こんな日常も悪くない。
ハードボイルド・セブン
エピソード6.福世
第38話
赤見は朝遅く起きて、あくびをしながら腹を掻き、リビングへ歩いてきた。リビングの天井で雄壮な威容を誇ったシャンデリアは、よりシンプルなデザインの普通の電灯に変わっていた。日光は赤見が正式な同居人でガードとして認めてたらすぐ、これまで我慢していたのが苦労したかのように、いきなり猛烈に不満を現して、赤見の色々なことを変えていった。シャンデリアがその最初で、次に赤見の生活パターンや食習慣、その後もあれこれと。
赤見が日光の意見に対して嫌とか、面倒くさいと反応するたびに、日光の返事はいつも同じだった。
「俺が料理も、掃除も、洗濯も全部やっているから、先輩もこのくらいは協力してください。」
「だから、そんなことは君がやらなくても、全部お金で解決できるんだから。今までそうやってうまく生きてきたんだ。」
「鏡を持ってくるから、そこに映っている自分の格好を見て、質問してください。よく生きてきたか。俺は必ず先輩を5kg以上太らせていただきます。そして俺は俺の家に他人を入れさせるのは大嫌いですよ。俺が一人暮らしの時から、俺は全部自分でやってきたんですよ。」
赤見は日光が自分の家を『俺の家』と呼ぶのを放っておいた。日光の言う通り、全て家事を日光が引き受けていたので、そのくらいは許すのが当然だと思った。赤見は日光の条件通り、午前中に起きて一日三食をきちんと食べるようになった。それでもそれ以外は普段と変わらなかった。日光と会う前と同じように、一日中ソファに横になって本を読んだり新聞を読んだりしていた。時々ラジオで演歌を聴くこともあった。
赤見がそうやってのんびりしていようがどうか、日光はジョギングと筋力トレーニングをして、人が混まない時間に買い物に行き、 毎食違う料理を作り、食器を洗い、家具の上や冷蔵庫の中みたいに目立たない部分も念入りに拭き、すべての部屋を一々回って掃除機をかけ、お風呂のタイルにカビ取り剤を撒き、洗濯機や乾燥機が回っているうちにはノートパソコンで分野を問わずニュースの記事を検索して読んでいた。日光は赤見が半年くらいなくしたと思っていた靴下の片方一足をソファの下から見つけることまでした。もちろん、一足に完全に戻ってきた靴下は、赤見が喜ぶ前に日光によってゴミ箱に投げ込まれた。それを履けば赤見の足が腐ってしまうかもしれない理由からだった。
「君が不良品なら、私は何だ。」
「不良品に寄生するヒモ。」
「違う。」
「俺が家事をしているのを見て、自分の怠惰な生活を反省したことになったら、外に出て何か仕事でもしてみたらどうですか、旦那様。」
日光はソファの上に横たわる赤見の足元近くに座ってるくせに、赤見には目もくれず、英語で書かれた分厚い本のページをめくりながら言った。もう夜7時か。外国語の勉強は日光の夜のルーティンの一部だった。
「家事を手伝えと言わないのね。」
「先輩が適当に洗った食器で食事をして、食中毒になるようなこととかを事前に防ぎたいからです。」
「ふむ。」
仕事か。産業スパイとはいえ、実際は資産家の一員となった後、特別な場合ではないと仕事自体はほとんど引き受けない。彗星インターナショナルの件は、赤見が日光というペナルティーが付いていても、自分の日常を維持できることを自分自身に証明したいという幼稚な思いで受け入れたものだった。
その実験は最も残酷な形で終わってしまった。でも今となってはよく分からない。彗星は小児性加害者であり凶悪犯だから、そんな最後を迎えてもまあ、関係ないんじゃないか?そんな考えが浮かばないわけでもないし、結果的に日光が田中湊いう少年を始め、数々の子供を彗星から救い出したのも事実で。そして、どうせ日光を側に置くことにした以上、その件についてさらに考えてみても意味ないんじゃないか。
こんな日常も悪くない。赤見は眠い目をぱちくりさせながら、ゆるい気分で眠りに落ちていった。




