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名も無き近衛視点からの考察

リクエスト頂いたので、急拵えですが追加します。リクエストに適っているかは分かりませんが(^_^;)


それでも読んでくださるかたがいらっしゃいましたら、暇潰しにでも御一読下さいませ。

近衛兵さんの視点からのお話です。


投稿後、影→陛下→近衛→考察してからの→声掛け、という一連の流れに時間軸的な無理があるのでは?とのご指摘を頂きました。

全く以ってその通りだと思いましたので、一部変更をしております。

 

 なんと愚かな。


 ルードヴィヒ殿下達の元に駆けつけた時、俺の頭に浮かんだのは、この言葉に尽きた。


 国王陛下からの勅命を受け、急ぎ学院へとやってきた我ら近衛兵が目にしたのは、報告にあったと思しき平民の少女を腕の中に抱え、自身の婚約者に声を荒げる王太子の姿だった。


 ここからではアイリーン嬢の顔は見えないが、その背中からは、沈鬱な様子が伺える。


 凛として背筋を伸ばし、ルードヴィヒ殿下に向かい合うその姿からは、パッと見ただけでは落ち込んでいるなどとは分からないかもしれないが、王宮で彼女と声を交わしたことのある者の中には、気付く者もいるかもしれない。


 王宮で見かける時よりも少しだけ落ちている肩。微かに震える声。


 何故、婚約者となって何年も経つ殿下に分からないのだろうか。見ようと思えば、ほんの数回しか言葉を交わしていない俺にさえ察せられるというのに。



 そんなことを考えている間に、ルードヴィヒ殿下が腕の中から少女を離し、アイリーン嬢へと歩み寄って行く。

 その顔は怒りに歪み、学園に入る前には確かに存在した王族としての清廉さなどは、最早伺えない。


 殿下が手を振り上げるのを見て、周囲と視線で意思疎通を図ると、俺は声を上げた。



「殿下、其処までです」



 〜・〜・〜



 ルードヴィヒ殿下を強制的に王宮へと送ったあと、俺はアイリーン嬢に陛下からの言付けを告げ、王宮へと帰還することとなった。


 道中、リリアーナ嬢を学園寮へと送り届けた同僚の話を聞くところによると、リリアーナ嬢は顔色を青くし足許こそ覚束ないものの、素直に指示に従って部屋へと戻って行ったという。


 彼女は今後、事の次第がハッキリするまで寮の舎監が張り付き、その後は多分、放校となるだろう。

 それ以上の処分についてもある程度考えられるが、まあ特に興味は無いし、それを考えるのは官吏の仕事なのでどうでも良い。


 それより心配なのは、アイリーン嬢だ。

 俺は別れ際の、彼女の姿を思い浮かべた。



 隠しきれない、悄然とした気配。いつもなら誰に対しても真っ直ぐに目を見て話されるお方なのに、目線が何処か噛み合わない。


 薄く笑んで我等の労を労って下さったが、それが泣きそうな顔に見えて。しかしそれを知られまいとしているようだったので、送る事はせずに辞去の挨拶を述べて早々に立ち去った。


 森の中に佇み、我等を見送る彼女をそっと窺ったが、その姿はとても小さく見えた。年相応の、少女の姿だった。



 どこでこうなってしまったのだろうか?


 アイリーン嬢の痛ましい姿を頭から追い払おうとした俺の脳裏に、俺達に指示を出した際の、陛下の声音が響く。


『ルードヴィヒを、今すぐ此処に連れてこい』


 それは、硬く、重い声だった。





 陛下が『影』と呼ばれる隠密部隊から受けた報告は、『ルードヴィヒ殿下が婚約者であるヴァスレイ公爵令嬢の目の前で、婚約破棄及び、リリアーナ・カルタスという平民の少女と将来を誓い合う旨の発言をしていた』とのことであった。


 その報告に顔を顰められた国王陛下が、瞬時に我等直属の近衛を派遣させるに至ったのは当然のことであると思えた。


 そもそも陛下の御子の中から、第一王子であるルードヴィヒ殿下が王太子となったのは、この国の慣習であったとはいえ、其れは、陛下にとって頭痛の種であった。


 陛下自身は国内外から賢王と尊ばれ、恙無く平和に国を治めてこられたが、その御子であるルードヴィヒ殿下には、幾つになっても王太子としての自覚があまり見受けられなかった。


 貪欲に知識や教養を学び、剣の鍛錬を重ねるその姿は、一見するとその端麗な容姿とも相まって立派に王子然とした空気を纏ってはいるのだが、どうにも思慮に欠け、ふとした時に問題行動を起こされる。


 護衛の目を掻い潜ってひとりで城を抜け出したり、護衛中に賊に襲われた際に何故か護衛よりも前に出ようとしたり。

 ときには、ある貴族の汚職を証拠も揃わぬままに正面切って断罪したりなどもした。あの時は確か、その貴族を慎重に調べていた官吏達が悲鳴をあげていたのではなかったか。


 兎に角、吸収した筈の知識が、自身の言動に反映されていないと思われる行動ばかりであった。


 元来素直な性格をされているのだろう。正義感に溢れ、他人ひとの良いところを見ようとする優しい心根は好もしいのだが、いざ権謀術数渦巻く王宮内で王太子・・・として立つには、些か頼りなさすぎる。


 そこで陛下が目を付けたのが、ヴァスレイ公爵令嬢だった。


 ヴァスレイ公爵家のアイリーン嬢は、魑魅魍魎蠢く王宮にて、我が国最恐との呼び声高き宰相であるところのヴァスレイ公爵閣下が、手中の珠であると公言して憚らない存在であった。


 ヴァスレイ卿曰く『幼少より美と知性の片鱗を見せ、成長する毎にその理知的な魅力が溢れ出るほどに増しており、知識に関していえば、既に公爵家領地の統治に関する発言を許せるほどである』との評価であるかの令嬢は、ルードヴィヒ殿下の婚約者候補のひとりとして王宮に招かれた際、一言二言陛下と言葉を交わされただけであったが、それだけで陛下には十分であったようだ。


 すぐさま陛下からヴァスレイ家に婚約の打診が行ったのだが、婚約に猛反発したのは意外にも、ヴァスレイ卿その人であった。


 権力欲のある人間ならば、誰もが欲しがるであろう王家との血の繋がりを断ろうとする。それは、他の貴族からしてみれば有り得ない行動であったが、ヴァスレイ卿の言い分はこうだ。


 曰く『国内の力ある家同士が繋がるのは政治上宜しくない』


 曰く『将来アイリーンは、この国初の女宰相も夢ではないほど官吏に向いた性格である』


 更に曰く『そんな可愛げのない女はルードヴィヒ殿下に相応しくない』


 から、絶対にお勧め出来ない!と、ヴァスレイ卿は陛下に奏上したのだ。


 が、側から見れば『表の世界で充分に活躍できる素地を持つ愛娘に、婿を取って公爵位を継がせるならまだしも、王家の問題児を押し付けられて王子の陰に収められるのは堪らない』という本音が駄々漏れであった。


 これがヴァスレイ卿の、只の親バカ発言でないことは直ぐに知れた。


 何度も話し合い、最後には国王陛下からの懇願という形で押し切られた婚約は、しかし、反発する貴族も多かったにも関わらず、婚約者となったアイリーン嬢が王宮に何度も足を運ぶようになると、徐々に鳴りを潜めていった。


 普段は楚々とルードヴィヒ殿下の側に侍るアイリーン嬢であったが、殿下が問題を起こした際には、こっそりと、しかし的確に周囲に指示を出して事を治め、殿下本人には、二人きりになった時にチクリと釘を刺す。


 勿論アイリーン嬢が殿下に何を言っているかまでは分からなかったが、何事か言われたであろう直後の大人しくなった殿下の言動が、如実にそれを物語っていたものだ。


 婚約後、アイリーン嬢に感化されたのか、ルードヴィヒ殿下の言動が随分王太子として相応しいものとなってきたため、反対派の貴族もその言を撤回するしかなかったのだ。


 漸く、国王陛下の心痛も治まりつつあった。



 しかし学園入学後、少しづつルードヴィヒ殿下の問題行動について、影から報告される件数が増えてきた。


 懸命にアイリーン嬢が事態の深刻化を抑えている様子も報告書から察せられ、久々に国王陛下直々に苦言を呈さねばならなくなるかと思われた矢先の、今回の事件であったのだ。


 陛下が眉を潜め、我等に託した言にも頷ける。これはもう、アイリーン嬢だけで押しとどめられるものではない。むしろ、婚約者がアイリーン嬢でなければ、もっと早くに最悪な形で醜聞が白日のもとに晒されていた事だろう。


 あのリリアーナと云う娘は、『王太子妃と云う究極の玉の輿に乗ったこと』を、ただただ喜んでいたようだが、事はそんなに簡単なものではない。


 いくら優秀な学生であるといっても彼女は平民だ。子爵や男爵辺りに嫁ぐというなら、その資質を持ってすれば反発も少なく済むかもしれない。


 しかし相手は王太子である。ゆくゆくは王となる王太子の妻になるという事は、後に国母になるという事。


 それは、国を支え、王を支えるということだ。即ち、国民に愛想を振りまけばそれで良いという事ではなく、国内の貴族を陰から統制し、国外に向けては一流の外交官として、他国に隙を見せる事なく友好的な国交を保たなくてはならない。


 それを、明らかに国内貴族の反発を誘発するだけであろう平民の娘に、恙無く行えるだろうか。


 もしルードヴィヒ殿下に統治の才が溢れ、自己を律し、他者の意見を聞く事が出来ていたならそれも可能かもしれないが、そうではないからこそのアイリーン嬢なのだ。


 愛でられ守られるしかできない娘に、あの愚かな王子は制御出来まい。


 その点アイリーン嬢は、陛下が望む『ルードヴィヒ殿下にとっての婚約者』というものを、良く理解されていた。


 それは盾であり、手綱である。


 権力も財力もある家に生まれ育ち、知力ですら充分以上に持っていたアイリーン嬢からしてみれば、なんの得もない婚姻関係であると思えた。


 なのに父親がどれだけ反対しても、彼女自身は反発せず、素直に王太子の婚約者としての勤めを果たしていた。


 それは、家族に説得されたからではないだろう。一番反対していたのが、その家族なのだから。


 ならば陛下に頼まれたからか。これも違う。王家に対する忠誠心は強く感じられるが、それだけで、ここまで己を滅して尽くす事など出来ないだろう。


 では何故か。


 それは、アイリーン嬢自身が、ルードヴィヒ殿下を選んだからだ。


 影からの報告を受ける陛下の側で、皆、それを感じていた。


 だからこそ陛下も、ヴァスレイ卿も、何も言わず見守っていたのだ。



 だというのにルードヴィヒ殿下は、陛下の御心も、アイリーン嬢の真心も、全て無視して此処まできてしまった。




 アイリーン嬢は決断した。

 その意を察して、陛下も動いたのだ。


『ルードヴィヒ殿下の王位継承権及び学籍の剥奪』


 追って、アイリーン嬢との婚約の解消もなされる事だろう。ルードヴィヒ殿下の落度と云う形で。


 軽い判断だ。彼女の心の傷に比べれば。



 ふと、またあの顔が浮かんでしまって苦い思いが込み上げる。


 俺は彼女にとって、ただの傍観者でしか無い。


 それでも、あの健気な少女の幸せを願う事くらいは許されるだろう。




「神よ。どうかアイリーン嬢の今後に憂いなど無く、その歩む道筋が輝きに満ち溢れ、この上なき幸せが訪れることを、我は願い奉る」




 小さく呟いた俺の声は、誰に聞かれることも無く風に攫われて消えていった。


 天へと登るその風が、この声を届けてくれれば良いと、俺は思った。






アイリーンはこの王子のどこが良かったんだろうか…?

その辺を踏まえつつ、アイリーンの救済が出来たら、読者さんは喜んで頂けるでしょうか(チラッ


書けそうだったら、無い脳味噌絞ってお話の追加をしたいと思います。

書けるかな…(^_^;)


(追加)

いろんな方から『アイリーンの幸せなお話を』とのご意見頂きましたので考えてみてます。気長にお待ち頂けると有り難いです。

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