押し通る!!
短めです。すんません。
「オレはただの部外者だよ」
そう、いまのオレは譲葉を背負う人間じゃない。
だが、遡れば宗主の言うとおりでもあった。
オレのばあちゃんがそうだったからだ。
ばあちゃんは、譲葉の当主だったんだよ。
あっさり捨てちまったみたいだけどな。
じいちゃんと駆け落ちするためにさ。
だからオレの姓はじいちゃんの姓である、伊垣だった。
けど、その血をオレは間違いなく引いている。
こうしてその事実を知ることが出来たのも、その血のなせる業だ。
譲葉が継承する血には、経験が蓄積されてるからな。
だからオレは宗主に言っていた。
「譲葉はもう無くなってるんだろ? なら、それであってるはずだ。オレの中にあるのはその血だけだからな。あんたの前に五葉家――いいや、七葉家だった過去に、宗家を担っていた家の人間のな」
眉がつり上がっていた。
憎しみにも近い、そんな表情で宗主はオレを見ていた。
「たかが恋慕の情ごときのために家を捨てた、愚かな血に連なる者ごときが我にほざくか! 貴様に一体なにが出来るというのだ!? イジューが貴様に屈するとでもいうのか!?」
酷いセリフだったよ。
一体どっちを庇おうとしてるんだか。
ただ、言いたいことはさすがにオレも理解はしていた。
なにせイジューを生け捕りにするなんてのは、困難極まりないことだからな。
力が格下なら容易いことかもしれないが、それが同格以上となると話は大きく変わる。
普通に考えて、いまのオレに出来ると思うのは間違いだろう。
だからか。
宗主は思い直したように、すぐに言葉を翻していた。
口元をわずかにつり上げて。
「……だが、そうまで言うならかまわん」
笑っていた。
少なくともオレにはそう見えた。
「貴様がやりたいというならば、勝手にやればいい。我らは邪魔はせぬ。やれるものならやってみせるがいい。譲葉伊那の孫よ」
「――宗主様っ!」
リクが悲鳴にも近い声を上げて、思いとどまらせようとしていた。
あの宗主に向かって、だ。
さすがに我慢できなかったらしい。
だが、オレは別にそれでかまわなかった。
「あぁ、助かるよ」
そう、宗主に皮肉たっぷりに言い返していた。
宗主はつまるところ一人でやれ、そう言ってたんだよ。
だが、実際のところ、オレにしてみればそっちの方が好都合だった。
なぜなら人を巻き込まないですむからだ。
それに――
「大丈夫だ。リク」
言ったはずだ。オレには切り札もある。
心配そうにオレを見てくるリクにオレはそう言ってから、再び宗主に視線を向けていた。
「あんたは知ってるはずだ。譲葉の力のことを。譲葉が他の家と異質なのは、血の純度を高めなくても受け継がれる、その力の特殊な継承の仕方だけじゃあなかったはずだ」
「……」
宗主の顔が歪んでいた。
気付いたようだった。
「リクに言われるまではオレも気付いてなかったんだけどな。……いんや、この場合は知らなかったって方が正解かもしれない。けど、オレの中に流れてる血が、さっきそれを教えてくれた」
オレの中にはもう一つの力が眠っている。
その存在を感じてはいたんだが、それが何かいまのいままで理解出来ないでいた。
けど、リクの言った言葉でそれが何なのか、正体がようやく分かったんだよ。
オレは右腕を軽く振るっていた。
その一瞬でオレの手に生み出されたのは、わずかな重みだ。
「!!」
その場にいた三人が、息を呑んでオレが手にしたそれを見つめていた。
それは一振りの太刀だった。
全てが黒く、光さえ飲み込んでしまいそうな深い闇色の刀身を持った刀だ。
美しく、そして尋常ではない妖しい輝きを持った刃だった。
「黒月刃……」
苦々しい顔をして宗主が言っていた。
そう、それがこの太刀の銘だった。
「まさか、瞑具……? ホントにそれが瞑具?」
リクが陶然と見ていた。
オレは否定しなかった。
この太刀はオレがイメージで作り出した装具じゃあないからだ。
昔、オレがちっさいころに、ばあちゃんから譲り受けた物。
その時はこれがなんなのかまったくオレには理解できていなかった。
だから扱うことも、こうして手に具現化させることも出来なかった。
当時のオレはただの子どもで、ただの人間だったっていうのもある。
けど、いまはそうじゃない。
まるで空気が凝縮されて形を取っているかのようにコイツは軽く、オレの腕の一部であるかのように馴染んでいた。
「これがどんな物なのか、あんたには分かるだろ?」
リクが口にした、妖魔を従わせることが出来るといった漆黒の太刀。
それが、まさにこの瞑具のことだったんだよ。
「むぅ。本物だと……いうのか? それがあの黒月刃だと?」
宗主が驚愕に打ち震えながら後ずさっていた。
「信じる信じないは勝手だよ。けど、見てればわかる。それが証明だ。オレはこれで全部を掴みとる。そしてあんたらの欺瞞をぶった切る!」
太刀の切っ先を宗主に向け、オレはそう宣告していた。
もうこれ以上は誰にも文句は言わせはしなかった。
これはオレの選択なんだ。
この現状を打破するために、明日葉の過去を消し去るために、オレはこうすることに決めたんだ。
オレはもう誰の言葉も待たなかったよ。
足を踏み出していた。
椿を押しのけ、宗主の前を横切り、リクに小さく笑いかけ、そして離れた場所にいるイジューをまっすぐ見やった。
宙で刀を振るっていた。
一閃。
風が裂ける。
鋭い音がオレの耳に届いていた。
やれる。
実感していた。
妖魔と戦った経験なんてもんはオレにはもちろんなかった。
だが、オレがいま必要としてるもの、必要としてる知識、必要な力は、全てオレの血とオレの身体が、与えてくれていた。
それが譲葉の力なんだよ。
オレは黒月刃の柄を握りしめていた。
イジューは必ず従わせる。
そして椿の家の暗部を白日の下にさらしてみせる。
オレは覚悟を決めていた。
「頃合いか」
呟いていた。
見計らったように、イジューを取り囲んでいた黒服たちが、退き始めていた。
おそらく宗主が指示でも出したんだろう。
オレは地面を蹴った。
「いいぜ。部外者が押し通る!!」
オレは気炎を吐いていた。
次話は月曜のアップ予定です。




