就職氷河期を恨みつつ
就職氷河期……
政権が代わっても何時の世だって、就職は厳しいものだ。
どんな専門学校や大学を出たとしても、運が悪ければ結局周囲から取り残されて
就職できずに卒業してしまう。
俺もそうだった。
なりたい職業があって、大学に進学したが―結局就職氷河期のあおりを受けて今は田舎の家族から
生活費を貰いながら暮らしている。
都会は嫌いじゃない。何でも揃う。それも田舎から出た理由の一つだった。なのにとうとう最終通達が来てしまった。
田舎からの仕送りが、厳しくなったので帰ってこい。との事。
俺は愕然とした。
勿論仕事は探すつもりでいたが、中々見つからなかった。そうこうしている間に親に負担ばかりかけて結果的に田舎に帰る事になったのだ。
都会と違い、田舎には何もない。マックゥがあるだけでも奇跡に近い。スタンバァがあると神がかりだ。そんな田舎に帰る……仕方が無かった。これで生きる価値ねーなーと思いながらニート生活を覚悟しようとしていた時だった。
「帰って来ちまったかぁ……」
場所は、都会からやっと帰って来たばかりの田舎の駅。
乗り継ぎ乗り継ぎを繰り返し、安いルートで帰って来ただけに、かなりの時間を浪費して朝出たはずがもう夕暮れ時を迎えていた。
ぽつんとした駅は、何処か寂しく。都会のあの喧噪がもう懐かしい。
「負け組だからな……しゃーねーし」
荷物を持って実家に帰る途中も、何回「しゃーねーし」と言っただろうか。
結局俺は負け組だったのだ。
周囲にいた友達は次々に就職し、俺と一部の人間が取り残され、そいつらが今どうなっているかは知らない。
自分が世の中に負けた事だけが頭に残っていた。
「何で俺じゃなかったんだろうな……」
俺かもしれなかった未来。
俺じゃなかった未来。
今は後者の方だ。
どうやって帰ろうか、そう思いながらぶらぶらと懐かしい街並みを歩いていく。
帰ろうと思えばそう遠くない距離なのに、ふらついてばかりで実家に中々行こうとしない。
負け組が帰って来たぞーとか、普通に落ち込んだまま「ただいま」と言うべきか。
どちらにしても惨めすぎて、死にそーだと思ってた。
「はぁ……ん?あれは……」
ため息をついたところで、まだ家路についていない今いる場所の近くに
懐かしい駄菓子屋が店を開けていた。
時間的にはもう閉まる頃だろう。買いに来る子供達の気配が無い。
腹も減ったし何か買って行こうか……と、その駄菓子屋に入る事にした。
「ちわーーっす……」
……返事が無い。
耳の遠いお婆ちゃんでも営業しているのだろうか。
とは言っても気配が無いどころか人気がそもそもない。
ほこりかぶった駄菓子のケース。中身は何もなく、商品棚もすっからかんだった。
奥を見てみても、誰も居ない。
もしかして……
「おばあちゃん孤独死!?」
俺は居てもたってもいられずに、駄菓子屋の中に入って行ったが
結局あちこち探してみても誰も居なかった。
明かりも付いていない。商品もない……という事はここは閉業したのか。
不況のあおりがここにもあるんだな……と思って、買うのを止め外に出ようとしたその時。
「……?」
あれは……アーケード台?
見れば外からは死角になっている所に一台のアーケード台が置かれていた。
と言っても見た事のない形。まあ世の中にはまだゲームセンターがあって色んな形のアーケードがあっても可笑しくないんだろうけどよ。
電源は入ってない様に見えた。
「真っ暗な画面。まあ当たり前か……」
店が潰れてぽつんと置かれているアーケード台。なんだか世の中から取り残された自分と同じだな……と思いながらボロボロの椅子に座ってみた。
起動する事はないと思うが、なんだか情けなくなっちまって台の上にもたれかかる。あーこのまま人生終わっても良いな……両親に恩返しも出来てないけど。と思っているとうつらうつらしてきた。
「やべ……疲れて眠たく……」
そのまま瞼が閉じようとしていた。