から全部出た後動く予定だったが、喜多川についての捜査は早めに動いたほうが良いだろうと大友本部長から直接指示が出た。そのため、情報が出た翌日には北見方面本部からの応援組を中心に喜多川の身辺調査が開始されたのだ。一方で竹下以外の遠軽署の捜査員は、喜多川以外の一致したタイヤ痕の車両所有者について捜査をすることになっていた。


 向坂と竹下が今回北見方面本部を訪問していた理由は、昨日の会議で出た機動捜査隊、通称「機捜」に捜査応援した件での打ち合わせのためだった。二人の横には比留間管理官も座っていた。それもあってか機捜の係長、つまり機捜隊長の横山は二人を快く迎えてくれた。


「比留間管理官、で具体的にうちはどうしたらいいんですかね? ただ単に「対象」の車をマークしていればいいんですか?」

横山は比留間にお伺いを立てた。

「現時点では基本的にはそれだ。ただ、もし何か犯罪案件で対象を引っ張れるようなことに遭遇したら、すぐに引っ張ってくれ」

「ということは別件でいいんですね?」

「構わない。そうしてくれ」

比留間は無機質に返した。

「ただ、本件事案と関係あるような行動の前に別件の犯罪があった場合、動かない方が良いケースもあるかと思いますが……」

「ちょっと意味がわからない」

「すいません。要は例えばですね、何か重要な証拠物件を廃棄しようとして、車で移動しているように見える時、その前に過度なスピード違反等があった場合などです。廃棄時点で抑えた方が、捜査上は有利でしょう。」

「ああ、そこら辺は担当刑事の勘にも左右されるからな……。俺が一律にどうこう言っても仕方ないだろう。そこら辺は横山のところに任せるよ。ただ、その例えのケースなら車の中を任意か、拒否されれば令状で調べりゃ良いんだから。裁判所の連中なんてこっちの思うままだ。令状はすぐに出るさ」

比留間は、例えが不適切だと言わんばかりに投げやりに答えると、ソファーに深く座り直した。

「また微罪逮捕か……」

一方の竹下は、本件のための別件微罪逮捕は、邪道が過ぎるとしてあまり賛同していない立場なので、内心うんざりしていたが、表面上はそれを出さない様に努めた。


「それで、向坂と竹下! 喜多川について会った印象を横山に伝えておいてくれ。紙の情報だけじゃなく、実際に会った印象も大切だから。そのために呼んだわけだし」

比留間は再び上半身を前に起こすと、二人に発言を促した。

「じゃあ遠慮せず。そうですねえ。昨日捜査本部でも言いましたが、至って普通の50代の会社員、まあ正確に言うなら会社役員ですが、そんな印象です。建設会社ですから、ヤクザ的な連中のいる場合もありますが、そういう感じはしませんでしたね。気の良い中年というイメージです。見ただけでは犯罪と関わりあるようには見えませんね」

向坂はそう横山に告げた。

「なるほど、そうか……。確かに、こっちの調べでも前歴というべきものはなかったな。何度かスピード違反での切符とか、一度だが酒気帯び運転もしているようだが」

横山は机に置いてあった喜多川についての調査書を読み直してそう言った。

「酒気帯び?」

比留間はさっきより前のめりになって聞き直してきた。

「ええ、5年前でしたか、酒気帯びで点数くらってますね」

「酒気帯びじゃなくて、酒酔いなら別件逮捕としては丁度いいんだが……。どっちにしても一度だけしかないんじゃ、常習と違ってそうそう捕まえられんか」

そう言うと、残念そうに舌打ちした。

「管理官、とにかく刑事部長直々の要請ですから、我々も気合入れてマークさせて貰いますよ。ご心配なく」

横山は敢えて表情を変えずに返したが、

「後は特に立ち寄った箇所の徹底した記録もお願いします」

と竹下が言うや否や、

「勿論わかってる。そこはうちの優秀な捜査員を信頼して欲しい」

と、部外者相手に、言葉尻以上に荒っぽい口調をそのまま強く出して言った。


※※※※※※※


 機捜隊との打ち合わせを終えると、その後二人は北見方面本部にそのまま残った比留間管理官とは別れ、その足で北見署に向かった。捜査会議で決まったように、二人は以前直接喜多川と会っていることもあり、面が割れているので、伊坂組とのコンタクトはできるだけ回避する必要があった。そもそも事件について、刑事が執拗に動いていることが喜多川周辺に知れること自体避けることが重要だ。刑事より所轄の警官を利用するなど、捜査本部の竹下達以外の刑事や警官も黒子として動く、ワンクッション置く捜査手法を導入する必要があった。


 二人は喜多川の同居している家族を中心に調べる担当になったので、まず所轄の北見署で家族についての情報を得るため、地域住民の情報を持っている生活安全課にて話を聞くことにした。向坂が北見署所属の刑事ということもあり、和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気の中、情報を得ることが可能だった。


 同居しているのは、妻・加奈子46歳、長女で北見市内でOLをしている美和子22歳、長男で北見市内の高校3年生の弘之17歳の3人とのこと。加奈子と美和子は免許を持っているが、女性ということで「人魂本体」の可能性は低いと思われた。弘之は免許を持てる年齢ではない。無免許運転という可能性も完全否定は出来ないものの、まずないと思われた。ただ、最近の3人の生活状況については念のため調査しておくべきと考え、生安課に改めて協力を依頼した。こちらも直接刑事が動くとなると、本人にもバレる可能性が出てくるからだ。


 生安課は加奈子については、近隣住民や加奈子自身に「不審者情報が出た」との理由で接触を図るつもりのようだ。一方、美和子・弘之については、勤務先と学校に所属全員分の出欠状況を、架空の事件のアリバイ要求と絡めて、上手く誤魔化し入手することを計画していると二人に告げた。


 また喜多川と同居していない近親者、友人などについての調査も同時に行うこととされたが、こちらについては、かなり周辺に踏み込まないと出てこない情報のため、バレないように調べるには1週間程度時間が掛かるかもしれないと生安課の担当者は言った。


 向坂と竹下も、機捜隊は勿論、北見署生安課の対応策を直接聞き、ひとまず納得できるレベルだったため、満足した上で他の捜査本部の刑事と合流後遠軽署に帰還した。


※※※※※※※


 喜多川の周辺捜査を始めて3日も経つと、それなりに情報が集まり始めていた。7月11日の捜査会議では以下の報告が捜査員からなされ、同時に機捜隊、北見署からの情報も読み上げられた。


 まず喜多川本人について。元々は国鉄職員で、伊坂組には昭和58年(1983年)より転職にて勤務し始めたことがわかった。転職の経緯については現時点で不明だが、部長になったのが昭和62年(1987年)の冬。その後平成2年(1990年)4月に重役として専務に昇格したらしい。転職直後に平社員だったことを考えると、異例の出世スピードであることは社内でも当時から噂されていたようだ。人柄としては基本的に温厚であり、人望そのものはそこそこはあるとのこと。この点は竹下達の見立てと一致していた。一方でギャンブルが好きで、依存症程ではないが、のめり込む部分もあったと言う。


 また、5月下旬から6月上旬に掛けての勤務状況については、かなり文字通りの「重役出勤」が多かったらしく、昼近くになってからやってくることも多かった。理由としては持病の高血圧の治療とのことだったが、健康保険の履歴からは最近の通院は確認できなかった。深夜まで肉体労働をしていた幽霊の動きと合わせると、喜多川が重役出勤していたことの理由にはぴったりと符号する。また、同居家族については、特に怪しい点は現状見当たらないと北見署の生安課からの報告が入っていた。


 ここまで来ると、特に重役出勤とその理由について嘘をついていたという点において、捜査本部の全員が、喜多川が現場付近に出没し、遺体を捜していた人魂の張本人だという確信を得ていた。倉野事件主任官も手応えを掴んだようで、報告を聞いている間、終始笑顔を絶やさなかった。


 一方で機捜隊からは、この間喜多川は特におかしな動きもなく、家と勤務先との往復の毎日であるとの報告が入っていた。この点については残念そうな顔を倉野はしていたが、まだ始まったばかりである。そう急いても仕方ないだろう。報告を全て聞き終わると、倉野は口を開いた。


「えー、以上のように、これはもう喜多川の関与はほぼ間違いないと思われる。北見署の協力についてはどうだろうか、ひとまず打ち切ってもらってもいいんじゃないか? 問題があると思う奴はいるか?」

倉野としては、これ以上本人とその周辺の情報は必要ないと踏んだのだろう。後は喜多川をどう引っ張るかに集中したいという本音が見え隠れしているように、西田には聞こえた。すると、

「主任官、それは構わないですが、ちょっと気になることがあるんですが……」

と向坂が挙手しながら言った。

「何か問題があるのか? 向坂」

「喜多川が転職した後、部長になったのが8年前の冬とのことですが?」

「8年前? ああ、昭和62年だと8年前になるか……。それがどうした?」

「先日本部長に話したと思いますが」

向坂が言い終わる前に、倉野は気がついたらしく発言を制すと、

「スマンスマン。例の失踪事件についてか……。確かに年月は符号する部分があるな。転職してきた平社員の異例の出世と、その前に起こった伊坂組に関わる失踪事件か……。向坂の言う通り、何か臭うな」

と返答した。

「どう見ても怪しいとしか思えません」

向坂も続けた。倉野はしばらく思案顔で黙っていたが、

「向坂の読みについては、こうなってくるとある程度現実味を帯びてきたことは間違いないだろうから、それは奴を引っ張ってから追及する必要は確かにあると思う。その上でだが、北見署の捜査については、これ以上は必要ないんじゃないだろうか? どうだ向坂」

と、諭すように倉野は言った。

「わかっていただければ、それについては構いません」

向坂も納得したらしい。

「それから、他のタイヤ痕についての調べだけど、そっちも打ち切ってこの案件に集中してもいいんじゃないかな? 槇田副本部長どうでしょう?」

倉野は槇田に話を振った。

「そうだな。それでいいんじゃないか。沢井、西田どうだ?」

槇田は直属の部下二人に聞いた。

「私は構いません」

沢井の答えを聞いて、

「ええ、私も問題ないと思います」

と西田も同意してみせた。


※※※※※※※


 7月12日昼ごろ、西田と北村は、北見市内の伊坂組の近くの通りに捜査車両を駐め、張り込み任務についていた。車内は初夏の強い陽射しを受け、窓を開けるだけでは足りず、クーラーを付けないとキツイ温度になっていた。


 喜多川の関与が濃厚になったため、本日より北見方面本部の機捜隊のみならず、捜査本部自体も直接喜多川のマークに動き始めたのだ。通りの向こう側の反対車線には方面本部応援組の高木と組んでいる吉村達の車両も見えていた。裏通りには機捜隊や北見方面組がしっかり準備していた。どちらに方向にでも、喜多川の車をすぐ追跡出来る態勢が整えられていた。


 コンビニ弁当を食べ終わり、車内から様子を窺う二人であったが、クーラーのおかげで心地よい室内温度になっていたため、たまに眠気が襲ってくることもあった。しかしトイレに行く機会を出来るだけ避ける必要があったので、眠気覚ましのコーヒーやお茶は敢えて避けていた。利尿作用があるからだ。


「特に動きはないですね」

北村があくびを押し殺しながら言った。

「我慢我慢」

西田は自分にも言い聞かせるように言った。

「どっちにしろ、今更事件に直結するようなことはしそうもないですよね……。後はしょっ引けるような何かを待つしかないってことで」

「そういうことだ……」

西田はそう言いながら、気分転換と眠気覚ましのために上半身をかがめてラジオを付けると、突然調子の良いDJの声が室内に響き渡り、慌ててボリュームを絞った。

「それでは旭川のラジオネーム、ドンちゃんからのリクエストで、DEENの『このまま君だけを奪い去りたい』です!」

アナウンスの直後、ジャーンチャッチャチャッチャチャーンチャーンというイントロと共に歌が始まった。隣の北村はそれに合わせて口を動かし始めた。

「なんだ、これお前の好きな歌なのか?」

「いや、まあ好きという程でもないですが……、カラオケじゃ結構歌いますね」

「そうか」

西田はDEENは知っていたが、特別興味はなかったので適当な返事になった。それを察したか、北村は話を広げようと敢えて質問してきた。

「西田係長はカラオケとか行くんですか?」

「昔はな……。遠軽署勤務になってからは行ってないなあ。札幌南署の時は結構行ったけど」

「あれ? 遠軽ってカラオケないんでしたっけ?」

「おいおい、さすがにあるぞ!」

遠軽に来てから3ヶ月強程度だったが、何故か馬鹿にされた気がして、やや強い口調で反論してしまった。

「あ、別に変な意味はないんですが、スイマセン……」

「いや、気にすんな」

西田は笑いながら口調を修正しつつも、来て数ヶ月の自分にも、遠軽への愛着が湧き始めているのかなと思ったりもしていた。

「係長はどんな歌歌うんですかね?」

北村は微妙な空気になった後もこの話題を続けてきた。おそらくだが、暇な中、会話が途絶える方が余程嫌なのだろう。

「俺はなT-BOLANなんかがいいな」

「T-BOLANっすか。いいですねえ『Bye for now』とか」

「それも悪くはないが、俺の十八番は『離したくはない』だな」

「『離したくはない』はたまに俺も歌いますね」

「おまえの得意なのは何だ?」

「俺が一番自信があるのは、小野正利の『You're the Only』ですね。結構上手いって言われますよ。俺の今の彼女もあれで口説いたようなもんですから」

北村がはしゃぐように言った。

「ええ、おまえあんな甲高い声出るのか? 男にはかなりキツイだろあれ?」

「結構キーが高いんです。クリスタルキングの『大都会』なんかもイケますよ」

「そいつはびっくりだな。普段の声聞いている分にはそういう風には見えないから」

「よく言われますよ」


 得意げに言う北村を見ながら、いつの間にか相手のペースに巻き込まれていたことに気付く西田だったが、気にする程のことでもなかろう。

「最近は、彼女に買ってもらった小型の携帯テープレコーダーで、カラオケ終了後に自分の歌声をチェックしてるんですよ。色々課題が見えてきますからね」

「そこまでやるのか……」

西田は、北村の徹底したカラオケマニアぶりに驚いた。西田もカラオケは好きだがそこまでのめり込んでいるわけではなかった。そんな会話をしばらく楽しんでいると、無線から沢井課長らしき呼びかける声が聞こえてきた。


「西田、北村聞こえるか?どうぞ」

「はいこちら西田北村組、聞こえます。どうぞ」

西田がラジオをミュートにしながら、北村が応答した。

「えーっと、北見の所轄のハコ(交番)に、伊坂組に勤務してるカミさん持ちの巡査がいるらしいんだが……」

課長の声を聞きつつ、

「あれ? 北見署には協力してもらわないようにしてもらったはずだが、緊急情報でも入ったのかな」

と北村からレシーバーを受け取りながら、疑問を口にした。しかし次に発せられた課長の言葉に西田の表情が変わった。

「時期は正確ではないが、1ヶ月程前、マル被(容疑者・被疑者)が、カミさんの同僚で男の職員に、『高そうなカメラがあるが要らないか?』と言っていたという話が入ってきた。いいニュースだから、こっちに戻ってくるより先に、早く教えてやろうと思ってな……」

北村もそれを聞いて、ハンドルを持っていた両手を強く握り締めて、

「吉見のカメラですかね? 時期的にも合うし、そうだとしたら、少なくともその時点では処分してなかったってことなのかな?」

と横から喋った。

「なんだよ、もっと早く話が出てればなあ……。もう処分してしまったかもしれない」

「いや仕方ないですよ。北見署にちゃんと応援頼んだのが最近ですから。それに直接の捜査員じゃなく、更にその奥さんだったら尚更でしょ……」

確かに北村の言い分の方が正しいだろうが、焦りの方が大きかった。課長の話はまだ続く。

「それでだが、当然出来るだけ早い段階でガサ入れしたい。カメラが押収出来ればそれだけでも、吉見の死亡時に現場に居た証拠になるだろうし、別件の更に他の嫌疑で逮捕勾留できるからな。とにかく何時でも職質、ゲンタイ(現行犯逮捕)出来るようにマル張り(張り込み)は怠るなよ。どうぞ」

「はい了解しました」

西田は課長の発言が切れたのを確認して、無線のボタンを押しながら返答すると、

「カメラの窃盗の件自体でガサ入れできませんかね?」

そう北村が西田に質問した。

「やれないこともないとは思うが、これだけの事案でやるとなると、確実にカメラを押さえられることが前提だろう。失敗した場合のその後のリスクがあるし、難しいと思う」

その返答に、

「じゃあ喜多川を別件で引っ張って、そこでカメラが出てきたら、一気に行けますかね?」

としつこく質問してくる。

「今の所はそうなることを祈るのみだな。課長の言いたいこともそれだろう」

西田は緩めていたネクタイを締め直しながら、背筋を伸ばした。


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