理屈より実行してみろ!
一度あった事が二度も起きるとは限らない。
それは頭の中で分かっている。
だとしても、胸の奥で引っかかったあのニュースの出来事は
俺を再度駄菓子屋に置かれていたアーケード台に向かわせるには十分だった。
「……着いた」
まだ朝だから明るくて、それであの時見づらかった外装がハッキリと見えた。
確かに潰れている。気づかなかった張り紙も見つけ「閉業します」との事。
それもごく最近の事だ。
居ても立っても居られない気持ちだったからトレーナー姿のままで出てきた。
まあ恥ずかしさなんてない。恥ずかしいのは就職できなかったという事実だけ。
それ以外の恥ずかしさなんて……まああるにはあるけど言わない。
ともかく俺は人に見つからないように駄菓子屋の奥に入って、例のアーケード台の所に向かった。
「あ、あった……」
そこにあったのは確かにあの時俺がふて寝したアーケード台。薄暗くてはっきりとは見えなかったけど、確かにあの時のと一緒だ。
昨日の事ですら嘘のように思える。でも電源が入っていないアーケード台を見る限り、その嘘のような出来事も現実味を帯びてくる。
「ここに座って、眠っただけなんだよ……な」
ただそれだけだった。
特別な事は何もしてない。
でもここで眠って俺は天国みたいな所に着いて、ああ死んだんだなと思って。
しかしそれは違うとあの場所にいた女の子……にクロニクルオンラインから抜け出せない事を告げられたんだっけ。
じゃあ、これもまたクロニクルオンラインにつながるゲーム台……いや、それはあり得ない。
廃屋に近い潰れた駄菓子屋の中にそんなハイテク機械があるとは思えない。その推測は却下だ。もしあるとしたらここにえーとカリクス株式会社の人間がいるはず。このゲーム台が同じクロニクルオンラインを体験できる物だとしたら駄菓子屋にある事も疑うしそれ以前にカリクスが知らないって事もないはず。
「だよなぁ……そんな訳あるはず……」
ただ、寝ていただけだ。
起動もしなかったはず。
試しに近づいてみても、電源は落ちている。
潰れているのだから電気も通っていないだろう。
「それだけでクロニクルオンラインに入ったという事か?んでもって俺がNPC?馬鹿げてる……どんな理論を持ってこられても信じがたいな」
ゲーマーなら興味もあるだろうが、あいにくと俺はゲーマーじゃない。
昔はゲームもやった事があるが、大学行く頃には卒業していた。
オンラインという言葉も聞くが、さほど大学の友達ほど興味はない。
へーとかふーんとかそのレベルだ。
「もしこれがクロニクルオンラインに出入りできるとして、どうして俺がNPCだったのか……」
入れたとしたらあの女の子や男達と同じ、一般ユーザーとして入れるべき。
NPCになっていた事も考えればおかしい事だ。
わっつわっつと言っていたから名前が「What」になっていた事も洒落た夢の為せる業なのか。
どうも自分と縁が遠い事がリアルな夢で再現されているな……と思って諦めて帰ろうとした。
寝なおすか……ここじゃなくて、家で。
「……」
―
『ログアウトできなくなったの』
『カリクス株式会社は解発したゲームのユーザーが次々に意識不明となった事件に関して謝罪を……』
ログアウト出来ないという事は、現実世界に戻れない。
そもそもクロニクルオンラインというゲームのシステムが分からない。
ゲームと疎遠だった分、俺が理解するには多分ほど遠いけど……
「ゲームの中に閉じ込められているのか……?」
俺に出来る事なんてあるのか?
入ってもまた動けないNPCになるかもしれないんだぞ。
もしかしたらあの子と同じようにログアウトできなくなって意識不明になるかもしれない。そんなリスクは十分考えられる。
それでも……
「もしそれが本当だったら、可哀想だよな」
ゲームから出られない。としたら―
俺は、決めた。
出来る出来ないの事を考えるよりも実行したほうが早いと思って、ゲーム台の椅子に座った。そしてあの時のように眠るふりをした。
そして次第に本当に眠くなって……
視界が真っ暗になった―