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お中元

作者: WAIai
掲載日:2026/08/07

「ーいらっしゃいませ」

出迎えられ、伊藤は緊張気味に郵便局の中に入る。

外気は灼熱のようだったので、涼しい室内にほっとする。

それから窓口に行くと、

「あの…!!」

まるで初めて来たかのように、声をかける。

年は20過ぎているのに、まだまだだなと痛感する。

「はい、何でしょうか?」

窓口にいた男性は40代くらいだろうか。

整った顔をしており、熱さの中にいても平気な顔をしていそうな、そんな印象を受ける。

「お中元のことなんですけど」

話をきり出すと、伊藤は長く縛った髪を払う。

相手が堂々としているなら、自分も堂々としなくては駄目だと、勝手に思いつめていた。

息をふーと吐き出す。

「あの、荷物は…?」

「あの、荷物とかじゃなくて、郵便局で注文したいんですが…」

手を握りしめ、用件を伝えると、局員さんが明るい声を出す。

「ありがとうございます。何をご注文でしょうか?」

「それが…まだ」

恐る恐る言うと、局員さんは構わず、パンフレットを出してくる。

「どんなものがいいでしょうか?」

「そうですね…。親戚のおじさんとおばさんに贈りたいんです」

「親戚の方なんですね」

「は、はい…!!」

伊藤は大きくうなずくと、続けて言う。

「小さい頃から可愛がってもらって…。ようやく初給料を手にしたので、贈り物をしたいと考えまして」

「それは…。おめでとうございます。良かったですね」

局員さんは素直に言ってくれ、伊藤は助かる。

「いくつくらいの方でしょうか?」

「私が20代なので、おじとおばは、その倍の40代でしょうか」

「そうですか。お好きなものはありますか?」

「好きなもの…。お酒かお菓子が好きなようで」

伊藤はすらすらと喋られるようになり、局員さんが魔法をかけてくれたかのようだった。

頭を突き合わせて、パンフレットを眺める。

「えっと…ビールだけのほうがいいですか? それとも」

局員さんがパンフレットをゆっくりめくってくれ、伊藤は商品を品定めする。

「できれば、子どもようのお菓子が、ジュースがついているといいんですが」

「なるほど。それなら」

ページをめくり、ジュースとビールのセットを指してくる。

「こちらはいかがでしょうか? 値段もまあまあですし」

「そうですね…。あまり高いと恐縮しますし、安すぎるとがっかりさせてしまうような気がして…」

「難しいですね。日本のしきたりって」

「そうですね」

ふわりと伊藤が笑うと、局員さんも笑顔になる。

相乗効果で局内の雰囲気が柔らかくて、優しいものになる。

「あ、ジュース、缶とパックがあるんですね」

「そうですね。どちらがよろしいですか?」

「うーん、どっちにしよう」

缶もパックも、変わらないと思うのだが、できるだけ大きく喜んで欲しいので、おじとおばの顔を思い出す。

ーおじさんは辛党で、おばさんは甘党だからな。

腕を組んで頭を悩ました末に、伊藤はパックを指さす。

「こっちのほうが、捨てる時に楽そうなので」

「はい、分かりました。他のセットは見なくても…?」

「これに決めます。よろしくお願いします」

頭を下げると、局員さんが用紙を出してくる。

「それではここに送る方の住所と氏名、こちらには贈り主の名前をお書きください」

ポールペンを渡され、伊藤はバッグからスマホを取り出す。

おじとおばの住所を表示すると、間違わないように書いていく。

「綺麗な字ですね」

褒められて、伊藤は「え」と声を出してしまった。

慌てて口を閉じると、ぺこりと頭を下げる。

そんなことを言われたのは、初めてだった。

「あとは私の住所を書いて…」

すらすらと住所と氏名、電話番号を書くと、局員さんに方向を向けて差し出す。

「お願いします」

「はい。確かに。少々、お待ちください」

局員さんはそう言うと、パンフレットの品番を書いていく。

私はドキドキしながら、待つ。

ーおじさんと、おばさん、喜んでくれるかな?

泣き虫で内気だった自分に、惜しみない愛情を与えてくれて、一緒に色んな遊びをしてくれた2人。

そんな2人に、恩返しがしたいと思うのは、伊藤だけではないようだった。

ーもしかしたら、親よりも可愛いがってもらったかもしれない。

伊藤の家は普通のサラリーマンだが、父親が転勤が多く、あまり家にいなかったのだった。

母親も家計を支えるために、伊藤が中学生の時には、働きに出てしまったので、淋しい思いをしたものだった。

それをカバーしてくれたのが、おじとおばだった。

遊びに行くと、必ず何をしたいのか聞いてくれ、食べたいものも、飲みたいものも、伊藤の好きにさせてくれた。

ーおじさんとおばさんの子どもとも、よく遊んだし。

もう大きくなっているが、一緒にブランコに乗ったり、かくれんぼをしたりと、わんぱくな従兄弟だった。

「手続きが完了しました」

「え…。あ、はい!!」

ぼうっとしていた伊藤は目を覚まし、局員さんの手元を見る。

「確認してください。まずは品物はこちらでいいですね?」

「えっと…は、はい。それでOKです」

「あと贈り主の住所と氏名、電話番号をもう一度、確認をお願いいたします」

「住所は…」

指でなぞりながら、注文が間違っていないか、確認する。

「はい、大丈夫です」

「ではお会計を」

伊藤はバッグから財布を取り出すと、レジに出た金額をぴったりと払う。

小銭を使うのが、買い物の楽しみだと、伊藤は勝手に決めていた。

「ありがとうございます。…レシートを」

「はい。ありがとうございます」

レシートを受け取ると、贈り主が書かれた用紙のお客様専用のものを切り離されて、それを受け取る。

「大事に保管しておいてください」

「は、はい。分かりました」

渡された紙とレシートを財布にしまうと、伊藤は頭を下げる。

「よろしくお願いいたします」

「はい。またのご利用をお待ちしております」

深々と頭を下げられ、伊藤は郵便局を後にする。

外は太陽が主役で、燦々と輝いている。

「早く届くといいな」

おじとおばの嬉しそうな顔を思い浮かべ、伊藤は駐車場に停めた車に乗り込んだのだった。

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