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オレが嫌なタイミングを、あいつは狙って出て来てるんじゃないか?

「君はどうしてここにいる?」


 オレを射抜くような視線だったよ。

 逃げることを許さない、そんな厳しさを持ったそれだ。

 それにはさすがにオレも狼狽うろたえた。

 まさかこんなタイミングでそんなことを聞かれるとは思わなかったからな。


「陣は張ってあったはずだよ?」


「……陣?」


 無理だとはわかってはいたが、はぐらかすようにオレは視線を周囲に向けた。

 正直、言い訳すら思いつかなかった。

 けど、その行動がかえってオレが、その言葉の意味を知ってるって事を彼女に教えてしまっていた。

 『陣』なんて初めて聞いた人間が、まわりを見るはずがないからな。


「……なるほど。どうやら君はすでにただのリクの知り合いというわけではないようだな」


 空木は肩をすくめていた。


「ならば、ここで何が起きたのかも大方おおかた想像が付いているといったところだろうか?」


 なぜ陣を張る必要があったのか。

 たとえオレが気配を感じることが出来ない人間だったとしても、彼女の状態と、この周囲の惨状を見れば、その理由を察することは難しいことじゃない。


 オレはすんなりと認めることにしたよ。

 嘘を着いたところでこの人にはすべて見透かされそうだしな。


「大方は」


 空木はそれを聞いてゆっくり深く、息を吐き出していた。


「そうか……。我々のことに首をつっこむことは関心はしないが、理由はあるのだろうな。でなければ、そんな必死な顔をして私の前には現れないだろう」


 そしてふと空木はオレに微笑んだ。

 まるでオレをねぎらうかのように、だ。

 一瞬、オレはその優しげな表情に泡を食ったよ。

 自分が負傷しているにもかかわらず、どうしてそんな顔をしてみせることができるのか。

 正直器の大きな人だと思った。


「ならば、そんな勇気ある少年に敬意を表してフェアに行こう」


 空木はそう前置きすると、その場で立ち上がり、近くの車のボンネットに軽く腰をすえていた。


「君の知りたいことはなんだ? それを教えて欲しい。答えられればそれに私が答えよう。その代わり、私も君に一つだけ聞く。それでどうだろうか?」


 つまりは取引ってことだ。

 彼女のことは信用はできると思う。

 あの椿のボンボンとは違ってな。

 けど、提案に乗るにしても聞かれる内容にもよるんだよな。


 それを伝えると、空木はすんなりと言ってきた。


「そうだな。私が知りたいのは、君が何をしようとしているのか、だ。大方のことはすでにリクから話を聞いてしまっているのだろう?

 記憶を操作する方法でもあればいいが、生憎そう言うことの出来る者は五葉家にはいないのでな。いまさら無理なことを求めても仕方がない。私はその先を知りたいと思っているんだよ」


 その先?


 一方的に言い訳するなって言う大人より、ずいぶんと建設的な意見だと思ったよ。

 やっぱりこの人は五葉家ではあっても、椿の人間とは全然違うみたいだな。

 それなら取引に乗る価値は大いにありそうだ。

 なら、何を聞くことが最善かオレは考えた。

 そして選択した。


「じゃあ、こっちはリクのことを教えてもらえませんか? 学校に来てないんです。どういうことか教えてもらえませんか?」


 それを聞いた空木がひどく意外そうな顔をしていた。

 その空木の反応の方がオレとしては意外だったんだが。


「そんなことでいいのか? てっきり私はここで起きたことのあらましを聞きたいのだとばかり思ったんだが。……いや、すまないな。そんなことと言っては申し訳ないか。君は真面目に聞きたいのだから。

 しかし、これは邪推だろうか? そういうと言うことは、すでにここであったことには興味がないと言うことになる。まるで全て知っているかのように」


「まさか」


 慌ててオレは両手を振って否定した。


 鋭すぎるよな。

 そんな答えではぐらかせたかは分からないが、常識的に考えればそれは不自然な答えじゃあない。たぶん大丈夫なはずだ。


「それならばいいのだが、ただ、リクの事については正直、正確なことは私にはわかりかねるよ。まぁ、想像は付くのだがな」


 それから空木は「おそらく――」と続けようとしていたが、


「その必要はないですよ」


 横やりを入れられていた。


「……」


 聞き覚えのありすぎる、イライラする声だ。


 オレは苦い顔をしていた。

 振り向くと、案の定だ。

 そこにいたのは思った通りの人物だった。

 椿鋼士郎。

 オレが嫌なタイミングを、あいつは毎度毎度、狙って出て来てるんじゃないかと疑いたくなるほど、嫌なタイミングで現れやがる。


 気怠そうに歩いてきて、オレの前でヤツは足を止めていた。


「わかったしね。キミにはどうやら俺が徹底的に教えてあげないとダメそうだ」


 物腰こそ柔らかいものの、どこか不機嫌。語気の端々が妙に刺々しかった。

 オレがここに居たせいか、それとも妖魔絡みで来るハメになったせいか。

 まぁ、どっちもかもしれないけどな。


「キミの目的はリクちゃんなんだろ?」


 椿はオレに突然そう言ってきたよ。


「リク?」


 目的が? なんかおかしくないかそれ?

 たしかにオレは空木にはリクのことを聞こうとはしたが、それが目的かって聞かれると、見当違いもはなはだしい。


「へぇ、とぼけるのかい? まぁ、いいんだけどさ。わざわざそんなことしなくっても、俺にはわかってるし。だからこそ、俺は親切心からキミに教える気になったんだからさ」


 椿は軽く手を振って、自分の憶測で勝手にオレの言葉を否定する。


「…………」


 ったく、こういうのが苛っとするんだよな。

 人の話を聞きやがらない。

 けど、こうやっていちいち腹を立てることも妙に悔しくなってくるから、面倒臭いよな、オレの性格。

 だからオレは、とりあえずヤツの言うに任せてみることにしたよ。

 どんな勘違いをしてくれてるのか。


 椿は言ったよ。


「けど、きっとキミは思うはずだ。聞かなかったらよかったってね。……まぁ、もっともそんなことはいま言われなくても、そのうち誰かから教えられるだろうとは思うんだけどさ。それでもいまなら傷も浅くてすむんだから、俺には感謝して欲しいよね」


「で、つまり何が言いたいんだよ?」


 オレは気怠い視線を椿へと投げかけた。


「性急だね? それが恩人になろうって言う人間に対してかける言葉かい?」


「……」


 あー、めんどくさっ。回りくどっ。


 けど、さすがに椿のヤローもそんなオレの態度見て察したらしい。


「わかったわかった。わかったよ」


 諦めた風に椿は首を横に振ると、ようやく本題に入った。


 すぅと息を吸い、オレをまっすぐ見。



「リクちゃんはさ、キミのものにはならないんだよ。永遠にね」



 そう言った。

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