第78話: 「並んで観るということ」 (日曜日)
第78話(日曜日編)をお届けします。 ふたりが映画を観に行く一日。直接的な言葉よりも、並んで過ごす時間の中で“気配”が伝わっていくような構成にしました。
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待ち合わせの空気
日曜日の午前。 リンコは、少し早めに待ち合わせのカフェに着いていた。 窓際の席に座り、メニューを眺めながら、昨日買ったポーチを出したりひっこめたり。
「…緊張してるのかな」 自分にそう問いかけながら、スマホを手に取る。 でも、何も送らない。ただ、時間を確認するだけ。
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章太は、カフェの外で一度深呼吸してから扉を開けた。 リンコがすでに座っているのを見て、少しだけ笑う。
「お待たせしました」 「いえ、私が早かっただけですよ~」
ふたりは、並んで歩きながら映画館へ向かう。 言葉は少なかったが、沈黙は心地よかった。
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映画の時間
午後。 映画館の暗い空間の中、ふたりは並んで座っていた。 スクリーンに映る物語は、静かだが、感情に訴えかける。みる者に解釈をゆだねる余白の多い作品だった。
リンコは、ふと章太の横顔を見た。 彼は真剣にスクリーンを見つめていた。 その“見方”に、どこか安心感があった。
章太は、物語のある場面で、リンコの気配を感じた。 言葉にはできないが、隣にいることが自然に思えた。
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映画の余韻
夕方。 映画館を出たあと、ふたりは近くの公園を少しだけ歩いた。
「…ちょっと怖い映画でしたね。全然前情報とか入れてこなかったから尚更」 リンコがそう言う。
章太はうなずく。
「でも、言葉が少ない分、気持ちが揺さぶられたな」 リンコは、少しだけ笑って答える。
「それって、広報部の文章みたいですね」 章太が笑う。
「…だから、隣で観たかったのかも。飯食って帰るか」
「先輩、御馳走様でーす」
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◆ 夜:ふたりの余白
夜。 リンコは、社内報の下書きを開いた。 今日のことは、まだ言葉にしない。 でも、冒頭文に一行だけ加えた。
「誰かと並んで過ごす時間が、言葉よりも深く残ることがある。」
「明日も仕事頑張るぞー」
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次回は第79話、月曜日編。 映画の余韻が広報部の空気に静かに混ざる一日。




