番外編:悠斗としての一日
1.ユキの葛藤と日常
神奈川県の海沿いの町、夕暮れ。ユキ(内田悠斗、17歳)は自宅の部屋でベッドに寝転がり、窓から見えるオレンジ色の海を眺める。文化祭での亮太とのキスシーン、彩花の涙ながらの告白が頭の中をぐるぐる回る。白雪姫のドレス姿で輝いた自分と、気弱な悠斗の自分。どちらも本当の自分なのに、選べない焦りが募る。
「いつまでこの姿でいるんだろう…。ボク、悠斗に戻りたい…。でも、ユキとして輝くのも、なんか楽しかった…」
ユキは枕に顔をうずめ、ため息をつく。双魂の鏡の試練、セリカの「時間は残り少ない」という警告が胸に重くのしかかる。
そこへ、姉の花音(19歳、大学生)が部屋のドアをノックせずにガチャリと開ける。
「ユキ~! 晩ご飯よ~! あ、なんか悩んでる? 恋の悩み? ふふ、姉ちゃんに相談しなよ~!」
花音はニヤニヤしながらベッドに飛び乗り、ユキをくすぐる。ユキは「わっ、姉ちゃん、くすぐったい! やめてよ!」と笑いながら逃げるが、心は少し軽くなる。
ユキは内心で呟く。「姉ちゃん、いつもこんな感じでボクを引っ張ってくれるな…。それに、姉ちゃんや母さん、父さんにおばあちゃんも、悠斗でもユキでも同じように接してくれる…。家族の前だと、今のボクのままでもいいんだと少し安心できる…」
夕食後、ユキは「学校で色々あって疲れたし、お風呂入って寝よう…」と独白し、バスルームへ向かう。
2.お風呂でのハプニング
ユキはバスルームでシャワーを浴び、シャンプーで髪を洗いながら独白する。
「ユキの姿になってから、お風呂もなんか気を使うんだよな…。髪長いし、体の感触も…うう、慣れないよ…」
シャンプーを流し、ボディソープで体を洗っていると、ふと自分の胸元を見ながら、「そういえば…まともに触ったことないけど、どんな感触なんだろ…。別に自分の体なんだから、いいよね…?」と独白。
ユキがドキドキしながら胸元に手を近づけていると、突然、体に電流のような衝撃が走る。「ひっ!? な、なに!?」
視界が一瞬チカチカし、ユキは慌てて目をこする。鏡を見ると…そこには、気弱な少年、内田悠斗の姿が!
「うそ!? ボク、悠斗に戻った!?」
悠斗は自分の平らな胸、短い髪、そして股間を確認し、「や、やった! ボク、男に戻ったんだ!」と安堵の笑みを浮かべる。
悠斗は喜びのあまり、脱衣所でバスタオルを慌てて巻き、ドアを勢いよく開ける。
リビングでは、母・陽子が食器を片付けながら「おかず、まだ残ってるわよ~」と呟き、父・和樹がビールを飲んでいる。花音はスマホをいじりながらソファに寝転がっている。
悠斗はドタドタと廊下を進み、リビングに飛び込む。「みんな!ボク、男に戻ったんだ!」と叫ぶ悠斗。
花音がスマホを眺めたまま「ん? ユキ、お風呂終わった?」と呟き、顔を向ける。悠斗の姿を見て、花音の目が点になる。
「え、悠斗!? いつ戻ったの!? っていうか裸!? バスタオル一枚!?」
花音の叫び声を聞いて悠斗を見た陽子と和樹も、驚きの声を上げる。
陽子「悠斗!? ほんと!? 女の子の姿から戻ったの!?」
和樹「おお! 男に戻ったか! でも、なんでバスタオル!? 風邪ひくぞ!」
悠斗は少し冷静になって顔が真っ赤になり、「み、見ないで! とりあえず服着てくる!」と叫び、ダッシュで脱衣所に逃げ込む。花音が追いかけ、「悠斗、待て~! めっちゃ面白いんだけど!」と笑う。 悠斗は「姉ちゃん、ちょっと待って!落ち着いたらちゃんとまた話すから!」と叫ぶ。
服を着て自分の部屋に飛び込んだ悠斗は、ベッドに倒れ込み、息を切らす。
「うう…恥ずかしすぎる…! なんでこんなタイミングで戻るんだよ!」
3.セリカとの対話
落ち着いた悠斗は、部屋の姿見の前に立つ。鏡には、気弱な少年の姿が映る。
「ボク…ほんとに悠斗に戻ったんだ…」
ふと、鏡がキラリと光り、長い黒髪のセリカが現れる。悠斗は驚き「セリカさん!? なんでボクの部屋の鏡に!?」と叫ぶ。
セリカは静かに微笑み、答える。
「鏡の力は、双魂の鏡だけに宿るものではない。汝の心が揺れる時、わが魂は汝の近くの鏡に現れる。さて、悠斗、突然の変身に戸惑っているな?」
悠斗はベッドに座り、膝を抱えて訴える。
「戸惑うに決まってるよ! 急にユキになって、急に悠斗に戻って…! セリカさん、この変身、なんなの!? いつまで続くの!?」
セリカは穏やかに説明する。
「鏡の力は、汝の魂の均衡を保つものだ。今、汝の心はユキと悠斗の間で揺れている。鏡はその揺れを反映し、一時的に姿を変えた。だが、この変身は長くは続かぬ。明日には、ユキに戻るやもしれぬ」
悠斗は目を丸くし、「え、明日!? そんな急に!? でも、なんでそんな不安定なの?」
セリカは少し疲れたように笑う。
「ふむ…わが魂も最近、少々調子が悪くてな。人間で言えば風邪をひいたようなものだ。鏡の力は、我が精神に影響される。汝の試練が佳境ゆえ、ついハラハラしてしまい、我の力も不安定なのだ。すまぬな、悠斗」
悠斗は「セリカさんが風邪!? そんな理由!?っていうか、お母さん目線になってない!?」とツッコミつつ、内心で考える。
「ボク、ユキとして輝くのが楽しかったけど…悠斗に戻ったら、昔の気弱な自分に戻っちゃう気がする。どうすれば…?」
セリカは優しく続ける。
「悠斗、汝が気弱な自分を嫌うのは、我がかつての姿に似ている。だが、気弱さも、輝きも、どちらも汝の魂だ。鏡は、汝が自分を受け入れるまで試練を与える。明日、男として過ごし、感じるがよい。何が汝の心を満たすかを」
鏡の光が消え、セリカの姿が消える。悠斗は鏡を見つめ呟く。
「自分を受け入れる…か。よし、明日、悠斗として頑張ってみる!」
4.悠斗としての外出
翌朝、悠斗はリビングで朝食を食べながら、「今日は学校休みだし、悠斗として外に出かけてみようかな…」と独白。
そこに、花音があくびをしながら起きてきて「悠斗、ちゃんと男に戻れたんだ!」と声をかける。
悠斗は「そ、それが…またユキに戻っちゃうかもしれなくて…。今日一日くらいは大丈夫そうだけど…」と呟く。
花音は「ふーん?悠斗も大変だね〜。じゃあさ、今日は私の買い物に付き合ってよ!」と微笑む。
悠斗は「え!?べ、別にいいけど…」と呟きつつ、内心で「何か厄介なことが起きそうな予感…」と独白する。
悠斗はTシャツにジーンズのカジュアルな服を着て、花音と一緒に駅へ向かう。潮風を感じながら、ズボンの軽快さと、肩にかかる髪の軽さにホッとしつつ、どこか物足りなさも感じる。
悠斗は内心で呟く。「やっぱり男の姿だと、動きやすいな! スカートとかブラジャーのホックとか、めっちゃ大変だったし…。でもユキの時は、髪が長くて歩くたびに揺れて…なんか、特別な感じだったな…」
悠斗たちがショッピングモールに到着し、花音が「えーっと、まず服が見たいから、2階の店に行くよ!」と言い、2人で歩いていく。
悠斗は通行人を見ながら、ユキとしてショッピングモールに来ていた頃のことを回想。「ユキの時は、なんか…視線が熱かった。男の人にジロジロ見られたり、ナンパされた時はちょっと怖かったけど…。今は、なんか普通すぎて…」と独白。
歩いている途中、トイレに行きたくなり、「ちょっとトイレ行ってくる!」と花音に言って別行動に。ユキとして女子トイレに慣れていた悠斗は、うっかり女子トイレの前まで歩いてしまう。「あ、いつもの…って、うそ! ボク、男だ!」
慌てて男子トイレに駆け込むが、悠斗は顔を真っ赤にして独白。「うう、ユキの時は学校の女子トイレでもメイク談義とか怖かったけど、なんか馴染めてた…。悠斗になったらなったで、こんなミスするなんて…!」
5.花音とのショッピング
トイレから戻ると、花音が悠斗の顔を見て「顔赤いよ?どうかした?」と不思議がる。悠斗は「なんでもない!」と声を上げ、二人は服を見に行く。
悠斗が花音に付き添いつつ服を見ていると、花音が後ろから「ねぇ、これかわいいと思わない?」と声をかける。
悠斗が振り返ると、花音がレースショーツを持って立っている。悠斗は「うん、いいんじゃない…って!姉ちゃん、ボク男だから!」と赤面。
花音は「あ、ごめーん!ユキに話しかける感覚で声かけちゃった!」と笑う。
次に、花音と悠斗は雑貨店へ。キラキラしたアクセサリーや、ふわふわのマスコットが並ぶコーナーで、「ほら、悠斗! これ、ユキなら絶対手に取るでしょ?」とヘアピンを渡す。
悠斗は「え!? ボク、男なのに、こんなの…!」と赤面。店員の女性が「彼氏さん、彼女にプレゼントですか?」と声をかけると、悠斗は「ち、違います! 姉です!姉が勝手に!」と慌てる。
花音は笑いながら「悠斗、めっちゃ純情! ユキの時は下着売り場でも平気だったじゃん!」とニヤニヤ。
悠斗は赤面しつつ「ユキの時は、確かに恥ずかしかったけど、なんか大丈夫って思えた…。でも、男の姿だと、めっちゃ人の目が気になる…!」と心の中で叫ぶ。
次に、花音は「スイーツ食べよ!」とカフェに連れていく。パステルカラーの店内、メニューにはパンケーキやカラフルなドリンク、ラテアートなどが並ぶ。ユキの時は「かわいい!」とテンションが上がったが、悠斗は周りの女性客の視線を気にして縮こまる。
「姉ちゃん、こんなとこ、ボクには…!」
花音は「いいから! ほら、このいちごパフェ、ユキなら絶対頼むよ!」と注文。パフェが届くと、悠斗はスプーンを手に持つが、隣の席の女子たちが「あの子パフェ食べてる?かわいいね」とクスクス笑う。
悠斗は「ユキなら、こういうの楽しめたのに…。悠斗だと、なんか場違いな気がする…」と内心で呟く。
家に帰る途中、花音が「悠斗、なんか恥ずかしそうだったけど、久しぶりに弟が帰ってきたって感じ!でもさ、ユキの時のキラキラした笑顔も、私好きだったよ。悠斗も自分に自信持ちなよ!」と微笑む。
悠斗はハッとし「うん…ありがとう、姉ちゃん…」とはにかむ。
悠斗は内心で呟く。「ボク、男の姿に戻りたいと思ってたはずなのに、ユキとしての生活の方が、日常になってたのかも。でも、悠斗のままだと本当に、あのドキドキはもう味わえないのかな…?ユキの輝き…ボク、忘れたくない…けど、悠斗としてのボクにも、いつか自信が持てるようになれるかな…?」
6.再びユキへ、そして続く試練
その夜、悠斗はベッドで天井を見つめる。
「悠斗に戻れて、家族も受け入れてくれた。彩花との約束も、男の姿なら素直に応えられる気がする…。でも、ユキとして舞台で輝いた時の気持ち、みんなの拍手、亮太の真剣な目…あれも、ボクだった…」
悠斗が鏡を見ると、ふと光が揺れ、セリカが現れる。
「悠斗、男の姿はどうだった。心は定まったか?」
悠斗は首を振る。「まだ…分からないよ。悠斗の気弱さも、ユキの輝きも、どっちもボクなのに…。どっちを選んでも、何かを失う気がする…」
セリカは静かに言う。
「ならば、聞け。鏡は汝の心を映す。どちらを選ぶかではない。両方を愛せ。気弱な汝も、輝く汝も、共に真実だ」
悠斗は「両方を…愛する?」と呟くが、意識が遠くなり、目を閉じる。
翌朝、目を覚ました悠斗は、鏡を見て悲鳴を上げる。「うそ! またユキ!?」
そこには、長い黒髪と華奢な体のユキが映っている。鏡の前で赤面するユキ。
「また戻っちゃった…! でも、なんか…ホッとした?」
ユキは自分のキラキラした瞳を見て、笑みを浮かべる。
「ユキの姿、嫌いじゃない。ボク、もっと自分を好きになれるかも…」
だが、心の奥では葛藤が続く。
「悠斗に戻れたのは、たった1日だった。彩花の気持ち、亮太の気持ち…ボク、ちゃんと向き合えるかな?」
窓の外の海を見ながら、ユキは呟く。
「よし、ユキとして、もうちょっと頑張ってみる! でも…また悠斗に戻るかも、って思うと、忙しすぎるよ!」
セーラー服を着て学校へ向かうユキは、潮風を感じながら歩く。校門の前で、花音の言葉やセリカの助言を思い出し、決意を新たにする。
「悠斗もユキも、どっちもボク。鏡の試練、ちゃんと乗り越えて、彩花や亮太に玲、みんなと一緒にキラキラした毎日を送るんだ!」
遠くで、双魂の鏡が静かに光る。セリカの声が小さく響く。
「がんばれよ、ユキ…いや、悠斗」
ユキのドタバタな奮闘と、鏡の試練はまだ続く。(つづく)