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吠える!

「椿様っ!」


 リクが悲鳴を上げるように言葉を挟んでいた。


 けど、椿にそれを聞く気はまったくないようだった。

 ただ淡々と言っていた。


とがを背負う血脈なんだよ」


 咎? 咎を……背負う?

 咎って、罪ってことだよな?


 その椿の言葉がひどく寒々しく聞こえたのはオレだけか?


 オレはリクの顔を見た。

 リクは悔しそうに唇を噛み、そして椿を睨み付けていた。

 いまの椿を止める術はない。そのことを悟ったようだった。


「明日葉の家は、代々才気溢れる人間の生まれる大変な名家だったんだけどね。その才能を私利私欲に使っちゃったんだよ。自分たちに流れる妖魔の血、それを他の方法で高めることは出来ないかって」


 オレは椿へと視線を戻す。

 すぐには言ってることは理解できなかった。

 けど、椿が続ける中でなんとなく事態を理解し始めた。


「あ、ちなみに妖魔はわかるんだろう? うん、その顔からすると知ってるようだね。そう、その妖魔のことだよ。リクちゃんの家は、それを研究していたのさ。けど、その研究の実験の最中、大きな失敗を犯した――


 生物と妖魔の融合。


 それによってできあがった人工妖魔によって、明日葉家は大勢の人の命を奪ってしまったんだよ。

 その数、一一三名。

 その中には俺の母親も含まれていてね――

 それはまさに明日葉の血が生んだ最悪の事故だったんだよ。昔から、明日葉家にはそういう歪んださがを持って生まれる者が多かったようでね。


 天才と狂気は紙一重。よく言ったものだよ。

 それだけに優秀な人間も多かったってことでもあるんだけど、でも、それがその時に限っては悪い方に出ちゃったんだね。

 つまりだ。それでなにが言いたいかというと、リクちゃんの中には、そんな狂気を生んだ両親の血が流れているってワケさ。

 いつ彼女もその狂気に取り憑かれてしまうか分からない。


 その証明にほら、いまはこうしてこんな場所にいるだろう? これが普通の人間の考えるようなことかい?」


「……」


 リクはぎゅっと口を引き結んだまま、なにも言わなかった。

 それはその椿の言葉を肯定すると言うことなのか?


「どういう理由でキミがリクちゃんに協力してるかはしらないよ。けど、咎を背負った者に手を貸すなんて言うのは、バカらしいことだと思わない?

 明日葉は罪を背負ってでも、自分を貫き通す血族だよ。それが正しくないことでも、だ。

 キミは明日葉家みたいに罪を犯したいわけじゃあないんだろ?」


「……」


 オレは深く考えた。

 その間、無言のままリクが悲しげな視線をオレに向けてくるのが分かったよ。

 けど、オレは彼女の方をまっすぐ見ることが出来なかった。

 そのことに罪悪感を覚えていても。


「だから、これ以上関わらないことをオススメするよ。リクちゃんは汚名をそそぐことに躍起やっきになっているだけなんだからね。それに付き合えばキミもまた、別の汚名を被ることになりかねない。

 これはキミを心配して言ってるんだよ。リクちゃんもまた、彼が罪を背負うのを見たくはないんじゃない?」


「……」


 リクが息を飲み、椿を見返していた。

 ただの一言も言わなかったが、なにを考えているかはさすがにオレにも分かった。

 頭のどこかではわかってはいたことかもしれない。

 そういうことが起きうるのだと。

 けれど、それを他人からまざまざと突きつけられると、やはり狼狽うろたえずにはいられない。

 人はそれほど頑強がんきょうには出来ていないからだ。

 リクの心にひびが入る音が聞こえた気がしたよ。


 椿の言葉は確かに聞き触りの良い言葉ではあったよ。

 けど、実際には脅迫となんら代わりがなかった。


「さて、リクちゃん。もう十分だろ? これ以上俺に何かを言わせる手間をとらせないでもらえないかな? 素直に一緒に来て欲しいんだよ。データもリクちゃんが持ってるんだろ?」


 リクは逡巡しゅんじゅんしてるように見えた。

 けど、心の中で勝ったのは諦めだったようだ。

 リクは無言でポケットから持っていたUSBメモリーを出していた。

 一度オレの方を見て、それから椿に歩み寄ると、自らそれを差し出していた。


「……いいのか? リク、お前はホントにそれでいいのかよ?」


 オレはそう言うが、リクは聞かなかった。


 椿はオレを見て、そして笑っていた。

 けどその目には、ひどく冷めたものがうっすらと浮かんでいた。

 まるで取るに足らないものでも見るように。


「今夜はキミも大変だったね。家へは家人に送らせるよ。車に乗っていくといい。だが、覚えておいてもらえないかな。これは五葉家の問題なんだよね。キミにはなんの関係もないことなんだ。部外者はこれ以上関わってはいけない。

 でないと、その身の安全すら天秤にかけてもらうことになりかねないからさ。これはリクちゃんだって望んでいることなんだよ。わかるだろ?」


 ゾッとした。

 その拒絶の言葉がはらんでいたのは、殺意にも似た感情だった。

 はじめから椿のことが冷淡に感じられていたが、その思いがずっとオレに向けられていたからかもしれない。

 それをこの時になって、オレはようやく理解させられていた。


「さて、行こうかリクちゃん」


 椿が親しげにリクの肩を抱いて、連れて行こうとする。

 その様子にオレは奥歯を噛んだ。

 苛立たしかった。吐き気すら覚えるほどに。


 我慢できなかった。

 だから、思わずオレは荒い声を向けていた。

 けど、その矛先は椿じゃない。


 リクに、だ。


「ざけんな……。ざけんなよ――


 ざけんじゃねえよ! リク!!」


 なんでそんなにいさぎよすぎるんだよ!

 情けなすぎるだろ!?

 なんですんなり受け入れる?


 オレにはそれが我慢できなかったんだよ。

 確かに椿にも腹は立ってけどな、それ以上にリクの姿は受け入れがたかった。

 凜として、自分を貫き、毅然きぜんと物事を言う。

 そんなリクはどこいった?


 オレはここで言わなけりゃダメだと思ったよ。

 でなけりゃリクは、ここで心を折られたまま立ち直れないんじゃないか、そう思えたからだ。


 リクはオレを振り向きはしなかったよ。

 けど、それでもオレは構わなかった。聞こえてるはずだからな。

 オレの声はまだ届いてるはずだ。


 オレは黒服たちに道をふさがれ、それ以上はリクに近づけなかった。

 だからその場で聞こえるように、声を振り絞った。


 自身でも、なんでそこまで突拍子もないことを言えたかはわからない。

 けど、部外者って言われてカチンと来てたってのがあると思う。

 要は頭に血が上ってたんだな。


 オレはこう言ってたんだよ。


「逃げんなよリク! いま諦めたら後悔するのはお前だからな! オレは絶対諦めねぇよ! お前がどう考えたとしても、だ!


 それにムカツクんだよ! なんだって、お前一人で全部決めようとする!? 今回のことだってそうだ! いまだって! 全部勝手に終わらせようとすんなよ!! オレのことまで勝手に決めんな!


 オレのことはオレが決めることだろうがっ!


 罪だってなんだってそうだ!

 被るのだってオレが決めることなんだよ!


 お前は独りよがりなんだよ!!


 たまにはオレを頼ってみろ! 信用してみろ!


 それが無理だってんなら、オレを支配でもなんでもしてみればいい! オレを従えてみればいい!

 どんな方法だっていいんだよ! 明日葉に名字を変えろっていうんなら、あぁ、いくらでも変えてやる!

 オレを部外者にするな!


 仲間にしろ!


 身内にしろ!


 家族にしろ!!


 オレは諦めないからな!!

 オレはこんなことくらいで、お前を否定しちまえるほど賢い人間じゃあないんだからな!

 咎だろうがなんだろうが、関係ないんだよ!


 だから、覚えとけ!

 オレはお前の味方で、共犯者で!! それでいつか家族にでもなってやる男なんだよ! わかったか、リク!」


 オレの全身全霊を傾けたげき

 リクにいま渡すことの出来る、精一杯の言葉。


 それに彼女は恐ろしい早さで返事を返してきたよ。

 また、ずいぶんと分かりやすい言葉だった。


 顔を真っ赤にしながらこう罵倒して来たんだよ。


「死ねっ! そっちがふざけんなっ!」


 それを聞いて、オレは思わずにやりとしちまっていた。

 それだけ言えるなら、とりあえずは安心してもいいと思ったからだ。

 それにオレには見えたからな。少しだけリクが笑ったように。

 その場でなにかを呟いたようにも見えたが、そこからじゃオレには聞こえなかった。


 けど、それで一安心とは当然行かなかった。


 次の日だ。


 リクは学校に来なかったからだ。

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