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ひょっとして意外な抜け道?

 実はオレはよくおばあちゃん子だって言われる。


 ばあちゃんも、じいちゃんももうとっくに天国にいっちまってて居はしないんだが、家族の中での立ち位置を見たら、それはオレも納得するところだ。


 ばあちゃんは家族の中で一番良識のある人だった。

 なんであんなチャランポランな親父が生まれたのか不思議なくらいなんだが、こと子育てに関しては苦手だったのかもしれない。

 けど、オレはそんなばあちゃんのことが大好きだった。

 ルールやマナーに関して確かに厳しくはあったんだが、その分優しくもあったからさ。


 オレも含めて、姉貴も妹も、両親が共働きだったってのもあったから、ばあちゃんにはずいぶん世話を焼いてもらっていた。

 だから、オレにとって生き方の見本ってなると、どうしてもまずばあちゃんのことを考える。

 で、なんでこんなコトを言うのかっていえばだ。

 オレはばあちゃんの言葉をふと思い出していたからだ。


『迷ったときはね、まずどうしたいのか考えるのよ。それがわかったら、しなかったらどうなるかを考える。どっちが嫌なことか、どっちが後悔することか、それが少しでも見えてくれば、あとは答えなんて自ずと出てくるものよ』


 そんな言葉をさ。

 伊達に歳はとっちゃいないよな。

 それはばあちゃんがオレに教えてくれたことの一つで、いまのオレにとってはこれほど頼りになる言葉もなかった。


 どっちがより後悔することかを考えろ。

 確かにそれが分かれば答えは出たようなもんだ。

 それに、この言葉には実はさらに続きがあってだな、


『ただし、結論は急いではダメよ。とくにお腹がすいてたりする時には頭もしっかり働いてくれないからね』


 なんて、釘も刺されたよ。

 単純に腹が減ってるのがダメだってそれを聞かされた時には思ったもんだが、たぶん本当はこういうコトだったんだろうとオレは思う。

 心身ともに充足してない時に結論を出すことはダメだってな。

 気分で判断が偏っちまう、そういうことなんじゃないかって。

 ま、いまのオレにとっては、ばあちゃんの言葉通りではあるんだが。


 つまり、時間はもう正午をまわってる。

 そんなわけで、ちょうど腹も減ってたってわけだ。

 ということは、これはまず腹ごしらえをするしかない。

 だろ?


 で、いまのところ部活に入ってないオレは帰宅部。

 始業式しかない今日の午後は完全に放課だからな。

 帰りがけにどこか寄るようなところはないかと思って、高校の周辺をぐるっと回ってたわけだ。


 やっぱ、さすがに学校の周辺ともなると違うよな。

 店も多かったよ。

 街の目抜き通りもすぐそこだってのもあって、飲食店もあれば、ちょっと聞き慣れない名前だったが、コンビニらしきものもあった。

 せっかくだから飲食店で飯ってのもいいんだが、さすがにまだそこまで立ち入る勇気もなくてだな(しょ、小心者なんだよ!)、結局、コンビニで買って近くの公園で食べることにした。

 ま、節約の意味も一応かねてはいたんだが。


 で、だ。オレがベンチに座って買ってきたメロンパンにかぶりつこうとしてたら――


「いよぅ」


 目の前にちょこんと座ってこっちに片手――いや、この場合は片足って言った方がいいのか、それを上げて、挨拶してくるヤツが居やがった。


 それを見てオレは思わず眼をまん丸にしてたよ。


「て、てめっ!」


 当然だよな。

 なにせ、そこに現れたのはあの黒猫だったからだ。


「『てめっ』って、またご挨拶だな~」


「っせぇ! チクワを奪っていきやがった恨みは忘れてねぇからなっ。この泥棒猫っ」


「ど、泥棒猫って……また古い言い方しやがるし。お前ホントに高校生?」


「やかましいわっ、ほっとけ!」


 こういうのはかなりばあちゃんの影響受けてるんだよっ。


「で、それよりなにしに来やがったんだよ? いまは猫ごときにくれてやるようなもんは持ってねーからな」


 黒猫に白い目を向けながら、ぶっきらぼうにそんなことを言ってやると、


「って、あ、あのなー、いい加減猫扱いすんなっての。お前とこうして話してるんだぜ? あたしはこう見えても妖魔なんだよ。しかも知性もある立派な妖魔なんだからな。失礼にもほどがあると思うけどな」


「はぁあ?」


 オレは一瞬それがなにかの聞き間違えかと思ったよ。

 マジで眼を白黒させて、自分でも情けないと思える声を出してたからな。

 だから、しばし考えて、頷いた。


 うん、やっぱり聞き間違えなんだ、って。


「あぁ、なんだ。ビックリしたよ。フローリングの部屋のコトか」


「あー、そうそう。たまにはワックスかけてピカピカにして欲しいもんだよな。けっこう多くの人は手入れを怠ってるみたいだから、保つものも意外に保たなくて――


 って、おい! どこをどう見たらあたしが洋間に見えるんだよ!? お前の目を疑うぞ!!」


 おぉ!! ノリツッコミ!!

 ……やるな。


「なら、アレかよ? よくおっさんたちがさ、歯に挟まった物シーシーやる――」


「あーあー、あれないと確かに困るよな~。あたしらの歯ってけっこう隙間あるじゃん? だから、食事のあとにはかかせないんだよー。シーシーって。実にスッキリすんだけどー――


 って、うぉい! なんで楊枝なんだよ!!」


「うへっ。そかそか、そうだったか。悪い悪い。そうだよな。アレなんだよな。公園の公衆トイレの近くでよく見かける茶色いバッタみたいな――」


「か、カマドウマ!? すでに別もんじゃねぇか! つか、文字数くらいちょっとは合わせろ!


 ――って、ちげぇし!! そもそもンなことはどうでもいいんだよ!」


 って、ようやく、脱線したことに気付いたのか……。

 まったく、それでキレるにしても乗る方も乗る方だよな?

 まあ、こっちとしては面白かったけど。


 で、そうなると、だ。マジでこの黒猫は妖魔ってことなるんだが……。


「……つまり、アレだろ? ファンタジーとかに出てくる妖魔ってことなんだろ?」


 オレは黒猫に聞いていた。

 その定義が具体的にどんなものかっていうのは、オレにもさすがにわからないが、イメージとしちゃあ、現実にいる動物とは違う、幻想の中の生き物って感じだよな。

 しかし、オレの力のことがあるとは言え、にわかには信じがたいことではあるが。


「ったく、マジ驚きだよ。まさかそんなことすら知らんかったとはな……。それであたしと普通に話してたってんだから、それこそ呆れたヤツだよな」


「うっさいな。順応性が高いんだよ。むしろここはそれに感心するところだろうが?」


 オレは言い返すが、そんな言葉を黒猫はあっさり無視しやがる。


「ちなみにあたしはツキグモってっんだ。こうやって名前のある妖魔はそれなりに力を持ってる証だからな。覚えとけよ」


 ってことは、つまり、お前自身にも気をつけろってことか?

 その割にはそんな感じはちっともしないんだが。


 けど、んん? 待ってよ。

 もしコイツがその妖魔だってんなら――つか、話が出来る時点でおそらくそうなんだろうが、ひょっとしてコイツにオレの力のことと聞いてみたらわかるんじゃないのか?


 確かにリクには関わるなって言われたばっかりだが、それでもコイツに関わることがそれに直結するワケじゃあないはずだし……。

 もしかするともしかする。

 これは意外な抜け道なんじゃないのか。


「……って、おーい。なに無口になってんだ?」


 黒猫のツキグモがオレに言ってくる。


「あ。つーか、うっわ~っ。なんか悪そうな顔してるなー、おい。なにかたくらんでるだろ?」


「って、それをお前が言うのかよ!?」


 まったく。こっそりチクワを狙ってたようなヤツには言われたくない。

 けど、これはやっぱりチャンスだよな。

 このツキグモがどういうつもりでオレの前に現れたかは知らないが、聞かない手はない。


「昨日のチクワ代だ。オレに一つ教えろ」


 オレは言ったよ。


「お前、知ってるはずだよな? オレの力のこと。昨日見ても驚かなかったし」


「ん? なにがだよ?」


 後ろ足で耳の付け根を掻き掻き、どことなくつまらなそうにツキグモが聞いてくる。


妖衣ドレスって言うんだろ? なんだよアレ?」


 そう真面目にオレが聞いてやると、


「ハァ~?」


 ぴたりとそれまでの動きを止めて、心底バカにするような眼でオレを見て来やがったよ。

 むしろ、なんでお前がそのことを知らねぇのかって、感じで。

 それからそのクリクリとした目を何度か瞬きさせてから、


「ぷっ!」


 腹を抱えて笑い出しやがった。


「て、てめっ!」


 イライラッ。


「クククッ。マジで知らねぇの!?」


 チラッとオレを見るツキグモ。


「……」


 本気で腹が立つ言い方だな、おい。

 けど、辛抱したさ。

 あぁ、そうだ。

 聞くまでは辛抱だ。


「……教えろって言っただろうが? 知らないから聞いてんだろ?」


 オレは必死に声を押し殺してだな、そう聞いたんだよ。

 そしたらひとしきり笑って、目に浮かべた涙をぬぐってからツキグモは、


「五葉家の専売特許だろ? そっちに聞けばいいじゃん」


 ぶちんっ!


 そう、ぞんざいに言われたら仕方ないだろ。

 オレの堪忍袋の緒も切れるってもんだ。


「てめっ! このクソ猫がっ! ぜってぇ鍋だ。鍋にすっぞ! こらっ!」


 ツキグモのシッポを掴んで、オレはぐわしっとヤツをとっ捕まえる。


「んにゃふっ! ば、バッカやろっ! ど、どこ触ってやがるっ!」


「うっせぇっ!」


 けど、オレがツキグモをそれ以上に、どうこうしようとした時だった。

 それまでの一連の流れを一切いっさい合切がっさい押し流すような、そんな出来事が起きたんだよ。


 ドゥウンッ!


 地響きと共に低く鳴った大きな爆発音。

 それは以前港で見たことがある――その時は空砲だったんだが――まるで軍艦の艦砲射撃のような重く、頭蓋骨に響くような音だった。


 公園内の木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいて、その場の馬鹿馬鹿しくも、賑やかな雰囲気はたちどころにかき消えていた。


「な、なんだ?」


 狼狽うろたえたオレは、ツキグモの首の後ろを掴んでブランブランさせながら言っていた。


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