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第一級半殺人請負業 ヤリステ絶対許さない隊

作者: そらり
掲載日:2026/06/15

第一級半殺人請負業 ヤリステ絶対許さない隊のお話です。

 

 一 四人の半殺し屋(はんごろしや)


 第一級半殺人(はんさつじん)請負業 ヤリステ絶対許さない隊

 通称: ヤゼ隊


 日本に四人しかいないと言われているれっきとした職業だ。


 戸籍にも納税記録にも卒アルにも残らない、四人の女たち。

 彼女たちはたった一種類の男だけを専門に狩る。


 狩りの対象は、ヤッた直後・付き合った直後に急に冷たくなる男たち。


 昨日まで一日四十通のLINEを送ってきたくせに今日は既読すらつけない男。

「運命だと思う」と言った三日後に「重い」と言う男。

 本命とキープを脳内でExcel管理している男。


 そういう男たちを、彼女たちは斬る。


 ただし、殺さない。殺すと楽になってしまうからだ。

 斬られた男は――なぜか永久に痩せられなくなる。


 走っても、断食しても、サウナで茹だっても、一グラムも減らない。

 体は強制的に作り替えられ、腹が出て、首が太くなり、髪は激しく後退する。

 かくして男は「絶対に痩せられない呪いのかかった、圧倒的にモテない太ったおじさん」になる。

 たとえその男が17歳のイケイケ男子高校生だったとしてもおじさんになってしまう。

 原理は不明だが、ともかくそういうふうになる。


 もしかすると、世界で一番、罪に見合った刑かもしれなかった。

 目には目を。歯には歯を。因果応報である。


 なお、四人は決して群れない。一つの標的に、一人だけ。

 残り三人がどこで何をしているかは、本人たちも知らない。

 わかっているのは、今夜もこの街のどこかで一人が刀を抜いているということだけだ。



 二 斬られるクズたち



 その夜、街は豊作だった。


 バーの裏口。一人目。

「いやー、あの子マジ重くてさ。既読つけんの、もうだるいわ」

 スマホ片手にそう笑った男の背後で、銀の光がひらめいた。


 ザシュッ。


「……あれ?」


 男のシャツのボタンが、内側からはじけ飛んだ。腹が、せり出してきたのだ。

 鏡張りの壁に映ったのは、たった三秒前まで自慢のシックスパックだった場所に鎮座する、見事な太鼓腹。


「な、なんで俺の腹筋がっ……?! うわ、髪!? 髪も!?」


 男は、見る間に丸い顔のおじさんになり、泣きながら裏路地へ転がっていった。



 二人目。


 隣で眠る新しい彼女を尻目に、マッチングアプリで次の女をスワイプしていた男。

 親指が右に滑ったその瞬間。


 ザクッ。


 スマホが手から落ちた。画面には無情な通知。


『あなたのプロフィールへの『いいね』が、全員から取り消されました!♡』


 男は自分の二重あごをさすりながら、画面の中で誰からも選ばれない男になっていた。

 後日聞くところによると彼女にも振られ、泣きながらその元彼女にすがりついたという。



 三人目。四人目。五人目。


「ごめん俺いま自分のことで精一杯で」と送った男――シャッ。

「好きとは言ってないよね?」と言い張った男――ドゴォンッ。

 誕生日に「おめでとう」のスタンプ一個だけ送って既読無視した男――ドウィン!ガカァン!ザァン!


 斬られるたび、男たちはぼよんぼよんと膨らみ髪が無くなり、夜の街へ転がっていく。


 刃をふるう覆面の女たちは、表情ひとつ変えない。

 彼女たちにとってこれは退治ではなく、ただの清掃だった。



 三 誠実イケメン、参上



 ところが、この街には一人厄介な男がいた。


 真壁誠(まかべまこと)。二十六歳。誠実イケメン。

 横顔だけで電車の女子高生がざわつき、コンビニの店員がレシートに連絡先を書いてしまう、罪な男である。

 ただし本人はそれを一度も使ったことがない。誠実だからだ。


 そして彼には、妙な正義感があった。


 その夜も、覆面の女がまさに六人目を斬ろうとした瞬間――

 誠が横から猛然と飛び込んできた。


「どうしてそんな酷いことをするんだ!」


 体を張って男を庇い、刃を受け流す。

 庇われた男(彼女に「やっぱ無理、冷めた」と三行で送った男)は、誠の背中でガタガタ震えていた。


「人を裁判もなしに太らせるなんて、許されない!

  どんな人間にも、弁明の機会があるはずだ!」


 覆面の女は、初めてわずかに眉を動かした。


「……男の味方、というわけか」


「違う!俺は、正しさの味方だ!」


 女は刀を引いた。そして、去り際に一言だけ言った。


「立ち続ければ、いずれお前も腹の出たおじさんになる。それでもいいのか」


「望むところだ!」


 誠の背中で、庇われた男が、こっそり別の女にLINEを打っていた。


「いまヤバいのに絡まれてる、今夜会えそーw」


 誠は、それに気づいていなかった。



 四 受け継がれるクズの意志



 その日から、誠は街じゅうで体を張った。


 斬られかけた男に飛びつき刃を受け流し、「彼にも事情があるはずだ!」と叫ぶ。

 誠実イケメンが命がけで守る姿に、街の人々は拍手した。


 ところが、だ。


 誠が救った一人目はその三日後、別の女に同じことをして結局おじさんになった。

 二人目は、救われたその夜元カノの鍵アカウントをこっそり覗いていた。

 三人目に至っては、礼も言わずこう吐き捨てて逃げた。


「邪魔すんなよ、せっかく逃げ切れたのに」


 誠は、雨の街でひとり立ち尽くした。


「……俺は、いったい誰を守っていたんだ?」


 そこで、彼はようやく気づいてしまった。

 自分が反射的に男を庇うこの行為こそ、本物のクズが逃げ込む、最高の盾になっていたことに。

「男の味方」を名乗ったその瞬間から、彼は街じゅうのヤリチンの守護神だったのだ。


「……守るべきは、すべての男じゃない」


 誠は、こぶしを握った。


「何か事情がある、まっとうな男だ。クズはむしろ、斬られていい」


 その夜から、誠は立ち方を変えた。

 もう反射では庇わない。斬られる前に、たった一度だけ確かめる。

 ――こいつには、本当に弁明の余地があるのか、と。



 五 誤爆



 雨の夜。覆面の女が、また一人で立っていた。


 今夜の標的は、橘という男。

 ここ数日、交際相手にまったく連絡を返していない。

 冷却、沈黙、既読無視。条件は、過去のどのクズとも寸分違わなかった。


 刃が、橘の背に迫る。


 誠は、その路地に立っていた。

 今度は叫びながら飛び込んだりはしなかった。

 ただ、橘と刃のあいだに静かに体を置いて、こう言った。


「待ってくれ。彼に一度だけ、話させてやってほしい。

  ――冷めたのか、何か理由があるのか。聞いてからでも、遅くないだろう」


 女の目が、わずかに細くなった。

 だが、刃は止まらなかった。


「情け無用」


 銀の光がまっすぐ振り下ろされた。

 誠は、それを避けられなかった。


 ザシュッ。


 刃は橘ではなく、その前に立った誠の胸を、ザックリと通り抜けた。


「誤爆か」


「まあ仕方ない。我々が正義ではないことはわかっている」


 そう言うと、女は橘という男に「次は無い」と目で圧し、目を閉じ、立ち去った。


 そして……



 六 犠牲



 ぼよん。


 なんとも気の抜けた音とともに、誠の体が、内側から膨らんでいった。


 コートがはちきれ、腹が出て、首が太くなり、髪が後退していく。

 電車の女子高生をざわつかせた誠実イケメンは、ものの数秒で、

 どこにでもいる、痩せられない太ったおじさんになり果てた。


 誠は、自分のせり出した腹をまじまじと見下ろした。


「……重いな」


 それでも、その目だけは最初の夜と何ひとつ変わっていなかった。


 そこで彼は、自分が守ったはずの橘を振り返った。

 ――が、そこに橘はいなかった。

 斬られた瞬間に、礼の一言もなく、雨の中を一目散に逃げ去っていたのだ。


「……だろうな」


 丸くなった顔で、誠はひとり、苦笑した。

 命がけで守った男が、振り向きもせず逃げる。今夜もまた、そのパターンである。


 それでも、彼に後悔はなかった。

 誰かが斬られる前に「待て」と言える者が、この街には一人くらい要る。


 たとえそいつが、待つに値しないクズだったとしてもだ。

 腹は出たが、誠の背骨だけは一ミリも曲がっていなかった。



 後にヤゼ隊最強の敵として立ち塞がる男の最初の敗北。



 誠は独りごちる。


「クズたちは容易にはいなくならない。

 だが、それでも守らなければならない正義がある。

 それが現代の(ルール)だ」


 太ったおじさんが言うとどこか説得力はないのだが。


 しかしそれでも、元誠実イケメンの戦いは続く――

つづきません。

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