番外編:彩花・玲・亮太 過去の傷
1. 彩花:悠斗との思い出と消えた約束
夕暮れの神奈川県、海沿いの町。彩花の部屋は、シンプルだけど可愛らしい雑貨が並ぶ。机に座り、窓から見えるオレンジ色の空を眺めながら、彩花は古いスケッチブックを手に取る。パラパラとめくると、幼稚園の頃のお絵かきが出てくる。そこには、ぎこちないクレヨンの線で描かれた、笑顔の男の子と女の子。男の子には「ゆうと」、女の子には「あやか」と書かれている。
「ふふ…懐かしいな、悠斗…。」
彩花の心は、幼い頃の記憶に引き戻される。
(回想:幼稚園の頃)
幼稚園の庭で、悠斗はいつも縮こまっていた。気弱で内気な性格のせいで、クラスのいじめっ子男子たちにからかわれることが多かった。「やーい! 悠斗はおとこおんなー!」と囃し立てられ、悠斗はうつむいて震えるだけ。
そんな時、彩花はいつも颯爽と現れた。「悠斗をいじめるな!」と叫び、腕を振り回して、いじめっ子を追いかけ回す。
「彩ちゃん、危ないよ…!」と悠斗が心配そうに言うと、彩花は「大丈夫! 悠斗は私が守るから!」とニカッと笑った。
ある日、お絵かきの時間。「自分の好きなものを描く」というお題で、悠斗は彩花を、彩花は悠斗を描いた。出来上がった絵を見せ合い、二人でクスクス笑う。
「悠くん、大きくなってカッコいいお兄さんになったら、彩花と結婚しようね!」
彩花が無邪気に言うと、悠斗は顔を赤らめながら、「うん! 彩ちゃん、約束だよ!」と笑った。二人の小さな手がゆびきりげんまんで約束をした。
彩花はスケッチブックを胸に抱き、ため息をつく。
「悠斗…あの約束、覚えててくれるとよかったのに…。」
成長するにつれ、二人の関係は少し変化した。中学生になると、彩花はバレー部、悠斗は図書委員。彩花の部活で登下校の時間はズレて、会話は少し減った。彩花は自分の気持ちに気づき始めていたが、悠斗の気弱な笑顔を見ると、なぜか素直になれなかった。
「でも、高校生になって、また一緒に登下校するようになって…やっと、昔みたいに戻れるかなって思ったのに…。」
最近、悠斗が学校に現れなくなり、代わりにユキという美少女がクラスにいる。彩花はユキに、悠斗と似た雰囲気を感じる。気弱そうなのに、どこか積極的なユキ。亮太がユキに「ウェディングドレス似合うかも」と言う場面を見て、彩花の胸はキューっと締め付けられた。
「ユキ…あの子、ほんとに何者なの? 悠斗、どこに行っちゃったの…?」
彩花はスケッチブックを閉じ、窓の外を見つめる。幼い頃の約束が、遠い夢のように感じる。でも、心の奥では、悠斗への想いが消えない。
「悠斗…また、ちゃんと話したいよ。ユキのこと、亮太のこと…私、ちゃんと自分の気持ち、伝えたい…。」
彩花の目には、微かな決意が宿る。文化祭で、ユキと亮太のキスシーンを見るのが怖い。「でも私、向き合わなきゃいけない気がする…。」
2. 玲:輝きの裏の過去
一方、町の外れにある小さなアパート。玲の部屋は、ピンクと白の可愛いインテリアで溢れている。ベッドに女の子座りでポッキーをポリポリ食べながら、スマホでファッション動画を眺める玲。ミニスカートとルーズソックス、ギャルメイクのキラキラな姿だが、ふと手を止めて、遠い目をする。
(回想:玲の幼少期)
玲は厳格な経営者の父親と、父に従順な母親のもとで育った。父親の口癖は「男なら男らしくしろ。いつかは私の会社をお前が引き継ぐんだ」。小さな玲は、ぬいぐるみやキラキラしたアクセサリーが大好きだったが、父親に見つかると「そんな女みたいなものは捨てなさい!」と怒鳴られた。
学校では男子として振る舞い、友達にも本心を隠した。だが、家でこっそり母親の口紅を借りたり、姉の服を試着したりするのが、玲の秘密の楽しみだった。中学生になると、夜に女の子の服で街を歩くようになった。最初はドキドキしたが、鏡で自分の姿を見て、「これが私…!」と初めて自分を好きになれた瞬間だった。
高校進学を機に、両親の反対を押し切り、地元を離れて一人暮らしを始めた。アパレル店でのバイトで生活費を稼ぎ、ギャルファッションとメイクを磨き、キラキラ輝く自分を築き上げた。学校では男の娘としてオープンに生き、誰もが玲の輝きを受け入れる人気者になった。だが、心の奥には、父親の「男らしくしろ」という声が、時折よぎる。
玲はポッキーを置いて、スマホの画面をオフにする。
「ふふ、私、めっちゃ可愛いよね~!」
鏡で自分の姿をチェックし、ウインクする。だが、ふとユキの顔が頭に浮かぶ。
「ユキちゃん、なんか…気になるんだよね~。あの気弱な感じ、昔の私みたいで…でも、めっちゃポテンシャルあるの!」
玲はユキに、自分の過去の影を見る。気弱で自分を隠していた自分と、ユキのどこか自信なさげな姿が重なる。でも、玲はそのことを自覚していない。ただ、ユキを輝かせたいという衝動が強い。
「ユキちゃん、文化祭で白雪姫としてバッチリ輝かせてあげる! だって、私のプロデュース、失敗しないんだから~!」
玲は笑顔を取り戻し、スマホで新しいメイク動画を探し始める。だが、心の奥で、ユキの「秘密」に薄々気づいている自分を感じる。
「なんか、ユキちゃん、普通の女の子じゃない気がするんだよね…。ふふ、でも、秘密でもなんでも、私には関係ない! キラキラさせちゃうよ~!」
3. 亮太:過去の後悔とユキへの想い
阿鳥亮太、17歳。海沿いの町で生まれ育った彼は、幼い頃からサッカーに夢中だった。父は漁師、母はパート勤め。
厳格な家庭ではなかったが、「男らしくあれ」との無言の期待が重くのしかかっていた。小学生の頃、亮太は近所の少年・悠斗と出会う。
悠斗は気丈な性格の彩花と接する一方で、明るさの中にどこか影を感じさせる亮太と意気投合し、友達になる。気弱だが純粋な悠斗は、亮太にとっても初めての「守りたい」存在だった。
夏の海辺で一緒に貝を拾い、森の中の秘密基地で夢を語り合った日々。だが、中学進学と共に、悠斗の内向性が目立ち、亮太はサッカー部での活動に没頭。二人の間に距離ができた。
中学2年、亮太は不良グループとつるみ、喧嘩に明け暮れた。父の「男なら強くなれ」に縛られ、心のどこかで悠斗の優しさを「弱さ」と感じ、遠ざけた。
ある日、喧嘩で傷だらけの亮太がトボトボと自宅へと帰る道を歩いていると、帰宅途中の悠斗とバッタリ会う。傷だらけの腕や脚を悠斗に見られたことを恥ずかしいと感じた亮太は、強がって虚勢を張る。
亮太「…なに見てんだよ。おめーには関係ねーだろ!」
悠斗は気弱そうな表情ながらも、亮太のケガを見て、迷わず自分の持っていたハンカチや絆創膏で亮太の手当てをする。
亮太「な、何すんだよ!余計なことしてんじゃねぇ!」
悠斗「だって…痛そうだったから…」
悠斗が亮太を見つめる無垢な瞳に、亮太は自分の空虚さを知る。以来、喧嘩をやめ、サッカーに再び向き合った。悠斗との関係はその後、以前ほどの親密さではないものの、挨拶を交わす程度にはなっていた。
高校生になり、双魂の鏡で悠斗がユキに変わったが、亮太はユキの正体が悠斗だとは知らないまま、ユキの輝く笑顔に亮太は再び心を奪われる。
文化祭準備の騒動やユキとのキスシーンの練習を経て、亮太は自分の気持ちを自覚。密かにユキへの告白を決意している。過去の後悔を乗り越え、亮太は今、ユキを支えながら、自分も本当の強さを見つけようとしている。
4. 交錯する心
彩花の部屋では、彼女がスケッチブックを抱きしめ、悠斗への想いを再確認する。
「悠斗…文化祭で、ちゃんと話したい。ユキのこと、亮太のこと…私、負けないよ。」
一方、玲のアパートでは、ポッキーの最後の1本を食べながら、ユキのドレス姿を想像してニヤリ。
「ユキちゃん、亮太とのキスシーン、どうする気かな~? ふふ、私、めっちゃ楽しみ~!」
亮太はサッカー部の練習でグラウンドを駆け抜けながら、ふと内心で呟く。
「ユキ…。文化祭が終わったら、この気持ちを絶対にお前に伝える…!」
三人の心は、ユキ(悠斗)を中心に揺れ動く。彩花は悠斗との過去の約束を胸に、玲は自分の過去を映すユキを輝かせたいと願う。亮太は悠斗との絆を胸に秘め、ユキに強く惹かれていく。
文化祭が近づく中、ユキを巡る三角関係と鏡の試練が、彼らの心をさらに揺さぶっていく。 (つづく)