白と紅、そしてノイズ
翌日。
昼休み。
教室は昨日と変わらず賑やかだった。
……いや、正確には一箇所だけうるさい。
「紅葉ちゃーん!それでそれで!」
「昨日の続き気になるんだけど!」
「えー、そんな大した話じゃないって」
天城紅葉。
すでにクラスの中心。
男子の視線も相変わらず集まっている。
(……目立つのは面倒なんだけど)
適当に会話を流しながら、紅葉の視線はゆっくりと動く。
白坂ゆい。
今日も静かに本を読んでいる。
(……昨日の結論)
黒瀬ユウ。
(違う気がする)
完全否定はできない。
でも――
(本命は、あっち)
紅葉は立ち上がる。
「ちょっといい?」
「ん?」
橘ひなのが振り向く。
そのまま視線を流す。
(……ついでにチェック)
ひなのを見る。
ニコニコしてる。
めちゃくちゃ元気。
「いってらっしゃーい!」
手をぶんぶん振ってくる。
(……)
一瞬、思考停止。
(……何これ)
もう一回見る。
ひなの。
相変わらずニコニコ。
(……バカっぽい)
(いや、悪い意味じゃなくて)
(何も考えてなさそうっていうか)
(……うん、何もなさそう)
オーラ、ゼロ。
気配、ゼロ。
危険度、ゼロ。
(ここまで何もないと逆に清々しい)
「どうしたの?」
ひなのが首を傾げる。
「……いや」
(この子は違う)
即判断。
(というか、もしこの子が何か隠してたら、それはそれで怖い)
(演技うますぎるでしょ)
ひなの、まだ手振ってる。
「がんばってねー!」
(……ほんとにただのいい子だこれ)
完全に切り捨てる。
紅葉はそのまま、ゆいの前へ。
席に座る。
距離が近い。
(……来た)
空気が変わる。
さっきまでの軽さが消える。
「白坂さんって、本好きなんだ」
「うん」
短い返事。
紅葉は本を覗く。
(……自然)
でも。
(揺れてない)
「どんなの読むの?」
「色々」
会話は普通。
だが――
(静かすぎる)
感情の波が、ほとんどない。
(……やっぱり)
紅葉の中で確信が強くなる。
「ねえ」
少しトーンを落とす。
「変わってるって言われない?」
ゆいの目がわずかに動く。
「……言われるかも」
否定しない。
(当たり)
「じゃあさ」
一瞬、間を置く。
「“普通じゃないことしてる人”って、どう思う?」
周囲の喧騒とは別の空気。
ゆいは紅葉を見る。
まっすぐに。
「……内容による」
シンプルな答え。
「誰かを傷つけるなら、よくないと思う」
静かな声。
(……綺麗すぎる)
紅葉は小さく笑う。
「正論だね」
ゆいは何も言わない。
ただ、見ている。
(……見られてる)
一瞬だけ感じる。
(こっちも探られてる)
ほんのわずかに。
確信に、ノイズが混ざる。
(……でも)
(ほぼ確定)
紅葉は立ち上がる。
「ありがと」
「話せてよかった」
「……うん」
短い会話。
でも十分。
戻りながら、小さく呟く。
(ホワイト)
そして――
「紅葉ちゃーん!」
ひなのが手を振る。
「どうだったー?」
紅葉は一瞬見る。
(……やっぱり)
何も感じない。
(びっくりするくらい何もない)
(この子だけ世界違くない?)
(ノイズですらないんだけど)
「普通にいい子だったよ」
「でしょー!」
満面の笑み。
(うん、知ってる)
(めちゃくちゃ“普通”)
視線をゆいへ戻す。
(これでいい)
心の中で、静かに確定させる。
(ブラックでも、ホワイトでも)
目が細くなる。
「ノクスは潰す」
その意思だけは、一切揺らがなかった。




