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夢じゃないですよ。

ハードボイルド・セブン

エピソード6.福世

第39話




また電車の夢か。赤見は目を瞬かせた。夢としてはあまりにも生々しいだったが、ソファで眠った記憶が鮮明なので、夢に間違いない。しかし、いつもの夢とは違う点が多かった。第一に、列車の内部のデザインが何か新式だ。第二に、列車の座席ごとに人が座っている。第三に、窓の外は暗く、雪が降っていない。第四に、自分が座っている隣の席に、パジャマではなくスーツを着た日光が、食べ残した弁当と割り箸を握ったまま眠っている。


眠っている日光は、いつも鋭く上向きに跳ね上がっていた目尻がまっすぐに伸びて、普段より穏やかに見えた。タバコも嫌がるほど清潔好きな奴が、こんなにご飯粒まで付いたままぐっすり眠っているなんて。こんな隙だらけの日光はまた新しいかった。夢だからこんなことも可能なんだ。納得できる。赤見は眠っている日光を見る機会が全くなかった。日光は毎日赤見より早く起き、昼寝も全くしなかった。夜には赤見より先に寝床に入ったが、寝室が別だったので、眠る顔を見る機会はなかった。


それでもこれは赤見の夢であり、すなわち、赤見の無意識が反映された幻影だ。最近の日光は、どんどん赤見に何かを要求したり、不満を言ったりする事も増えていた。赤見が日光に厳しくても、全てを受け入れ、下の者ように気分を合わせてくれた以前とは明らかに違っていた。おそらく安心したみたいだと、赤見は考えた。捨てられないという確信を得た猫が甘えが増えたり、癖が悪くなる現象と似ていることだ。赤見は野生動物を飼いならした。そう自覚している自分が存在する。だからこんな夢を見るのだ。こう考えれば、すべての状況が論理的に説明できる。


日光が突然目を覚ました。日光の目は眠そうな気配が全くなかった。むしろ、にやりと笑っている目尻からいたずら心が溢れ出していた。


「いつまで見ているのか気になって待っていたのに、すごく見ていたじゃないですか、先輩。先輩が俺の顔が好きなのはよく知っていますけど、こうすると俺の顔に穴があきますよ。」

「口にご飯粒付いてる。」

「うわっ。」


日光は一瞬で耳元が真っ赤になり、口元をティッシュでゴシゴシ拭いた。日光が赤見に対する態度が安らかになった分、赤見も日光をどう扱えばいいか、以前より見当をつかんだ。何より、こっちはそっちより10歳も年上だぞ。黙ってからかわれるわけにはいかない。ところで、この夢はいつ覚めるのだろう?


口元がきれいになった日光は、赤見に1枚のリーフレットを渡した。2024年最新版の大阪観光局ガイドマップだった。


「先輩も今なら気づいていると思いますけど、新幹線です。大阪に向かっています。おそらく……。」


日光は右の手首の腕時計を確認した。


「25分後に到着ですね。もう11時を回っているのに、先輩は寝てばかりだったからまだ夕食も食べていないから、これも受け取って。」


日光は足の間に置いていたビニール袋から新しい弁当と箸を取り出し、赤見に渡した。


「11月末にちょうど大阪なんてラッキーですよね?紅葉のピーク時期だから、この際に観光スポットを全部回って見ましょう。美味しい店もたくさん行きましょう。俺、仕事で海外はよく行ったけど、大阪の旅行は初めてなんですよ。」


日光の浮き出した声を聞きながら、赤見は弁当を開けて、たくあんを口に入れた。サクサクとした食感と甘みが広がった。


「夢じゃない!」

「夢じゃないですよ。」


赤見は弁当を太ももの上に置き、日光の胸ぐらを掴んで額を合わせた。


「日光、お前、この野郎、何をしているんだ?ソファでよく寝ていた人をいきなり新幹線に乗せて大阪に連れて行く?」

「ああ、怒っているのはわかります。でも説明すると長くなるし、どうせまもなく大阪だから、今はおとなしく弁当を食べて、後で宿に到着してからゆっくり話すのはどうですか?今よりももっと遅い時間に夕食を食べると、胃の弱い先輩は間違いなくお腹がもたれて夜眠れなくなるんですよ。必要な荷物は俺が全部持ってきたので、先輩は心配するのもないです。」

「めちゃくちゃ心配になるに決まってるじゃないか!」

「ちなみに、温泉旅館で6泊7日の予定です。費用は先輩がくれたカードで支払いました。」

「クッソ、もう!」


気が抜けた赤見は日光を放した。赤見は再び箸を上げた。赤見は少しつづゆっくりと食べるタイプなので、弁当を全部食べるのに25分は少し厳しい時間だった。忙しく箸を動かす赤見の隣で、日光が鼻歌を歌っていた。今回は赤見も知っている演歌のメロディだ。たそがれマイ・ラブ。間違いなくその歌だった。


でも、温泉って。赤見の箸の動きが突然止まった。


「先輩?どうしました?舌噛みました?水渡しますか?」

「いや、大丈夫。何でもない。」


ついに、日光の背中のタトゥーについて聞く絶好の機会が訪れた。

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