欲しいって言ったことないじゃないですか。
ハードボイルド・セブン
エピソード7. 正義
第49話
「なぜ俺が嫌いなの?」
尖った棘のような大夢の声は、それでもかかわらずまだ声変わりを過ぎていないため、まんまるだった。正義は窓際の席に座っていた。正義は答える代わりに、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
所々塗装が剥がれて汚く露出したコンクリート床は、運動場どころか空き地と呼ぶ名前さえ惜しいほどだったが、この施設の子供たちにとって唯一許された遊び場だった。町の中心部に位置する『本物の遊び場』で、少なくとも親の片方は持っている奴が失くした野球ボールを拾ってきてサッカーボール代わりに遊ぶ子供たちの群れが、集まったり散らばったりする様子は、何となく群舞のようなところがあった。
正義は学習時間に視聴覚室で見たバレエ公演を思い出した。指先の角度まで徹底的に計算されたその動作は、子供たちの無茶苦茶なサッカーと似ている部分は少しもなかった。では、正義はなぜ子供たちの野球ボールのサッカーからバレエ公演を思い出したんだろう?
それらは自分とは異なり、鮮明に躍動しているからそうなのか?
「正義君!聞いてる?」
正義の視線は窓の外から大夢へとゆっくりと流れた。猫のように鋭い目元の中、正義の黒い瞳は、大夢のくせ毛で半分覆われた赤らんだ顔をそのまま映し出していた。それで、大夢は正義が自分を眺めていることに間違いはないと確信した。しかし、必ずしもそんなことではなかった。正義の頭の中では、まだ糸が切れた野球ボールに向かって猛烈に突進する子供たちと、厳粛な雰囲気の中でユリのように優雅に咲き乱れるバレリーナが交錯している最中だった。
「嫌だなんて言ってことないですよ。」
正義の声も、まだ声変りがかなり残っているように、幼く、細かった。大夢の声との違いは、大夢の声には大夢が満ちていたが、正義の声には正義がいないこと。
「じゃあ、なぜ俺と一緒に遊ばないの?」
「いいと言ったこともないですから。僕は兄さんが嫌いでも好きでもないです。ただ、誰とも遊びたくないだけなんですよ。言ったでしょう。」
正義はすべてに無関心な少年だった。すべてという範囲には大夢という少年も含まれていた。通常、大夢は他人のそんな無関心をむしろ楽だと考える方だったが、今はこうして大夢側から先に親しくなろうと努力しているんじゃないか?この誠意のない態度は不届きだった。先月まで埼玉県の施設にいた時は、好きでも嫌いでも同期なら一緒にいなければならなかった。誰も自分に向けられる言葉を無視する愚かなことはしなかった。集団から排除されることは、すなわち集団暴力の犠牲者と狙われるという意味だった。
しかし、東京の施設に移ってきて出会った正義は、そんなことを気にしなかった。小さな体格にもかかわらず、他の男の子一人や二人くらいなら簡単に倒せるほどよく戦っただけではない。正義は、この世のすべての人に自分が嫌われても構わないと言った。いや、むしろ、嫌われた方がましだと言った。大夢はその言葉が理解できなかった。大夢の世界では、他人からの関心とは、すなわち、他人から得られる財貨であり、他人から得える財貨とは、すなわち、他人を振り回す力を意味した。
「お前は孤児だ。」
「で?兄さんも同じでしょう。」
「だから、俺の言いたいのは、俺たちのみたいな子たちは、何でもまず俺たちで分け合わなければならないということだよ。俺たちは、お前は、最初から欠乏した存在なんだ。」
「け……?それは何んですか?また兄さんが読んだと言った本に出てくる言葉なんですか?」
正義は珍しく眉をひそめた。大夢が難しい言葉を使うときに出てくる癖で、大夢は正義がその表情をする瞬間が好きだった。いつも大人ぶっている正義を先回りした快感と共に、自分が正義から特別な何かを引き出したという勝利感が湧き上がった。
大夢は意気揚々になって、勝手に正義の机の上に腰掛けた。正義は大夢が近づいたちょうど分だけ椅子を後ろに引いた。大夢は気づいていないようだった。
「欠乏とは、何かが足りないことを意味する。君に足りないものを与えようとしているのに、なぜ受け取ろうとしてない?」
正義の眉間がゆっくりと緩んだ。再び無表情な顔に戻った正義が窓の外を眺めた。子供たちはまだルールも知らないサッカーに夢中だった。野球ボールへの間抜けな没入。正義は、もしかしたらあんなものを手に入れることもできたかもしれない。もしかしたら親や友達や、とにかく多くのものを手に入れられたかもしれない。手に入れられない予定だったけどな。
正義は見目良くて聡明な少年だった。物足りない部分なく完璧だった。正義は欠如したことがなかった。
だからこそ目立ってしまったのかもしれないという考えだけだった。
「欲しいって言ったことないじゃないですか。」
正義は暗い舞台の上で、一人で白く輝くバレリーナを見て気づいた。自分は逆だ。
この白い世界の中で、自分だけが暗い。




