ニュースはうそをつかない
「でさー、そんな事があったんだよ」
―
って言えるはずもなく……
「ずずずずず……」
朝ごはんが出来ていると母親に言われ、一人暮らしの時にはご縁がなかった暖かいみそ汁をすする。実家の朝食は和食だった。
一人暮らししてからは雑で、なんでも食った。いや、幾らなんでも草とか土とかは食べないよ?
親父は仕事に行ったらしい。
結局朝は会わなかった。
会っても気まずいだけ……この時間に起きたらあまり会う事もないんだな、と自分のここでの保身を考える。
でもいずれは親父に会う。その時どんな話題を振ってくるんだろうか……まあ予想すれば大概ハローワークの事とかその辺の話になるだろう。
「恭介、これからどうするの?」
「……考えてない」
嘘、考えてる。考えざるを得ない。
求人誌とかハローワークとか、大学の学費の借金もあるんだから無職という訳にはいかない。ただお袋は俺が就職氷河期のあおりを受けていた事を分かってくれているのか、そう詰め寄った話はしなかった。
「昨日の今日だし……今すぐに動けって言われても」
「そ、そうよね……」
親も流石に俺が就職失敗したのを気にしていたのかもしれない。
怒鳴るとか、呆れるとか、そうされたら一発で引きこもりになる自信はあるけど、気を使われるのもやはり滅入る。
俺には俺のペースがあって、何とかしなきゃと思っても動けない時がある。そう言う事も考えてそっとしておいてほしい……だなんて我儘だろうな。
「……テレビ、つけていい?」
「ええ」
俺はテーブルの上に置いてあったリモコンを手にし、電源を入れた。
ニュースが放送されていて、今どきの事件や事故。その他もろもろキャスターが報じていた。
スーツ姿を見ると、ああ仕事に就けなかった俺って……と思いながら飯食いつつの番組を見る。
『次は……カリクス株式会社の不可解な事件について……』
「……」
母は洗い物を終えて、自分の食器は自分で洗ってと言い残し
洗濯物を干しに行った。
カリクス株式会社って……えーと、一応目を通したがゲーム会社じゃなかったっけ?上場市場だった気がする。その不可解な事件とは……What?
『カリクス株式会社が開発してからリリースした、クロニクルオンラインというゲームのユーザーが数か月前から謎の意識不明に陥るという事件で被害者の家族はカリクスを裁判で訴えるとい動きが見られ……』
「へークロニクルオンラインねー意識不明……」
―
「私達クロニクルオンラインからログアウト出来なくなったの」
―
「えっ……?」
俺は聞き間違いか?と思った。
確か昨日夢だと思っていたあのリアリティ溢れる出来事が、夢じゃなかったのかと現実味を帯びる。
ニュースは(大概)嘘をつかない。嘘をついても損をするだけ。それにこんな話で後々ウソでしたーなんて言わないだろう。と言う事は今言っていることは本当の話で、じゃあ俺が体験したあの出来事はいったい何だったんだ?
飯もほどほどに、俺はニュースを食い入るように見た。
『謎の意識不明状況に陥ったユーザーが出現してから、カリクス株式会社はクロニクルオンラインのゲームの新規受け付けを停止。しかし依然意識を失ったままのユーザーは目が覚めることなく……人工呼吸器をつけたまま病院で眠り続けているとのこと。この事件をゲーム科学ジャーナリストの……』
ジャーナリストに話したって無駄。
話す事が仕事なんだから。
それよりあの時見た夢はこの事だったのか?
本当の事だったのか?
あの女の子が言っていた事とつじつまは合う。
不可解だとは思うが実際、話をした。
夢だと思っていただけに、こんな現実ってある?それともやっぱりあれは夢で俺は体験もしてない聞いたこともない事をただ夢に見ていただけなのか。
「……」
クロニクルオンラインというゲームがいまいちまだ分かってないけど、確かにカリクスという会社が起こした不祥事はニュースで報じられている。
なんだか脳の奥がチリッと火花を散らした気分になった。
これは……一体どういう事なのか。
夢で終わってるならそれでいいけど、もう一度試す価値があるのか。
俺は飯を食い終わって、母親に一言言いあの潰れた駄菓子屋に向かうことにした。