わっつわっつわっつ!
フードを取り払ったちびっ子に謝りたい。
ちびっ子でもクソガキでもなく、ちょっと大人びた女の子だったからだ。
可愛いと言えば可愛いし、とは言ってもさっきの男達に同伴していたから当然か。服装が俺と全然違う。白のシスター服のスカート丈を短くした感じで赤いラインか模様か、それが際立つ服装。
天使かな……と思っても、羽が無い。持っているのは杖だけだ。その杖も現代的ではない。
まあ……クソガキって言ってないから、別に良いか。
それより気がかりな事を言ったな。
「俺が話す事が何かおかしいのかよ」
「おかしいわ。バグかしら……いや新しく実装されたのかも」
「は?お前の頭がおかしいんじゃないか?言ってる意味が……」
「NPCが自我持ってるって明らかにおかしいじゃない!」
―
その時俺はもう一度頭上を見た。
そこには……
「NPC:What」
確かにNPCと書かれている。
えーと確か……
「言葉の定義からすれば、プレイヤーが操作しないキャラクターは全てNPCである」byウィキペディア
「……俺が?」
「そうよ。ああもうNPCとこんなにリアルに話すのって気持ち悪い」
何を言ってるんだこの困りん子さんめ。
そう言うのはゲーム内の用語であって天国で通用する用語ではない……ここは天国で俺はとりあえず死んでるんだ。NPCだと言われてもこの子の言っている事が可笑しいとしか言いようがない。
「その位俺でも分かる。でもここは天国だ、NPCと言う言葉を使う方が狂ってる」
「は?天国、アンタ本当にNPC?」
「だから違うって俺は死んだんだって……」
「ここは『クロニクルオンライン』と言うゲーム内なんだけど」
……
このサノヴァピーめ!
訳の分からない事を言うんじゃない。
就職活動で精一杯だったから、オンラインゲームの事に関しては詳しくないが、ここは天国なのーーーっ!俺は死んだの!多分!だからここは天国で……
何かそう思っていると不安になってきた。
想像的に考えても魔物のいる天国ってあるのかな……とか。
戦う事がある天国ってあるのかな……とか。
ぐるぐる考え続けていると顔色が悪くなり……え?俺がゲーム内でのNPC?
「アンタ本当に……NPCなの?」
「分かんねぇ……自分でも分かんねぇ」
「とりあえず名前が……「What」だもんね」
あ、そう……
俺の名前なんだ。
ワッツワッツばっかり言ってたからこうなったのかな……
もう何が何だか分からない状況で困惑している俺に女の子はばつの悪い顔しながら話しかけた。
「もしかしてあれ……クロニクルオンラインから出られなくなったクチ?」
「え……何それ」
「謎のバグがあってね、最初に新規登録してログインしたユーザーがこのゲームからログアウト出来なくなったの。今は会社がバグを調査中でクロニクルオンラインに入場制限かけてるけど」
意味が分からない。
ゲームに入る出られないの時点で分からない。
元々ゲームと言うのはオンラインであろうと生身の人間が入ると言う概念は存在しないはず。そしてそこから出るという事も実現しないはず。
ただ俺が天国です!という事と彼女が言うクロニクルオンラインの不具合と、言っている事の現実味を帯びているのは彼女の方だ。
ただ俺がどうしてここに居るのか分からない。
俺はただゲーム台で眠りこけて……そのまま死んだと思っていたからだ。
「あっ!ごめん。とりあえずこの事は黙っとくわ。私やらないといけない事があるから」
「え?ちょ、ま……」
そう言って彼女は名乗らず戦死している男達の所へ向かって、杖を掲げた。
すると眩い光が放たれ、男達はあろう事かゆっくりと起き上った。
え?何?ゲーム内で言う生き返る感じ?そう言う情景のノンストップは心臓に悪い。
「マジかよ……NPCって。意味が……」
気のせいか、男達も俺の方を見ているが
女の子が取り計らってくれているのか、何かを話しかけている。
そして無情にも俺を取り残し彼女を筆頭に男達はこの場から去って行った。
おおう……見捨てられた。
クロニクルオンラインって何だよ……ゲームとか意味わかんね。
とうとう俺は寝転がって恨めしい程の青空を見上げる。
平穏そのもので、さっきの情景が無ければすんなり此処を天国と認めるのに…そうじゃない現実がありそうで。
どうしたもんかなーと思って俺は目を閉じた。