貴方に捧げる、最後の言葉
乙女ゲームの悪役令嬢物が大人気なので、投稿テストを兼ねて、流行り?に乗っかってみました。
初心者マーク付き作者の初投稿作品となります。
R15指定は念の為です。
主人公のモノローグが続く、あまり動きの無い作品に仕上がってしまいましたので、そういった物でも大丈夫!な方に暇つぶしにでも見ていただけたらと思っております。
ちなみに、舞台は乙女ゲームの中の世界ですが、ゲーム要素はほぼ出てこないです。
ハァ……。
こんな処、来るんじゃなかったわね。
木の陰に隠れ、重く溜息を吐く。
ここ最近の己の周囲の騒がしさに嫌気が刺し、誰にも見咎められる事なく静かに過ごせる場所を求め私ことアイリーンは、学園敷地内のとある場所に辿り着いていた。
王立であり、この国唯一とも呼べるこの学園は、貴族の子息子女の為に在るといっても過言ではない。彼等の将来の社交の一助となる様、設けられた施設である。
勿論その為だけに設立された訳では無く、将来に渡って国の中核を担うであろう優秀な人材を発掘育成する為の機関でもある。
その為、国中の貴族の子息子女はもちろんの事、他国からも積極的に留学を受け入れ、更には平民の子であっても優秀な能力を持ち入学試験を合格しさえすれば、奨学金を受けて通う事が可能である。
そんな学園は敷地も広く、校舎の周囲には様々な付属施設の他、憩いの場となるよう自然が多く存在している。
私が今いるのはそんな自然の中のひとつ、パッと見ると森とも呼べるほど緑が生い茂った校舎裏の一角である。
森とも呼べるとはいえ、そこは管理された学園敷地内である。適度に間伐され整理された緑は外から見れば鬱蒼としているものの、一歩足を踏み入れれば木漏れ日が溢れ、小鳥の囀りと共に爽やかな風が吹き抜けてゆく。
最近気付いたこの気持ちの良い場所に、近頃ささくれだっていた気分を落ち着かせるには格好の場所であると、私は誘われるように訪れたのだった。
しかし私はそこで、見たくもなかったものを強制的に目に焼き付けさせられていた。
其処には、王太子であり私の婚約者でもあるルードヴィヒ殿下と奨学生の少女リリアーナが、いた。
彼等は近付いていた私に気付きもせず、二人だけの世界を作り出していた。寄り添い、口付けを交わす姿が瞳に焼き付く。
(なんてこと…)
ヴァスレイ公爵家息女である私とルードヴィヒ殿下は幼い頃からの許婚である。
主と臣と云うよりも一歩踏み込んだ婚約者という立場は、同じ年でありながら些か幼くも感じられる殿下に苦言を呈することも躊躇わずに行う事が出来る、私にとっては有難い立ち位置と云えた。
勿論、行き過ぎな言動は弁えるよう細心の注意は怠らなかった。婚約者とはいえ、同時に臣であるのだから当然である。両親からもそういった教育を受けていた。
常に殿下を立て、前に出過ぎぬよう心掛けてはいたが、何度か苦言を呈さねばならぬ機会はあった。その度に嫌な顔をされながらも、後悔はしなかった。
私の想いが彼に届き、いつの日か立派な王へと成長した彼のそばで、彼を支えて生きていくのが、当たり前の私の人生なのだと信じていたから。
けれど学園に入学しリリアーナと出会った頃から、ルードヴィヒ殿下は間違った方向に進んでいるとしか思えない変化をしていった。
その変化は顕著なものであった。
授業は受けるが、本来の選択科目を王太子という立場を使ってリリアーナと同じ科目に変更させたり、生徒会に入っていない彼女を役員特権を使って頻繁に生徒会室に出入りさせては、機密書類を彼女の目の前で処理をする。
他にも様々な事があった。
彼女はルードヴィヒ殿下以外の殿方とも親交を深めていて、幾人かの有力貴族の子息から想いを寄せられているようで。それが気にくわないのか、殿下は常にリリアーナを側に置くようになったのだが、当然其処では諍いが発生する。幸い大事にまでは至ってはいないが、それは私や教師達による迅速な対応があったからとも云えるだろう。
私は何度もルードヴィヒ殿下に伝えたのだ。
『王太子として、将来国の頂点に立つ存在として、相応しい行いを心がけて欲しい』と。
しかし彼には私の言葉が届かなかったのだろう。
今も、木の陰に立ち尽くすしかない私のすぐ側で、互いの愛称を呼び合い愛の言葉を囁いている。
これは、もう…。
決定的な瞬間を目にしてしまっては、目と耳を背け、いつかは…などと期待をする事も最早、無理だ。
鼻の奥がツンと痛むのは、視界が奇妙にブレてしまうのは、彼に、ルードヴィヒ殿下に、私なりの想いを伝え続けてきたことが、全く届いていなかったのだろうと知ってしまったからか。
私は目を閉じ、ひとつ大きく深呼吸をした。伏せた睫毛の端からひと雫の涙が零れ落ちていく。それを指の背で拭い、顔を上げ、彼等の前にと進み出た。
サク、サク、と草を踏みしめ音を立て姿を見せれば、それで漸く私の存在に気付いたのか、驚愕の表情を彼等が向ける。
呆れたことだ。二人の世界を作るのに忙しくて周囲の警戒を全く行っていなかったのが丸分かりだ。
「ア、アイリーン…⁉︎」
「ヴァスレイ…さ、ま…」
驚きのまま、呟く様に名を呼ばれた。
それに応えず、尚も二人の元に歩を進める私を警戒してか、殿下がリリアーナの腰を掴みつつ此方に体の向きを変える。
私の事を唯の一度も愛称では呼ばなかった彼が、腕の中の少女を守る様にして。
溜息がまたも溢れそうになるのを堪え、背筋を伸ばし相対する。震える体と心を抑え、言葉を発するため息を吸い込んだ。
「殿下。発言をお許し頂けますでしょうか」
訝しげな目をして殿下が此方を伺う。
それはそうだろう。婚約者の不貞ともいえる現場に立ち会うも、それを意に介す事なく平静に話しかける、気持ちの読めぬ女、とでも思っている事だろうから。
それとも政略の為の婚約者など、愛しい女性との逢瀬を邪魔する無粋の輩とでも思われたか。
「なんだ」
憮然としながらも、殿下が言葉を返す。
私を見つめる瞳の中には冷めた色しか感じられず。そのお陰で逆に、心が決められた。
一度小さくお辞儀をする。発言を許された事への返礼だ。
「発言をお許し下さり、有難う御座います。回りくどいのはお好きでは御座いませんでしょうから早速では御座いますが、お聞き致します。
殿下は先程、そこのリリアーナ嬢と接吻され愛の言葉を交わしておられましたが、私の前でも、そのお気持ちに変わりは無いと、おっしゃる事は出来ますでしょうか?」
真っ直ぐに目を見て告げる。嘘偽りは許さない、という風に。
明け透けな私の言葉に、殿下の瞳は一瞬狼狽の色を見せたが、直ぐに持ち直し此方を睨みつける。
腕の中のリリアーナを離すまいとするかの様に強く腰を抱え直し、口を開いた。
「その通りだ、アイリーン。君には申し訳ないが、私はリリィを、彼女だけを真実愛している。なれば、愛の無い政略結婚など出来ない。君との婚約は解消し、リリィを我が妃とするため、今後は動く事になるだろう」
「ルディ様…」
殿下の腕の中でリリアーナが頬を染めた。互いに視線を交わし嬉しそうに微笑みあう。私の存在を無視して。
また二人だけの世界になる前にと、口を開く。
「そうで御座いますか…。しかし、真実の愛とは、かくも薄っぺらいものなので御座いますね」
「なんだと⁉︎」
呆れが混じり、少々ぞんざいな言葉を使う私の嘲笑に怒りを感じたのか、殿下が声を荒げた。
「無礼であるぞアイリーン!我等の気持ちを、其方に薄っぺらいなどと揶揄される謂れはない!」
「そうで御座いますか?」
強い嘲りの視線を殿下に投げる。
怒りの赤に顔を染め、尚も言い募ろうとする殿下に問い掛ける。
「なれば何故、今、婚約の解消をなさるのでしょう?」
「なに⁉︎」
言っている意味が分からないのか、怒りの中に困惑の色が浮かぶ。この方は、何故いまだこうなのか。
もう、溜息を押し殺すことも無い。視線を落とし、盛大にハァ、と息を吐いた。
再度視線を殿下に戻し、言葉を紡ぐ。
「真実の愛と仰いますが、殿下と私は未だ正式な婚約者同士で御座います。婚約を解消するに両家の許可が必要になりますからね。となれば、今の貴方様は、婚約者がありながら他の女性に言い寄るという不逞を侵しているという事になります。本当に真実の愛が其処にあると仰るのならば、何故、リリアーナ嬢に告げる前に私との婚約を解消なさらなかったので御座いますか?」
「!…っそれは」
口籠る殿下からリリアーナへと視線を移す。
私に見つめられびくりと震えるその姿は、一見すると清楚で小動物的な愛らしさを持つ可憐な少女にしか見えない。が、それが本当の姿なのだろうか。
目線は彼女に据えたまま、殿下に告げる。
「更に言えば、婚約者のいる男性と接吻するような軽率な態度をとるリリアーナ嬢を、何故王太子妃になど出来ると思うのです?まして、その言葉を聞いて諌めもせず喜ぶ彼女の態度を見ましても、其処に純粋な愛情があるなどとは、私には到底思えないのですが」
言いながら殿下に視線を戻せば、怒りのあまり、肩が震えているようだ。
「リリィを侮辱するな!」
「侮辱、ですか…」
「其方になど、彼女の良さは分かるまい!あぁ確かに、其方は王太子妃としては素晴らしく相応しいであろうな!常に冷静に物事を見極め正論を吐く。此方の気持ちなどお構い無しに私を追い詰める!息苦しくて叶わなかった私を、真に私個人のみを見てくれるリリィに癒され、心を預けたとして、どうしてそれを其方に責められねばならぬのだ!」
殿下の、まるで血を吐くような心の叫び。初めて言葉にして聞く、その気持ち…。
そうか。私には見せられぬ弱みを、彼女になら晒け出せると、殿下は言っているのか。
知らず、乾いた笑いが溢れた。
「何がおかしい!」
私がコロコロと笑う姿を見て、今にも殴り掛かって来そうなほどの怒気をぶつけられる。それでも笑いは収まりそうにない。けれど言わねば。
「ご、御安心を。これは、自嘲で御座いますれば」
「…自嘲?」
涙が溢れそうなほど自分が可笑しくて。虚を突かれて目を丸くする殿下の顔も、あぁ、初めて見た気がする。それがまたおかしい。
「ええ、自嘲で御座います。殿下のお気持ちなど当に気付いて居りましたのに。気付いている事にすら気付いて頂けなかったのかと、其処まで私は殿下に信用されていなかったのだと、今更ながら思い知りました故」
「其方は…、何を」
笑いをなんとか抑え、困惑の瞳を向けつつ訝る殿下を真っ直ぐ見つめ直す。
「勘違いなさらないで頂きたいのですが、私はリリアーナ嬢の事を侮辱してはおりません。窘めてはおりますが」
「な、んだと…?」
「私からみれば、婚約者のいる男性に不用意に近付き逢瀬を重ね、結果婚約者がいるままの相手と将来を誓い合うなど、淑女としての自覚が足りないと言わざるを得ませんわ。本当に相手の事を思うのなら、相手の立場を考えて行動するものでしょう。ましてや、婚約者がいるままの相手の愛の言葉を疑いもせず信じるなど。そんな不実な行い、私ならば到底受け入れられませんわ」
「貴様っ…!その言葉が侮辱でなくて、なんだと言うのだ!」
…何故、こうも殿下は短絡的なのか。自分が見ている世界だけを信じ、別の視点から物事を見るという事をしようとしない。
とうとう貴様呼びにまで落ちてしまったか。
もう、いいだろう。もう止めにしよう。こんな茶番を、何時までも続けるわけにはいかないのだから。
凪いだ心のまま、薄く笑んで告げる。
侮辱でなければなんなのか、と聞かれれば。
「ただの事実、で御座いますね」
私の、笑みと共に放った言葉は、殿下の一線をとうとう踏み越えたようだ。
腕の中からリリアーナを解き放ち、此方に向かって進む。私に手が届く距離になって殿下は止まった。
「不敬を、その言葉を、改める気はあるか」
声が震えているのは怒りのためか、それとも…。
いや、もう殿下の事を考えるのは止めにしたのだ。そう決めた筈なのに、気付けばこうして考えようとする自分がいる。馬鹿らしいにも程があるではないか。
「いいえ、御座いません」
笑みを消さぬまま、告げる。
その瞬間、殿下が手を上げ、私に向かって振り下ろすのが見える。
頬を打たれると分かっていたが、敢えて動かなかった。
その時だ。
「殿下、其処までです」
私達三人以外の声が森に響き、頬を打たれる寸前に、殿下の手の動きは止まった。
そして、数名の兵が姿を現わす。
「そ、其方達は…」
呆然と呟く殿下の前に整列する兵達。彼等の鎧を覆い隠す外套の色は紫紺。それは、国軍の中において、智と武に最も長けると云われる国王直属の近衛の証である。
彼等の中のひとりが一歩進み出て、殿下に告げる。
「ルードヴィヒ王太子殿下。今、この刻をもちまして、殿下の王位継承権は剥奪、学籍も抹消となります。直ちに城に戻られますよう申し上げます」
「なっ⁉︎」
突然事務的に告げられた言葉に、殿下は目を剥き、絶句した。
「どっ!どういうことだ、それは⁉︎」
次には驚きのままに、声を荒げて殿下が問う。が、相変わらず近衛のほうは平静のままだ。
「今お伝えしました言葉のままに御座います。殿下の今後の処遇につきましては、陛下からの御言葉があるまで自室にて謹慎するようにと、陛下から言付かって御座います」
「謹慎だと!」
尚も感情的に問い詰めようとする殿下を、別の近衛二名が「失礼を致します」と一言告げ、取り押さえる形で押し留めた。そのまま両脇を固めた状態で殿下を連れて行く。
不敬だ!とか、リリアーナ!とか喚きながら抵抗するものの、鍛え上げられた近衛二名の力には敵わず、殿下の姿は直ぐに森の木々に隠されて消えた。
その姿を見送ったのち、殿下に進言した近衛が次に目を移したのは、リリアーナだった。
一連の出来事をただ立ち竦んで見守っていた彼女は、近衛と目が合うとびくりと肩を竦め、ブルブルと震えだした。
「貴女は、奨学生のリリアーナ・カルタス嬢で、間違いありませんか?」
殿下に対した時よりも幾分硬質な声で問いかけられ、リリアーナが首を竦めて俯いた。
「間違いありませんか」
「……は、はぃ」
再度問いかけられ答えるも、その声は蚊が泣くような小さなものだった。怯えて声が震えているのは、それでも分かるが。
近衛は、その事を意にも介さず告げる。
「貴女に関しましては、学園長宛に以前から幾つも嘆願書が届いているそうですね。学園の風紀を著しく乱しているから、早急に対処してほしい、と。よって、真偽が明らかになるまで寮の自室にて待機するようにと、学園長からの言付けを頼まれています。それから、今回の件に関しましても既に学園長には報告してありますので承知おき下さい」
淡々と告げられる言葉に、見る間に顔色を青くするリリアーナ。立っていられないほどなのかふらついたところを近衛のひとりに支えられ、悄然とした顔のまま連れて行かれた。
彼は寮までの監視という事か。
そして近衛は、最後に私に向き合う。
「ヴァスレイ公爵令嬢様、お久し振りに御座いますね」
その顔は、それまでの硬質な気配を払い、柔らかい笑みに変わっていた。
「ええ、お久し振りで御座います。このような、醜態をさらす場面を見られるだなんて恥ずかしい限りで、忘れて頂きたいものですけれど」
私も笑う。苦味の混じった笑みだけれど。
「とんでも無い事で御座います、ヴァスレイ様。貴女様の決然とした凛々しいお姿は、いつ拝見致しましても、恥ずかしいところなど微塵も御座いません」
王宮で何度か言葉を交わした程度の彼だけれど、なんとも雄々しい印象を持たれていたようで苦笑を重ねてしまう。
「凛々しいなどと…。それより、私には処分についての言付けなどは御座いませんの?随分殿下に対して不敬を働いた自覚があるのですけれど」
慣れない讃美がどうにも居心地が悪くて、別の話を振る。
殿下は気付かなかったようだけれど、森の中には初めから私達以外の気配があった。当然だ、王族を丸腰でひとり歩かせるなど、臣からすればあり得ない話だ。きっと殿下は撒いたとでも思っているのだろうけど。
影のように王族を守る者たちの事は、薄っすらとだが伝え聞いている。私達以外の気配は、きっとそれだ。
そして影の役割とは、王族の護りであると共に、監視でもあると私は思う。彼等が仕えるのは国か、それとも王族か。そのどちらにしても、不用意に醜聞を振りまく存在をいつまでも見過ごすなど、これまたあり得ない話なのだ。
影から国王陛下に今回の件が伝わった。そして、陛下の指示で近衛が派遣されたのだ。でなければ、国王直属の近衛兵が突然姿を現した理由に説明がつかない。
きっと彼等近衛には、私に関しても陛下からの指示がある筈だ。
「処分、ですか?特に何も伺ってはおりません」
「え…?」
しかし、予想に反する言葉が返ってきて虚をつかれる。
「陛下から承っておりますのは『ヴァスレイ様に謝罪がしたいので、近々登城をして欲しい』という、いわば、お願い、で御座いますね」
「お、お願い…、ですか?」
「はい。お願い、で御座います」
ニッコリと笑顔で告げられ、なんとも微妙な気持ちになるが、気を取り直して承諾し、その旨を陛下に伝えてもらう事にした。特に処分もないとの事なので近衛がつくこともなく、彼等を見送ったのち、私はひとりで森を後にしたのだった。
思ったよりも気が張っていたようで、寮の自室に辿り着くと、侍女には暫くの間ひとりにして欲しいとだけ告げ、気付けば私はソファに倒れ込んでいた。
少々行儀が悪いかもしれないが、今だけだ。明日からはまた、ヴァスレイ公爵令嬢としてしっかり立って歩いて行かねばならないのだから。
だから、今だけは。
今このときだけは、只のアイリーンとして過ごさせてもらおう。
ポツリと、言葉が漏れる。
「ルードヴィヒ殿下、貴方は今頃どうしているかしら」
考えまいとしても考えてしまう存在。今も昔も、私はそればかりなのだなと自嘲してしまう。
『ルディ』と呼んでいれば、違っただろうか。私の気持ちを、もっと素直に伝えれば良かったろうか。
でも、気がついたときには既に手遅れで。殿下との間には見えない壁が存在していた。いや、もしかしたら初めからかもしれない。私が気付かなかっただけで。
でも今更だ。全て私が駄目にした。
私が決定的な言葉を、彼に言わせたのだから。
「ルードヴィヒ殿下。それでも私は、貴方を貴方のままで、愛していましたわ」
温かな雫が、頬を伝うのを感じた。
幾つかのページに分けて投稿するつもりが、何故か一章に全て収まってしまい、治し方がわからないため、取り敢えずはそのまま放置します。
分かり次第変更するかもしれません。