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光と闇の境界線  作者: えみり


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8/13

交差

数日後


夜。


静まり返ったビル街。


高層ビルの屋上に、黒瀬ユウは立っていた。


イヤホンに触れる。


「——ブラック、接続」


『確認、ブラック』


橘ひなの——“データ”の声。


だが、そのトーンはいつもよりわずかに低い。


「任務内容を」


『対象は企業関係者。違法資金の流通に関与』


端末に情報が表示される。


「単独か」


『……それが、少しおかしい』


わずかな間。


ユウは何も言わず、続きを待つ。


『同じターゲットに、別の実行役がアサインされている可能性がある』


「……何?」


一瞬だけ、思考が止まる。


「ミスか」


『ノクスでそれは考えにくい』


ひなのの声は冷静だ。


だが——確実に違和感を含んでいる。


『任務の二重発注。しかも実行役レベルで』


「……意図的か」


『その可能性もある』



その頃。


別のビルの影。


白坂ゆいもまた、同じ現場を見ていた。


イヤホンに触れる。


「——ホワイト、接続」


『確認。対象は同一』


事務的なオペレーターの声。


「他の実行役は」


『投入済みの可能性あり』


(……やはり)


予想通り。


だが——


(同じターゲットに二人?)


通常はありえない。


効率が悪い。


リスクが増える。


「理由は」


『不明』


短い返答。


それ以上の情報はない。



同じターゲット。


同じ夜。


別々の命令。


二人は、同時に動き出す。



ビル内部。


ユウは階段を降りる。


「ブラック、対象は10階」


「了解」


「……それと」


ひなのが続ける。


『別の熱源、同フロアに一つ』


「位置は」


『捕捉が安定しない。かなりの技量』


(実行役クラス)


そう判断する。


「……やっぱりいるな」


『うん』


短く肯定。


だが、その後に続く言葉は少しだけ重かった。


『これ、やっぱりおかしい』



別ルート。


ゆいもまた侵入する。


気配を消し、距離を詰める。


「——対象、10階」


『確認』


「別の存在、確定」


『……こちらでも検知』


わずかな沈黙。


『任務優先』


「了解」


だが心の中で、思う。


(……無駄が多い)


ノクスのやり方ではない。



同時刻。


同じフロア。


二つの影が、静かに近づく。



ユウが足を止める。


(……近い)


気配。


明確ではないが、確実に“いる”。


「ブラック?」


ひなのの声。


「いるな」


『……うん』


一拍。


『ブラック、注意して』


「問題ない」



ゆいもまた、同じ感覚を捉えていた。


(……いる)


距離は近い。


だが姿は見えない。


(このレベル……)


一般の人間ではない。


同じ側の存在。



静寂。


互いに気づきながら、干渉しない。


選択は同じ。


——任務優先。



同時に動く。


扉が開く。


ターゲットが振り向く。


その瞬間——


二つの影が交差する。



ユウが腕を制御する。


ゆいが重心を崩す。


一切の無駄がない。


まるで連携したかのような動き。


だが、それは偶然。


互いを知らないままの最適解。



ターゲットは一瞬で沈黙する。


完全制圧。


静寂が戻る。



「……」


「……」


暗闇の中、二人が向き合う。


顔は見えない。


だが、理解する。


(……同じだ)


ユウは思う。


(無駄がない)


ゆいも思う。



「任務は終わりだ」


ユウが低く言う。


ゆいは短く返す。


「……そうだね」


それだけ。


それ以上は踏み込まない。



次の瞬間。


互いに離れる。


影が、別方向へ消える。



「ブラック、状況」


「完了」


『……やっぱり別の実行役だった』


「そのようだな」


ひなのが小さく息を吐く。


『でもさ』


少しだけ、声が落ちる。


『なんで、同じターゲットに二人?』


沈黙。


ユウも答えを持っていない。


「……分からない」


それが事実だった。



帰路。


ビルの屋上。


夜風が吹く。


通信はまだ繋がっている。


「データ」


『なに?』


「ノクスは、こういうことをする組織か?」


ひなのはすぐに答えない。


数秒の沈黙。


『……少なくとも、私は聞いたことない』


「だろうな」


ユウも同じ認識だった。


無駄なリスクは取らない。


それがノクスだ。


「じゃあ、これは」


『……内部で何か起きてる可能性』


はっきりとは言わない。


だが、意味は同じ。



「……一枚岩じゃない、か」


ユウが静かに呟く。


『……うん』


否定は返ってこない。


それが答えだった。



一方。


別の屋上。


ゆいは夜空を見上げていた。


通信はすでに切れている。


完全な静寂。


だが——


頭の中は静かではない。


(同時投入)


(理由不明)


(説明なし)


一つ一つが、小さな違和感。


だが——


それが繋がる。


(……おかしい)


ノクスは合理的な組織だ。


無駄を嫌う。


それなのに——


(無駄な重複)


(情報の不透明さ)


(指示の曖昧さ)


「……」


言葉にはしない。


だが理解する。


これは——


“いつもの任務”ではない。



そしてもう一つ。


あの存在。


(……ブラック?)


確証はない。


だが——


(同じレベル)


それだけは分かる。



ゆいは目を閉じる。


思考を一度切る。


今はまだ、深く踏み込む必要はない。


だが——


確実に何かがズレている。



翌日。


教室。


いつも通りの朝。


笑い声。


日常。


「おはよ、ユウ」


ひなのが声をかける。


「おはよう」


みさきも続く。


「……ああ」


短く返す。



白坂ゆいが教室に入ってくる。


「おはよう」


静かな声。


いつも通り。


何も変わらない。



一瞬だけ、ユウとゆいの視線が交差する。


(……)


(……)


何も言わない。


ただのクラスメイト。



だがその裏で——


同じ違和感を抱えていることを、


二人はまだ知らない。


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― 新着の感想 ―
ん?ブラック・データとホワイトは面識あるの? それとも素顔は知らないってこと?
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