そして二度と振り返らなかった。
ハードボイルド・セブン
エピソード5.正保組
第35話
日光は当然戻ってきた。いや、日光はそれ以上をした。蓮と赤見という男を無事救い出し、一人で正保組まで倒した。認めざるを得なかった。自分の負けだ。日光が手を上げて先に挨拶してきた。頬と額には絆創膏がべたべた貼りつき、手にも包帯が巻かれていたが、特に気分が悪そうには見えなかった。日光は普段通りの平然とした顔だった。
ひまわりは日光が先に座っていた公園の木のベンチに並んで座った。美しい夕日だ。日光も同じ景色を見ているだろう。同じ方向を見ているということは、お互いに向き合っていないということだと、今になってやっと気づいた。
今日のひまわりはスーツを着ていなかった。日光と初めて会った9年前のように、角型の眼鏡をかけ、前髪をピンで留め、トレーニングパンツを着ていた。ひまわりはスリッパを履いた素足を軽く動かした。
当時のひまわりは大変忙しかった。暗幕を引いた汚く狭い借家に閉じこもり、カップラーメンで食事を済ませながら、何でもいいからお金になる情報を求めて、何日も何ヶ月もディープウェブを漁り続けていた。自分と同じように、お金になることなら何でもする同じ年の男が現れた時、ひまわりはその男と共謀して初めての殺人を犯した。開発者のポジションに応募したが落ちた大手企業に採用されていれば、こんな気分だっただろうかと思った。これからこんな仕事ばかりして生きていけば、飢え死にする心配をしなくてもいいという希望に膨らんでいた。
「マサピと公園デートは初めてだね。」
「そうね。もっと早く来ればよかったな。公園なんて、大したことないのに。」
ひまわりは、日光も自分と同じ希望を抱いていると思っていた。だから10年でも20年でも、永遠に一緒にいられると思っていた。
「ひまわり。昔のよしみで言うんだけど、もう関わらな。」
昔のよしみか。日光も随分変わった。日光は軽く立ち上がり、その場を去った。日光とまた会えるだろうか?ひまわりは自分に問いかけた。ひまわりは確信に満ちて考えた。いや、今が私たちの最後だ。
ひまわりは席を蹴って立ち上がった。涙が溢れ出た。みっともないだろう。それでもあの悪い馬鹿な男に伝えたいと思った。ひまわりは日光が去った方向へ叫んだ。
「さよなら!マサピ!あなたを本当に好きだったよ!」
こちらを振り返る通りすがりの人々の中、日光も後ろを振り返った。日光はにやりと笑った。そして二度と振り返らなかった。




