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光と闇の境界線  作者: えみり


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2/13

見えないノイズ

放課後。


教室に残る生徒の数は、もう半分以下になっていた。


黒瀬ユウは窓際の席に座ったまま、ノートを閉じる。


特に急ぐ理由もない。


だが、ここに長く留まる意味もない。


「ユウ、行こ」


後ろから声がかかる。


橘ひなのだ。


すでに荷物をまとめていて、いつでも動ける状態になっている。


「今日は早いな」


「んー、ちょっと確認したいことあって」


軽い調子で言いながら、ひなのは視線だけで“場所”を示す。


校舎裏。


いつもの、人目につきにくい場所。


「わかった」


ユウは立ち上がる。


二人は特に目立つこともなく、そのまま教室を出た。



校舎裏。


人気はなく、風の音だけが通り抜ける。


ひなのは周囲を軽く見渡し、イヤホンを耳にかける。


その瞬間、表情が少しだけ変わる。


「……接続良好」


小さく呟く。


ユウも壁にもたれながら、周囲の気配に意識を向ける。


「何かあったのか」


「うん。ちょっと変なログが上がってて」


ひなのは手元の小型端末を操作しながら続ける。


「この辺り一帯で、通信の“歪み”みたいなのが出てる」


「歪み?」


「うまく説明できないけど……普通のノイズじゃない」


ひなのの声は落ち着いているが、わずかに真剣さが混じる。


ユウは目を細める。


「場所は」


「かなり近い。……この学校周辺」


その言葉に、空気がわずかに張り詰める。


(早いな……)


まだ新学期が始まったばかりだ。


動きがあるには、少しタイミングが合わない。


「ノクスの反応は」


「まだ何も。たぶん“確定情報”じゃないから」


「……様子見か」


「うん。でも——」


ひなのは一瞬だけ言葉を止める。


「なんか、嫌な感じする」


その直感は、軽く見ていいものじゃない。


ユウは短く息を吐く。


「警戒は上げておく」


「ありがと」


ひなのは少しだけ安心したように笑う。


その表情は、さっきまでの“任務中の顔”ではなく、いつもの彼女に戻っていた。



その帰り道。


校舎の廊下を歩いていると、前方に一人の姿が見えた。


白坂ゆい。


一人で窓の外を見ている。


夕陽が差し込み、銀色の髪が淡く光っていた。


自然と足が止まる。


「……あの子」


ひなのが小さく呟く。


「転校生だよね」


「ああ」


ゆいはまだこちらに気づいていない。


だが——


(……なんだ)


違和感。


言葉にできない何かが、引っかかる。


ただ立っているだけなのに、“隙がない”。


「ユウ?」


「……いや」


すぐに視線を外す。


今ここで関わる必要はない。


判断は保留。


それでいい。


「帰るぞ」


「うん」


二人はそのまま歩き去る。


ゆいは振り返らない。


だがその目は——


わずかに、二人の背中を追っていた。



夜。


それぞれが、それぞれの場所へ戻る。


黒瀬ユウは静かに装備を確認する。


橘ひなのは端末越しに情報を整理する。


白坂ゆいは、誰もいない部屋で窓の外を見つめる。


同じ“異変”を、別々の場所で感じ取っていた。



まだ衝突はない。


まだ正体も知らない。


だが確実に——


何かが、この街に入り込んでいる。

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