第8話:「始業のチャイムと、背中越しの余韻」** (月曜日)
いよいよ月曜日の再会編——そして、“陸”と“藤村部長”という個性派キャラも加わって、ふたりの物語は少しにぎやかに、そして味わい深く進んでいきます。
月曜、午前9時。
社内の空気は少しだけ硬くて、パソコンの起動音が無数に重なっている。
企画部のデスクでは、先輩が静かにコーヒーを飲みながら資料のチェックをしていた。
週末の遠回りが、まだほんのり胸に残っている気がする。
そこへ、企画部の同期・遠山陸が軽く背中を叩いてきた。
「おはよー。先週の金曜から顔が柔らかすぎなんだけど、何かあった?あ〜ん?」
先輩は無表情を保ったまま、コーヒーをひと口。
「…カフェインが角を取るだけだ」
「はいはい。ってか今週も“白レンズモード”で瞳ゼロ。社内の謎ランキング1位、まだ保持中っすね」
その言葉に、近くの席で藤村部長がくすっと笑った。
「遠山、朝から彼の顔面に実況入れるのはやめなさい。…彼は黙ってるといろいろ考えてるタイプなんだ」
そして、ふと先輩に目を向ける。
「それに…考えてる“誰か”のことは、誰も実況できないだろ?」
先輩はその言葉に、少しだけ眉を上げる。
陸は一瞬沈黙して、それからニヤリと笑った。
「それ、リンコちゃん方面ってことで合ってます?」
答えはない。でも、沈黙がちょっと意味深だった。
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一方その頃、広報部。
氷川リンコは席につきながらスマホをこっそり開く。
日曜の夕暮れ、先輩と並んで歩いた街の風景を少しだけ見返す。
「…明日も同じ時間に会えるって思ったら、案外悪くないかもな」
その言葉が通知の隙間にふと浮かぶ。
その時、野々村遥が背後から声をかけてくる。
「リンリン!また先輩方面で感情ぐらついてる?ちょっと表情に“ゆるみ”感じるな〜」
「な、なんもないし!」
「嘘つけ。じゃあ今週は私が先輩に甘め報告提出するから、“照れ顔”増やしてもらう方向でよろしく!」
リンコは思わず笑って、モニターの明るさを少しだけ下げた。
画面に映る自分の顔が、頬のあたりだけ赤い気がして。
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10時。共有スペースのコーヒーマシン前。
偶然同じタイミングで歩いてきたふたりが、カップ片手に立ち止まる。
「…今週も、ブラック?」
「先輩が渡すときだけです」
「へえ、じゃあ金曜も俺が渡すか」
「…木曜あたりでもいいですよ?」
ほんの少し早い週の始まり。
でもその一杯で、“また始まる物語”への期待は、すでに静かに息づいていた。
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どうでしたか?8話は静かな始業の社内に、ふたりを囲むキャラたちの声が交差する回になりました