最終章:新たな自分と輝く一歩
1. 朝の目覚めと決心
朝日がユキの部屋を柔らかく照らす。ユキはベッドで目を覚まし、すぐに自分の体を確認する。いつものユキとしての姿ではなく、平らな胸に短い髪、男の子の制服を着ていた頃の、気弱な少年の姿…内田悠斗だ。
「戻れたんだ…!」
悠斗は跳ね起きて、部屋の鏡を覗き込む。そこには、気弱そうな笑顔の悠斗が映っている。だが、鏡を見つめるうちに、ふと呟く。
「悠斗に戻れたけど…この姿になると、また昔の気弱で自信が持てなかった頃の自分に逆戻りしたような気になる…」
文化祭のキラキラしたユキ、亮太の真剣な眼差し、彩花の涙、玲の応援が頭をよぎる。悠斗は拳を握り、独白する。
「いや…このままじゃダメだ! ユキとして輝いた自分も、気弱な悠斗も、どっちもボクだ。彩花に、ちゃんと気持ち伝えたい…!」
悠斗は決心し、制服に着替えて学校へ向かう。潮風が髪を揺らし、心を少し軽くする。
2. 学校での再会
学校の教室に着くと、クラスメイトたちが悠斗を見て「おはよー!悠斗」と、まるで普段から悠斗が学校に通っていたかのように声をかける。
悠斗も「おはよー」と返すが、内心では「これも鏡の試練の効果か…。みんな、ユキのことも忘れちゃったのかな…」と呟く。
そこに、彩花が教室のドアから「おはよー!」と言いながら入ってくるが、悠斗の姿を見て、肩にかけていたカバンを思わず落としてしまう。
悠斗やユキとして、共に長い時間を過ごしてきた彩花には、悠斗の帰還が直感的に理解できた。
彩花が目を丸くして駆け寄ってくる。
「悠斗!? 帰ってきたの!? 心配したんだから!」
彩花の声は少し震え、目にはうっすら涙が浮かんでいる。悠斗は気弱に笑いながら、だが真剣に言う。
「ごめん、彩花。いろいろ…大変だったんだ。それより、伝えたいことがあるから、放課後に校舎裏に来てくれる?」
彩花は「え!? う、うん…いいけど…」と顔を真っ赤にし、ドキドキしながら頷く。
クラスメイトたちが「なんだ、彩花と悠斗、急にラブラブかよ?」と冷やかす中、悠斗は照れながら自分の席へ向かう。
(彩花のあの顔…やっぱり、ボク、ちゃんと伝えなきゃ!)
3. 校舎裏の告白
放課後、校舎裏の静かな木陰。夕陽がオレンジ色に染まる中、彩花が少し緊張した表情で現れる。
「悠斗…。話って、何?」
彩花の声は小さく、だが期待に揺れている。悠斗が静かに語り出す。
「彩花…。ボク、幼稚園の頃に内気なせいでみんなと馴染めなくて、いつも一人だった。そんな時、彩花が友達になってくれて、『大人になったら結婚しよう』って約束も、ボクの宝物だった。今までずっと言えなかったけど…」と語る。
彩花はじっと悠斗の言葉を聞いている。悠斗は深呼吸し、彩花をまっすぐ見つめる。
「…ボク、君のことが好きだ。これまでも、そしてこれからもずっと。」
言葉はシンプルだが、悠斗の瞳は揺るぎない。彩花は顔を真っ赤にし、涙目で悠斗を見つめる。
「悠斗…!」
悠斗は内心で呟く。(やっと言えた…!)
彩花は一瞬言葉を失い、だがすぐに笑顔で叫ぶ。
「私も…悠斗のことがずっと大好き! 幼稚園の約束の時から、ずっと…!」
彩花は駆け寄り、悠斗に抱きつく。悠斗はぎこちなく、だが優しく彩花を抱きしめる。風が二人の髪を揺らし、夕陽が温かく照らす。
悠斗は独白する。「これも、鏡の試練のおかげかな…。ユキとして輝いて、自分に自信を持てたから、こうやって彩花に気持ちを伝えられた」
4. 帰ってきた日常
翌日、校庭で亮太が悠斗に近づいてくる。
「よお、悠斗! 最近、ユキ見ないけど、どこ行ったんだろうな?」
亮太の声には少し寂しさが混じる。悠斗は一瞬戸惑い、だが正直に打ち明ける。
「亮太…実は、ユキは僕だったんだ。鏡の試練っていうのに巻き込まれて、女の子の姿になって…。でも、試練が終わって僕、悠斗に戻ったんだ」
亮太は目を丸くし、「マジか…!? ユキが悠斗!? めっちゃショックなんだけど…!」と驚愕する。だが、すぐに真剣な顔で言う。
「でもさ、ユキのあのキラキラした笑顔、俺、ずっと忘れねぇよ。悠斗、お前もなんか…輝いてるな」
悠斗は照れながら「え、そ、そうかな…?」と呟く。
そこに、玲がひょっこり現れ、キラキラした笑顔で割り込む。
「悠斗くん、戻ったんだ! でも、ユキちゃんの輝き、私なら再現できるよ~!」
玲はウインクし、持っていたウィッグをサッと悠斗に被せ、素早くメイクを施す。瞬く間に、悠斗はユキの見た目に変身!
「わっ! この姿は…!」
悠斗は玲の手渡した鏡で自分の姿を見て赤面。
亮太が目を輝かせ、「ユ、ユキ!? 俺やっぱり、お前のことが…!」と駆け寄る。
「わーっ!!亮太! ちょっとストップ!」
悠斗は叫びながら校庭を逃げ出し、亮太が追いかける。彩花と玲はドタバタ逃走劇を見てクスクス笑う。
彩花「悠斗、ユキちゃんの姿でも可愛いね!」
玲「ふふふ、悠斗くん、私のプロデュースでいつでもキラキラだよ~!」
校庭に笑い声が響き、ドタバタな日常が戻ってくる。
5. セリカの魂の解放
その頃、澄子の家の居間で、澄子は緑茶を飲みながら微笑む。
「どうやら、あの子は自分を受け入れたようね。ユキは消えても、あの子の心の中に生き続けるわ」
屋根裏では、双魂の鏡が静かに輝く。鏡面にセリカの姿が現れ、穏やかな声で呟く。
「汝の心は定まった。わが魂も安らぐ…。悠斗、感謝しているぞ…」
鏡がまばゆい光を発し、ゆっくりと消滅する。セリカの魂は解放され、澄子の家に静寂が戻る。澄子は窓から海を見ながら独白する。
「セリカさん、あなたの願いも、あの子を通じて叶ったわね…」
澄子は静かに微笑む。遠い中世の村で、セリカが求めた自由と愛は、ユキの輝きと彩花たちの絆によって、ようやく成就した。鏡の試練は終わり、セリカの魂は静かに空の彼方へと溶けていく。
同じ頃、教室で窓の外を眺めていた悠斗は、何かに気づいたようにハッとして、空の彼方を見つめる。鏡の試練を通してセリカと過ごした日々を思い出し、心の中で呟く。
「セリカさん…ありがとう…」
6.家族の団らん
数日後、内田家の晩ご飯の食卓、悠斗の父・和樹がビールを飲みながら呟く。「いや〜、それにしても、悠斗が男に戻った時はビックリしたけど、もうすっかり馴染んだ感じだなー!でも、ユキちゃんがいた間も、娘だと思ってたからちょっと寂しいなぁ…」
母・陽子が「お父さん、飲み過ぎよ!でも、本当に元に戻れて良かったわね。もしユキちゃんのままだったら、私の成人式の時の振袖を着てもらえるかと思って用意してたけど…」と微笑みながら呟く。
悠斗がご飯にむせながら「か、母さん!父さんも!ボクとユキ、どっちが大事なの!?」と叫ぶ。
姉の花音は「ふふ、悠斗焦りすぎ〜。それよりさ、駅前に新しいかわいい小物の店ができたらしいの!今度一緒に見に行こうよ!」と悠斗に語りかける。
悠斗は「姉ちゃん!?ボク男だから!…でも、ちょっと見に行くぐらいならいいよ…」と赤面しながら呟く。
内田家にはユキがいた頃と変わらず、明るい家族の声が響き渡っている。
6. 輝く未来へ
さらに数日後、悠斗は彩花と手をつないで登校。クラスメイトから「悠斗、彩花とラブラブじゃん!」と冷やかされ、悠斗は顔を真っ赤にする。
「う、うるさいな! でも…まぁ、幸せだからいいや…」
彩花は「ふふ、悠斗、照れてるの可愛いよ」と笑う。
亮太はサッカー部で汗を流し、「ユキの輝き、忘れねぇけど…俺も新しい恋、探すかな!」とニヤリ。
玲は「悠斗くん、かわいい服見つけたから、着てみて~!」と追いかけ、悠斗は「またユキになるの!? やめてよ~!」と逃げる。
学校の廊下に笑い声が響き、ドタバタな日常が続く。悠斗は独白する。
「気弱な僕も、ユキの輝きも、どっちもボク。彩花、亮太、玲…みんなと一緒に、これからもキラキラした毎日を送りたい!」
海の見える町で、悠斗たちは試練を乗り越え、大人への一歩を踏み出していく。(おわり)
読んでいただき、ありがとうございます。『鏡の向こうのボク』は、これで一応の結末です。拙い出来ながらも、楽しんでいただけたなら幸いです。
この作品を作ったきっかけは、普段は男の娘とか女装子の話ばかり追っているので、近いジャンルではあるけどあまり読んだ経験の無かった、TSものでやってみたらどうなるだろう?と思ったのが最初だと思います。
TSで難しいと思ったのは、見た目が女の子なだけじゃなくて、生物学的にも女性になっているはずなので、身体的な男女の差異だとか思考の違い、ジェンダー観みたいなものを、より意識する必要があると感じた点です。
それを表現するために最初の方や番外編で生理や下着の問題や、男女の社会的立場の違いみたいなものを描こうとしましたが、力不足で中途半端な感じになったかもしれません。
どのキャラや話も印象深いですが、セリカの過去篇はちょっと中世ファンタジーっぽい雰囲気もあったので、楽しんで描けたような気がします。機会があればもっと違った雰囲気の話も描いてみたいです。
悠斗と彩花が恋人になるのか、亮太ルートもあるのかどうかは考えましたが、彩花を選ばなかった場合はドラクエ5のビアンカを選ばなかった場合みたいな感じになる気がして、彩花ルートで落ち着きました。やはり幼なじみ…幼なじみは全てを解決する…!
ところで、ギャル系男の娘とかいう作者の性癖以外の何者でもない星野玲をメインにした、スピンオフ的な話も既に考えているので、本編とはほぼ関係ない話ですがお時間に余裕があれば何卒よろしくお願いします。
ではここで、誰も気にしていないであろう、主要登場キャラの名前の由来を置いておきます。
内田悠斗、ユキ→特に意図はないですが、内気だから内田だった気が…。あと某ミュージシャンとか某女優さんっぽい語感ではあるかも。
桜木彩花→これも語感で桜木花道みたいな明るいイメージで…。あと某バー◯ードファイターのヒロイン?の名前も入ってるかも。
星野玲→名字は星野スミレ、名前の玲は男女どちらでもありそうな名前のイメージ。
阿鳥亮太→名字は某バーコー◯ファイターの「わい、男の◯◯ちゃんが好きなんや!」とかいう名言を発したキャラから。名前は語感で山ちゃんみたいな明るい感じ。
セリカ→某トヨタのスペシャリティカーから。同じ感じでカレンとかでも良かったかもしれない。
以上、読んでいただいた方々、重ね重ねありがとうございました。よろしければ感想やコメントもあれば励みになります。あと、本編の後の後日談的な話を追加するかもしれないので、その際はよろしくお願いします。では。