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ツキグモのヒント(下)

長かったので分割更新しました。説明回なので盛り上がりはないですが。すみません。

「じゃ、どうすっかな? さっきの貴族のことだよな?」


 何から話したものかとツキグモはしばし思案してから口を開いた。


「あいつの名前だけど、たぶん、イジューだな。白昼堂々、あんな下品なことをする貴族はアイツくらいなもんだよ」


 上から目線な言い方だった。


「怖がってた割には、ずいぶんな言い方だな?」


 オレは覚えてるからな。ツキグモがクレーターに行こうとするオレから逃げようとするのをな。


 そしたらツキグモはそれをあっさりと認めて言っていた。


「そりゃ、そうだろ? あたしだって命は惜しいに決まってるし。イジューは妖魔にだって容赦なんてしない、血に飢えた獣みたいなクソヤローだからな」


 言い方に遠慮ってもんがねぇな。

 まぁ同情してやる気なんざ、これっぽっちも沸かないが。


「アイツは貴族のなかでも異端なんだよ。一匹狼だ。そのせいで爵位も授けてもらえてない。その力はあるのにな。だからこそ変でもあるけどさ」


「変?」


 オレは聞いたよ。


「そんなヤツだからこそ、普通ならこっち側にいられるはずがないんだよ。クレバスから出るには貴族一人の力だけじゃ全然足りない」


「一匹狼だっつってたもんな。協力者がいるはずもないのにってことか……」


 オレは納得した。


「……向こう側とこちら側に穴みたいなのが開いたりすることなんてあるの?」


 リクが聞き、


「さぁ、どうなんだろうな。でも、もしそうならもっとあたしらの仲間がいてもおかしくはないよな?」


 ツキグモが答え、そのままさらに続けた。


「ま、いずれにしたって何かが起きてることは間違いないってことだな。それはクレバスに、なのか、それともこっちと向こうをつなぐ扉に、なのか、それとも他の場所かはあたしにも分かんないけどさ。そのへんは、自分たちで調べることだろ? あたしにはあんま興味ないし」


「まぁな」


「なら、いいな? これで質問しゅーりょーだからな。おかげで有益な情報は得られた。あたしはエサにありつけた。そっちは少しは方向性も見えたんじゃね?」


 方向性ね……。

 正直言って、オレにはさっぱりだったが、リクにとっては――

 どうやら違ったらしい。


「……」


 目を向けると、リクはなにやら考えてるふうだったよ。

 思うところありって感じか。


「それと葉。あたしのご飯のことだけどさ――」


 ツキグモ……。

 お前はまだ、言ってんのか……。どんだけ飢えてんだよっ。


「ったく、撤回っつったろ?」


「え~っ! アレマジなのっ!?」


「お、驚きすぎだろ、おい。てか、そもそもドカ食いし過ぎ。そんなに食ったら太るぞお前?」


「げっ。そ、それはマジ勘弁かも……」


 意外にそういうことは気にするらしい。

 猫はでっぷりしててもけっこう可愛いとオレとしては思うんだが、本人にしてみれば、やっぱり違うのか。


「な、ならっ、あとでまた来るからな! 絶対だからな! 用意しときやがれよ!」


 って、結局食いに来るのかよっ!


 けど、オレがそうツッコむ前に、ツキグモは踵を返して、何度も振り返って同じセリフを繰り返しながら去っていった。


 なぜにそんな必死になる!?


「ったく、厚かましい」


 オレはそんな感想を漏らしていた。


「でも、あの子のおかげで有益な情報を手に入れられたのはたしかだけどね」


「?」


 リクが真顔で頷いていたので、オレはどういうことかとすぐに聞こうとするんだが――


 そこに、



「ぅおをっ! 転校生っ!」


 それはコンビニの真正面を走る車道の向こう側からだった。

 声がしたかと思ってオレが目を向けると、そこにクラスメイトの七川が大げさなくらい大きく手をブンブンと、こっちに向かって振って来てたんだよ。

 逆ナイロールの眼鏡のあの女子生徒だ。


 しかし、そう言ってきたかと思えば、


「って、ウッソっ! マジかあああっ!」


 猛ダッシュで道を渡って来たかと思えば、オレのそばまでやって来る。

 それからすぐ隣にいたリクを凝視し――


「ごめん。ちょ、ちょ~っと借りるね」


 とリクにぎこちない笑顔で断りを入れた上で、オレの手をぐいぐい引っ張って、ベンチから引きずるようにオレをその場から引き剥がしていた。


(ちょちょちょちょちょっと! なにしてんのよっ! なんで明日葉さんを口説こうとしてんのっ!?)


「は?」


 オレは目が点になったよ。


(言ったでしょうがっ! 明日葉さんはダメだってっ!)


「へ?」


 そんなこと言ってたっけ?


(あーもうっ! 明日葉さんには特殊な事情があるつったでしょうが! 口説くと明日葉さんだけじゃなくっ――)



「あー、あのー、仲良くお話中のところ非常に申し訳ないんだけど?」


 そこに今度はリクが言葉を挟んで来ていた。


 しかし、なんだ?

 妙に声、冷たい気がするんですけど?


 ハッとして七川が口をつぐみ、オレと一緒に、後ろにいたリクをおそるおそる振り返る。


「その話、まる聞こえなんですけどー?」


 七川がその言葉にギクリとして、顔を強ばらせていた。


 そりゃあ、そうだよなー。

 本人は小声で話してるつもりなんだが、そもそもの声が人並み外れてでかいんだもんよ。


 とは言え、リクの方は一見それについて怒っているふうでもなかったんだが、


「けど、そんなひそひそ話はしなくてももういいけどね。あたしは行くから」


「って、は!? い、行く? 行くって、おいっ!」


 何勝手に一人納得して、帰ろうとしてんだよっ!?

 つか、その情報、誰のおかげで得られたと思ってんだ!?

 しかも、オレにはなんの説明もないままだろっ!


 けど、なぜだかリクはそれに答える気はこれっぽっちもないらしい。

 ツンと妙に素っ気なく、ちらりと七川に視線を向けてから、さらに淡々とオレに言って来るんだよ。


「あと、これだけは言っておくけど。もうこの件に関わった以上、あんたは絶対に妖衣ドレスはつかわないこと。わかった?」


 もちろん妖衣ドレスってのはオレで言う緊急異行レッドシフトのことだ。

 七川がこの場にいたが、別に普通に話しててもドレスって単語なら、それとは理解されないから、構わず言ったんだろう。


「返事は?」


「え?」


「『え?』じゃないっ。返事っ!」


 な、なんだよ、その鬼軍曹みたいなノリは!?

 しかも、さっきに増して視線が刺々しいのはナゼ?


「ほらっ、返事なさい!」 


 どうやら返事をするまでは納得しないらしい。

 仕方ないな……。


「わかったよ」


 と、オレは渋々答える。


「なら、しっかり守りなさいよ」


 そしてリクは七川に「どうぞごゆっくりっ」とやけに慇懃に言うと去っていったよ。

 リクが念を押してきた時は、ひどく真面目な顔してたんだけどな。

 なんでそんなノリになったんだ?

 やっぱひそひそ話してたのが、気にくわなかったのか。

 しかもその話題が本人のこととなれば、まぁ、当然そうもなるか。


「……で、転校生?」


 ビクンッ!


 七川のおどろおどろしい声。

 その声にオレは反射的に背筋を伸ばしてたよ。


「は、ハイっ。な、ナンデショウカ?」


 思わずオレは丁寧語を使う。


「もしかしてだけどさ、人のアドバイスとか聞く気ないの?」


 な、なんでだ。

 なんで、オレはこんなにプレッシャーかけられてんだ!?


 い、いや、わかってはいるんだよ。わかっては。

 オレが悪いってのはな。


「い、いや、そういうわけではないんだけどもね……」


 七川の言いたいことはもちろん理解している。


 けど、そもそもオレはリクを口説いていたワケじゃあないからな。

 それが七川に伝わればいいんだが、ひどく胡乱で、どうもなにを言っても聞いてくれなさそうな目つきをしてるんだよな。


 だから、オレは仕方なく、だ。


「あっ!」


 あらぬ方を指さして大声で言う。

 そして七川がそっちに気を取られた瞬間、捕まれていた腕をふりほどいて一目散に逃げていた。

 古典的な方法を使うオレもオレだが、それに引っかかる方も引っかかる方だ。


「って、こらぁああああ、転校生ええええっ!」


 七川が追いかけてくるが、オレは実は足にはけっこう自信がある。

 そのままなんとか七川を振り切って帰路についてたよ。


 けど、家に着いてからマジで失敗したと思った。


「うげ。し、しまった」


 リクのことだ。

 なにかすべきことは見つかったようだったからな。

 だから、それが一体なんだったのかちゃんと聞いておくべきだった。

 ケータイの番号すら聞いてなかったし、確かめようがなかったんだよな。


 あとからひどく後悔したよ。

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