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君のおかげで、ようやく本当にこの世に生まれてきたような気がする。

ハードボイルド・セブン

エピソード7. 正義

第57話




家に帰った赤見は、まるで何事もなかったかのように過ごした。日光は、そんな先輩をどう扱えばいいのか全く分からなかったので漠々とした。突然一人になってしまったような気分だった。一緒に何事もなかったかのように振る舞うには、自分の罪があまりにも重く、先輩の顔に残った傷跡も無視できないほど鮮明だった。赤見は廊下の角を曲がるたびに、時々距離感を失って右の肩や肘をぶつけた。一瞬のバランスを崩し、何もない床で突然転んだこともあった。それでも赤見は、そんな事故が起こるとすぐに消えたように振舞った。しかし起こったことは起こったことで、痕跡として残る。体の半分に青と黄色のあざが広がる赤見の姿を見守る日光の心も、あらゆる色で騒がしかった。


それらはどうしても胸に秘めておくようなものではなかった。いつも前の食事に食べた食べ物が逆流してくるような胃のむかつきがしていた。日光は、血色の悪い赤見よりも暗い顔色で、声だけをかろうじて上げ、赤見の言葉を返した。君と新年を過ごすのは初めてだね。そうですね、浅草で新年の占いをしに行ってみましょうか。人混みは苦手だ。あえて占いをするなら2月、いや、3月に行った方が良い。何ですか、それ。それでは新年の雰囲気が全然ないじゃないですか。日光は楽しい気分もなく、ははと笑った。そんな意味のないやり取りが何度も繰り返された。


それが日光が直面する困難の全てではなかった。今では恐ろしいほどに慣れきってしまった、心臓から温かさが抜けていくような虚無感に、日光はパッと目覚めた。被っていた布団を足で蹴り飛ばし、ベッドから飛び起きて、慌てて廊下を走った。家は無駄に広かった。明日からは先輩の部屋の隣のドレッシングルームで寝よう。それとも先輩のベッドの横に布団を敷いて寝よう。ノックもせずに先輩の部屋の扉を開けて入り、寝ていた先輩を揺さぶって起こした。急いでいたため、申し訳ないという気持ちすら浮かばなかった。赤見は眉をひそめて目覚めて、恐怖に満ちた表情で自分を見つめる後輩を見て笑った。柔らかくて短い黒髪で覆われた丸い頭を手のひらで包み、静かに目を合わせた。赤見の感情を受け取った日光は、少し和らいだ様子で赤見の手にもっと慎重に重さを加えた。


先輩は怖くないですか?何が。先輩はもっと怖がらなきゃいけないんです。何を。俺を。君のその生意気な性格は催眠術でも直らないんだ。俺は怖いです、先輩。とてもとても怖くて、ただ逃げ出したいです。一生私を守ってくれるって約束したじゃないか。こんな臆病者だと知ったら、そんな頼みはしなかったのに。ごめんなさい。大丈夫。大丈夫じゃないです。ひとつも、何も、大丈夫じゃないです。それでも大丈夫。私を信じて。はい。私のそばにいて。はい。催眠術の終わりに交わされる短い会話だけが、二人が一日の中で真に交わす唯一の交流だった。


一日。催眠術の有効な周期が一日へと縮まった時、赤見は逆に安心していたようだ。日光はほとんど自分のそばを離れないようになった。こんなのが良い関係なはずがないことは、引きこもりとしてほぼ一生を過ごしてきた赤見でも分かっていた。自分は日光にとって良い先輩ではない。良い人ではない。しかし、もうすぐ終わるはずだ。この劇の幕が下っている。目の傷は順調に治っていたにもかかわらず、赤見はなぜかそんな予感がした。だからこそ、日光がもう少しだけこの自己中心的な先輩を我慢してくれれば、もう少しだけこのままいられれば、それでいい。


「居酒屋知ってるとこある?」

「居酒屋ですか?知ってますよ。行こうっていうことですか?」

「うん。」


二人がリビングのソファに横たわって一緒に見ていたドラマでは、女性の主人公がようやく再会した男性の主人公と一緒に両親の墓参りをしていた。居酒屋という言葉が入り込む余地のないシーンだった。日光は意味が分からないと思いつつも、席から立ち上がって車の鍵を手に取った。


週末の夜の居酒屋はどこも賑わっていた。日光は3度目の試みでようやく待ち時間が短い店に入ることができた。来客用として店の隅に置かれたプラスチックの椅子に座っていた赤見は、先に居酒屋に行こうと提案した人にしては、かなりなかなか渋い表情をしていた。店内の高い笑い声とグラスがぶつかる破裂音で騒がしかった。いつも一人で家にこもっていたり、静かな喫茶店で平和な時間を過ごしてきた赤見は、慣れない居酒屋の騒がしい雰囲気にすでに圧倒されたようだった。


「これは出ようと言った先輩のせいですよ。週末のこの時間の居酒屋はこれが普通なんです。」

「知らなかった……。」


その元気のない声に、日光は久しぶりに心から笑いが漏れた。


「こんなのは中学生でも知っている常識です。先輩は本当に俺がいなければダメですよね。」

「そうだよ。だからどこかに行くとか考えるなよ。」


言葉に詰まった日光がためらっている間に席が空いたのか、店員が割り込んで二人を店の真ん中の空いているテーブルに案内した。日光は返事のタイミングを逸してしまったことがむしろ幸いだったと思った。赤見はすでに先ほどの会話を忘れたようだった。彼は日光がテーブルの端に置かれたタブレットを慣れた手つきで操作し、自分の分のメニューを注文する様子を興味深く見守っていた。


「俺は日本酒を飲みます。先輩はサワとかハイボールして。そっちの方が甘くて柔らかいです。つまみはとりあえず基本的なものをいくつか入れたけど、先輩もメニューに食べたいものがあれば追加して。」

「こんなモニターで注文するのは初めてだ。」


日光は驚いた顔で赤見を振り返った。


「こんなの見たことないですか?導入されてから10年も経ってるはずだけど?」

「春風以外にはあまり行った店がないから。春風はアナログ式のメニューだし。」

「それでも……。特に新型コロナの時期以降、本当にありふれて、今ではどこにでもあるんですよ。」

「私は新型コロナにもかかったことない。」

「そうですか……。まあ、それはいいことですけど……。」


赤見は慎重に考えた末、桃のハイボール一杯とアジの天ぷら、サバの酢漬けを追加した。タブレットを力強く押す赤見の人差し指は、一見してその動きが遅くてぎこちなかった。もちろん、日光は先輩をからかう機会を逃さなかった。また打製石器を持って洞窟に戻るのはどうだというとんでもない痛罵には、赤見も爆笑せざるをえなかった。一緒にしばらく騒がしく笑った後、日光も赤見も、まるで赤見の目が二つあった時に戻ったような気がした。やっとちゃんとした時間が流れ始めた。店内の他の客たちのようにあははっと朗らかな笑い声を上げながら、赤見は溜まった涙を手の甲で拭い、ああ、と感嘆に近い心地よいため息をついた。


「君のおかげで、ようやく本当にこの世に生まれてきたような気がする。6月に会って新年を過ぎた1月だから、もう半年くらいか。私の人生の最高の時間だったと断言できるよ。」


赤見はいつの間にか穏やかな笑みを浮かべていた。ひとつだけの彼の目は、まだ何も置かれていない空のテーブルに視線を向けていたが、どこか遠い風景をたどっているようにも見えた。日光は突然息が詰まった。なぜ過去形で言うんですか?先輩の目は今、どんな場面を見ているんですか?

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