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好きになろうとしても、好きになれなかったんです。

ハードボイルド・セブン

エピソード2. 大洗

第7話




赤見と日光が乗った車が茨城町東ICを過ぎた頃だった。


「そうして殺し屋の道に踏み込んだわけです。」


日光はわざと不気味な声で脅かすように言った。赤見は呆れたように眉をひそめた。


「結局、あの黒崎ひまわりという女がいなければ、お前が殺し屋になることはなかっただ。普通の興信所など経営していたはずだろう。」

「どうでしょう。俺が殺し屋になるのは結局時間の問題だったのかもしれません。俺は職業を選ぶつもりはなかったし、常に報酬の大きい仕事を探し回っていたんです。ひまちゃんの話では初めて会った時から俺なら殺し屋の仕事ができるだろうと思っていたらしいですよ。」


赤見が何を答えていいか分からない気分に陥っていることに気づいた日光が、明るい態度で話題を変えた。


「まあ、それはともかく。とにかく当然ですが、優しい母親と厳しい父親の元で、兄や妹と時々喧嘩をしながらも絆を築き、学校で様々な知識を学び、甘くも苦い初恋も経験し、進学と就職の間で悩んだ……そんなことは俺とは無縁だということです。俺には最初から誰もいなかったし。」


日光は顎先を傲慢に突き上げた。


「だから今、俺が持っているものは全て、俺一人で俺の手で成し遂げたものです。俺の家。俺の名声。俺の力。俺の技術。」


日光の顔に明るい自負心が浮かんだ。思い切り高揚した彼は、まるでテレビに出てくる成功した実業家のように見えた。あんなに恐れるものなど何もないような奴だ、元々。赤見は日光を見て、そんな男が赤見に捨てられるかもしれないと泣きそうになるこの状況が、改めて本当に奇妙に感じた。赤見がそんなことを考えていることを全く知らない日光は自信に満ちた口調で話を続けた。


「俺はそれが誇らしいです。今の自分が気に入ってます。他人の判断や評価なんて必要ない。そんなものはお断りですよ。」


赤見は突然好奇心が湧き、日光に質問した。


「他のことを聞いてもいいか?」

「もちろんです。何でもどうぞ。」

「じゃあ、お前は……お前以外で好きなものは何?」


予想外の質問に日光は一瞬動きを止め、やがて肩をすくめた。


「人を殺して大金を手に入れること?」

「つまらない冗談はやめろ。」

「はいはい。」


赤見がうなり声を上げると、日光はハンドルをパタパタと叩きながらクスクス笑った。


「俺以外で好きなものなら何だろう。やっぱり赤見先輩かな。」

「はあ。そんなのじゃなくて。」

「どうだろう、ふむ……。」


日光が目を回した。笑みが溢れていた整った顔が、無表情に沈み込んだ。


「特にないですね。」

「何かあるだろ。料理とか。昨日食べたカル……?あの魚の料理、正直すごく美味しかった。」

「ただ、何かできないのが嫌で、必要なことをいろいろ覚えただけです。先輩、俺が料理以外でもまた何かできるか知ったら驚きますよ?」

「そんなに上手なのに、興味がないだと?」


日光は気にも留めないように首を振った。


「本当に何かを好きになったことないよ。全部つまらなくてひどくないですか?生きるって。俺だけかな。」


それは実は赤見も知らない気持ちではなかった。むしろよく知っている方に近い。しかし赤見が聞きたかったのはただ好きな色とか、趣味のような軽くて単純なものであった。こんな方向に話が流れるとは思っていなかった赤見は、少し居心地の悪い気持ちで日光の話を聞いていた。


「好きになろうとしても、好きになれなかったんです。何も感じられなかったです。でも、今は先輩のことを考えると……先輩を見ると胸が詰まるんです。熱く、ドキドキする。だから、先輩だけが好きなんです。この世で。俺は先輩に借りを負っています。全く知らなかったこんな感情を先輩が教えてくれたから。そして、これが俺にとって唯一な機会かもしれないんです。こうしないと、俺は誰かを本気で好きになることなんてなかったはずです。」


感情や本心なんて言っても全部嘘だ。世の中のどんな感情や本心が他人の強制によって引き上げられたということか。


「誰かと近くで過ごしたいと思ったこともなかったし、こんなに会話したいと思ったこともなかったし。でも、やってみたらいいですね。なぜみんなそうするのか今ならわかる。」


やめろ。もう話すな。


「ありがとう、先輩。俺と今日ここに一緒に来てくれて。」


その優しい声に、赤見は口の中の舌を強く噛みしめた。車がゆっくりと止まった。日光が死ぬために、大洗サンビーチに到着した。

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