今さらそれが問題になるのか?
ハードボイルド・セブン
エピソード7. 正義
第52話
その後、何年間も大夢は正義のことを忘れて過ごした。奨学金を得るために適当に成績に合わせて選んだ専攻に加え、将来有望なIT業界に所属するため、情報セキュリティ学科の授業を副専攻で履修する忙しさで本当に忙しかった。大学を早期卒業した大夢は、空白なく就職し、着実に給料を上げていった。特に努力しなくても食べていけるほど年次を重ねるごとになってすぐにフリーランスに転向た。大夢は蟻のように働き続けるつもりはなかった。出来る限り潤沢な生活を送るため、これまで走り続けてきただけだった。
大夢はそのまま普通の生活を続けることもできた。職場恋愛から始まり、4年以上付き合った彼女と結婚の話が出る前まではそうだった。結論から言うと、大夢は結婚を許されなかった。彼女の父親が大夢が施設出身であることを問題視し、強く反対した。大夢は作り笑いが出た。今さら、ここまで来たのに、出発点が問題なら、これまでの努力は全て何だったのか?大夢はあの老人の口を封じるため、ディープウェブに飛び込んだ。大きな取引を手に入れ、その面前に断れないほどの金束を投げつけるつもりだった。
幼稚な意地から始まった間違った選択だったと、大夢は結論付けた。丈人になるべき男を無視して結婚してしまったり、他の女性と付き合い彼女を忘れるべきだった。少なくともディープウェブに足を踏み入れるべきではなかった。しかし大夢は結局、これまで積み上げてきた全てを水泡にする選択をした。犯罪を犯し、その犯罪を踏み台にさらに大きな犯罪を続けていった。結婚や復讐といった最初の目標は、いつの間にかうやむやに散らばってしまった。キーボードを数回叩くだけで、年収と匹敵する大金が口座に振り込まれる快感は中毒的だった。
このままでは本当に危険だ。そんな考えに一瞬躊躇した時期だった。ディープウェブという意外な場所で大夢は、正義と再会した。背筋を伝って鳥肌が立った瞬間を忘れることはできない。殺し屋、修羅。奴はディープウェブの他のユーザーと同様、身元がバレないよう注意していたようだったが、人生の半分を共に過ごした大夢は、小さな手掛かりだけで彼が日光正義だとすぐに気づいた。大夢はこれまで稼いだ大金を吐き出しながら、修羅に関する情報を何でも買い集めた。他の情報屋と取引する変装した声、ショートメッセージ、電話番号数件、遠くから撮った写真数枚……。ストーキングだという自覚はあった。しかし、今さらそれが問題になるのか? すでにそれ以上のことを犯した後だった。そして、それは修羅も同じだっだ。
大夢も正義も、真っ黒に腐った怪物となり、下水道の底をさまよっていた。




