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第5章 外の空気と、君の影週末の午後

空は久しぶりに晴れ渡っていた。楓はコートを羽織り、玄関で靴を履いた。

焔は人間の姿のまま、隣に立っている。

銀髪が陽光に輝き、赤い瞳が穏やかに楓を見つめていた。


「本当に、外出してもいいのか?」


楓は少し緊張した声で聞いた。


「俺は、お前のそばにいるだけだ。

誰も気づかない」


焔は軽く微笑んだ。

九尾は人間の姿では見えないように収まっている。楓は深呼吸して、ドアを開けた。

外の空気が、優しく頰を撫でる。

久しぶりの外出。


事故以来、ほとんど家にこもっていた楓にとって、街は少し遠い存在だった。二人は並んで歩き始めた。

近所の公園へ向かう道。

木々が色づき、落ち葉が足元でカサカサと音を立てる。焔は静かに言った。


「この空気……感じるか?」


楓は頷いた。


「うん。

風が、冷たくて……でも、気持ちいい」


焔の赤い瞳が、優しく細まる。


「それが、お前の心に生まれた『感覚』だ。

少しずつ、埋まっている」


公園に着くと、ベンチに座った。

子供たちの笑い声が遠くから聞こえる。

楓は膝に手を置き、ぼんやりと景色を眺めた。


「……昔は、よく彼とここに来た。

一緒にベンチで本を読んだり、アイスを食べたり」


焔は黙って聞いていた。楓は続けた。


「今は、もう一人なのに……

寂しくない。

不思議だよ」


焔はそっと手を伸ばし、楓の手に触れた。

人間の温もり。

指先が絡まる。


「一人じゃない。

俺がいる」


楓は焔の手を握り返した。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「焔……ありがとう。

外に出てみて、初めてわかった。

世界は、まだこんなにきれいだったんだ」


焔は静かに微笑んだ。


「これからも、連れ出す。

お前の心が、もっと色づくまで」


二人はベンチに寄り添い、夕陽が沈むまでそこにいた。

落ち葉が風に舞い、赤い夕焼けが二人の影を長く伸ばす。帰り道、楓は小さく呟いた。


「次は……一緒に、絵を描きに行きたい。

外で、スケッチブックを持って」


焔の赤い瞳が、優しく輝いた。


「いいな。

約束だ」


アパートに戻ると、楓はデスクに向かった。

今日の記憶を、すぐに描きたくなった。

画面に、公園のベンチと、隣に座る銀髪の青年。

赤い瞳が、優しくこちらを見ている。空白のキャンバスに、また新しい色が加わった。



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