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消された理由(下)

「大丈夫よ。いまのことは彼女の記憶には残らないから。簡単な暗示くらいなら私でもかけられるの」


 オレの心配を察したようにリクは言っていた。


「……それとも、その顔は私が妖衣ドレスをまとえたことに驚いてる?」


「どっちも……かな」


 オレは苦笑いして答えたよ。

 完璧に見透かされていた。


「まぁ、それもそうかも。あんたは自分以外の人間は知らないんだろうし。私も含めてだけど、五葉家の人間は、全員が全員ではないんだけれど、こうして妖衣ドレスをまとえるのよ。


 特に当主になる人間は、それが最低限必要な資質になっているから。もっとも妖衣ドレスがまとえるか、まとえないかは、先天的なものだから、本人にどうにか出来るようなものじゃないんだけれどね」


 ということは、つまりその論理で言うと、オレの力も先天的なものだったってことになるよな。

 けど、つい最近までは――事故に遭うまでは確かに出来なかったはずなんだが。

 うーむ、どういうことなんだ?


「あんたの場合はそれも当てはまらないのかもしれないけどね。五葉家の人間じゃないし。妖衣ドレスをまとえる理由も、しかもそれが男子だっていうことも」


 って、なんでそこに男であることが関係する?


 オレがそれを聞くと、


「あぁ、五葉家の中でも妖衣ドレスをまとえる男子は本当に少ないから。男子に力が継承される確率はもの凄く低いの。現当主様以外では鋼士郎様くらいなものなのよ。そう、だから、余計にそうなの」


 そう言うリクの表情が、ふと陰ったように見えた気がしたが……気のせいか?


「ま、それはそれとして、どうでもいいことよ。それよりあんた、さっき何かを聞きかけてたわよね?」


「ん? あ、あぁ、うん」


 なんかいま、話をはぐらかされた?

 まぁ、どうでもいいって本人が言ってるんだから、そういうことなんだろうが。


 オレは再び管制システムの話に戻す。

 七川の登場で中断されたところからだ。


「さっきリクは管制システムを調べようとしたって話をしてたのは分かったんだけどな、それがなんでかってことを聞かなかったから聞こうと思ったんだよ」


「あぁ、なんだ。そんなこと」


 リクは頷いていた。


「管制システムで妖魔の位置情報が分かれば、その妖魔がどこから現れ、どんなふうに移動して、何を目的としているのか、分析することが出来るかもしれないからよ。

 低級の妖魔ならほとんどそれに規則性はないんだけど、それが貴族となれば別だと思ったの。だから管制システムのログを探った。

 あんな形で無駄足になるとは思わなかったんだけれどね」


 リクは息をついていた。


 けど、本当にそうか?

 オレはなぜだかそう思ったんだよ。

 本当に無駄だった?

 少なくともログが消されていたというのは、なんらかの事情があったということだよな。

 なら、それが分かれば、なんらかの核心的な情報が得られるということでもあるんじゃないか?

 それはつまり、ここに答えがあるぞと言ってるようなもんだってことだろ。


 と、そこでオレは思ったよ。


「そのログってのは削除されたら、それでおしまいなのか? バックアップとかって録られてないもんなのか?」


「あ」


 オレが聞くと驚いたようにリクは目を大きくしていた。


「そっか……。そうよっ!」


 その反応はつまり、あるってことか。


「なんで思いつかなかったんだろ。あんたなかなかやるじゃないっ」


 だんだんっとリクに背中を叩かれる。


「もしかしたら五葉家のデータセンターにはそれが残ってるかもしれない」


「データセンター?」


「データの集積だけをしてる、専用の情報施設があるの」


 興奮気味でリクは言い、


「……ちなみにそれ、簡単に調べられるものなのか?」


「決まってるじゃない。無理よ! けど、出来ないっていうわけでもない。その施設に直接行って端末からデータを引き出せば、きっと可能なはず。ただ、警備は官制システムの比じゃないから、慎重に忍び込む必要があるけれど」


 し、忍び込むって、いいのかよそれ?


「……ちなみに出来るのか?」


妖衣ドレスを使えばね」


 あっけらかんとリクは言った。

 なるほど。確かに、さっきみたいにやれば出来ないことはないのか。

 けど、さすがに心配だよな。

 あまりに無茶をすれば、五葉家内でのリクの立場も悪くなりかねない。


「だったら今度は、オレも――」


「いらない」


「はやっ!」


 ったく、オレの心でも読めるのか?


「そんなあっさりフるなっての。共犯なんだよオレらは。それに心配だしな」


「場所も、勝手も分からない人間はかえって足手まといなのよ。それこそこっちの苦労を増やさないで」


 い、いちいちごもっともな意見ではある。

 が、もっと言いようってもんがあるだろうに。

 なんてオレは思うわけだが、リクは突然ふいっと顔を背けると、


「けど、その……りがと。あんたの気遣いは嬉しい……かも」


「んん?」


 いま、なに言った?

 オレがリクに顔を向けると、


「な、なにも言ってないけど?」


 とリクはなぜだか怒ったように言って、ドアに向かって歩いていく。


「え?」


 なんだかポツンと取り残された、残念感満載のオレ。


「それじゃ、また明日ここで」


 そう言ってリクはスタスタと階段を降りていった。


 って、マジでそんなあっさり対応かよっ!


「勝手に決めて、勝手に行って、勝手将軍過ぎんだろっ」


 オレは唖然とそれを見送って、そう吠えていた。


 リクはオレに責任を背負わせまいとしてるのか、それとも一人でやる方がいいとでも思ってるのか、オレとしてはやっぱり気に入らないよな。

 ひょっとしたらまだどこかで五葉家に関わらせまいと思ってるところもあるのか。

 だとしたら、許せないな。オレは何かしたいんだからさ。


 今朝の臨時の朝礼でも思ったよ。

 実原の死。

 事故死だと伝えられたが、もちろん事実は違う。

 実原は妖魔に殺された。

 それを表に出せなかったとしても、それを知ってるからこそ、このまま放置はしておけないってな。

 何より、このままじゃあオレの気は済まないんだよ。


 とは言え、それでオレに何が出来るかって言えば……それがまだよくわからない。

 一体何が出来るんだ?



「お困りのようですね?」


「おうふっ!!」


 突然横から声をかけられて、オレは驚きのあまりその場から飛び退いていた。

 横に顔を向けると、そこにいたのは朝礼の時にも見た人物だ。


「こ、校長先生っ!」


 白髪をオールバックにした、やややせ型の初老の紳士。

 黒地くろぢ校長だった。


 なんでこんな場所にいるのかさすがに訝ったが、それを聞くより前に校長にそれを差し出されて、すぐにそんなことはどうでもよくなっていた。


 紙?


 それを受け取って、オレが目を向けると、


「これって……」


 地図だったからだ。

 しかも、ただの地図じゃない。さっき話をしてたデータセンターのその場所と、その施設の見取り図が書かれた地図だったんだよ。


「なんで――」


 とオレは校長に聞こうとするが、


「へ?」


 顔を上げたときには、すでにその場に校長はいなかった。

 ドアの奥、階段を下りて行くその背中だけが見えていた。


 一体どういうつもりなのか。

 しかも、なんだってこんな地図を?

 それにオレらがこのことを話していたことを知っていることも謎だ。

 人払いの陣をリクはかけていたはずだしな。

 疑問はいくらでも沸いてきた。

 けど、それでも助かったことに違いはない。


「理由はわからないけど、協力してくれるって事なのか?」


 少なくともあの校長に悪意があるようには見えなかった。

 だからとりあえずは感謝しておくことにした。


「まぁ、いい。とにかく蚊帳の外じゃあなくなったってことだからなっ」


 オレはぐっと拳を握りしめたよ。


勝手将軍……暴れ○坊将軍の親戚? 葉はばあちゃんの影響を大きく受けているようです。

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