第62話: 「週の終わりに、少しだけ揺れる」 (金曜日)
リンコさんの視点を主軸に、週の終わりにふと訪れる“静かな揺れ”を描いてみます。
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午前の静けさ
金曜日の朝。 広報部のフロアは、少しだけ緩やかな空気に包まれていた。 週末公開予定の特集記事は、ほぼ仕上がっている。 リンコは、最後の一文を見直していた。
「変化は、誰かの視線の中で、そっと輪郭を持ち始める。」
その言葉が、今の自分にとって“どこまで本音か”を、少しだけ考えていた。
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未来が声をかける。
「リンコさん、今日の文章…なんか、ちょっと“揺れてる”感じがしますね」 リンコは、画面を見つめたまま答える。
「…週の終わりって、そういうものかもしれません」
遥が笑いながら言う。
「先輩、今日来ますよね?企画部の打ち合わせで」 リンコは、少しだけ間を置いてからうなずいた。
「…たぶん」
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言葉になりかけるもの
午後。 企画部との打ち合わせが終わり、章太が広報部の前を通りかかる。 リンコは、資料の確認をしていたが、ふと顔を上げる。
「先輩」 彼が立ち止まる。
「…昨日のメモ、ありがとうございました。 “気配は言葉の外側にある”って、すごく広報部っぽいです」
章太は少しだけ笑って、「…それ、氷川が言ってたことだよ。なんか残ってたんだよ」
リンコは、ほんの一瞬だけ迷ってから言った。
「…でも、先輩が“見てる”って思ったら、言葉が少し変わって…」
章太は、何かを言いかけて、でも言葉にはしなかった。 その沈黙が、ふたりの間に静かに残った。
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週の終わりの気配
夕方。 リンコは、メールマガジンの最終チェックを終え、送信ボタンを押した。 その瞬間、画面の中の言葉が、自分の手を離れていく感覚があった。
章太は、企画部のデスクで、リンコの文章を読んでいた。 「誰かと過ごした時間の中に、変化はそっと息づいている。」
その一文に、何かが残った。 でも、それが何なのかは、まだ言葉にならなかった。
金曜日の夜。 週の終わりに、ふたりの距離は、少しだけ揺れていた。
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次回は土曜日。 ふたりがそれぞれの時間を過ごす中で、“言葉にならないもの”がどう響いていくか。




