交差する任務
夜。
静かな部屋。
白坂ゆいは、一人で端末を見つめていた。
淡く光る画面。
そこに表示されるのは——
【任務通達】
無機質な文字。
ゆいはゆっくりと開く。
表示された内容は——
「……回収任務?」
小さく呟く。
ターゲットではない。
暗殺でもない。
“機密文書の回収”
(珍しい)
ノクスにしては、あまりに軽い任務。
内容もシンプル。
指定された場所にある文書を回収するだけ。
警備も薄い。
リスクも低い。
(簡単すぎる)
ゆいは少しだけ目を細める。
(最近の流れと違う)
違和感。
だが——
その時、画面が切り替わる。
【追記】
新たな一文が表示される。
【本任務の辞退は認められない】
「……」
一瞬、思考が止まる。
(また、これ)
前回と同じ。
明確な“圧”。
「……どういうこと」
小さく呟く。
簡単な任務。
なのに——
断るなと釘を刺される。
(普通、逆でしょ)
危険な任務なら分かる。
だがこれは違う。
(簡単なのに、断らせない)
そこに意味がある。
さらに表示。
【実行者:ホワイト】
【単独任務】
「……単独」
低く呟く。
(やっぱり、おかしい)
だが。
(でも)
ゆいはゆっくりと息を吐く。
「……受けるしかないか」
静かにそう言った。
疑問はある。
違和感もある。
それでも——
(任務は任務)
ホワイトとしての判断。
「……行く」
小さく呟く。
その瞳には、警戒の色が宿っていた。
⸻
同時刻。
別の場所。
薄暗い部屋。
黒瀬ユウは、壁にもたれかかっていた。
手には端末。
表示されるのは——
【任務通達】
「……仕事か」
軽く呟く。
画面を開く。
その内容は——
「……暗殺」
短く言う。
ターゲット情報を確認する。
(スパイ……?)
内容はシンプル。
“機密文書を奪取しに来るスパイの排除”
(珍しくもないな)
いつもの任務。
だが。
(タイミングがいいな)
妙に引っかかる。
場所。
時間。
すべてが整いすぎている。
(まあいい)
ユウは深く考えない。
「やるだけだ」
小さく呟く。
だが——
画面の一文に目が止まる。
【確実に排除せよ】
「……」
いつもと同じ言葉。
なのに、少しだけ重く感じる。
(気のせいか)
端末を閉じる。
静かな部屋。
ユウはゆっくりと立ち上がる。
「……スパイ、ね」
その正体を知らないまま。
ただの任務として。
その対象を“敵”だと認識している。
そして——
同じ夜。
別々の場所で。
二人は動き出す。
一人は“回収”のために。
一人は“排除”のために。
その先に待つのが——
同じ対象であることも知らずに。




