表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/42

明日葉さんが今にもオレを殺そうとしてる……

 オレは教室に入ると、鞄を片付けている彼女の席の前で足を止めた。


「君が明日葉あしたばさん……だよな?」


 別にそんなにおかしな言い方じゃあなかったと思うんだが、意気なりにらまれたよ。


「誰?」


 ずいぶんぶっきらぼうな言い方だった。


「それもそうだな。わるい」


 オレは謝ってから、丁寧に自己紹介をして、それから本題に入った。


 おそらくここが正念場だ。

 オレの学園ライフの命運は、ここにかかっている。


「で、そのー、実は明日葉さんにお願いがあってさ。ちょっと言いにくいことではあるんだけど――

 その、昨日のことなんだけどさ」


 オレは慎重に明日葉の様子をうかがいながら、言葉を選びながら言った。


「昨日?」


「ほら、夜に」


「夜? は? なにそれ? なに言ってんの?」


 え゛? なんでそんな反応?

 つか、わからないわけないでしょ?

 昨日はじっとこっち見てたわけだし。


「いや、だからさ――」


 それでもオレは根気よく話を続けようとするんだが、彼女は煩わしそうにするだけで、一向に取り合おうとする気もなし。


 どーゆーこと?

 これってひょっとしてマズいんじゃないか?

 このままいくとシカトされかねない気が……?


 つか、それはさすがにうまくないよな。

 そっちがその気なら、こっちにも考えがある。

 オレは決めたよ。


 一つ深呼吸。

 オレは強引に打って出ることにしたんだよ。


 パンッと手のひらを自分の顔の前で合わせ、


「頼む! 明日葉さん! 忘れて欲しい! 昨日の夜のことはなかったことにして欲しい!! はじめてだったんだ! あんな下手うったのはっ! だからマジで頼む!」


 ありったけの誠意を込めてそう頼んだよ。


 そしたらだ――

 返ってきた、予想外なところからの反応。


 ざわついていた周囲が、一瞬にしてシーンと静まりかえってたんだよ。


 ……え?


 なんですかこれ?


 ぽかんとオレが口を半開きにした瞬間。


 え゛ーーーっ! 


 悲鳴にもにたどよめきが、教室をふるわせていた。


 驚いたのはオレだ。

 

 なんでそんなことになるのか、まったく見当がつかなくてさ。


 明日葉を見れば、彼女は顔を真っ赤にして、片付けかけてた筆箱を思わずガシャーンと机の上に落としていた。


 な、なぜに?


 明日葉の反応にオレが慌てふためいていると、外野たちがさらに騒ぎはじめてたよ。


「よ、夜!? 忘れてって――」


「うっそっ、マジで!?」


「あのお堅くて有名な明日葉の純血が!? あんな知りもしないヤツに――」


「う、ウソだろっ。そんなっ……、オレの女神がっ!」


「まさかのお泊まりって!?」


「oh! ウソ ダト 言ッテクレ!!」


「お、オレ、狙ってたのに……」


「オレの、オレの三次元唯一の嫁がぁああっっ」


 と、おもにその声は男子どもが中心だったよ。


 それでオレはハッと気づいた。

 オレが言い放った言葉の危うさに。


 つか、これは、か、かなりマズイ……のか?


 冷や汗がたらーりと頬を伝っていた。


 外野たちから視線を戻し、おそるおそる彼女を見ると、まるで悪鬼のごとく髪を逆立ててオレに殺気をぶつけてきていた。


「……あんた。バカでしょ? バカなんでしょ! もしくは死になさいよ!!」


 ダンッ! と教室中が揺れるかと思うほどの勢いで、彼女は手のひらを机に叩き付けていた。


「……」


 オレはごくりと息をのんだよ。

 戦慄を覚えるってのは、まさにこのことなんだなと、はじめて実感した。


 あぁ、そうだよな。

 よくよく考えればそれもそうなんだよ。

 何も知らない人間からすれば、さっきのオレの台詞は、さながら一夜の過ちをおかした男の台詞に相違ないんだから。


 しかし、例えそれがいま分かったところでこの状況は変わらねーんだが……。


 マジでやばそう。

 明日葉さんが今にもオレを殺そうとしてるようにしか見えねぇ。


 めっさこえぇッス。


「あんたはこっち来る! ――言っとくけど、これは違うからっ!」


 気づけばオレは彼女に襟首捕まれ、強引に引っ張られて、ずるずると連行されていた。


 ちなみに最後の「違うからっ!」てのは、オレじゃあなく、クラスメイトに向かって、びしっと指さして彼女は言っていた。


 けど、それの半分はどうやら逆効果だったらしい。

 照れてるとでも思われたか、外野にいた女子たちはキャーキャー言っていた。



 で、その後、明日葉にオレが連れて行かれた場所は、一階にある購買部の裏だった。

 さすがに午前中で学校が終わるだけあって、今日は購買は休みで、人も全くといっていいほどいなかった。


 そこで明日葉はいまなお怒り心頭なご様子で、腰に手を当て、強い口調でオレをなじったよ。


「ったく、マジで死になさいよあんた! なんのつもりか知らないけど、なんであんなこと言われなきゃなんないのよ! わかってる? 絶対誤解されてるわよ!?」


 うぅむ。いいわけもございません。


 オレは口をへの字に引き結んで、ただただ言葉を飲んだよ。


 彼女は、気の強そうな見た目からもわかるが、ずいぶん性格はキツいようだった。

 切れ味鋭い言葉も相まって、その迫力も倍増しだ。


 ちょっと苦手なタイプかも……。


 けど、だ。

 それでもこっちのことも考えて欲しいよな。

 あの場で、他にどう言えばよかった?


 別にこっちは意図してわざわざそんな言い方をしたわけじゃあないし、それ以前に、直接昨日の緊急異行レッドシフトしたオレを忘れてくれ、なんつってもそれはオレの使ってる呼び名であって、まず理解してもらえるとも思えない。


 そう考えたら、アレはアレで妥当な言い方だとは思うんだよな。


 ただ、彼女があまりにも恐ろしくて口には出せないが。うぅっ。


「で、なに? なにか文句あるの?」


 ひとしきり文句を言い終わって、彼女は物言いたげなオレの目を見ると、そんなことを言ってきたよ。

 けど、やっぱり文句なんて言えるわけがない。

 絶対殺される。


「ふんっ。ったく、そんなおびえた目で見ないでくれる? これじゃあ、あたしが悪いみたいじゃない」


 そして明日葉はふぅと疲れたように息をつくと、


「けど……わかってるわよっ。あんたが言いたいことは。昨日のあの姿のコトなんでしょ?」


 明日葉はそう言った。


 わかってる?


 マジで?


 オレは危うく涙ぐみそうになったよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ