表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光と闇の境界線  作者: えみり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

潜入

朝。


新学期のざわつきがまだ残る教室。


黒瀬ユウは机に肘をつきながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。


(……いつも通り、か)


笑い声。


雑談。


変わらない日常。


——そのはずだった。


「今日は転校生を紹介する」


担任の声が響く。


教室が一気にざわつく。



「白坂に続いて、また転校生だ」


その一言で、男子たちの空気が変わる。


「マジかよ、またか?」


「しかも“また”ってことは……期待していいやつ?」


「頼む、美人であれ……!」


小声が飛び交う。


ガラッ。


扉が開く。


その瞬間。


教室の空気が、明確に変わった。



入ってきた少女。


長いワインレッドの髪が、光を受けて揺れる。


整った顔立ち。


落ち着いた佇まい。



「……え、やばくね?」


「めっちゃ美人じゃん……」


「レベル高すぎだろ……」


男子たちの声が一斉に漏れる。


女子も思わず見とれる。


その中でただ一人——


紅葉は冷静だった。


(……ここね)


視線を自然に動かす。


一人一人を見る。


顔。


姿勢。


空気。



(ブラックとホワイトがいる学校)


「……天城紅葉です」


軽く会釈する。


「よろしくお願いします」


短い挨拶。


だが、その間にも——


観察は続いている。


(違う)


(これも違う)


(この人も——普通)


順番に切り捨てていく。


そして。


視線が止まる。


黒瀬ユウ。


(……)


一瞬だけ、空気が引っかかる。


(こいつ)


理由は分からない。


だが——


(ちょっと違う)


ただし次の瞬間。


(……いや)


紅葉は内心で首を振る。


(こんな分かりやすい位置にいるわけないか)


合理的に考える。


(ブラックなら、もっと隠れる)


(もっと“普通に見せる”はず)


(逆に自然すぎる)


結論は保留。


(……一応、候補)


紅葉は何も表情に出さず、席へ向かう。



ホームルーム後。


「天城さん!よろしく!」


「どこから来たの!?」


「部活やる?」



男子の食いつきがすごい。


明らかにテンションが上がっている。


「紅葉ちゃんって呼んでいい?」


女子も混ざる。



紅葉は一瞬だけ目を瞬かせる。


「……あ、うん」


少しだけ素が出る。


「よろしく」


柔らかく返す。


(……自然)


(演技じゃない)


その中で——


ひなのが笑う。


「なんか大人っぽいよね〜」


「そう?」


紅葉は少し首を傾げる。


そのやり取りを見ながら、


紅葉の視線はまた動く。


(観察継続)


そして——


ひなのが振り向く。


「あ、ユウー!」


「こっち来なよ!」


ユウは軽く手を上げる。


「いい」


「えー、冷たい」


男子たちが笑う。


「お前も来いよ!」


「もったいねえ!」


ユウは興味なさそうに肩をすくめる。


その様子を——


紅葉は見る。


(……やっぱり)


違和感。


(浮いてる)


周りと少しだけズレている。


(でも)


冷静に考える。


(ブラックなわけないか)


(こんな目立つ場所にいるなら、とっくに情報が出てる)


(それに——)


(あの感じ)


(“殺し屋”には見えない)


結論。


(保留)



昼休み。


紅葉は一人、屋上へ向かう。


(人が少ない場所)


(観察には最適)


扉を開ける。


そこにいたのは——


「……やっぱり」


黒瀬ユウ。


フェンスにもたれている。


ユウが振り向く。


「……誰だ」


「同じクラスでしょ」


紅葉は少し笑う。


「天城紅葉」


「……黒瀬ユウだ」


「知ってる」


少しの沈黙。


紅葉は隣に立つ。


距離を保ちながら。


(近距離観察)


呼吸。


視線。


立ち方。


(……やっぱり)


分からない。


「ここ、よく来るの?」


「まあな」


「静かでいいよね」


「そうだな」


自然な会話。


でも紅葉の中では、


完全に分析が続いている。



(ノクスの人間なら)


(もっと違うはず)


(でも——)


「ねえ」


紅葉が言う。


「裏で何してるか分かんない人ってさ」


「どう思う?」


ユウは少しだけ考える。


「別にどうも思わない」


「へえ」


「人なんてそんなもんだろ」


紅葉の目がわずかに動く。


(……何それ)


予想外。


(隠さないんだ)


(誤魔化さない)


(……変なやつ)


「……変わってるね」


「よく言われる」


少しの沈黙。


(ブラック……?)


(いや)


(違う気もする)


(でも、完全に否定できない)


紅葉はふっと笑う。


「ありがと」


「……何がだ」


「なんでもない」


そのまま歩き出す。


「またね、黒瀬くん」


屋上を出る直前。


紅葉の表情が変わる。


「……分かんないな」


小さく呟く。


「でも」


目が細くなる。


「どっちでもいいか」


静かに。


「ブラックでも、ホワイトでも」


そして——


「ノクスは潰す」


迷いはない。



光は、すでに入り込んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ