『あれ』
ハードボイルド・セブン
エピソード6.福世
第48話
「そして、来てから正直に話せば、お母さんの性格なら、いつでもおじさんを、……お兄さんを、あ、一生上に誰もいないと思って暮らしていたのに、これって変だね。ともかく、お兄さんを受け入れてくれたはずだ。お母さんは私の超能力も大したことないと思ってるから。お母さんだけじゃなくて、明も、いや、私の弟もお兄さんを家族として受け入れてくれたかも?だから、お母さんに許しを請うなら、こうやってこっそり来るんじゃなくて、今にでもまた行って……。」
「待って、待って。家族にお前の能力を言ったの?」
「え?うん。タメ口早いね。ともかく、そうなんだけど?」
「そんな能力を持っているのに、家族が受け入れてくれたの?」
「うん。どうしたんだ?家族だから当然だよ。とにかくそれに、よく考えてみれば、私と私の弟はお兄さんに命を救われたようなものだし、お母さんもお父さんと出会って短い間でも幸せだったと言っていたから……。」
赤見はその場に凍りついた。血が冷たくなるような気分だった。家族だから、こんなに異常に生まれても、そのまま受け入れてくれたって?
赤見の目の前に列車の夢が広がった。いや、列車の夢ではない。これは本当に列車に乗ったあの瞬間だ。施しでもするように飴の箱を渡し、自分は少しトイレに行くからずっここの席に座って待ってろと、赤見を安心させた父親の顔が思い出した。そう、今になって全てを思い出した。鮮明に浮かび上がった父親の表情が意味するものは明確だった。嫌悪と恐怖。5歳の赤見は、その明確な感情を解釈しないように全力で努力した。お父さんはお腹がすごく痛いんだ。トイレに行ったから、それが正解だよ。トイレから戻ってくれば、その後からは大丈夫だよ。お父さんは確実に一緒に遊びに行って、楽しいことをたくさんするって言ったんだ。そうして戻ってこない父親を待ちながら飴を食べた。赤見は良い子になりたかったので、すべての駅を通り過ぎても、一日分の飴である、一つの飴だけを食べてから父親を待った。しかし、列車の明かりが消えた時、ぼんやりと気づいた。私は今後、誰にも完全に受け入れられないだろう。
でも、お前は違う?お前も私と同じだろう?お前の能力を隠して生きながら、誰とも本当に親しくなってはならないのが当然なことじゃない?でも、お前は私が失った母親と共に、何の嘘もなく平凡に生きているというのか?
それなら、私もそうできたということか?
どうにもならないほどの巨大な嫉妬と後悔が赤見の全ての精神を支配した。この福世はじめという女性は、赤見の枷を解く鍵ではなかった。この女性は、赤見が持つことができた人生、そのものだ。赤見は自分の人生をこの女性に捧げたのだ。赤見は過去に戻って母親を捕まえられるなら、どんなことでもできそうだった。
お前は、お前たちは、最初から生まれてはいけなかった。
「それより、本当の問題は『あれ』だ。」
「『あれ』?」
赤見の心を占領した激しい憎悪を読めなかったはじめが日光を指差した。
「超能力者同士は能力は効かないみたいだけど、他人にかけた能力は見えるみたい。お兄さん、あの男に催眠術をかけたよね?」
赤見が戸惑うと、はじめは一人でうなずいた。
「やっぱり。何かあの男、お兄さんのことをすごく好きで、ほぼ執着しているみたいだけど、そう仕向けたのは理解できる。お兄さんは見た目はこっち側の明みたいに気弱い感じだけど、どうしてあんな…… サイコパスの殺し屋に引っかかったの?」
「理解できる? お前には私の催眠術はどうやって見えるの?」
「お兄さんから何かが流れ出て、あの男の心を強く引き付けているんだというか。見えるというより、感じるっていう方が正しいかも。催眠術については私もよく分からないけど、掴んでいると言っても、それは意識の次元のことみたいけど?あの男の無意識とか、とにかく『本心』はお兄さんの催眠術の下に抑え込まれてはいるけど、ずっとお兄さんを見つめながら殺したいと思っているね。」
「ずっと私を見つめていたと?」
「うん。お兄さんはあの凄まじい殺意を感じないの?読心術じゃないから気づかなかったのか?」
「催眠術にかかっていれば、その間は私を、私に…… 好意しか持たなくなると思っていたのに。」
「それも正しい。お兄さんがあの男に植え付けたお兄さんへの好意は確かに存在する。でも同時に、あの殺し屋はお兄さんという人間そのものを軽蔑し、嘲笑している。私は探偵の仕事をしているから、いろんな悪人と結構出会ってきたと思っていたけど、こんな悪意に直面するのは初めてだ。見るだけで恐ろしい呪いを受けるんじゃないかと疑うくらいだよ。ともかく、お兄さんもそれを知ってあの状態で一緒に過ごしてきたんだけど、催眠をかけずに放っておけば、あの男は必ずお兄さんを傷つけるよ。」
はじめはもう、赤見が心配そうに彼を見ていた。
「お兄さん、どうする?」
「どうするって……。」
今度ははじめが両手で、赤見の両肩を力強く掴んだ。
「さっきまでは知らなかったけど、知った以上、お兄さんは私の家族だよ。そしてお母さんにも明にも、お兄さんを知る権利がある。でもあの男にうちの家族が露出されてしまったね。お兄さんの催眠術であの男を永遠に追い出せないのか。まあ、だから仕方なく一緒にいるしかないよね。誰だってあんな殺人鬼と一緒にいたくはないから。」
赤見ははじめの堅く温かい手から自分の体を抜き出し、一歩後ずさった。そして、二歩、三歩とさらに後ずさった。
「何?」
赤見はそのままはじめから離れ、日光の方へ戻った。赤見は日光の首を無理やり掴んで引きずった。
「先輩?何の話をしてたんですか?先輩?」
「急にどこに行くの!お兄さん!」
赤見は全ての呼び声を無視し、ただ日光を掴んで歩いた。そうして、どこまでも行ってしまうつもりだった。




