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ミカミ艦長の航行日誌  作者: 双子亭
第1章
3/7

『宇宙戦艦アイガイオン』第1話

    戦艦『アイガイオン』、船内通路ーーーー








 俺が目覚めた部屋、艦長寝室で驚きの事実を教えられた後、ガイノイドに従って白い軍服のようなものに着替え、ガイノイドに連れられてメイン・ブリッジへと向かった。艦長公室(艦長が事務的な仕事をする部屋)を通り抜け、ヒトが横に4人並べる位の広さの通路を進み、いくつかの階段を上る。途中の通路はみな暗く、非常灯のようなものしか点いておらず、足元がよく見えず、所々で躓いたりしてしまった。



「なぁ、ちょっといいか」

「はい、何でしょうか」

「ここの通路はいつもこんなに暗いのか?」

「いえ、今はエネルギー不足のため非常動力源のみでの作動状況となっております。そのため照明設備は艦長室とメイン・ブリッジ以外はこのような非常灯のみの照明となっています」

「…………エネルギー不足と言ったか?」

「はい、現在艦のエネルギー量は10%を下回っています。これ以上下がりますと艦の操艦に支障をきたしますので、あの無人星でエネルギー補給も行うべきだと具申します」

「分かった、そうしてくれ」



 まだまだ知らない事だらけだが、壁を触ったり床を歩く感覚から、この世界が夢である可能性は低いなと、徐々にこの世界を認識し始めた所でようやくメイン・ブリッジの前に着いたようだ。









    戦艦『アイガイオン』、メイン・ブリッジーーーー









 アイガイオンのメイン・ブリッジの扉を開けて入った最初の感想は



(………広い)



 そう、本当に広いのだ。入り口が少し高い所にあり、今はそこから見下ろすという形だが、広さはだいたいサッカーコートと同じくらいで、そこに操艦に必要な設備が部屋の中央の円盤のような装置を中心に円を描くような感じで設置してある。入り口とは反対側となる壁は全面で外の景色が見られるようになっていて、件の無人星が壁一面に大きく映し出されていた。



 だが、この部屋の光景を見て、違和感を覚えた。なぜなら、



「なぁ、人が一人もいないんだが……」

「はい、操縦要員もエネルギー不足のためスリープモードに入っていただいております」

「………ちょっと待って、この宇宙船(ふね)には人間は乗ってないのか?」

「? 何を言ってらっしゃいますか。この艦は艦長以外の船員はアンドロイドやガイノイド、妖精で構成されていますが………」

「よ、妖精! そんなものまでいるのか!」

「はい、この艦の人工電子精霊が補助要員として生み出したものですが……… そうでした、その人工電子精霊(かのじょ)を目覚めさせなくてはなりません」



 そう言うと、ガイノイドは中央の円盤のような装置に移動すると付属するキーボードを打ち始めた。静まり返った室内でガイノイドのキーボードを打つ音が響き渡り、今まで静かだった円盤の装置も何らかの駆動音が鳴り始め、装置の上に様々な光のディスプレイが表れたかと思うと、それらは収束し、光の集合体となり、徐々に人の、女性の形となっていった。



 円盤上に表れた女性は年齢20代から30代の間で、ウェーブがかかった長い金髪に碧眼、母性的な体つきは俺と同じ種類の白い軍服で包まれていた。



「久しぶりですね、アイガイオン」

「あら、ミコト。久しぶりね。元気だった?」

「はい、機能はすべて正常通りに作動しています」

「ふふ、それは良かったわ。それと………」



 アイガイオンと、この宇宙船(ふね)と同様の名を持つ女性は敬礼しながら俺へと向き直った。



「ミカミ艦長、現時点をもちまして、戦艦管制電子精霊、アイガイオン着任します」

「あ、あぁ、よろしく頼む」

「……?」

「それではアイガイオン、早速だがこの艦をあの無人星に着陸させて、エネルギーと物資の補給を行いたいのだが」

「そうね、今の状況だと私と艦長だけで操舵しないといけないわね。ミコトは動力機関の方へ行って、手動ロックを解除して動力炉の外部調整をお願いできるかしら?」

「わかりました。それでは艦長、失礼します」



 ガイノイド、ミコトは敬礼すると、メイン・ブリッジを出ていった。



「さて、艦長。久しぶりの手動操舵よ。勘は鈍ってない?」

「そ、そうだな」

「ほら、ミコトが動力炉の外部調整が終わったらすぐに発進するから席について」

「お、おぉ………(そんな宇宙船の操縦なんてできないぞ、どうすんだよ!)」

「……………………艦長」

「な、何だ」

「艦長は艦長ではないでしょう?」

「はっ?」

「表現が分かりにくいわね。人間で言うと、艦長の姿をしているけど………ん〜………そう、心が艦長とは違う気がするのよね」

「!!」

「網膜認証、声帯認証ともに正常を示しても、私はあなたが別人のように感じるの」

「………人が生み出した精霊も人の心が分かるのか?」

「分からないわ。でも、私は艦長とは何年もの付き合いだったから違和感を感じたの」

「そうか……… 分かった。実は………」



 俺は今までの自分のことを話した。自分は本当は学生であること、目覚めたら見知らぬ場所に来ていたことなど話したがアイガイオンは、顎に手を当てて考える感じだったが、



「…………人間って、本当に不思議な生き物ね、思考復帰したら別の肉体に移ってたなんて」

「別の肉体?」

「そうよ、あなたの今の肉体はこの艦に登録されている艦長の個人データと一致しているから」

「………ということは、俺は憑依したのか?」

「それは分からないけど、あなたにはこのまま艦長の仕事をしてもらおうと思うの」

「何で? 俺は本物の艦長じゃないんだぞ」

「う~ん、そうね。まずこの艦に人間はあなただけ、そして艦長になれるのも人間だけなのよ」

「しかし………」

「それに、この広大な宇宙を航行するために意思決定する存在、すなわち艦長という職を空けるわけにはいかないの」

「……………」

「私の存在意義はこの艦の全システムをコントロールしたり、収集した情報から今までの経験を踏まえた推測案を提示したりと、艦長の補佐が私の仕事よ。あなたの事情ももう分かったし、これから少しづつ勉強していけば艦長の仕事を十分にこなせるわ」

「何でそんなことが………」

「言ったでしょ、経験からの推測案の提示が私の仕事だって」



 見知らぬ世界に来ていきなり大きな、しかも宇宙船の船長になれというのは酷な話しだと、俺は思った。だが、自分自身が前の世界でこういう世界に憧れを持っていたこと、目の前のアイガイオンがどこか悲しげな表情をしていることから、俺の答えはすでに決まっていた。



「………分かった。艦長を引き受けよう」

「本当! ミコトからの準備完了の通信入ったし、じゃあ早速、操舵の仕方を教えるわね。そこの席に座ってくれるかしら」



 アイガイオンが指差したのは、入り口側の一段高く作られた座席と機器類を備えた机だった。



「そこがこのメイン・ブリッジで艦長である、あなたの席よ。艦長の仕事のほとんどがこのメイン・ブリッジだから覚えておいてね」

「はい」

「で、後は私が微調整するからあなた、ううん、艦長は今から出す操舵輪をしっかり握って私の指示通りに動かしてね」

「了解」



 俺は艦長席の前に立つと前の床が割れて下から操舵輪が現れた。SFな宇宙船とは何ともミスマッチな木造の操舵輪だ。



「今の主流はキーボード操作なのに、艦長は好んでこの操舵輪を加えてね、何でも木を触っていると落ち着くらしいの」

「そうなんですか、何だか俺と似てますね」

「艦長も?」

「はい、休みの日は近くの自然公園で散歩とかするのが好きだから、何となく気持ちが分かります」

「そう、(この感じ、別人だけど前の艦長に似てるわ)じゃあ号令を掛けて」

「へ?」

「だから号令。発進でいいから」

「わ、わかりました」



 俺はコホンと咳払いをすると姿勢を正した。



「アイガイオン、発進!」









    無人星、荒れ山ーーーー









 俺はアイガイオンの指示通りに動かし、何とか無人星の荒れ山の近くまで寄せることが出来た。何でもこの近くにエネルギー源となる鉱石があり、それの採取の後に食料補給に向かうらしい。しかし本当に難しいのはここからだった。



「そう、そう。そのままゆっくり左に寄せて………ゆっくりよ…………って、ちょっと行きす、あいた!!」

「うおっ!!」



 アイガイオンの悲鳴とともに、船体全体が前後に揺れた。



「イタタ、もう! お尻打っちゃったじゃないの!! だからゆっくりって言ったのに!!」

「えと、すいません」

宇宙船(ふね)は大事に扱わないとだめよ。今の接触はエンジンの噴出口だから、あそこは頑丈に作られてるから問題ないと思うけど、ちょっとしたミスが大きな事故に繋がるからよく覚えておいてね」

「……はい」



 何せこの宇宙船(ふね)の全長は約1,500mで、車の車庫入れ感覚で操縦することはできないのだ。俺は手の汗を拭き、もう一度操舵輪を握り直した。



 と、その時、メイン・ブリッジの扉が開き、そこからミコトが現れた。



「何ですか今の揺れは! 艦長、おケガはありませんか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「ごめんなさいね、ミコト。艦長は久しぶりの手動操舵でちょっと緊張してるみたいなの」

「そうなのですか。艦長もうこの距離なら私一人でも採取に行けます」

「そうか、一人で………」

「それじゃあ、お願いね」



 ミコトは敬礼するとメイン・ブリッジを出ていった。



「なぁ、一人で行かせて大丈夫なのか?」

「えぇ、大丈夫よ。というよりも彼女の仕事だから」

「どういうことだ?」

「う~ん、この場合、エネルギー源の鉱石を採取するのは彼女にしかできないの」

「?」

「そうね、この際だからミコトが帰ってくるまでにこの艦のエネルギーについてお話ししましょうか」



 そう言うと、アイガイオンはキーボードを打つように軽く指を動かすと、目の前にディスプレイが現れた。ディスプレイには綺麗な空色のダブルポイント・クリスタルが映し出されていた。



「これは?」

「この『クロノス鉱石』といって、私達の艦のエネルギー源となる鉱石よ」

「この鉱石でどんなエネルギーが取れるんだ」

「この鉱石からは特殊な波動が常に発しられていて、その波動を動力炉に取り込んでるの。ただ、その波動は人間には有害なもので、直接当たると免疫力低下などの症状がでると言われてるわ」

「結構危ない石なんですね」

「天然物だと波動は発せられないけど、加工してしまうとね、人間は防護服なしでは近寄れないの。だから、この艦ではなるべく動力機関には近寄らないようにしてね」

「わかりました」



 それから、俺はアイガイオンからこの艦におけるいくつかの注意事項を聞き、それを頭に叩き込んでいた。先のクロノス鉱石ではないがどれも一つ間違えば命を落としかねないようなものばかりであったからだ。



 そうこうしている内にミコトは無事、クロノス鉱石を採取して帰還し、早速鉱石を加工した。加工するのにそれほど時間はかからず、すぐに波動増幅装置にセットされた。



「さてと、これで他のアンドロイドたちもスリープモードから解除されるでしょう。お疲れ様、艦長」

「あぁ、アイガイオンも補助ありがとう」

「…………アイガイオンって呼ぶのは、ちょっとやめてくれるかな、艦長」

「ん、どうしてだ?」

「なんか、女の子っぽい名前じゃないし、省略して、アイ、と呼んでね」

「わかったよ、アイ」

「ん、じゃあ今度は食料補給だけど、もうすぐ彼女たちが来るから、これからの航行は彼女たちに任せましょう」

「彼女たち?」

「操縦要員のガイノイドたちよ、他にも兵員のアンドロイドとか全部で9,400名がこの艦に乗ってるのよ」

「9,400名!」

「またおいおい教えていくけど、あら、早速来たみたいね」









    ーーーーそう、これから幾つもの苦難を乗り越えていく仲間とこれから出会うのだとは、今の俺では想像も出来なかった。



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