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見知らぬ来訪者はオレのナニ?

やっぱり分割しました。コメディパートなので、あたたかく読みながしてやってください。


 オレは玄関の呼び鈴で目を覚ましていた。


 ジジーッ!


 そんな耳にさわる音だった。

 殺虫灯に虫が飛び込んだ時の盛大な音に、それはよく似ている。

 古い家だから、よくあるピンポーンなんてかわいげのある音じゃあないんだよ。

 

 ジジーッ!


 再び呼び鈴が鳴って、オレは欠伸をしながら壁掛け時計を見上げる。

 時間は午後七時。

 我ながら、ずいぶんと疲れてたらしい。

 学校から帰ったのが四時半くらいだったから、だいたい二時間強は眠ってたことになる。


 まぁ、いろんなことがあったから仕方ないよな。

 初日で変に緊張もしてたし、それに実原さんの死にも直面することになった。

 ずっしりとまだ心の底に思いものが沈んでる気がするが、それは寝ても覚めても変わらない。

 いまは他のことでまぎらわせるしかない。


 オレは一つ背伸びをすると、身体を起こした。

 居間で座布団を枕にして寝てたせいか、身体のあちこちが痛い。

 かかっていたタオルケットを抜け出して、それからようやく玄関に行く――ことができなかった。


「ブフーッ!」


 すぐそばで見つけたものにオレは吹き出したからだ。


「……」


 なななな、なんでここにいる!?


「お、おまっ――沢辺っ!」


 そうなんだよ。

 オレのすぐ真横――あろうことかオレの身体にぴったり密着したうえで、まるで猫みたいに沢辺が、そこでスースーとそれはもう気持ちよさそうに寝息を立ててやがったんだよ!


 おそらくこのタオルケット、オレは自分でかけた覚えはないんだが、この沢辺がどこかからか引っ張り出してきて、オレに掛けてくれたんだろう。

 まぁ、百歩譲ってそれについては感謝してもいいんだが、しかしだなっ。しかしだっ!

 なんだってお前まで一緒に寝る必要があった!?

 五文字以内で言ってみやがれっ! 五文字以内にだ! 明快になっ!!

 コンチクショウめっ!


 ってなわけで、


「沢辺っ」


 オレはゲンコツ握って、沢辺にまるっと今の台詞をぶつけようとするが、どうだ。

 そのタイミングで沢辺は、


「ふにゃ?」


 むくりと身体を起こしたよ。

 相変わらずの童顔で、相変わらずのクリクリまなこ。

 それをオレに向ける。

 男とも女とも見えるその寝起きの姿が妙に可愛くて、一瞬オレは――


「ポッ」


 って、アホかっ!!


「ありえんしっ!?」


 違うんだよっ、断じて違うっ!

 オレはノーマルっ! ノン気だっ! そっちの気はないっ!


 ……ったく、なにをわけのわからんことを口走ってるっ、オレっ!!


 その間に、また玄関の呼び鈴がジージー、ジージー、オレを呼びはじめるし。


 うっさいっ! オレは一七だっ! じじぃじゃあねぇっ!


 なんて、阿呆なツッコミはもちろん我慢して、とりあえず沢辺をキツイ目つきで睨むと、


「こっから出るなよっ! 絶対に出るなよっ! 出るなったら出るなよっ!」


 そう居間に残るように念を押しておいて、オレは玄関に走った。

 さすがに待ち人はしびれを切らしたらしい。

 玄関の戸をどんどん叩き始め、


「はいはいはいっ。すんません!! すぐあけますっ」


 焦って言いながらオレは玄関を開けたよ。

 この家に住みはじめたばかりのオレに用事のある人間ってのも珍しい。

 そんなことを思いながらそこに立っていた人物に目を向けると、


「……えーっと」


 オレはその場で顔をしかめていた。


「よぉ。来てやったぜ?」


 その人物は、そうオレに気安く言ってこっちに手を振って来ていた。

 が、


 ……誰?


 オレのまったく知らない女だったからだ。

 だからオレは思わず、


「……『よぉ』? 『来てやった』?」


 そうオウム返しに聞いていた。


 ショートボブの、歳は二十歳そこそこくらいの女だった。

 目つきが鋭いせいで、ちょっと野生味強そうな印象がある。

 着ているものはタンクトップにデニムのホットパンツといったラフな服。


 女はまるでオレと約束してたような言い方をしてたんだが、オレがそんなことを口走ったもんだから、


「あぁん? なんだよそのパッとしない顔は? いまもなかなか出てこなかったし、嫌がらせか?」


 途端に不機嫌そうな顔になってたよ。

 まぁ、出るのが遅くなったのは正直言い訳もできないが、それでもオレと面識のあるような言い方にはさすがに戸惑った。


「――って、なんだよ? おまえ、まさかとは思うけどさ、あたしのことがわからないなんて言わないよな?」


「はい?」


 ここで「うん」と素直に答えてればよかったのかもしれない。

 が、如何せんオレは小心者。

 思わず目を泳がせて、はぐらかしてたんだよな~。


「え? い、いや~、その……まさかっ」


 その間に思い出せれば問題ない。

 なーんてオレは必死に頭を巡らせてそう思ってたんだよ。

 けど、これがまたさっぱりわからなくて!

 それが女にも完璧に伝わったらしい。


「うはっ、マジか?」


 女はぎょっとして、見る見るその表情は悲しげに。


 うぐっ、ま、不味いよな……。

 けど、誰なんだ? マジでどこで会った?


 思い出せず、さすがにオレも焦った。

 そしたら女は、


「ウソなんだろ? 冗談だよな? お互い、あんな熱い時間を過ごしたってのに……。あたしのこともてあそんだのか? ひどいだろそれは? ひど過ぎだろっ!」


 声を大にして訴えかけて来て、オレは思わず身体を固くした。


 けどその時だ。

 今度は予想外な場所から声がして、


「う、うそだよね……?」


 オレの背後で、ドタッと何かが廊下を打つ音がしていた。

 振り返って見れば、そこに膝をつくように崩れ落ちる、沢辺の姿があったんだよ。

 まるで浮気現場に遭遇して、自分が裏切られていたことを愕然と知った恋人でもあるかのように。


「……」


 つか、なんだ、この展開?


 さすがにおかしくないか? いや、明らかにおかしいよなっ。

 この、心当たりもなければ、点で的外れな修羅場になりそうな展開はっ!!

 しかも、オレの思いとは裏腹に、勝手に物事は進んでいこうとしてやがるし。


「ひどいよ、伊垣君……。このボクがいるのにっ」


 はぁっ!? なんの話だっ!


「まさかお前、そっちの趣味だったのか?」


 女がオレを信じられないといった目で見、


「じゃあ、やっぱりあたしのことはただの遊びで――」


 って、なんだよそりゃ! なんでそんなことになる!?


 オレは悲鳴を上げたい気分だったよ。

 けど、間髪入れず沢辺が言ったんだよ。


「うんん。違うんだ。いいんだよ。普通に考えれば、そうなんだから。ボクがいけなかったんだ。ボクが伊垣君を引き込んだから。

 普通ならこれは許される事じゃないんだよね。だから……うん、だから、ボクが身を引くよ」


「へ?」


 そして沢辺はのろのろと立ち上がると、


「ごめん」


 そう言ってオレの横を思わせぶりに通り過ぎたかと思うと、


「お幸せにっ!」


 そして脱兎のごとくその場から去っていったんだよ。


 ……。


 って、いやいやいや、これできれいさっぱり終幕――みたいなオチは無しだろっ!

 いや、それとも、まさか追いかけてこいっていう前振りか?

 だとしてもオレはまったくそんな気ないからなっ。

 そもそも、これ以上場面に流されてたまるかってんだよ。

 それにオレにしてみれば沢辺がどうなろうが別に知ったこっちゃないしっ。


 だから、オレはとりあえず残った片割れ、女の方を凝視したよ。


「で、なんなんだよお前らは?」


 オレは半ギレで見知らぬ女に聞いていた。


 まったくオレをそっちのけで、勝手にわけのわからん寸劇を繰り広げやがって。

 これで文句を言わないほどオレもお人好しじゃあないからな。


 そしたら女は途端に冷めた顔して言うんだよ。


「ハ? なんだって? そんなの決まってるだろ? ちょっとしたお遊びコントだよ。さっき出てったヤツが意外にノリが良かったんで、合わせてみただけだって。その辺の機微きびが分からねーかなー。それじゃあ芸人失格だろ?」


 誰が芸人だっ!


 けど、そんな女の言葉でオレはピンと来た。

 こっちに来て、会ったヤツの中で、そんなコントとか芸人とか言うヤツには一人(一匹?)しか心当たりがない。


「……まさかお前、ツキだったりするのか?」


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