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5歳の、気持ちで

ハードボイルド・セブン

エピソード6.福世

第46話




点検するふりを終えて、赤見と日光は再び玄関前に立ち、悦子に頭を下げて挨拶した。


見慣れないように感じていた写真とは違って、母親の実物を見ると、年月が経って年老いた顔に、記憶の中の若い母親の顔が苦もなく重なった。特に動きや声が加わると、赤見は母親が本当に生きていることが実感できた。


「ありがとう、 技師さんたち。」

「いやいや、弊社の製品を使ってくださって、こちらこそありがとうございます。」


気さくで上手なサービス言葉を即興で思いつく日光に感嘆していた赤見は、躊躇った後、勇気を振り絞って少し前に出た。


「あの、お元気で、いてください。お身体に気をつけてください。」

「あら、ありがとう。赤田さんもお元気で。礼儀正しい。」

「もしかして、あの、だから、だから、次に…… またエアコンを見に来てもいいでしょうか?もちろん、もちろん無料で……。」

「そうしていただけると、私たちはありがたいです。でも、赤田さんは私たちの息子と話し方が似ていますね。うちの明君も性格が気の小さいので、あら、失礼しました。」

「全然です!いいえ!大丈夫です!私は全部、全部大丈夫です。」


マスクをしているため、目以外がよく見えないと思って、赤見は力を込めて目を曲げて微笑み、再びお辞儀をした。


マンションを出ると正午だった。体に感じる寒さにもかかわらず、赤見は全く寒くなかった。胸が高鳴り続け、なぜか力が湧いてきた。風がぴゅうぴゅうと吹いて、目を大きく開けるとすぐに涙が乾いた。赤見はマスクを下ろし、冷たい空気を深く吸い込んだ。


「ごめんなさい、と言いたかったのに。」

「どうやら脈絡なしにそんなことを言うと、少し変ですよね。」

「そう、ね。でも、ただ……。」

「何の話かわかってます。」

「私は、ただ、5歳の、気持ちで、わがまま、を、言った、だ、け、だっ、た、の、に……。」

「……先輩。すぐ前のベンチがあるから、座って少し休んでから行きましょうか。」


赤見は日光とベンチに並んで座った。日光は荷物からエアコンを拭くために使わなかった新しいタオルを探し、赤見に渡した。赤見は受け取ったタオルにそのまま顔を埋めた。


「……ありがとう。」

「どういたしまして。」


見えなくても、赤見は糸切り歯が見えるほど爽やかに笑う日光の顔が想像できた。赤見はタオルの中からもごもごと言葉を続けた。


「日光、君が行きたいと言っていた観光スポット、全部行こう。」

「おおっ!そうしてもいいんですか?」

「うん。美味しい店も全部行って。まだ5泊6日もあるし。そして……。」

「そして?」


赤見は力を込めて言った。


「大阪旅行が終わったら、春風に行こう。」


赤見は静かに沈黙を感想した。日光の返事は数分後に返ってきた。


「俺がそこに行ってもいいですか?」


『爆発』により病院に入院している間、赤見は日光に、自分がこれまでなぜ宇代さんに執着していたのか、なぜ春風に日光を連れて行かなかったのかに対して真実を話した。そのような流血沙汰になると思わなかったとはいえ、赤見の独りだけの欲に従って石原拓也を救い、宇代さんの復讐をするためにあの乱戦を乗り越えてくれた日光には、真実を知る権利があると思ったのだ。


日光は予想外に黙々と赤見の話を聞いてくれた。自分勝手に自身の母親を思い出して宇代さんに偽善的に親切だった赤見を非難することもなかったし、催眠術からの聖域にしていた春風に、既に催眠術にかかっていた日光を連れて行かなかったことについても怒らなかった。


日光はただ頷きながら聞いていただけで、それだけだった。その後も日光は、その時聞いた話について何も聞き返さなかった。


「一緒に行って欲しい。」

「先輩が欲しいなら、いつでも、どこへでも。」


赤見は頷きながら、さらに長くタオルに顔を埋めていた。

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