一生大切にする。
ハードボイルド・セブン
エピソード7. 正義
第58話
店員が近づき、酒が揺れるグラス二つと数々のメニューをテーブルの上に次々と置いた。食器がテーブルに当たる音と、逆のリズムで日光の心臓が不安そうにどんどん鼓動した。店内のどのテーブルよりもぎっしりと埋め尽くされた日光と赤見のテーブルを見て、額から汗を拭った店員はお召し上がりくださいと形式的な挨拶を残し、急いで去っていった。店が爆発しそうなほど混雑していて、仕事が山積みだった。あの若い店員は、これまで通り、日光と赤見とは関係ない忠実な人生を続けていくだろう。日光はいきなり、その事実が不思議に感じられた。では俺は?先輩は?俺たちはこれからどうなるのだろう。
「日光。」
「はい?」
自分の考えに浸っていた日光が驚いて答えた。しかし赤見が唇を噛みしめ、次の言葉をためらったため、日光がすぐに答えた甲斐もなく、会話は沈黙に包まれた。日光は急に不安になった。
「どうしたんですか?先輩。」
鋭い声。赤見は自分の躊躇いだせいで日光が何か大きな誤解を招いていることに気づいた。しかし、いきなり口にするにはやはり恥ずかしい頼み事なのに。赤見は自分のハイボールを一気に飲み干した。甘くて冷たかったが、アルコールに弱い体質のため、たったその一口で顔が赤く染まった。そう決めた。
「私たちも撮ろう。写真。」
「え?」
日光が気抜けして聞き返した。おそらくまったく予想できなかった提案だったのだろう。赤見は額を覆う長い前髪を掻き上げ、テーブルの角を軽く叩いてから、大きなため息をついた。
「だから、だからあの、あいつらみたいにさ。」
「あいつらって誰のことですか?そうだけじゃ分からないですよ。」
「福世兄妹のことだよ。」
「福世?」
「そう。君がくれた写真の中にあっただろ。あの二人が居酒屋で撮った写真。」
「は?え?あ?ああ。はい、思い出しました。」
日光はようやく全ての脈絡を把握した。
「つまり、俺とあの兄妹のように二人で一緒に写真を撮りたいということですね?」
「そう言えるかもしれないな。」
「そう言えるかもしれないどころか、ただそれだけじゃないですか?兄妹で仲良く写真を撮ったのが羨ましかったんですか?先輩、まさか、写真撮りたくて今日居酒屋に来ようと言ったんですか?なら背景が必ず居酒屋である必要はないんじゃないかな?いや、俺と写真を撮りたいだけでなく、居酒屋にも一緒に来てみたかったことですね。ドラマを観ている最中に、突然な言葉だと思ったんですが、先輩、俺にこの話を出す機会を待っていたんですか?この言葉を言うためにどれだけ待ったんですか?うわ。もしかして写真を見た時から?なら11月からということで、3ヶ月もかけて勇気を出したんですか?今日は本当に無理しましたね、先輩。偉いですよ。感動しすぎて涙が出そう。」
「酒を顔に掛けろ。」
催眠命令が即座に効き、日光はまだ一口も飲んでいない日本酒を顔にぶちまけた。頭はもちろん、着ていた赤いTシャツまでびしょ濡れになり、周りのテーブルからささやき声が聞こえてきたが、日光はどうでもよかった。日光は満面の笑顔で携帯電話を上げた。
「さあ、先輩。チーズして、ちょっと笑ってよ、笑って。」
「嫌だ。それでも君がそんな格好の写真が残るなんて、少しは気分が晴れるな。」
「今じゃなくてもたくさん撮ればいいから、俺は構いません。それに元々俺みたいなイケメンは濡れた方がむしろセクシーですよ。」
「君がそう言うたびに、本当に何て言ったらいいか分からない。」
「ただ俺の顔を存分楽しみにしてください。これも全部先輩の幸運ですよ。」
赤見は1枚撮りたいと言っただけだったのに、日光の携帯電話のアルバムはすぐに二人の写真と、日光が勝手に撮った赤見の不満な顔で埋め尽くされた。
日光は先輩がもう少し早く言ってくれていたらと思った。写真の中の先輩がした眼帯が気になった。でもこれでよかった。一生大切にする。めったにふらつくほど酔って、赤見に頼って居酒屋を出た日光は、先ほどテーブルにメニューを運んでくれた店員の背中を思い出した。その背中を見ながら考えたことを思い出した。あの人がこれから忠実な人生を続けていくように、俺と先輩も続けていくんだ。そうしたら良いんだ。なぜ無駄な心配をしたんだろう。先輩はこんなに俺のすぐそばにいるのに。アルコールに溶けた脳が普段よりゆっくり回り、心も緩んだ。もしかしたら、ただ考えすぎただけかもしれない。もしかしたら、すべて大丈夫なのかもしれない。
その後、日光は赤見を連れて様々な場所を訪れ、大量の写真を撮りまくった。混雑しない早めの時間に渋谷の有名な居酒屋に連れて行ったり、それ以外にも赤見が好みそうな魚料理の店やスイーツカフェにも行った。赤見の写真と共に、その日食べた料理の写真や風景の写真も、日光のアルバムに少しずつ積み重なっていった。日光はみんなはやってるけど、自分は一度もやったことがないインスタグラムのアカウントを作ってみようかと思った。




