表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートシーン  作者: 木村ユキムラ
65/101

第64話: 「秋の匂いを拾いに」(日曜日)

札幌のオータムフェストという秋の空気に満ちた舞台で、ふたりの距離がほんの少しだけ近づくような、静かで温かい一話に仕立ててみます。



---


待ち合わせの午前


日曜日の午前。

大通公園の空は高く、風は少し冷たい。

出店の準備はすでに整っていて、香ばしい匂いが街に広がっていた。


章太は、待ち合わせの場所に少し早く着いていた。

ベンチに腰掛け、スマホを見ながら、昨日のリンコの返信を思い出す。


「いいね。先輩。秋の匂い拾いに行きましょう。もちろん先輩のおごりで」


その一文が、今日の空気を少しだけ柔らかくしていた。



リンコが現れたのは、約束の時間ぴったりだった。

白いニットに、グレーのコート。

「お待たせしました」

「いや、こっちが早かっただけだよ」


ふたりは並んで歩き始める。

さすがは休日の札幌中心部、大勢の人で賑わっている。観光客もいるだろう。


「この匂い、なんか懐かしくないですか?」

「秋って、記憶に触れる季節かもしれませんね」

リンコは実に楽しそうだ。


午後の会話


午後。

ふたりは、少し離れたベンチに腰掛けていた。

手には温かい飲み物。言葉は少なかったが、沈黙は心地よかった。


リンコは、章太の横顔を見ながら思う。

“誰かと過ごす時間”は、こういう静けさの中にあるのかもしれない。


「先輩」

「はい」

「昨日のメッセージ、ちょっと嬉しかったです」

章太は少しだけ驚いたように笑う。


「それは…よかった。言葉にするの、ちょっと迷ったんだけどな」

「でも、言葉にしてくれたから、来られました」


そのやりとりは、ほんの数秒だったけれど、ふたりの間にあった“余白”が、少しだけ埋まった気がした。



夕暮れの気配


夕方。

空が少しずつ赤く染まり始める。

ふたりは、公園の出口に向かって歩いていた。


「また、こういうの…あるといいな」

章太の言葉に、リンコは逡巡した。お祭りのことだろうか?二人で街に繰り出すことだろうか? 


「先輩がまた、かわいい後輩におごってくれる?ってことですか」リンコは屈託なく笑ってみせた。


その言葉に、章太は小さく笑った。

日曜日の終わりに、ふたりの距離は、確かに近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ