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しかし、俺は何も知らずにただ時を過ぎてきた。

ハードボイルド・セブン

エピソード5.正保組

第36話




頭が割れそう。そう言おうとした赤見は、乾ききった喉が裂けそうな痛みに耐えられず、眉をひそめた。目の前がぼやけ、耳が鳴った。何かが鼻と口を不快に塞いでいて、何の匂いも感じられなかった。感覚器官が機能していない中、ただ頭痛だけが鮮明だった。どうしたんだ?状況を判断しようと苦労しているとき、頭上に暗い影が垂れて、肩にも重みを感じた。攻撃か?まだ終わっていないのか?赤見は本能的に身をよじった。ちこちにうごめく身の上にも正体不明のものが覆いかぶさり、全身を重苦しく押さえつけていた。赤見はどんどん恐怖に襲われた。ほとんど見えない目をぎゅっと閉じ、できるだけ頭を横に傾け、子供のようにすくめた。


そしてしばらくの間、肩の上の重さ以外は何も起こらなかった。重さは一瞬離れてはまた加わる、ゆっくりとしたリズムを繰り返した。つまり、これは、トントンと撫でるのだった。赤見は目を開けた。少し鮮明になった視野に焦点が戻った。清潔で白い壁だった。半開きになった窓の向こうの空は、雲一つない濃い青色に輝いていた。半透明の薄緑色のカーテンが揺れていた。赤見はようやく頬に当たる風を感じた。涼しく爽やかだった。 頭痛はおさまった。


「全部終わりました。先輩。もう大丈夫です。」


トントンとリズムを刻む音に合わせ、耳元でうねる低音が理解できる言葉となり、赤見の意識に捉えられた。そうか。緊張を解き、ふかふかのベッドに身を伸ばした赤見は、顔から酸素マスクを外した。気管挿管はされていなかった。赤見は体に掛かった毛布の中にさらに潜り込んだ。


「日光。」

「はい、先輩。頭が痛いでしょう。しばらくはそうらしいです。本当に申し訳ないけど、少しだけ言い訳をしたら、俺が足で蹴っただけではなくて、医者の話では、先輩の脳に何か異常な活動があったそうです。それが何なのかは彼らも分からないようですが、俺の推測では、先輩が…… 爆発したことと関係があるかもしれないけど、確実ではないんです。 先輩はどう思いますか?」

「爆発?」

「分からないですか?」


赤見はぼんやりと日光を見上げた。日光は意外と元気そうだった。首のあちこちに絆創膏を貼り、両手のひらから腕まで包帯を巻いていたが、最後に見た血まみれの姿よりははるかにましだった。日光は自分とは違い、患者服を着ていなかった。初めて会った6月の午後と同じように、白いシャツに黒いスーツジャケットを羽織っていた。ネクタイは黒色だった。いつの間にか日光の赤いネクタイに慣れていたので、今になってそれがなじみのなかった。


赤いネクタイ。赤見ははっと気を直した。


「蓮は……!」

「ガキも大丈夫だから安心してください。首と鎖骨のあたりを軽く切られたけで、部位が部位だったので出血がひどかったから気を失っただけです。手術も無事に終わり、すでに退院しました。」

「すでに退院した? 日光、今日は何日だ? 私はここに何日寝ていたんだ?」

「今日は9月16日です。先輩は2週間ほど意識がなかったんです。」

「2週間も……。」

「先輩、本当に何も覚えていないんですか?」


赤見は首を振った。日光はベッドを調整して赤見の上半身を起こすのを手伝い、ベッドの横の小さな冷蔵庫からイオン飲料を取り出して赤見に渡した。赤見は飲料を握りしめ、蓋を開けようとしたが、手の力が入らず、その試みは何度も失敗した。見かねた日光が代わりに蓋を開け、再び飲料を手渡した。


「ありがとう。」


数口だけ飲もうとしたが、赤見はペットボトルが完全に空になるまで飲料を一気に飲み干した。液体が口の中の肉に触れた瞬間、突然激しい喉の渇きが襲ってきた。赤見は日光に頼んで、冷蔵庫の中にあったイオン飲料を全部飲んだ。合計6本だった。


「もしかしてまだ足りないんですか?もっと持ってきます?」

「いや、もう大丈夫。なぜかすごく喉が渇いて。」


日光はしかめっ面をして、毛布の上で赤見の膝を突いて、上半身を傾け、ベッドの反対側の下を覗き込んだ。赤見が呆然として日光の視線を追うと、そこには厚手のビニール製の四角いパックがあった。パックには点滴の管のようなものが接続されており、その管は赤見が掛けた毛布の下に伸びていた。


「これは何?」

「先輩のちんことつながった尿バッグですよ。やっぱりおかしいですね。先輩が気絶している2週間の間、胃や体力が衰えないように薬と栄養剤が含まれた点滴をずっと投与していたのに、何も出てこなかったんです。でも飲料を6本も飲んだのにもこうなら、やっぱり頭だけでなく体にも他の異常があるかもしれな、あ。」


日光は大きく笑った。


「やっと出ました!」


赤見は持っていたペットボトルで日光の頭を叩いた。


日光はしばらく痛がるふりをしながら、毛布に覆われた赤見の足の上に倒れ込んだ。赤見はその重さと温かさが気に入った。適当に重く、適当に温かかった。赤見は日光の丸い頭の上に手のひらを乗せた。日光の髪は額と耳がはっきりと見えるほど短かったが、手に触れる感触はチクチクせず、滑らかできれいだった。


「爆発ってどういうこと?」

「俺もよく分からないですよ。壁を越える最中、突然頭上に雷が落ちたような感じでした。本物の雷ではなく、言ってみればね。その衝撃のせいで、俺は『俺』に戻り、先輩の方に戻ってみると、先輩の周りでヤクザたち全員、鼻と耳から血を流して倒れていたんです。」

「怖い話だけど。」

「俺は先輩がやったと思います。先輩以外にはそんなことができる人はいないですから。」


しばらく沈黙が続いた。日光は先輩の指が自分の頭の上を優しく握りしめ、そして開く感覚を静かに感じていた。先輩がそばにつくのを許してくれた。自分と触れ合ってくれる。一つ一つ計画を立て、実行に移すまで望んでいたことなのに、逆にこのくらい先輩と近づけたという事実が急に怖くなった。こんなに心の真ん中に受け入れた人を永遠に失うところだったなんて信じられなかった。日光はひまわりの告白を振り返した。『好きだった』なんて。ひまわりは凄い。日光はひまわりほど勇ましい自分はなかった。先輩を過去形にするわけにはいけない。


やはり腹が立った。


「なぜ催眠を解いたんですか?」


赤見の手が止まった。


「どうせ全部生き残ったではないか。」

「あの時はそんなことになるとは知らなかったでしょう。もう二度とこんなことしないでください。二度と……。」


息が苦しくなった。横になった頭のため、左目から流れ出た涙が鼻筋を通って、右目に入った。左目から出た時は熱かったのに、鼻筋を通り抜けるその短い間に冷めてしまった涙は、右目を冷たくした。この感情は俺の中だけで熱いんだ。だから外からは、俺がどれだけ熱いのか分からない。俺も、誰一人も、他人の中を感じられない。今までは知らなかった。俺の中が空っぽだったから、何にも興味がなかった。しかし、俺がそう空っぽだった間にも、ひまわりは常に熱かったのだろう。そうなら、蓮も、蓮以外の人も、俺が会った人々、今まで殺してきた人々、殺してくれと頼んできた人々、俺が知らない世界の全ての人々全部、自分だけの熱を持ったまま生きてきたんだ。


「先輩は俺を残して自殺しようとしたんです。」

「そう。その時はその方が良いと思ったから。」

「殺人者を救って自分が死ぬなんて?臆病者なのに、よくもそんな勇気が出たんですね?」

「そう、そうだったね。」


しかし、俺は何も知らずにただ時を過ぎてきた。


「先輩がいないと俺はどうすればいいんですか。」

「お前はうまく生ていただろう。」

「先輩がいなければ、俺は何もないんです。」

「なぜお前が何もないんだ。」

「俺は何も感じられないんです。先輩がいなければ、俺はただの空っぽの殻に過ぎないのに。」

「日光、お前が感じている感情は本当じゃない。私が注入した、偽物だ。」

「で?俺はどうせ不良品なんですよ。先輩も俺がいるのが嫌じゃないでしょう?催眠の中では、俺も先輩も幸せなのに?それとも、先輩の考えては俺は、そうでもして人間のように生きてはいけない怪物なのか?」


こんなに完璧な姿でそんな言葉を口にする日光は皮肉だった。


「からかうな。」

「俺に書いた手紙を見ました。」

「日光。」

「返事はこれですよ。尊敬する赤見先輩へ。俺と永遠にこうやって暮らそう。あなただけ諦めれば良いじゃん。俺が全部大丈夫だって言ってるのに、なぜあなただけ罪悪感を持っているのか。今日、今、日光から。」


赤見はため息をついた。


「日光。」


目を閉じた後、開けると、日光はすでに赤見の上に乗り、赤見の首を絞めていた。再び赤見の赤い目と向き合った日光は、驚いて銃を構えた犯人のように両手を空中に突き上げた。


「ほら。」

「だから、解くな!」


かっと叫んだ日光は赤見の肩に顎を乗せ、そのまま赤見を抱きしめた。日光のその動作は、力強く叫んだのとは違って非常に慎重で、人間同士の抱擁というより、割れた陶器の破片を両手で集めるような感じだった。


「先輩が、俺じゃなくて本当に困ったね。俺なら先輩を離さない。一生俺のものにする。」


赤見は頭を傾け、日光の頭に頭を軽く当てた。日光が可哀想だった。赤見のような男のために、日光は自分の人生を生きられなくなったのだ。


しかし、日光の人生とは、自分を心配する人の頭をはばかることなく蹴り、直接教えた幼い女の子の死を惜しまず、人間を何とも思わずに拷問し、老人をめちゃくちゃになるほど残酷に殺し、中学生に自分を銃で撃つよう強要するものであれば。


どうすればいいのだろう。

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