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光と闇の境界線  作者: えみり


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白の判断

夜。


静かな部屋。


白坂ゆいは、一人で端末の画面を見ていた。


そこに表示されているのは——


一人の男の情報。


佐伯隆一。


製薬企業の研究員。


機密データ流出の容疑。


ノクスからの任務対象。


(……これがターゲット)


画面をスクロールする。


経歴。


勤務履歴。


アクセスログ。


どれも整っている。


(整いすぎてる)


違和感。


ほんのわずか。


だが確実にある。


「流出ログ……」


指を止める。


(雑)


痕跡が残りすぎている。


隠す気がない。


(違う)


“これは隠してないんじゃない”


(見せてる)


ゆいの目が細くなる。


さらに調べる。


外部接続先。


経路。


時間帯。


(……おかしい)


一貫性がない。


本当に情報を流している人間の動きではない。


(誰かが作った痕跡)


結論に近づく。


そして。


画面の別タブを開く。


監視映像。


佐伯隆一の生活。


仕事。


帰宅。


日常。


何度も再生する。


無言で見続ける。


子どもと話す姿。


笑う顔。


疲れた様子。


(……普通)


どこにでもいる父親。


(演技には見えない)


目を細める。


(少なくとも——)


「プロじゃない」


もしスパイなら。


もっと慎重に動く。


もっと痕跡を消す。


(これは違う)


ゆいは静かに息を吐く。


結論は、出ていた。


「……やらない」


小さく呟く。


その言葉に迷いはない。


ノクスのルールは知っている。


任務は絶対。


例外はない。


それでも。


(これは違う)


理由は一つ。


「間違ってる」


それだけだった。


数時間後。


端末に通知が入る。


任務の担当変更。


実行役:ブラック


ゆいの目が、わずかに動く。


(……そう)


当然の流れ。


断れば、誰かがやる。


(ブラック)


直接会ったことはない。


だが、噂は聞いている。


静かで、確実。


無駄がない。


任務を淡々とこなすタイプ。


(……止めない)


止める理由はない。


止める権利もない。


これはノクスの仕事。


(私は、やらなかった)


それだけ。


画面を閉じる。


部屋は静かになる。


だが。


しばらくして。


ゆいは再び端末を開く。


無意識だった。


監視ログ。


リアルタイム位置。


佐伯隆一。


(……まだ生きてる)


当然だ。


任務はまだ終わっていない。


そのはずなのに。


目が離せない。


時間が進む。


そして——


表示が止まる。


位置情報が、固定される。


更新が止まる。


(……終わった)


静かな結論。


ゆいは何も言わない。


ただ、画面を見ている。


少しの間。


そして。


静かに目を閉じる。


(やっぱり)


胸の奥に、わずかな違和感。


消えない。


「……ノクス」


小さく呟く。


(最近、おかしい)


任務の質。


情報の精度。


判断基準。


少しずつ。


確実に。


ズレている。


(これは)


考えを止める。


結論を出すには、まだ早い。


だが。


その時。


端末の隅に、小さな通知が表示される。


——非公開回線 接続要求


ゆいの指が止まる。


(……誰)


通常のノクス回線ではない。


識別コードも不明。


一瞬の沈黙。


だが。


ゆいは接続を許可する。


「……誰」


警戒を隠さず、短く問う。


数秒の無音。


そして。


『——データ』


聞き覚えのあるコードネーム。


だが——


直接話すのは、これが初めて。


わずかにノイズのかかった声。


意図的に変えられている。


(秘匿回線……)


ゆいの目が細くなる。


「……何の用」


距離を保ったまま返す。


『今回の任務、少し変だった』


単刀直入。


(やっぱり)


「分かってる」


『そっちも?』


「最初から違和感があった」


短く答える。


少しの沈黙。


そして。


『一つ、聞いてもいい?』


「……何」


『どうして断ったの』


核心。


ゆいは一瞬だけ黙る。


だが、隠す理由はない。


「簡単」


静かに言う。


「間違ってると思ったから」


それだけ。


『……間違い?』


「流出ログが雑すぎる」


「本物じゃない」


『偽装ってことか』


「そう」


短く肯定する。


「あと——」


少しだけ間を置く。


「対象が“普通すぎる”」


『普通?』


「少なくとも、プロの動きじゃない」


「スパイなら、あんな痕跡は残さない」


数秒の沈黙。


そして。


『……同じ結論だ』


データの声が、わずかに低くなる。


『こっちでも調べてるけど、かなり不自然』


(やっぱり)


「そう」


『共有する』


「……分かった」


短いやり取り。


それ以上は踏み込まない。


だが。


『ホワイト』


名前を呼ばれる。


ゆいの目がわずかに動く。


「何」


『今回は、正しかったと思う』


評価ではない。


ただの事実確認のような声。


ゆいは一瞬だけ黙る。


そして。


「……そう」


それだけ返す。


通信が切れる。


部屋は再び静かになる。


ゆいは端末を閉じる。


(データ……)


初めての接触。


それでも。


(信用はできる)


そう判断する。


そして。


小さく呟く。


「……間違ってなかった」


その言葉には、


確かな確信が込められていた。


だが同時に——


胸の奥の違和感は、


消えることはなかった。


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