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さらけ出されたもの

 ドォウッ!!


 それは青白い炎を纏った光の球だった。

 妖気で形作られた、破壊エネルギーの弾塊だんかい

 それがオレたちの――とくに椿がいたすぐ近くの立木に直撃し、猛烈な衝撃波を生じさせていた。


 閃光!


 衝撃波がオレたちを諸共になぎ払っていた。


 逃げるタイミングなんて、これっぽっちもなかった。

 オレは為す術無く吹っ飛ばされ、地面に投げ出されていた。

 ギリギリ受け身を取ったおかげで、擦り傷以外の怪我はなかったが、飛んできた土をしこたま食らっていた。


 くっそ。


 ぺっぺ!


 つばごと吐き出して、オレは体勢を立て直す。

 いま早急に必要とされることは、状況の把握だった。

 イジューが迫っていれば、このままじゃマズイ。


 どうなってる?


 オレは気配のアンテナをのばしていた。 

 詳細にあたりの気配を探る。


 ……まだ遠い、か?


 イジューの位置が確認できて、やれやれとオレは胸をなで下ろしていた。


 どうやらイジューは、それほど近い場所にいるわけじゃないようだった。

 目下もっか、黒服の精鋭たちと交戦中のようだ。

 いまのところはそっちに気を取られてるせいか、こっちに来る気配もなかった。


 ということは、さっきのはやっぱり狙ってこっちに放ったってわけじゃないのか。

 流れ弾といったところだろう。


 それにしては凄まじい威力だったが。

 距離は50メートル以上、イジューからは離れてるはずなんだが、妖気の球はほとんど威力を減衰させることなく、立木の上半分を木っ端微塵にしてたからな。


 アレがオレたちに当たっていたらと思うと、正直ゾッとするな。

 外れてくれてマジで助かったよ。


 けど、だ。

 その考えが実は大いに間違ってたことを、その直後にオレは思い知らされていた。


 バカだったんだよ。

 なんで気付かなかった?


 木が粉砕されるような衝撃波の間近にオレたちはいたんだぞ?

 それが無傷?


 違う。

 全部リクのおかげだったんだよ。

 いち早く気付いたリクが、盾となってオレと椿を衝撃波から守ってくれてたんだよ。


「……」


 だから、オレはリクを振り返ったとき、ただただ呆然とするしかなかった。


 リクは妖衣ドレスを纏っていなかった。

 間に合わなかったんだろう。

 でなければ、そんなことにはならなかったはずだ。


 リクは椿のそばで地面に膝を着いて、大量の土砂やら木くずやらを浴びた姿で、顔を俯かせていたよ。

 隠そうとしていたようだったが、オレの場所からははっきりと見えていた。


「お前、その目……」


 左目だった。

 閉じられたそのふちから血が零れ出していた。


 なにが起きたかは想像できた。

 衝撃波の残滓ざんしがその目を傷つけたんだよ。

 それがどの程度のものかは、ちょっと見ただけじゃわからなかった。


 だが、眼球ってのは人間の身体の中で、極度にもろい部分であるのは間違いない。

 少しの衝撃で簡単に傷つくものだ。


「だ、大丈夫よ。このくらい! ほら唾つけとけば――」


「バカか! 治るかよっ!」


 オレは思わず真顔で怒鳴って、駆け寄っていた。


 リクは来るなと腕を払って、オレを近づかせまいとしたが、オレはその腕を無理矢理掴んで黙らせていた。


「見せてみろ!」


 オレは、顔を背けるリクの、閉じられた目へと視線を向けていた。


 思いの外、出血が酷いようだった。

 おそらく傷がそれだけ深いんだろう。

 すぐに処置をすべき怪我だと思ったよ。


「オレたちがこんな場所で下らない話をしてたせいで――」


 忌々しげにオレはこぼしていた。


 もちろんわかってる。

 そんなことを言ってもいまさらなのはな。


 だからオレはすぐに聞いていた。


「どこへ行けばいい? 装具アーティカで治療してもらえば、すぐにこんなもんは治るんだろ?」


 オレは空木が、椿の家で怪我を治してもらっていたのを思い出していた。


 だが、リクは顔をしかめていた。

 それこそオレを責めるように見て。


「こんな状況じゃ無理よ。これ以上あたしが戦線から抜けているわけには行かない。それにもっと酷い怪我の人もいるのよ? 死にかけてる人間を前にして、先にあたしを治せなんて言える?」


 リクは頑とした意志をオレに向けてきた。


 オレはそれに面食らっていた。

 そして恥ずかしくなった。

 オレとリクの覚悟の違い、それをまざまざと見せつけられた気がした。


 だから、オレはすぐには言い返すことが出来なかった。


 オレの手が自然とリクの腕から離れていた。


「それにこれはあたしのせいなんだから。あたしが未熟だったからよ。誰のせいでもない。だからあんたが気にすることでもない」


「あぁ、そうだよ。その通りだよ。自業自得さ」


 不意にそこに声が割り込んでいた。

 椿だった。


 ようやく立ち上がったかと思えば、椿はオレの後ろからそんなことを言って来たんだよ。


 自業自得?


 オレは自分の耳を疑っていた。

 信じられない思いで椿を振り返っていた。


 それが自分を助けた人間に向かって言う言葉か?

 感謝すらなく、あまつさえなんでそんな言葉が吐ける?


 だが、椿の言葉はそれだけにとどまらなかった。

 椿は苛立たしげにリクを見て、さらに言いつのった。


「けどさ、リクちゃん。もうちょっとやり方があったんじゃないかな? この俺を無様ぶざまに地面につくばらせるなんてさ。俺こう見えても椿家の次期当主だよ? みっともないったら無いじゃない」


 椿は頭にかぶった土埃を煩わしそうに手で払いながら、オレを押しのけていた。

 そしてリクの正面に立っていた。

 目がスッと細くなって、リクになにをするかと思えば、


「な!?」


 その次の瞬間、オレは信じられない光景を目の当たりにしていた。


 スパァンッ!


 椿がそのリクの頬を、容赦なく引っぱたいていたからだ。


 オレは言葉を失っていた。

 目を見張ってそれを見ていた。


「……なぁ、お前さ。ひょっとして俺がどうなってもいいとか、心の底じゃ思ってたりするんじゃない? だから、俺をこんな目に遭わせる。

 けど、わかってるよな? オレにもしなにかあったら、責任はお前にあるんだぜ? そうなったら今度は家の取りつぶしどころじゃ利かなくなるってのはわかるよな? 奴隷……。そう俺の奴隷なんてどうだ? いい案だろ? なぁ、リク?」


 サディスティックに嗤う椿。

 豹変と言う言葉がこれほどふさわしい状況もなかった。


 椿のそれは背筋の寒くなるような低い、静かな声だったよ。

 普段が普段だけに、返ってそれが異様な凄みを持っていた。


 リクはただ顔を俯かせて頷いていた。


「……はい。申し訳ありません」


 と。


 オレは震えていた。

 愕然としていた。

 こんな理不尽なことってあるかよ。


 椿の理不尽はなおも続いていたよ。


「だったら、わかるよな? お前がやることは。こんなところで馴れ合ってる場合じゃないだろ? さっさとあの化け物退治してこいよ。なあ? 早く行ってこいよ! リク!!」


 リクはただ黙ってその言葉を聞いていた。

 驚いた様子はなかった。

 きっとそれが日常的なことだからだろう。


 あらためてオレはリクの立場を理解させられていた。


 おそらくその言葉にも、リクはあらがうことはしないだろう。

 そうやって彼女はこれまで生きてきたんだ。


 けど、オレにはそんなリクの姿は受け入れられなかったよ。

 耐えられなかった。


 それに椿も椿だ。

 ありえないんだよ。

 なんでそんなことを言うんだ?


 まずさきにすべきことがあるはずだろ?

 なんでリクの心配をしない!?

 いまリクが負った怪我は目だけじゃあないってことくらい、わかってるはずだろ!


 それにリクは疲弊してるんだ。

 それでまともにイジューとやれると思うのかよ?


「……はい」


 そう言ったのはリクだった。

 それでもリクは従順に椿の言葉に従おうとしていた。


 だが、オレがそれを許さなかった。

 なんと言われようと、オレが許さなかった。


 オレはそんなリクの腕を思わず掴んでいた。


「!?」


 驚いたようにリクはオレに顔を向けて来ていた。


 だが、そんなオレに言葉を向けてきたのは椿だった。


「まったく……。いい加減にしろよ。はっきり言うと邪魔なんだよお前。これ以上こっちの問題に首を突っ込んでくんなよ」


 椿がオレのリクを掴んでいる手を、掴んで来た。


 だが、それでいくら力を入れられようとも、オレはリクのその腕を離さなかった。


 これはもっと余裕のある時にすべきだと本当は思っていた。

 こんなところで話すべきことじゃないと思っていたからだ。

 けど、さすがに我慢ならなかった。

 こんなリクの姿を、あまりに不憫ふびんな彼女を、見てなんかいられなかった。


 オレは猛っていた。


「るせぇな放せよ! てめぇの言葉、その仕草、全部嘘くせぇんだよ! お前ら――お前ら椿のヤツらはな! 欺瞞ぎまんうずもれた、嘘つきばかりのクソヤローどもだろうが!」


 ぶちまけずにはいられなかった。


 ラボで見たもの、そこでツキグモに教えられたもの――


 椿家の真実――


 オレは猛っていた。

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